人はそれを愛と呼び、彼は迷惑だと叫ぶ。

槇瀬陽翔

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記憶の中の記憶

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ふと目を覚ますとそこには目を真っ赤にして大粒の涙を流す母と目を赤くしている父の姿。


何をそんなに泣いてるの?


声を出して聞けば二人は驚いた顔をする。


誤って階段から落ちて怪我をしてなかなか目を覚まさなかったと泣きながら教えてくれた。

自分の中で何かが違う!と叫んでいた。でも、それが何なのかがわからなかった。


少しずつ回復していく身体。でも何かが違う。


ふと、見つけたマスコット。


これは何?と聞けば自分がずっと握りしめてて離さなかったという。


この時の俺はなぜかそれは捨てちゃダメだと思った。これだけは持っていないとっと…。


怪我が治って学校に行くようになって感じた違和感。



何かが違う


何か自分は忘れてるんじゃないだろうか?


そんな感覚はあるがそれすらも飲み込んで普通に過ごしてた。


1年、2年…と経つにつれて自分の中にある違和感にずっと蓋をして過ごしていた。


そう、あいつに会うまでは…。



小中とずっと蓋をしていた違和感、高校に入って菊池を見てその違和感の蓋は外れた。


何かを忘れてる、そんな感覚が菊池を見るたびに起きた。


でもそれが何かがわからない。



毎日毎日、菊池の元に愚痴を言いにいく。それが自分の中すごく大切な時間のようで自分ではよくわからないけど行く必要があった。

イラ立って八つ当たり気味に行った時もあいつは文句言うけど、俺を受け止めるが当り前と言わんばかりの態度。


桐渓が転校してきて俺の違和感が何なのかはっきりした。


蓋をしていた違和感が一気に溢れ出た。


それと同時に頭の中に広がった記憶の数々。自分が忘れていたもの。自分に何が起きていたのか。何がずっと違和感としてあったのか。

そして、入院中からずっと持っていた血で汚れたマスコットの意味。

それが全て頭の中に蘇ってきた。


桐渓の件で記憶が戻った俺だったけど、それでもまだ何か足りない。そう感じる自分がいた。


何かが足りないままずっと過ごしてた。


モヤモヤする気持ちのままずっと過ごしてた。


あいつの…菊池の背中が赤く染まる瞬間に何かが弾けた。


っ、あぁ、戻ってきたのか。


自分の中にある記憶。菊池がいなくなってからの記憶。俺が忘れてしまった記憶。



ズキズキと痛む頭を押さえながら、ここが何処だか考える。


目を開ければ真っ暗な世界。隣に感じる温もりにそっと視線を移せば寝ている菊池がいた。


暗闇に慣れた目でマジマジと菊池を見る。首筋から胸元にかけて残る傷痕。普段は制服で隠れているから傷がこんなに大きいとは誰も気付かないし、マジマジと見ないと傷があるとは気付かない。


菊池の身体には大小幾つもの傷痕がある。それは子供の時に桐渓によってできた傷。俺はそれを見ることができない。直視できないんだ。


傷痕で自分を責められてる感覚に陥るから。


だから、菊池は行為の最中は服を脱いではいるが、こうやって寝るときは服を着てる。身体の傷痕を隠すために…。

俺が自分自身を責めないように…。


ズキズキと痛みが増していく。記憶の中の記憶が痛みとなって現れる。これでも随分と良くなった方だ。


薬でも飲んだ方がいいかと考えていれば、急に菊池の腕が伸びてきて絡みついた。


「いてぇのか?」

寝起きの声で聞かれ驚いた。気付かれてるとは思わなかったんだ。

俺が自分の記憶に囚われていると…。

「いつから?」

何時から気が付いてるんだろうか?

「最初っからだ。無理矢理っぽくなったしな。責任は感じてる」

抱き寄せられる身体。それだけで痛みが和らいでいくんだから自分でも驚きだ。

「…時間…空白の時間…ぁれ?…なんで…」

自分で口にして、自分の胸に突き刺さり勝手に涙が出た。

「これからだ…埋めてやるよちゃんと、その空白は俺色に染めてやる」
「…っ…絶対だからな…侑司…」

俺は菊池に抱きつその腕の中で泣き続けた。そんな俺を菊池はずっと抱きしめてくれていた。


菊池がいなかった6年は俺にとって大きな空白。それは菊池侑司にしか埋めれないもの…


Fin

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