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雨
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時々、唯斗は雨の日になると闇の中に堕ちる。
その理由は幼少期、あの降る夜に両親に捨てられたからだ。
「また、あいつはムリしてるな」
クラスメイトと話をしている聖を見ながら呟けば、その呟きを拾った神谷が
「委員長、大丈夫なんですか会長?」
聞いてくる。
「多分、明日はダメだろうな」
だから俺も隠さずに素直に答えた。神谷と永尾に関しては時折、雨の日に聖が体調を崩すと知っているので、明日は出てこれないだろうと告げる。聖が出てこれないということは俺も出れないということだからだ。
「わかりました。今日はどうしますか?」
授業が終わったらどうするかという意味で聞いてくる。
「あいつ次第だな。生徒会に行くなら永尾に様子を見てもらうし、このままダメそうなら強引に連れて帰る」
今日の授業はあと2時限分は残っているのだ。
「わかりました。健人にもそのように伝えておきます」
「あぁ、悪いが頼む」
神谷の言葉に小さく笑い永尾にも伝えてもらうことを頼んだ。俺は携帯を取り出し、手早くメールを打った。その返事は意外とすぐに返ったきた。
『こっちの心配はしなくても大丈夫だ。副委員長である神谷の補佐をしながら総括として動くから聖を優先しろ』
隣のクラスにいる三条からのメールだ。委員長である俺が不在の場合、副委員長である神谷と救護班総括である三条に風紀のことを任せることになるからな。だから、聖の件に関しては三条にも話してある部分があるので、理解をしてくれている。
『悪いが、頼む』
俺は返事を送って聖に視線を向けた。さっきよりも顔色が悪くなってる。俺は溜め息をつき席を立ち聖の傍による。
「聖」
俺が声をかければビクリと身体を跳ねさせ俺を見た。何か言いたげな顔をしているが言葉を口にしないのは、できないから。
「ムリしてんな。帰るぞ」
俺は有無を言わさぬ勢いで聖を抱き上げた。
「神谷、永尾、悪い、連れて帰る。限界だ」
「はい、わかりました委員長」
「先生には伝えておきます」
俺の言葉に神谷と永尾がすぐに返事をしてくれる。
「悪い、頼む」
2人に謝り足早に教室をでた。ほうっと小さな息を吐き聖は俺の制服を掴み肩口に顔を埋めた。服を掴む手は小さく震えていた。
俺はなにも言わず、急いで、寮の自室に戻り寝室に向かう。聖を抱いたままベッドに座れば聖が抱き着いてきた。
「よく我慢したな。もう大丈夫だ」
そんな聖を抱きしめ返し頭を撫でれば
「っ、たぃ、がぁ、ごめ、っ、うぅ、ひっく」
大泣きし始めた。
クラスメイトと会話をしている間に聖の中で限界が来ていた。いつになく激しく降る雨は聖の幼少期の記憶をよみがえらせ闇に堕ちさせる。癒えることのない心の傷。どれだけ傍にいて、ありったけの愛情を与え続けても、心の奥底にある傷は癒えず、こうやって思い出し涙を流す。
一人で、何度も同じ傷を負ったのが原因。だから、いまだに傷が癒えず、雨の日に闇に堕ちる。
中学の時、覚醒して、発情するたびに俺が傍にいるようになって、少しずつ、傷はふさがり始めたといっても、幼少期に負った傷の深さは俺が想像するよりも深い。だから、雨の日はこうやって突然、闇に落ちるのだ。
俺に抱き着いて、大泣きして、泣き疲れて聖が寝落ちした。
「このまま寝かして離れると起きちゃうんだよなこいつ」
腕の中で眠る聖を起こさぬように気を付けながらネクタイとブレザーを脱がし、布団の中に寝せる。傍を離れれば目を覚まし、恐怖で俺を捜しまわる。脱がしたブレザーとネクタイをハンガーにかけクローゼットの中にしまい、自分も着替え聖の隣に横になり抱き寄せる。
