会長様は別れたい

槇瀬陽翔

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31話

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「来客中に突然、押しかけてくるなんて何事ですか。出て行ってください」
突然、押しかけてきた人物に三枝さんが毅然と言い放つ。
「俺だって大事な話があるって言ってるだろ。それに本人がここにいるみたいだから話は早いだろ」
チロリと俺の方を見て怒鳴りながら言う男。出来れば逢いたくなかった人。
「彼からは2週間待って欲しいとお願いがあったと伝えたはずですが?」
三枝さんは男に向かって言い放つ。男が言葉を発する前に
「三枝さん、その人の事情っていうのを話してもらうのはどうですか?」
静かに告げる大我。その言葉には怒りが込められていた。
「ですが…」
一瞬だけ俺の方を見る三枝さん。わかってる、俺がこの場所にいるから追い出そうとしてるのを…。
「大丈夫です。理由も知らずに一方的に金を返せと言われてもこっちは納得できませんからね。その人の事情というのをキッチリ聞かせてもらいましょうか」
言葉の節々に怒りが込められている。それでも俺を撫でる手はいつものように温かくて優しい。
「それなら、大我、唯斗の隣に座りなさい。あなたが聞く権利あるもの」
いつもなら愛称で呼んでるのに、名前をちゃんと呼びながらみきママが場所を大我と変わった。俺の隣に座った大我はギュッと俺の手を握りしめてくれた。一緒に話を聞くから大丈夫だと言わんばかりに…。
「わかりました。では、今回の件の理由を本人から説明していただきますね」
三枝さんは溜め息をつき、本来の予定とは違うが、今回話さなくてはならないかったことについて、本人からの説明を聞くという形で話を進めることになった。


「3ヶ月前に妻の病気が発覚したんだ。その治療には莫大の費用がかかることがわかって、まだ子供たちにも金ががかかるんだ。だから、君に出していた養育費を回収したいんだ」
その言葉を聞き、大我の周りの空気が冷たくなった気がする。ううん、違う。この部屋の温度が下がったんだ。だって、俺以外のみんなが静かに怒ってるから…。
「自分勝手だな」
ポツリと大我が呟いた。
「なっ、お前には関係ないことだろ。俺はこの子に言ってるんだ!」
大我の呟きを拾った男、内藤さんが大我に怒鳴りながら俺を指さす。
「俺に関係があるからこの場所にいるんだが?それに、唯斗は俺の家族だ」
いつになく冷たい瞳で内藤さんを見て、俺の頭を撫でていく。
「…っ…たい、がぁ…」
言葉がうまく続かない。
「大丈夫だ、すぐ済ませる。もう少しだけ我慢してくれ」
俺の目を見て告げてくる大我の瞳はいつもと同じで優しい色を灯していた。俺は何度も頷いた。
「本来、あんたは里親になった時点で、自分の子供が生まれたとしても唯斗を育てなければならなかったはずだ、それを一方的に放棄した。その条件として、唯斗が高校を卒業するまでの養育費を払うというのを条件にこの施設と契約したはずだが?」
俺の頭を撫でたままで、静かに言葉を紡ぐ大我。この言葉には怒りが込められている。
「自分の子供ができたんだ、よその子供なんて捨てても問題ないだろ!」
その言葉に部屋の中の空気が固まった。幼い頃に聞いたその言葉をまた言われると辛い。胸が苦しい。
「ゆい、大丈夫だから…深呼吸をするんだ」
軽く頬を叩かれ、そんな言葉を投げかけられる。
「…っ…ぁ…たい、が…」
大我の服をギュッと掴み見上げれたらボロボロと涙が零れ落ちた。
「大丈夫、ここにいる。ゆっくり吸って、ゆっくり吐くんだ」
大我に言われるままにゆっくりと息を吸って、吐いていく。
「あなた方ご夫妻が捨てた代償がこれです。彼は傷つき、精神的に病み、何度も自分の命を捨てようとしました。その現状をあなた方ご夫妻は受け入れることもせず、尚もまた彼を傷付けるつもりですか!」
いつになく怒った声で三枝さんが言っている。この場所に戻って来た時の俺をずっと見て、支えてくれていたのは他でもない三枝さんだったんだ。中学に上がってからは大我が常にいてくれるようになった。そんなことも忘れるぐらい大我たちと過ごす時間が好きだったのに…。大我の服を掴む手に力が入った。
「大丈夫、ゆっくりでいいから、ちゃんと呼吸をするんだ」
自分の胸に俺の頭を抱きしめ背中をそっと何度も優しく撫でていく。俺が落ち着けるように…。
「さっきから黙って聞いていれば、本当に自分勝手な言い分だこと」
「本当にな」
まさパパとみきママの言葉。
「自分たちの都合だけで一方的に施設と交わした契約を破棄してまでも取り戻そうとするなんて、強欲だこと」
「そうでもしなければ養っていけないのなら、最初から子供なんて作らなければいい。養子をもらおうなんて考えなければいい」
なおパパとゆきママの言葉。
「この施設にいる子たちはそれぞれ事情があってこの場所に預けられてるっていうのを知らないわけじゃないだろうに。そんな知識も情報もないのに、里親になろうなんて考えるな」
大我の冷たい言葉。
「うっ、うるさい、そもそも、お前たちには関係ないことだろう!」
内藤さんが怒鳴り返す。その度にビクッて身体が揺れてしまう。そんな俺を落ち着かせるように大我の手が背中を優しく撫でていく。
「関係なくないから言ってるんだ。この子は俺たちの子供だ」
まさパパの言葉に嬉し涙が零れる。
「唯斗くんは誰がなんと言おうとも俺たちの家族だ」
なおパパの言葉にますます涙が零れ落ちた。
「あなたたち家族の状況なんて俺たちには関係ないことだ。だけど、俺の家族である唯斗に被害がいくのなら、悪いが容赦はしない」
俺を抱きしめながら言う大我の言葉には強い力が込められている。


俺はこんなにも大我に、大我たち家族に大切にされてるんだって思った。


気付かないうちに俺はこんなにも大我に愛されて、家族にも愛をもらってたんだって気が付いた。


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