私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

文字の大きさ
198 / 200

最終話 いつもの日常

しおりを挟む
 「もう一度言いますよ。美代様……」

 燕尾服をきちんときた真田が美代に告げる。
 今日はまだ午後からの授業だから、時間に余裕がある。
 そういう時に限って、また蓮司が忘れ物をするのだ。
 正直、面倒くさい。

 「……うーーん、納得できない。朝確認したはずよ! どうして忘れるの!」
 「……それは忘れ物をお届けした時に、直接お伝えください……」

 いそいそと自分の旦那の忘れ物を会社に届けにいく準備をする。
 書類やらペンやら、まあ本当に呆れます。
 思わず、思ったことが口に出てしまう。

 「あのさ、この忘れ物お届け係って、単に奥さんが旦那さんの忘れ物を届けるようなものなんじゃん……」

 歩美が隣で赤ちゃんを抱きしめながら、この会話を聞いていた。

 「……まさか! 慎一郎……」
 「……だ、ダメです!! 歩美さん、し、質問しないでください!!」

 「美代、あんたもう最初から狙われていたのね……」
 「……え?」

 完全によくわかっていなそうな美代は、はあっとため息をつきながら、普通の奥さんがご主人の忘れ物を届けるように出かけて行く。

 無邪気に「行ってくるね~!」と出て行く美代を歩美は細い目を凝らして見ていた。
 彼女が出て行くと、歩美は殺気立つような視線を燕尾服の男に向けた。

 「つまり、そういうことだったの?」

 歩美がまだ乳幼児の可愛い男の子の我が子を抱きながら、真田を冷たい目で睨む……。

 「そうよね、忘れ物お届け係、つまり、妻ってことよね……」
 「……歩美さ、さん………どうか……」
 「そうよね、嫁に貰いたいのに、まさかすぐに嫁に来いだなんて、言えないわよね……。誘拐になっちゃうからね……」
 「………」
 「忘れ物お届け係……よくよく考えたら、それは甲斐甲斐しくお世話している奥さんの姿だもんね……」
 「!!」

 「……お金が困っている少女に一目ボレして、奥さんにほしい……そんなことは、はっきり周りも言えない……」
 「……あ、歩美さん!」
 「ちょっと、これはあの変態の考え、それとも貴方なの!!?」
 「……歩美……言えない……許してくれ……」

 真田がますます顔を青くさせて、身体を萎縮させている……。

 「……あ、こうちゃんのオムツ変えましょうか……」

 そう言いながら、真田が我が子を奪って、「こうちゃん! キレイキレイしましょう~!」と言いながら逃げて行く。

 はあ~っと呆れたため息をつきながら、歩美が一言漏らした。

 「まあ、いっか。美代は幸せそうだから……」



 一台の車が大原の本社の会社の前で止まる。

 前のようなオレンジのつなぎはもういささかやめた。
 なぜなら、流石に総裁の妻が配達員の格好ではまずいかなと美代も思ったからだ。

 受付で一応、挨拶をする。
 最近は裏口より正面から入れと蓮司に促される。
 意味がわからないが、その方が、お前を守りやすいと言われる。
 意図がよくわからない。

 受付嬢は、皆美代に親切だ。

 顔を見ただけで回線を上に繋げてくれる。

 「ただ今、会長のが、お忘れ物を持ってお越しになりました……」

 それを聞きながら、美代は複雑な気持ちになった。

 「……忘れ物お届け係……なんですけど………」

 その声は受付嬢には聞こえない。

 「まあ、いっか、似たようなもんか……」

 SPに囲まれてエレベーターに繋がっている廊下をパタパタと小走りする美代は、多分、いま一世一代、気がつかないといけないところを思いっきり見逃しながら、愛する、でもでも、とっても執着心溢れる、策略家の旦那さまに忘れ物を届けに行くのでした。


 終わり!

 後、番外編が二編あります。
 皆様長い間ありがとうございました。
 まさかこんなに長く、続いてしまうとは、全くの想定外。
 感想寄せてくださった方々にも感謝いたします。
 とっても励みになりました。
 たぶん、皆様の感想なしにはこの話は完結しませんでした。
 良い年越しを……。

 たまる
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...