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Act 6

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「矢岳委員長、先日の休日に年上の女性とデートしてらしたんですね」
急に柚木が言ってくる。
「はっ?」
意味が分からなくて変な声が出た。

「えっと、クラスの子が矢岳委員長が年上の素敵な女性とデートしてるのを見たと興奮気味に言ってましたよ」
柚木はもう一度同じことを言ってくる。


そこまで言われて、何のことかがわかり溜め息をつく。


「あれはそんなんじゃねぇよ」
そう、あれは別にデートなんかじゃねぇ。

「そうなんですか?その割にはすごく親しそうで、凄くにこやかだったって。学校じゃ考えられないほどの笑顔全開だったって言ってましたよ」
柚木は不思議そうな顔で言ってくるもんだからたちが悪い。


「お前、彼女いたのか?」
急に埜上が喰いついてきやがった。

「はぁ?」
意味がわかんな過ぎて変な声を上げれば
「お前、彼女いんのに俺のこと好きとかぬかしたのか?」
すっげぇ険しい顔で睨んできやがる。

「お前なに勘違いしてんだ?俺はデートじゃねぇって言ってんだろ」
多分、今のこいつじゃ聞き入れないだろう言葉を口にする。
「お前、さいてぇだ!彼女いるくせに俺にちょっかいかけやがって!」
ギロッと睨みながら俺の制服を掴む。

「だから、お前は人の話を聞け!俺はデートしてねぇよ!あれはお前の姉貴だ!」
あの日、俺はこいつ、埜上の姉の美咲に呼び出されて会っていたのだ。
「はぁ?あのクソ姉貴がお前を呼び出すはずがねぇ!!」
たいした自身だなおい。

「俺が他に女いるとか思ってんのかよお前は」
てか、こいつの中で俺はどんだけヒデェ男になってんだ?
「クラスの奴が見たんならそうなんだろ!」
怒鳴られた。柚木がオロオロとしながら様子を窺ってる。

「あのなぁ、男子校にいてどうやって彼女作るんだよ。そもそも俺は普段外出しねぇだろうが!」
俺が寮の外に出ねぇのはこの男がよく知ってるはずだ。
「じゃぁ、なんでこの間いなかったんだよ!俺との約束すっぽかしやがって!」
等と怒鳴られるが


約束したっけ?


と俺は思った。
「イヤ、してねぇだろ?」
俺がそのまま口にすれば
「言ったじゃねぇか!日曜日になら話を聞いてやるって!」
と怒鳴られるが、そんなことを言った記憶はない。

「イヤ、言ってねぇし」
そもそも、ここの所まともに会話なんかしてねぇんだが?


「それなのに…なんだよお前!俺が好きだとか言いながら彼女作りやがって!結局、俺をおちょっくってんじゃねぇか!」
そこまで怒鳴ってゼーゼーと肩で息をする。が、俺も柚木も埜上の言った言葉の意味が分かり二人で顔を見合わせ溜め息をつく。

「お前…それ遠回しに自分のことだけ見てろってか?」
「会長…もしかして委員長のことが好きなんですか?」
二人揃って埜上に思ってたことを口にすれば

「なっ、はっ、えっ?そ、そ、そ、そんわけねぇだろ!こいつがデートしてるって言うから」
俺を指さし柚木に言い訳を口にしてるが、その顔は真っ赤だ。

「説得力ねぇなぁ。なんだぁ、埜上は俺に相手してもらいたかったのかぁ」
なんて意地悪な笑みを浮かべながらジリジリと近づいて行けば
「わぁー!違う違う!そうじゃなーい!!」
両手を振りながらジリジリと後ずさりドンと壁にぶつかり移動できなくなる。

「逃げんなや」
ドンっと顔の真横に手をつき囁く。
「っ、っ、っ」
何も言えなくなって口をパクパクして金魚のようだな。

「なぁ、マジでお前のことだけ見ててもいいのかよ?お前のしたい恋はできなくなるぞ?」
埜上の手を取り小さなキスを贈り上目遣いで見れば口をパクパクさせて目を白黒させてやがる。
「なぁ、ちゃんと言わねぇとわかんねぇんだけど?」
壁に手をつき頬に手を添え顔を近づけていけば

「わぁー!たんま、たんま、本当に待って!拓海、マジで、待って!」
両手で押してストップをかける。その顔はさっきよりも真っ赤だ。
「ヤダね」
その両手を掴んで首筋に唇を寄せれば

「ホント、痛いから、待ってよぉ」
半泣きになる。掴んでた手を離せばズルズルとその場に崩れ落ち
「もぉ、やだぁ、心臓、痛いぃ」
そう言いながら蹲る。

「会長、それって…委員長にやられることに意味があるんじゃないんですか?」
傍観者に徹していた柚木がゆっくりと口を開く。
「ふぇ?どぉゆぅことぉ?」
半泣きのまま柚木に聞き返してる。

「えっと…ちょっと失礼しますね」
柚木はそう言いながら俺と同じようなことをしようと埜上に触れた瞬間
「っ、ヤダ、やめろよ柚木!」
思いっきり柚木を突き飛ばした。柚木は押された拍子に尻もちをつく。

「いててて、ほら、僕が相手だと会長はドキドキよりも嫌悪感や恐怖の方が強いでしょ?」
腰を押さえながら柚木は埜上に聞いてる。埜上は柚木に言われた言葉を考えて小さく頷く。
「それって、会長は委員長のことが好きで…もしくは好きになりかけてて、委員長に会長の好きなスチエーションをされるからドキドキして、心臓が痛いんじゃないんですか?」
柚木はあくまでもその痛みは恋心がもたらすものじゃないのかと埜上に言う。

「…ない…わかんなぁいぃ」
ついにはボロボロと涙を流し始めた。俺と柚木は顔を見合わせ肩を竦め溜め息をつく。


ただ、こういう状況になった埜上を落ち着かせれるのは自分だけだっていうのを理解してる俺はまた溜め息をつき
「悪かった、もうしねぇから泣き止め」
埜上の前にしゃがみ頭を撫でる。
「拓の、せいだ、こんなの、拓海の、せいだ、バカぁ」
泣きながらポカポカと俺を殴ってくる。これって、完全に少女漫画の女子なんだよな。そういうの気がつけバカが。


なんて思いながらも俺は甘んじてその拳を受けながら泣き止むまで埜上をあやすのだった。


ってか、本当に相手はお前の姉貴なんだぞ?姉貴にヤキモチ妬くなよ。



Fin

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