私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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コンサートの波乱

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 武道館に近づいてきた。
 どうしてもって譲らない蓮司のリクエストで、ピザ屋から武道館までは伊勢崎さんの車で来た。
 電車にお前を乗せられないと騒ぎだしたからだ。

 ど、どうしてって思ったけど、質問すると、キスをされて誤魔化されるので、もう恥ずかしくて質問できなかった。
 そ、そんなにこの服って変なのかなと思ったけど、まあそんなに距離はないし、慣れないパンプスだったから、少し助かった気持ちだ。

 途中で伊勢崎さんに降ろしてもらい、他の観客に混じって歩かなければならない。

 「あ、でもね、券がないの。早く行ってジャスティンの前座を見ないと……」

 蓮司は、昨日の真田とアベルとのゴタゴタで、こちらの方がすっかり準備不足だと思い出した。
 武道館へ続く舗装された道路を歩きながら、蓮司が聞いて来る。
 開演時間よりもかなり早いのに、結構な人が歩いていた。
 もちろん、蓮司は注目を集めていたが、皆コンサートに来る人ばかりなので、目の前のイケメンよりも頭の中のジャスティンのようで一杯のようだった。
 そんなことには全く気が付いてな美代が、急ぎ足で会場へと向かう。
 先ほどの美代の言葉が気になって、蓮司が美代の手を握りながら、質問した。

 「……おい、美代、ジャスティンは何の歌手だと思っている?」
 「え? なんかね、演歌だと思ったら、もしかして民謡かもしれないんだけど……まだコブシを習得してない新人さんみたい。外人さんにはコブシって難しいよね。でも、人気あるらしいよ。七瀬君も驚いていた! あと、きちんと、演歌の世界は上下関係が厳しそうだから、挨拶だけはしっかりしろって檄を飛ばしておいたよ……」
 「ふう……。わかった。お前の基本的な間違えが……。美代、アレを読んでみろ……」

 前方に見える巨大広告を蓮司は指差した。
 激しい黒と赤の色調の看板が美代の視線に入った。

 美代が目をしかめて読み出した。
 「なになに、うん、*月*日、そうそう今日だね、あれ、じゃ、、す、、てぃん、ぐれい! ふーーん、え、あれ?」

 指をさしながら、美代が硬直している。

 「れ、蓮司会長!! た、大変な発見をしてしまいました!」
 「やっと、気がついたか?」

 蓮司の目が見開かれた。

 「場、場所が違う?」
 「違うな……場所はあっているぞ」
 「同姓、同名?」
 「同じ名前で、本人だと思うぞ。答えは違うけど、段々と核心に近くなるな……」
 「え、じゃーー、ジャスティンって、大物演歌歌手だったの? 知らなかった。私って、馬鹿! お辞儀まで指導しちゃった! どうしよう。知らなかったもん。怒っているかな?」

 蓮司の肩が震え出した。
 どうしてあんなデザインの看板から演歌になってしまうのか蓮司には全く想像できないでいたが、ただ美代が慌てている様子をくくくっと笑いを堪えながら見ていた。

 「美代、大丈夫だ。まあ、お前をこのコンサートに呼んだくらいだ。怒ってないだろう。きっとな……」

 蓮司が美代の頭をポンっと叩きながら、優しく答えた。
 美代は、ただ「信じられない!!」と連呼していた。

 ようやく歩美に言われた関係者または招待客用の受付口にたどり着く。
 日本人のスタッフが二人だけそこに待機していた。

 「あの、土屋美代と申しますが……」
と言っただけで、受付の二人が、ガバッと立ち上がり、物凄い角度のお辞儀をされ、なぜかとバタバタとし始めた。
 もちろん、「お待ちしておりました。土屋様……」と言うことは忘れない。
 慌てた様子で、一人が中から誰かを呼びにいった。
 「申し訳ありませんが、少々お待ち下さいませ……」
 中からその受付の人が白人の男性を連れて来た。
 どうやら、ジャスティンのマネージャーらしかった。

 『おお、君が噂のビーナスのミヨか。パーフェクトウーマンだね……。ようこそ! ジャスティンのコンサートへ。僕はジャスティンのマネージャーのアイザックだ。よろしく!』

 ガタイのよい短髪の男、アイザックが握手のために出した手に、美代よりも早く蓮司の手がかぶさった。

 『初めまして。彼女のの大原です。今日は私もされたようなんで、伺いました。美代がパーフェクトウーマンなのは、百も承知なんで、勝手に手を出さないでもらいたいとあんたの歌手に言ってくれ』

 英語が速すぎてついていけない美代が、「だ、大丈夫? やっぱりお金払えって言ってる? 現金はあるよ……」とか言い出した。

 お互いに凝視していた二人の男が、急いで鞄の財布の中から出した千円札を握り締めている美代を見て、吹き出した。

 『これは、面白いね。今日はステージになりそうだ……。最後まで楽しんでくれ……ミスター・オオハラ』

 まだ春先なのに体の見事な筋肉がはっきりと見えそうなくらいのTシャツを着たアイザックが笑みを浮かべた。もちろん、ジャスティン・ジャパンツアーと英語で書いてあるシャツだった。

