5 / 14
逃げたのはよかったのだけれど…
しおりを挟む
誰が追ってきそうだったけれど、早足で逃げ去ったわ。
すばやくに近場の小部屋に駆け込んだと見せてその部屋付きのバルコニーから外に出たわ。
こういう時に正妃って立場は楽ね。
顔を合わせただけでみんな衛兵はどいてくれるから。
えーと、えーと。
なにか生き物はいないかなと思ったの。
正直、焦っていたわ。
にんじんが迫ってくるのを感じたから。
ああ蚊はまずいわ。
なんだか地面からふわふわと浮いてしまう自分になりそうだったし。
どれもやっぱりイマイチそうだったわ。夜の生き物は虫が多いのよ。
どれも会話ができるような高等動物はいないし、しまったなと思ったわ。
今回はもしかして離縁書が自分がいない間に渡されるかも知れないので、少し高等な生き物を得たいと思ったの。
そんなときちょうど黒猫が通ったの。
おおおお!
なんてタイミング。
自分の目を猫に合わせるの。
身体に血が逆流する感覚を得たわ。
そして、自分と猫をさっと入れ替えたの。
猫と魔女。
昔から相性はバツグンよ。
桃色のフリフリドレスを着た自分が背筋をピンと張り直したわ。
中身は猫ね。
ああ、でも外から見る、このドレスを着たわたしは最悪のルックスよ。
昔のアイドルみたい。
童顔に、ピンクのフリルってちょっと犯罪的だと思うの。
全く自分の理想と違うし、改めてがっくりするけど仕方がないわ。
ただでさえ大き過ぎる瞳が、可愛らし過ぎるドレスに包まれて、なんだか甘ったるい顔になり過ぎている。
まあここを去ったらもうちょっと大人びた服を着たいと思ったわ。
もしかして、あの魔女おきまりの黒服って、童顔を隠す為のものかも知れないわとでさえ思ったわ。
ママもいつまでたっても若くて綺麗なままだし。
一応、ここを離れる前に元猫の自分に話しかけたの。
「いい? 変なまねはしないことよ。『いいえ、はい、わかりません』で答えなさい。わかった?」
「…はい」
そのあと、どこへ行くかを彼女に説明したわ。
あのカーテンの中に隠れていれば問題はないはずだから。
「けっこうだわ! では解散ね。あとで呼んだらここにくるのよ。私は夜の庭を散歩してくるから…」
そうやって猫の私と、私になりきった猫は別れたの。
目の端に誰かが姫である自分を迎えに来ていたわ。
ギリギリセーフだったみたいね。
夜の庭で遊びに遊んだわ。
猫の体は軽いから、いろんなところを飛んだり跳ねたりして楽しかったこと。
思わず貴族の逢引に出くわしたりして、驚いたり、驚かせたり。
夜の生き物たちとも戯れもしたわ。
かなり遊んでしまっていたの。
夜空は甘い花の匂いや虫の囁きで満ちていて、ワクワクしてしまったわ。
ふと顔を上げたらね。
深い藍色の夜空に白いシルクのような輝きの月が雲から顔を出し始めたの。
月に向かって呟いたわ。
「─ダメよ。私のことに干渉したら、絶交だからね! パパ、わかっている? 何が起きても自分の責任だから!」
ゆっくりとした動きの雲がまた月を隠したの。
ほーんとにね。
子離れしないから…パパは。
ちょっと用心の為に、仕掛けはしたわ。
これをすると、パパは自分の行動が見えないの。
魔女のママでも出来ないらしいんだけれど、子供の私は出来るの。
パパから見えなくする方法。
それを終えて、宮殿を覗いたら、巨大にんじんケーキらしきものが撤去される様子が見えたわ。
かなり危なかったわ。
ケーキを片付けるのなら、パーティーは終わりってことでしょ?