「今は嫌な夢など見ずにゆっくり休め」
こいつのことだから昨夜から悪夢を見てたはずなんだ。昨日も弱いが雨が降っていたから…。
「んっ、ここは…」
夜中に目を覚ました聖が呟く。この場所がどこかわかってないらしい。
「起きたのか。大丈夫か?」
顔を覗き込み声をかければ
「ぁ、大我、だぁ」
なんて嬉しそうに笑う。
「あぁ、俺だな。大丈夫なのか?」
少し心配になりもう一度聞いてみた。
「あっ、あー、うん。大丈夫」
少しだけ腑に落ちないが大丈夫だと返事をしてくる。
「本当に大丈夫なのか?」
それが余計に心配になるんだ。
「あー、ごめん。本当に大丈夫。寝てる間は悪夢は見てないから。ただ、ちょっと嬉しい夢を見てたから…」
と少しだけ照れながら言ってくる。
「悪夢を見てないならいい。それが心配だったんだ」
悪夢を見ずに嬉しいと言える夢を見ていたならそれでいい。俺は聖の頭を撫でてやった。
「大我、あのね、夢の中に子供の大我が出てきてね、雨の中で泣いてる俺を抱きしめてくれてたんだ。雨が止むまでずっと。子供の大我が夢に出てきたらすぐに雨なんてやんじゃって、2人で泥んこになって遊んでる夢を見たよ」
夢の内容を嬉しそうに教えてくれた。
「唯斗がずっと心配だったからな。早く泣き止んでほしかったんだ俺も」
いつも思う。傷つき涙を流す唯斗を見るのは胸が苦しくなる。泣き止んでほしいと、これ以上傷ついてほしくないと…。だから、こうやって闇に落ちてるときは特にそう思う気持ちが強い。早く傷が癒えたらいいのにと…。自分が全部癒せれたらいいのにと…。
「うん、ありがとう大我。大我がこうやって甘やかしてくれるからいつも俺、戻れるの早いんだ。だって、大我の愛情が俺の傷を埋めてってくれるんだもん」
嬉しそうに笑いながら抱き着いてくるその身体を強く抱き締め返す。
「そりゃぁ、将来の嫁の心の傷は責任もって俺が癒さないとな。それが俺の役目だと思ってるし、唯斗には笑っててほしいからさ」
これは俺も譲れない思いだ。唯斗の心の傷を癒すのは俺自身だと。
「えーっ、これ以上甘やかされたら俺どうしよう。甘えて大我から離れられないのが余計に離れられなくなるぅ」
なんてクスクス笑いながら言ってくる言葉に笑ってしまう。
「まぁ、それを狙ってる部分もあるからなぁ。おかえり唯斗」
聖の額に小さなキスを送れば少しだけ驚いた顔をしたが
「うん、ただいま大我」
嬉しそうに返事をした。
「でも、まぁ、あれだ。目が思いっきり腫れてるから明日は休みだな」
大泣きしたせいで聖の両眼は見事に腫れていた。
「あー、うん。泣きすぎて目が痛い。寝てたけど目がパンパンよ俺」
自分でも自覚してるのか溜め息をつく。
「まぁ、永尾達には頼んであるから大丈夫だ。明日はゆっくり休んで甘えろ」
聖の頭を撫でながら言えば
「うん。本当はダメなんだろうけど、明日も大我に甘えます」
ハッキリと言い切った。それには少し笑ってしまったが、聖らしいなと思った。
「なら、今日はもう寝よう。明日またゆっくり話をすればいいからな」
聖を抱きしめ直し、布団をかければ
「うん、おやすみ大我」
同じように抱き着きながらおやすみという。
「あぁ、おやすみ」
俺が返事をするかしないかのタイミングで聖はまた夢の中に堕ちていった。
「早」
なんて呟くけど、こうやって安心して寝れるならいい。雨の日に闇に堕ちた聖がこうやって安らかに眠れるのならそれでいい。俺はもう一度、聖の額にキスをして、自分も寝るために目を閉じた。
翌朝、起きて、自分の状況はわからなくて、パニックになっていた聖には爆笑してしまった。
全く覚えていなかったらしい。