 『……まあ、そうさせてもらうつもりだ……』

 蓮司もサングラスを取り、相手を威嚇するように目線を合わせた。
 係の人が美代達を席まで案内することになり、裏口から入ろうとする彼らに、そのマネージャー、アイザックが一言、声をかけた。

 『ミヨさん、ジャスティンがね、いきなり、アジアが気になって日本でしばらく活動したいって最近、言い出している。君はどう思う?』

 「アジア? ジャスティン、アジアに興味あるの? いいんじゃないですか? オッケー! グット、アイデア!」

 美代が叫んだ。アイザックはニヤニヤしていた。
 明らかにムッとしている蓮司が、美代の手をぐいっと引っ張って、美代を自分の腕の中にしまう。

 「美代、余計なことを言うな!」
 「な、なんでですか? アジアが好きでいいじゃないですか?」
 『ありがとう! 美代さーん、ジャスティンにそう伝えるよ!』

 悶える蓮司とは正反対に、美代は去っていくアイザックに手を振った。
 背中を向けながら手を振って、去るアイザックは呟いた。
 『あ--、このコンサート、彼氏には拷問に近いかな……』




 席に案内された。
 ベストポジションに近かった。
 一階のアリーナ席の真ん中の花道の目の前だった。
 会場がTの字型にセットアップされていたのだ。

 「か、会長! 何だか演歌じゃないような気がする!」

 音響設備や会場の雰囲気が、どう考えても演歌を聞くような感じではない。

 蓮司が、ちょっと呆れた顔で、「そうか、よかったな、気がついて……」とか言っていた。
 しばらくすると、会場が満員になり始め、その熱気溢れる興奮がまだ始まらない武道館の空気を盛り上げた。

 始まる前から、ジャスティンコールが始まっている。
 あまりにもの意外性に美代もぼうっとしていた。
 隣で、蓮司が微妙な顔をして美代を見ていた。

 蓮司は、な、なんでおれはこんなデートに承諾してしまったか、本当に浅はかだったとしか思えないっと後悔していた。
 どう考えても、デートの嬉しさより嫉妬が沸き起こる。
 美代が他の男を見て考えているだけで頭にきた。
 ただジャスティンの配慮には感謝した。
 まあきっとジャスティンの配慮のおかげで隣と後ろはどう考えてもサクラか関係者のようだった。
 俺たちを見ないように懸命か、全く興味がない人間のようだった。
 
 さあ、でも、このコンサートで俺は何を期待すればいいのかと、どうしようかと考えていたら、大歓声があがった。
 会場が真っ暗になったのだ。
 開演時間だった。

 バンドの大音量とともに、演奏が始まった。
 それは近年、ジャスティンの流行った曲で、日本でも携帯のCMに使われていた。

 「あ、これ、聞いたことあります! でも、なんで?」
 
 とか美代が言っていると、今度は女性を中心にした叫び声が聞こえてきた。

 「きゃあああああああ!! ジャスティン!!」
 「抱いて!! 愛してる!」
 「ジャスティン! こっち見て!! きゃーーー!」

 美代がびっくりしていた。
 ど、どうして! こんなジャスティンって人気あるの。
 すごいじゃん!とか言っている。

 真っ暗なステージ上に、一つのスポットライトがその真ん中に落とされた。
 その後、すぐにスモークと花火のようなスパークが一斉に打ち上がる。
 観衆はその煌めきと爆音で、興奮の渦に巻き込まれていた。

 一瞬の間に、ぴっちりとしたTーシャツに、タイトで破れているジーンズを履きこなたジャスティンが、空を舞うかのように舞台のセンターにいきなり飛び出てきた。
 きっと舞台の下から仕掛けで出てきたのだと蓮司は思った。
 耳鳴りがするような歓声と大音量の音楽が武道館の空気を占領する。
 重低音のお腹に響くようなドラムの音がこだました。

 全ての観客の視線が、ただ一人の男に注がれた。
 スモークがまだ消え去らないステージのセンターで、圧倒的なカリスマ性、無視出来ないその存在感がその男の背中に見えた。
 眩しいほどのスポットライトの中で、背中を向けていたその男が、セクシーな仕草で振り向いた。

 『I love Tokyo, Japan !』

 ジャスティンはそう叫んだ。
 割れんばかりに歓声が、空気を押しつぶしていく。
 ジャスティンが最初の曲を歌い始めた。
 絶叫する観客に、美代の驚きの言葉は埋もれていった。

 「……ムカつくが、かっこいいな。ステージ上のヤツは……」

 熱狂している歓声のなか、蓮司が思わず呟いていた。


 




 

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