さあもう帰ろうかと思っていたの。
それは…突然だったの。
体に異変を感じたのわ。
あっと思う刹那、何かとてつもない刺激を肌にね。
すぐにその刺激が渦を巻いて、熱に変化して、身体中を支配したわ。
思わず猫の自分がよろめいたわ。
初めて味わうような感覚よ。
叫びたい気持ちを必死で抑えたわ。
まずいと思ったの。
きっと本体、つまり自分の体に何かが起こっている。
こんなことは今までになかったけれど、本体がつまづいて転んだり、怪我したりするとその異常がこちらにも伝わってくるのよ。しかも、今回は相性の良い猫。
伝わってくる感覚がまるで薄皮一枚の差にしか感じないわ。
困った感覚を頑張って閉じ込めて、猫のわたしは走ったわ。
途中地面になんども足を止めたわ。
急いで、バルコニーに戻ったの。
でも自分の姿はなかったわ。
当たり前ね。きっとまたあの広間に戻ってあのカーテン越しに戻るはずだったのだから。
ちょうど広間に続いているテラスに出る人たちがいたの。
それに紛れて猫の私が広間に入り込んだの。
誰も自分には気がつかないわ。
声が聞こえてきたの。
少しでも何かを起きたのかを探る為にね。
え、魔法で探れって?
だから言ったでしょ?
なるべく魔法は限界まで使わないのよ。
まあにんじんは別だからね。
それに猫の自分にも防衛本能は付いているの。
敵意を持った誰かが攻撃してきた場合、それなりの反応はできるようにしてあるわ。
ただ敵意を持たない何かが…自分を襲っている?
仮説を立てながら、令嬢たちの間を通って行ったわ。
すると全く平凡でつまらない人々が噂話をしていたわ。
「すごかったですわね。あの殿下の剣幕…」
「まさか、あのお人形様の姫君が、あんなはっきりと殿下を拒否したの、私、初めて見ましたわ」
「それに、あの殿下のお顔…拝見していて、こちらの方が…辛くなりましたわ」
え、何したの?
猫の私。
円満離婚を期待していたのに、ここで泥沼してどうするんですか!!と思ったわ。
急いで猫の自分は、人間の自分を探したの。
悠長に人間のふりをしている暇はない感じがしたわ。
やはりこの身体のあちこちに感じる異変はただ事ではないと思ったから。
自分はこの宮殿にはいると感じたわ。
身体の奥から感じる得体の知らないものは、波が重なるように自分を支配し始めたわ。
その正体を知りたいがままに、猫の自分に呪文をかけたわ。
『私を私に連れていきなさい…』
すばやくに近場の小部屋に駆け込んだと見せてその部屋付きのバルコニーから外に出たわ。
こういう時に正妃って立場は楽ね。
顔を合わせただけでみんな衛兵はどいてくれるから。
えーと、えーと。
なにか生き物はいないかなと思ったの。
正直、焦っていたわ。
にんじんが迫ってくるのを感じたから。
ああ蚊はまずいわ。
なんだか地面からふわふわと浮いてしまう自分になりそうだったし。
どれもやっぱりイマイチそうだったわ。夜の生き物は虫が多いのよ。
どれも会話ができるような高等動物はいないし、しまったなと思ったわ。
今回はもしかして離縁書が自分がいない間に渡されるかも知れないので、少し高等な生き物を得たいと思ったの。
そんなときちょうど黒猫が通ったの。
おおおお!