まぁ、覚えていないのならそれでいい。
聖が笑っていられるのならその方がいいから…。
Fin
その理由は幼少期、あの降る夜に両親に捨てられたからだ。
「また、あいつはムリしてるな」
クラスメイトと話をしている聖を見ながら呟けば、その呟きを拾った神谷が
「委員長、大丈夫なんですか会長?」
聞いてくる。
「多分、明日はダメだろうな」
だから俺も隠さずに素直に答えた。神谷と永尾に関しては時折、雨の日に聖が体調を崩すと知っているので、明日は出てこれないだろうと告げる。聖が出てこれないということは俺も出れないということだからだ。
「わかりました。今日はどうしますか?」
授業が終わったらどうするかという意味で聞いてくる。
「あいつ次第だな。生徒会に行くなら永尾に様子を見てもらうし、このままダメそうなら強引に連れて帰る」
今日の授業はあと2時限分は残っているのだ。
「わかりました。健人にもそのように伝えておきます」
「あぁ、悪いが頼む」
神谷の言葉に小さく笑い永尾にも伝えてもらうことを頼んだ。俺は携帯を取り出し、手早くメールを打った。その返事は意外とすぐに返ったきた。
『こっちの心配はしなくても大丈夫だ。副委員長である神谷の補佐をしながら総括として動くから聖を優先しろ』
隣のクラスにいる三条からのメールだ。委員長である俺が不在の場合、副委員長である神谷と救護班総括である三条に風紀のことを任せることになるからな。だから、聖の件に関しては三条にも話してある部分があるので、理解をしてくれている。
『悪いが、頼む』
俺は返事を送って聖に視線を向けた。さっきよりも顔色が悪くなってる。俺は溜め息をつき席を立ち聖の傍による。
「聖」
俺が声をかければビクリと身体を跳ねさせ俺を見た。何か言いたげな顔をしているが言葉を口にしないのは、できないから。
「ムリしてんな。帰るぞ」
俺は有無を言わさぬ勢いで聖を抱き上げた。
「神谷、永尾、悪い、連れて帰る。限界だ」
「はい、わかりました委員長」
「先生には伝えておきます」
俺の言葉に神谷と永尾がすぐに返事をしてくれる。
「悪い、頼む」
2人に謝り足早に教室をでた。ほうっと小さな息を吐き聖は俺の制服を掴み肩口に顔を埋めた。服を掴む手は小さく震えていた。
俺はなにも言わず、急いで、寮の自室に戻り寝室に向かう。聖を抱いたままベッドに座れば聖が抱き着いてきた。
「よく我慢したな。もう大丈夫だ」
そんな聖を抱きしめ返し頭を撫でれば
「っ、たぃ、がぁ、ごめ、っ、うぅ、ひっく」
大泣きし始めた。
クラスメイトと会話をしている間に聖の中で限界が来ていた。いつになく激しく降る雨は聖の幼少期の記憶をよみがえらせ闇に堕ちさせる。癒えることのない心の傷。どれだけ傍にいて、ありったけの愛情を与え続けても、心の奥底にある傷は癒えず、こうやって思い出し涙を流す。
一人で、何度も同じ傷を負ったのが原因。だから、いまだに傷が癒えず、雨の日に闇に堕ちる。
中学の時、覚醒して、発情するたびに俺が傍にいるようになって、少しずつ、傷はふさがり始めたといっても、幼少期に負った傷の深さは俺が想像するよりも深い。だから、雨の日はこうやって突然、闇に落ちるのだ。
俺に抱き着いて、大泣きして、泣き疲れて聖が寝落ちした。
「このまま寝かして離れると起きちゃうんだよなこいつ」
腕の中で眠る聖を起こさぬように気を付けながらネクタイとブレザーを脱がし、布団の中に寝せる。傍を離れれば目を覚まし、恐怖で俺を捜しまわる。脱がしたブレザーとネクタイをハンガーにかけクローゼットの中にしまい、自分も着替え聖の隣に横になり抱き寄せる。
「今は嫌な夢など見ずにゆっくり休め」
こいつのことだから昨夜から悪夢を見てたはずなんだ。昨日も弱いが雨が降っていたから…。
「んっ、ここは…」
夜中に目を覚ました聖が呟く。この場所がどこかわかってないらしい。
「起きたのか。大丈夫か?」
顔を覗き込み声をかければ
「ぁ、大我、だぁ」
なんて嬉しそうに笑う。
「あぁ、俺だな。大丈夫なのか?」
少し心配になりもう一度聞いてみた。
「あっ、あー、うん。大丈夫」
少しだけ腑に落ちないが大丈夫だと返事をしてくる。
「本当に大丈夫なのか?」
それが余計に心配になるんだ。
「あー、ごめん。本当に大丈夫。寝てる間は悪夢は見てないから。ただ、ちょっと嬉しい夢を見てたから…」
と少しだけ照れながら言ってくる。
「悪夢を見てないならいい。それが心配だったんだ」
悪夢を見ずに嬉しいと言える夢を見ていたならそれでいい。俺は聖の頭を撫でてやった。
「大我、あのね、夢の中に子供の大我が出てきてね、雨の中で泣いてる俺を抱きしめてくれてたんだ。雨が止むまでずっと。子供の大我が夢に出てきたらすぐに雨なんてやんじゃって、2人で泥んこになって遊んでる夢を見たよ」
夢の内容を嬉しそうに教えてくれた。
「唯斗がずっと心配だったからな。早く泣き止んでほしかったんだ俺も」
いつも思う。傷つき涙を流す唯斗を見るのは胸が苦しくなる。泣き止んでほしいと、これ以上傷ついてほしくないと…。だから、こうやって闇に落ちてるときは特にそう思う気持ちが強い。早く傷が癒えたらいいのにと…。自分が全部癒せれたらいいのにと…。
「うん、ありがとう大我。大我がこうやって甘やかしてくれるからいつも俺、戻れるの早いんだ。だって、大我の愛情が俺の傷を埋めてってくれるんだもん」
嬉しそうに笑いながら抱き着いてくるその身体を強く抱き締め返す。
「そりゃぁ、将来の嫁の心の傷は責任もって俺が癒さないとな。それが俺の役目だと思ってるし、唯斗には笑っててほしいからさ」
これは俺も譲れない思いだ。唯斗の心の傷を癒すのは俺自身だと。
「えーっ、これ以上甘やかされたら俺どうしよう。甘えて大我から離れられないのが余計に離れられなくなるぅ」
なんてクスクス笑いながら言ってくる言葉に笑ってしまう。
「まぁ、それを狙ってる部分もあるからなぁ。おかえり唯斗」
聖の額に小さなキスを送れば少しだけ驚いた顔をしたが
「うん、ただいま大我」
嬉しそうに返事をした。
「でも、まぁ、あれだ。目が思いっきり腫れてるから明日は休みだな」
大泣きしたせいで聖の両眼は見事に腫れていた。
「あー、うん。泣きすぎて目が痛い。寝てたけど目がパンパンよ俺」
自分でも自覚してるのか溜め息をつく。
「まぁ、永尾達には頼んであるから大丈夫だ。明日はゆっくり休んで甘えろ」
聖の頭を撫でながら言えば
「うん。本当はダメなんだろうけど、明日も大我に甘えます」
ハッキリと言い切った。それには少し笑ってしまったが、聖らしいなと思った。
「なら、今日はもう寝よう。明日またゆっくり話をすればいいからな」
聖を抱きしめ直し、布団をかければ
「うん、おやすみ大我」
同じように抱き着きながらおやすみという。
「あぁ、おやすみ」
俺が返事をするかしないかのタイミングで聖はまた夢の中に堕ちていった。
「早」
なんて呟くけど、こうやって安心して寝れるならいい。雨の日に闇に堕ちた聖がこうやって安らかに眠れるのならそれでいい。俺はもう一度、聖の額にキスをして、自分も寝るために目を閉じた。
翌朝、起きて、自分の状況はわからなくて、パニックになっていた聖には爆笑してしまった。
全く覚えていなかったらしい。
まぁ、覚えていないのならそれでいい。
聖が笑っていられるのならその方がいいから…。
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