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ギルド。

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 ミラとエリスは王都ギルドに向かっていた。しかし、ミラのまま行くと騒ぎになりそうな予感がしたので、スキルを解除して美裸に戻った。

 ふと横を見たエリスが声を上げる。

「…えッ!?えェェッ!!ちょっとアンタ!!全然顔が違うじゃん!!」

 突然、ミラが美裸に戻って驚くエリス。

「…あ、こっちが本体なのよ(笑)。さっきのがスタ〇ドの方って考えてくれれば良いから(笑)!!」
「…いや、その例え、ホント良く解んないんだけど…」
「…エリス、ホントにジョ〇ョ知らないんだね…。人生の9割損してるよ(笑)」
「ミラ。アンタ…それスキル?完全に詐欺よ…」
「…そう?見た目が変わってもわたしの能力は変わらないからね(笑)?ちなみに本体はブサイクなわけじゃないのよ(笑)。ちょっと地味なだけね。本体もスタ〇ドも見た目は大して変わらないから(笑)」

 そう言って笑う美裸を改めて見たエリスは、心の中で叫んだ。

≪…お前ェェッ、鏡見えてんのかァッ!!違い過ぎるだろうがァァッ!!本気でそう思ってるのかよォォォ!!≫

 美裸のせいでエリスのキャラが確実に変わりつつあった…。



 ギルドの受付でエリスが美裸のハンター登録とPTの申請をする。その際に、受付のギルド職員が美裸の能力値測定をした。

 やたらとスキルを使っていたのでレベルは23まで上がっていた。レベルか上がって『エディットモード』の強制停止範囲がさらに拡がり、編集速度が強化されていた。

 しかしステータスの方はと言うと、『思念力』という項目を除く能力値が全て5~10の間のままだった…。

 ギルド職員が測定しようとすると『思念力』の計測で測定機が壊れてしまった。再度、別の測定機を用意する職員。しかし思念力測定の段になると、やはり測定機が壊れた。

「最新の測定器が壊れちゃったので旧式の測定器を持ってきますね」

 そう言うと受付のギルド職員が棚から旧式測定器を取り出す。そして三度、美裸の思念力を測定した。

 計測は出来たのだが、その数値を見たギルド職員は驚きで呆然と口を開いたまま言葉を失っていた。美裸は『思念力』の数値だけ異常に高かった。

「…ん?ミカさん、どうしたんですか?」

 測定値を見たまま、呆然としていた受付ギルド職員のミカはエリスにその数値を見せる。

 針が最高値まで上がり、更に振動して上に行こうとしていた。

「…ぅげッ!!コレってもしかして…?」
「…そうです。思念力だけ異常に跳び抜けてます…。今まで数多くのハンターを見てきましたがここまで思念力が高い人は見た事がありません…。測定機の上限が1000なので、現段階で思念力が1000以上は確実かと…」
「…はァッ!?何それッ!!」

 驚きで目を見開くエリスを前にミカが話を続ける。

「現Sランクハンターでも思念力は100にも届かないです…。高名な魔導師の方でも思念力は120~130止まりです。どんなに強いハンターでもステータスの全項目中150を超える人などこの世界にはいません。それを考えると…美裸さんでしたか?破格の能力者と言って良いでしょうね…」

 それを聞いたエリスは思った。それって美裸の『エロ』に対する思念がただ強いだけなんじゃ…。

 ミカの話を聞いたエリスは単純にそう思った。そんな事を考えているエリスがふと隣の受付を見ると、そこに美裸が立っていた。

「あのぉ、突然なんですけどぉ。何かエロい話とかエッチな話とかありますぅ(笑)?ちょっとした体験談でも良いんですけどぉ(笑)」

 それを見たエリスは、慌てて美裸を捕まえると元の受付に引き戻した。

「ちょっとォォッ!!ここでヘンな事聞かないでよォッ!!」
「えぇ~、別にいいじゃん(笑)!!」
「全然良くないッ!!そう言う事はわたしがいない時にしてよッ!!」

 ドン引きするミカの前で、エリスは激おこでプンスカと美裸に注意をする。それを見たミカは苦笑いしながら説明を続けた。
  
「えーっと美裸さんでしたか?この思念力だとサイキックか魔導師を目指された方が良いかと思います。取り敢えず今の所は総合的に判断して、Fランクとさせて頂きますね。職業欄はどうされます?」

