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Act 5

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「何をしている?」
俺のこの一言で部屋の中にいた全員が固まった。


生徒会室に用があり書類を持って近くまで来て部屋の外にまで聞こえるぐらい言い争う声がした。

内心で溜め息をつきながら中にいる奴らに気付かれないように気配も物音もたてないようにそっと扉を開けて中の様子を伺って、全部見届けてから一言を発した。


埜上は唇を噛み締め視線を反らし、やつの前にいる生徒二人は青ざめた顔をする。


俺は中の奴らが逃げれないように扉を閉め凭れ


「で?何をしてるんだ?」
もう一度同じ言葉を口にした。


が、誰も答えようとはしない。


「柚木、説明しろ」
副会長である柚木を指名したのは客観的な意見を聞くため。埜上じゃちゃんと言わないだろうし、他の生徒は自分に有利なことしか言わないだろう。


「えっ、あっ、はい。先程この二人が突然やってきて、埜上会長に矢岳委員長との関係を罵倒し、会長と言い合いになった際、彼が会長の頬を殴りました」

柚木は的確に事情を説明する。

「くだっらねぇ」
自然と俺の口からそんな言葉が飛び出た。

みんなの視線が一斉に俺を射抜く。

埜上に関しては半分俺を睨んでるけどな。


「俺が埜上にチョッカイだしてんのは、こいつの幼馴染みで、こいつの反応が楽しいのと、俺がこいつを好きだからだ。他人のお前らに俺の気持ちを代弁されたくねぇし、勝手な解釈なんざされたくねぇよ。くだらねぇ」

外で聞いていた言い争いの内容は大概こんな感じだ。


俺が相手してるからっていい気になるなとか、委員長を解放しろだとか、そんなくだらねぇことを言ってた。


俺はポケットから携帯を取り出し目的の番号に電話をするればすぐに出た。

「わりぃな、栗原、会長様に暴力をふるったやつ2名を捕獲した。生徒会室まで取りに来てくれ」
用件のみを伝えれば返事をしないままに電話が切れた。


が、ものの数分で

「矢岳!犯罪は犯すな!」
なんて叫びながら入ってきた。
「誰が犯すか!」
真横で俺が言えば
「あははは。すまん。埜上がって言われると心配で…いつかお前がその手を犯罪に染めるんじゃないかって副の俺としては気が気じゃないんだ」
ひきつった笑みを浮かべながら弁解するが弁解になってねぇよ。

「俺はそこまで落ちぶれちゃねぇぞ」
ギロリと睨めば
「イヤ、時と場合によったらお前は非常な男になるからな。死人がでないことを願う」
この男どこまで本気で思ってるのか、わかんねぇな。

「冗談はさておき、柚木わりぃんだがさっきの話を風紀の方でもう一回、栗原に話してくんねぇか?」
柚木に声をかければ
「えっ、あっ、わかりました。会長のことお願いします」
柚木は小さく笑って頭を下げて栗原と一緒に出ていった。


「ほんじゃま、ちょっと会長様を借りるぜ」
俺は他の役員に声をかけて生徒会室の奥にある小部屋に埜上を連れ込んだ。


部屋に入って椅子に座らせ顎を掴む。
「なんだよ、離せ」
それが気に入らなかったのか離せと抵抗する。
「暴れんな。キズ見てんだよ」
俺の一言でおとなしくなった。


殴られた拍子に唇の淵を切ったのと、噛み締めてたせいで完全に唇が切れてるな。殴られた頬も冷やさねぇとまずいか。と傷を見て一人で納得して手を離した。そのまま埜上を残して部屋を出た。

「わりぃんだけど救急箱あるか?」
中に残ってる役員に声をかければ
「あっ、はい。ちょっと待ってください」
書記の飯野が慌てて救急箱を持って来てくれた。

「サンキュー。なんかあったら呼んでくれ」
救急箱を受け取ってそれだけ告げてもう一度、部屋の中に戻れば、埜上は机にうつ伏していた。


「起きろ、傷の手当てするぞ」
声をかければ渋々といった感じで身体を起こす。俺は無言で切れた唇の淵の手当てをして、殴られた頬を冷やすためにタオルを濡らして渡した。

「…んでだよ…」
ポツリとそんなこと言う。
「なにがだ?」
俺は救急箱を片付けながら聞き返した。まぁ、言わんとすることはわかるがな。

「なんであんなこと言ったんだよ」
俺を見ないままで言ってくる。
「別に。くだらねぇ正義感振りかざられても俺はいい迷惑だ。その矛先がお前だったからハッキリと言ってやった。ただそれだけだ意味はねぇよ」
この男に危害を加えなけりゃ何も言わなかったが、こいつを守るためならどんな手でも使ってやるさ。


「だからって…なんであんなこと…」
やっぱり俺を見ねぇな。
「別に俺は隠してるわけじゃねぇし、聞かれねぇから言わねぇだけだ。それに思ってるのは自由だろ?押し付けるつもりもねぇよ」
まぁ、俺が自分のこと好きだったって今初めて知ったわけだしな。

埜上はそのまま黙り込んだ。


「少女漫画のような恋がしたい、その相手は可愛い女の子がいい。そう言い切ってるやつに自分の気持ち押し付けてもいい迷惑だろが。だから俺はお前に気持ちを伝える気もなかったし、知らせるつもりもなかったんだよ」
まぁ、本当に予定外だったんだがな。言う気なんて本当になかったんだから。


「…時間が…欲しい…」
長い沈黙の後でポツリとそんなことを言う。
「はぁ?時間なんていらねぇだろ?お前が俺をフレばそれで終わりだ」
元々、告げる気もなかった気持ちだし、付き合ってほしいとも言ってねぇんだ。俺をフレばこの気持ちは二度とこいつには見せねぇし、気付かせねぇ。

「ふざけるな!矢岳はそれでいいかもしれないけど、俺がそれじゃ困るんだよ!」
なんて珍しく俺に怒鳴ってきやがった。
「好きにしろ」
そう言えばこいつ最近一人でなんか悩んでたなと思い出した。

「あっ、でもお前あれは止めろよ。俺をおちょくるの」
ふと何かを思い出したのか言ってくる。その言葉に口角が上がった。
「おちょくってはねぇよ。お前に体験させてやってるだけだ」
濡れタオルを取り上げて、自分の方に引き寄せ殴られた頬にキスを落とす。

「っ、止めっ、それ、ヤダ」
ぎゅうと固く目を瞑った。
「そういえば、こっちのが好きだったな」
なんて言いながら首筋に唇を寄せれば
「ヤダ、拓海、ヤダ、痛いから、もぉ、ホントやだ」
掴んでない方の手で放せと言わんばかりに肩を叩かれる。

その手も掴んで抱きしめれば
「もぉやだぁ、心臓、痛いぃ」
半泣きになる。
「どんだけ弱いんだよお前。免疫つけねぇと自分が本当にやりたいと思ったときに出来なくなるぞ」
俺はあくまでも埜上がやるときに困るぞという意味で言えば

「拓海が俺にするからだろぉ、拓海のせいで心臓がドキドキして痛いんだよぉ」
半泣きのまま文句言われた。


そこでハタと

それって、俺が埜上にすることに意味があるんじゃねぇ?

って気が付いたが、それを口にするのだけは止めといた。


「あぁ、わかったわかった。悪かった。殴られた頬の腫れもひいてるし、そろそろ俺は戻るからな」
埜上を椅子に座らせて頭を撫でて言えばコクリと小さく頷く。
「適当に向こうの部屋に戻れよ。みんなが心配するからな」
もう一度頭を撫でて俺は風紀委員室に戻る為に部屋を出た。


俺が部屋を出た後でガシャンって大きな音がしたが、戻ると多分、埜上がヤバそうだから無視して生徒会室を後にした。


Fin


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