なんてタイミング。
自分の目を猫に合わせるの。
身体に血が逆流する感覚を得たわ。
そして、自分と猫をさっと入れ替えたの。
猫と魔女。
昔から相性はバツグンよ。
桃色のフリフリドレスを着た自分が背筋をピンと張り直したわ。
中身は猫ね。
ああ、でも外から見る、このドレスを着たわたしは最悪のルックスよ。
昔のアイドルみたい。
童顔に、ピンクのフリルってちょっと犯罪的だと思うの。
全く自分の理想と違うし、改めてがっくりするけど仕方がないわ。
ただでさえ大き過ぎる瞳が、可愛らし過ぎるドレスに包まれて、なんだか甘ったるい顔になり過ぎている。
まあここを去ったらもうちょっと大人びた服を着たいと思ったわ。
もしかして、あの魔女おきまりの黒服って、童顔を隠す為のものかも知れないわとでさえ思ったわ。
ママもいつまでたっても若くて綺麗なままだし。
一応、ここを離れる前に元猫の自分に話しかけたの。
「いい? 変なまねはしないことよ。『いいえ、はい、わかりません』で答えなさい。わかった?」
「…はい」
そのあと、どこへ行くかを彼女に説明したわ。
あのカーテンの中に隠れていれば問題はないはずだから。
「けっこうだわ! では解散ね。あとで呼んだらここにくるのよ。私は夜の庭を散歩してくるから…」
そうやって猫の私と、私になりきった猫は別れたの。
目の端に誰かが姫である自分を迎えに来ていたわ。
ギリギリセーフだったみたいね。
夜の庭で遊びに遊んだわ。
猫の体は軽いから、いろんなところを飛んだり跳ねたりして楽しかったこと。
思わず貴族の逢引に出くわしたりして、驚いたり、驚かせたり。
夜の生き物たちとも戯れもしたわ。
かなり遊んでしまっていたの。
夜空は甘い花の匂いや虫の囁きで満ちていて、ワクワクしてしまったわ。
ふと顔を上げたらね。
深い藍色の夜空に白いシルクのような輝きの月が雲から顔を出し始めたの。
月に向かって呟いたわ。
「─ダメよ。私のことに干渉したら、絶交だからね! パパ、わかっている? 何が起きても自分の責任だから!」
ゆっくりとした動きの雲がまた月を隠したの。
ほーんとにね。
子離れしないから…パパは。
ちょっと用心の為に、仕掛けはしたわ。
これをすると、パパは自分の行動が見えないの。
魔女のママでも出来ないらしいんだけれど、子供の私は出来るの。
パパから見えなくする方法。
それを終えて、宮殿を覗いたら、巨大にんじんケーキらしきものが撤去される様子が見えたわ。
かなり危なかったわ。
ケーキを片付けるのなら、パーティーは終わりってことでしょ?
さあもう帰ろうかと思っていたの。
それは…突然だったの。
体に異変を感じたのわ。
あっと思う刹那、何かとてつもない刺激を肌にね。
すぐにその刺激が渦を巻いて、熱に変化して、身体中を支配したわ。
思わず猫の自分がよろめいたわ。
初めて味わうような感覚よ。
叫びたい気持ちを必死で抑えたわ。
まずいと思ったの。
きっと本体、つまり自分の体に何かが起こっている。
こんなことは今までになかったけれど、本体がつまづいて転んだり、怪我したりするとその異常がこちらにも伝わってくるのよ。しかも、今回は相性の良い猫。
伝わってくる感覚がまるで薄皮一枚の差にしか感じないわ。
困った感覚を頑張って閉じ込めて、猫のわたしは走ったわ。
途中地面になんども足を止めたわ。
急いで、バルコニーに戻ったの。
でも自分の姿はなかったわ。
当たり前ね。きっとまたあの広間に戻ってあのカーテン越しに戻るはずだったのだから。
ちょうど広間に続いているテラスに出る人たちがいたの。
それに紛れて猫の私が広間に入り込んだの。
誰も自分には気がつかないわ。
声が聞こえてきたの。
少しでも何かを起きたのかを探る為にね。
え、魔法で探れって?
だから言ったでしょ?
なるべく魔法は限界まで使わないのよ。
まあにんじんは別だからね。
それに猫の自分にも防衛本能は付いているの。
敵意を持った誰かが攻撃してきた場合、それなりの反応はできるようにしてあるわ。
ただ敵意を持たない何かが…自分を襲っている?
仮説を立てながら、令嬢たちの間を通って行ったわ。
すると全く平凡でつまらない人々が噂話をしていたわ。
「すごかったですわね。あの殿下の剣幕…」
「まさか、あのお人形様の姫君が、あんなはっきりと殿下を拒否したの、私、初めて見ましたわ」
「それに、あの殿下のお顔…拝見していて、こちらの方が…辛くなりましたわ」
え、何したの?
猫の私。
円満離婚を期待していたのに、ここで泥沼してどうするんですか!!と思ったわ。
急いで猫の自分は、人間の自分を探したの。
悠長に人間のふりをしている暇はない感じがしたわ。
やはりこの身体のあちこちに感じる異変はただ事ではないと思ったから。
自分はこの宮殿にはいると感じたわ。
身体の奥から感じる得体の知らないものは、波が重なるように自分を支配し始めたわ。
その正体を知りたいがままに、猫の自分に呪文をかけたわ。
『私を私に連れていきなさい…』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる