私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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時の人2

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 たった一日でこんなに自分の人生が変わるとは思わなかった。

 一挙に有名人だ。
 学校でも街中でも、人に指をさされるのだ。
 でも、悪口ではなかった。

 「あ、あの方よ。素晴らしいわね。謙虚なお姿で、ああやって普通の生活をしているのよ。さすが大原総裁の奥さまで、しかも親善家でいらっしゃる!!」
 「うわー、一言お話できないかしら……」
 「やっぱり本当のハイソな方って地味にしてらっしゃるのね。さすがだわ!!」
 「どうやったら、あんな素晴らしい旦那様に見初められるのかしら」
 「大原会長、すごい先見の明があるよな」
 「いや、それはやっぱり世界をよくしようと思うその心がけじゃないか?」
 「うちの学校すごくねぇ! 半端じゃなくやべえな。ああ美代ちゃん友だちになってくれないかな」

 美代は、うわあああっと思いながら、学校内を歩く。
 途中で七瀬に会った。

 「うわーーん、七瀬くん。死ぬよ。助けて!!」
 「お前、どんだけすごい事しちゃったんだよ!」
 「ええ、知らないよ。蓮司の紹介で、話をして、いい話だから、はいどうぞっていったら、こんなになっちゃった」
 「お前、やばいぞ。有名人だよ。一挙に!!」
 「ひえええ、辛い!」

 そこに久しぶりに歩美がやってきた。
 すでにお腹が大きい歩美が、この学校に来たのは本当に久しぶりだった。

 「あれ! 歩美ちゃんじゃない!!」
 「おお、本当だ。歩美だ!」
 「美代、ニュース見たわよ。七瀬、久しぶりね」
 「うわ、すげ、お腹でけーな。お母さんかよ。歩美が」
 「うふふ、いいでしょ。黒幕育てんだから、楽しみなんだ!」
 「な、なんだそれ。変な教育方針だな。まあ歩美らしいけど」
 「美代、大丈夫? 今日はあなたが心配だから、慎一郎さんに無理言って来ちゃった」

 後ろを見たら、なるほど。
 黒服の旦那がいる。
 ニッコリとこちらを見ていた。

 柔らかな表情で手を降っているが、歩美の事になると、別人真田が現れると最近になって美代はわかるようになった。


 「美代。これであなたはほとんど蓮司さんとおなじ土俵にたったのよ……」
 「え?」
 「真田に確認したのよ。あの人、私に嘘ついたら、私に捨てられちゃうからね、言えないのよ。そうしたら、認めたわ……」
 「このね、はた迷惑な騒動はね、ある意味蓮司さんが、あなたに自分と同じステージに上がって来てもらって、あなたに、本当にあなたは特別だって知ってもらいたかったみたい。でも嫉妬心と独占欲が邪魔して、この会社の話も随分前からあったらしいけど、貴方を独り占めしたいから、先送りにしていたようよ。彼なりに苦悩した結果、これが彼のやり方の愛し方みたいよ……。全くひねくれているというか、なんというか……」

 「どういう事?」
 「美代、あなたはいつでも、自分に劣等感があるでしょ? だからね、それを蓮司さんが払拭したかったみたいよ」
 「ええ?」
 「貴方が自分の力で、セレブに成り立つ。それができるはずだって」
 「あんな親からもらったもので……」
 「それは、蓮司も真田さんも、私も同じよ」
 「あ……」
 「私は、親からもらったものは、この体と愛情以外は全部捨てたわ。いらなかったから。真田はそれを大切にしながらも、新しいことも受け入れている。蓮司さんはそれと真っ向に対峙しながら、善処しているわ」
 
 歩美が美代をじっと見つめている。
 七瀬もただ話をじっと聞いていた。

 「人それぞれよ」

 歩美が周りの遠巻きに自分達を見ている人達を横目で見る。

 「だから、今貴方が、自分でした決断で、こうやって人に認められたんだから、堂々としてなさい!」
 「歩美ちゃん!!」
 「それでね、うちの旦那が漏らしたんだけど、貴方の旦那さん、実はすごい心配性よ」
 「え、蓮司さんがですか?」

  歩美が口にした言葉が信じられなかった。
  彼女がこう言ったのだ。

 「蓮司さんはね、もうすでに、貴方が一人で生活できるだけの資金もステイタスも用意してあるのよ。いや、すでに貴方はそれを持っているわ。あの無償で貴方の実用新案を使っている会社ね、実は使用料金は無償だから、貴方にそれに対しては、一銭も支払っていないけど、貴方、実はもうその会社の役員なのよ。だから、ある程度の給料は支払われているはずよ。しかも、時々相談に乗ってもらっているって言っていたわ。確かジェフっていう人よ」

 えええ! と美代が思う。
 確かにあのニュースで意味がわからないところがあった。
 身に覚えがないことだった。
 確か、『これからの発展途上国のエナジー政策の鍵を握る人物』だったっけ。
 それが、この役員って意味なの?

 相談?
 え、何よ。
 待って、もしかして?
 確かに時々、というか、頻繁にあのジェフから電話がかかってくる。

 この前はこんな会話だった。
 「はーーい、ミヨさん、お元気ですか? ソウダンありますよ。アフリカの奥地とアマゾンの奥地どっちが好きですか?」
 「好き? 意味がわかりませんが」
 「アフリカの人は、女と子どもがかわいそうなんですーー。水を取りに行く作業だけで疲れて病気で早く死んじゃうよ。アマゾンは水があるんだけど、仕事なくてね、病院もないし、学校もあまりよくないです。お金の為に麻薬とか作る仕事に走るねー」
 「みんな大変ですね」
 「そうですよ。ミヨさんのお父さんの技術が変えますよ!」
 「アフリカは水が少ないのに、あの技術でイけるの?」
 「理論上、井戸を掘って、いけます」
 「うーん、どっちも大切です。でも環境破壊は嫌いです」

 「……ミヨさんはどっちもとると……」
 「はいそうです」
 「わかりました。また連絡します」
とかだ。

 それとか、こんなこともあった。
 「新人女子社員をセクハラした社員ってどう思いますか?」
 「解雇だ! ばかたれ!」

 ええ、あれがもしかして……。

 歩美がなぜかニヤニヤとしている。

 「歩美ちゃん、なんで蓮司さんは、私をひとり立ちさせたいの?」
 「……そうよね。そう思うわよね。それがあの男の意図なのよ……」
 「結婚は、もうしちゃっているけど、事実上、貴方は蓮司の庇護を受けなくていいの」
 「!!!!」
 「学費も払えるはずだし、あのヘンテコな忘れ物お届け係もする必要なない」
 
 「まあ私から言わせると、結婚する前にこれをしろって感じだったけど……」
 「歩美ちゃん!!」
 「意味がわかった? まだわからないなら、本人に聞きなさい……」

 そう言いながら、歩美は真田さんと立ち去った。
 美代の胸が激しく鼓動する。

 何か蓮司が企てているような感じがした。
 形のない何か切ないものが胸をよぎる。

 早く彼に逢いたかった。
 「ごめんね、七瀬くん、ちょっと家に帰る……」と言って、美代はそこを後にした。

 そして、ただ、一人残された七瀬が言葉を漏らした。

 「あ~あ、これで徹底的に差をつけられたな。すげーよ。蓮司会長、これで全く美代は本当のだよ」
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