人はそれを愛と呼び、彼は迷惑だと叫ぶ。

槇瀬陽翔

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恐怖(番外的な話)

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季節外れの転校生が来ることがわかった。


転校生のことが記されていた書類を持って菊池の所へ向かった。一応、風紀にも情報は共有しなきゃいけなかったからだ。


「転校生が来ることになったみたいだ。で、これがその情報」
菊池に書類を差し出せば、それを受け取った菊池が書類を見て少しだけ驚いた顔をして固まった。
「菊池?何か問題でも?」
それが気になって声をかければ
「ん?イヤ、なんでもねぇよ」
小さく笑って書類を机の上に置いた。菊池の行動が気になったけど、俺はそのまま生徒会室に戻った。


転校生のことに関しては先生たちがやってくれるので、基本的に俺たちはノータッチだ。ただ、その情報だけはもらうことになっている。もし、何かあったときに対応できるようにだ。


転校生が来ても、1週間ぐらいは俺も転校生自体とは会うこともなくて、普通に過ごしていた。


でも、ある日、偶然にその転校生と会うこととなった。



「へぇ、ここのか生徒会長が梅村だったのかぁ」
なんて、俺を見てニヤリと笑う男。俺の中に転校生の記憶が全くない。だけど…


だけど…


怖い、怖い、怖い、怖い


理由がわからないけれど、目の前の男を見て怖いと思った。


「今度はちゃんとお前を壊してやるぜ」
ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべる。意味が分からない恐怖。ガクガクと足が震えてくる。足に力が入らなくて、このままじゃ崩れ落ちそうって時に


「相変わらずクソ野郎だな」
そんな声が自分の隣から聞こえてそっと背に添えられた手。温もりがじんわりと恐怖で冷えた身体に広がっていく。その存在を見ればいつになく険しい顔をした菊池。そして、風紀委員たちが揃っていた。俺は傍に立つ菊池に躊躇うことなく抱き着いた。この恐怖から助けてくれるのは菊池だと思ったから。


「へぇ~、菊池もいたのかよ。なら、今度はお前も一緒に壊してやるよ。その額の傷みてぇにな」
男の言葉に驚き菊池を見る。菊池の額には確かに傷がある。だけどそれは誰かを守ってできた傷だと…。その相手は転校していったと…。


なら、転校生の言葉の意味は?


怯える俺の肩を抱く手は酷く優しくて温かかった。



転校生が来てから俺の中に異変が起きた。


蘇る記憶。ずっと、忘れていた記憶。

小学3年の時に何がったのか、何が起きたのか、少しずつ蘇ってくる記憶。


記憶が戻れば戻るほど、苦しくて、悲しくて、怖い。


そして、俺が一番忘れたくなかった人物。一番思い出さなきゃいけなかった人物。


それは、菊池侑司。


俺が幼い頃からずっと一緒にいて、好きだと告白をした相手。


そして、ずっと俺を守っていてくれていた男。


俺があいつに恐怖していたのは俺を守って傷付く侑司を見たくなかったから…。俺の為に傷付く侑司を見たくなかったから…。


怯えて、癇癪を起して、人を拒絶して、それでも菊池の傍にしかいたくなくて、ずっと菊池に逃げていた。


自分の為に傷付く侑司を見たくないという想いと助けて欲しいという矛盾した思いを抱きながら…。


そして、やっぱり俺はまたあいつに階段から突き落とされた。そして、俺はまた赤い海を見た。

じわりじわりと広がっていく赤い海。動かない菊池。


イヤだ、イヤだ、イヤだ、また侑司がいなくなるのは嫌だ。


俺はただ、泣くことしかできなかった。動けなかったんだ。

「動くなよ」

その言葉と共に俺は後ろに吹き飛ばされそこに見たのは赤く染まった大きな背中。


後は、ちゃんと思えていない。菊池が桐渓と対峙して、桐渓が菊池に沈められていた。


俺はまた侑司に傷を負わせてしまったんだ。その事実だけが俺の胸に突き刺さる。


俺はただ、ただ、怖かった。


自分のせいで菊池侑司が傷付くのが…


それだけが怖かったんだ…



Fin

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