 その問いに美裸が即答した。

「『エロの伝道師』で(笑)!!」
「ちょっとォッ!!そんなヘンな職業ある訳ないでしょうがァァッ!!」
「まぁまぁ、エリスさん落ち着いて下さい」

 激昂するエリスを宥めるミカに同調する美裸。

「そうそう。エリス落ち着くナリよ~(笑)」
「落ち着いていられるかぁァァッ!!」

 そんな美裸とエリスの後ろを、クエストを終えたハンター達が笑いながら通り過ぎた。

「エリス、アンタまた変なの連れて来て(笑)今度は大丈夫なの(笑)?」
「面白い相方見つけてきたじゃん(笑)。アンタらお似合いだよ(笑)?」

 ハンター達に笑われて沈黙するエリス。それを見た美裸は、真面目な顔でエリスに問う。

「エリスはレベルどれくらいなの?」
「…今15よ…」
「…エリス。わたしより低いじゃん…」

 そう言われたエリスは暗い顔のまま、呟くように話す。
 
「美裸はスキル使っただけでレベル上がるって言ってたけど、わたしはここから全然上がらないのよ…」

 本人は気付いていなかったが、美裸の速過ぎるレベル上昇には理由があった。原因は異常に高い『思念力』の数値だった。思念力はイメージ力の強さでもあり、事象の具現化、魔法の威力などにも関係する。この世界に来た時、美裸はエリスと同じくレベル1からのスタートだった。

 しかし、この異常に高過ぎる思念力が、美裸のレベルアップに大きく影響した。固有スキルを使うとレベルが上がるのだが、その度に強過ぎる思念力に合わせる様に総合レベルが飛び級で上がって行くのだ。

 総合レベルが上がると思念力は更に上昇し、スキルレベルも上がる。そして次のレベルアップでまた数段階跳んでレベルが上がり、思念力とスキルレベルも上がる。

 総合レベルが、強過ぎる思念力に追い付けず、延々と上昇を続けるという最強システムが出来ていた。これも地球での映研での活動と長年の妄想の賜物である。

「…で、エリスのランクは…?」

 しばらくの沈黙の後、ようやく口を開くエリス。

「…Eです…」
「…エリス。改めて聞くけどFランクのわたしとEランクのエリスだけでダンジョン入れるの(笑)?」

 沈黙するエリスに代わって職員のミカが答えた。

「Cランク以下はある程度の人数を集める事でダンジョンに挑戦出来ます。しかしランクの平均とダンジョン難易度、他にも依頼の難易度によっては受ける事が出来ません」
「…ねぇミカさん。どうにかわたし達二人で入れるダンジョンとか依頼とかないかな…?」
「…待ってて。少し調べてみるね…」

 そう言うと、依頼資料を調べ始めるミカ。そのまま受付で待とうとしていたエリスは、再び美裸がいなくなっている事に気が付いた。

「…あれッ?美裸ッ、どこ行った…!?」

 エリスが慌てて美裸を探す。するとさっきまでエリス達をバカにして笑っていたハンター達の所にいるのが見えた。

「…ねぇ。アナタ達、エロい話とかエッチな話しとかないですかぁ?あったら教えて欲しいんですけどぉ(笑)」

 それを見た瞬間、エリスが神の如き速さで美裸を捕まえた。

「美裸ァァッ!!アンタッ、そう言うの止めてよッ!!わたしが恥かくでしょうがァァッ!!」

 すぐさま美裸の首根っこを捕まえて、連れて行くエリス。それを見たハンター達が笑う。

「ありゃ、またダメだな(笑)!!}
「エリスはもっと人を見る目を養った方が良いんじゃねーか(笑)?」

 聞こえて来るその言葉に、俯いて歯噛みするエリス。美裸を連れて受付に戻ったエリスは改めて、二人だけでも受けられる依頼がないかミカに聞いた。

 エリスの必死な言葉に、暫く依頼を探していたミカの手が止まる。その依頼書をざっと読んだミカはそれを二人に見せた。

「…王都の北にある鉱山に新しく出現した洞窟型ダンジョンでの探し物依頼なんだけど…どう?」

 エリスは提示された依頼書に目を通す。洞窟の比較的浅い場所で、鉱山夫がゴブリン数体の襲撃を受けたようだ…。その際、落としてしまったらしい大事なネックレスの回収依頼だった。

 エリスは美裸を見る。

「…美裸、どう?良ければこの依頼受けたいんだけど…?」
「エリスが受けたいなら良いナリよ~(笑)」

 美裸の言葉を受けて、エリスはミカに依頼を受ける手続きをして貰った。



 エリス・オルディナは地球からの転生者である。美裸がこの世界に来る3カ月前、車に轢かれそうになったお婆さんを助けて死んだ。

 享年19歳。しかしお婆さんを助けた善行により転生を認められ、この世界に来たのである。転生に当たり、エリスはアバターを選択しろと言われてエルフを選んだ。

 そして転生エルフとして第2の人生を始めた。

 しかし、レベル1からのスタートである。エルフではあるが戦闘技術、魔法などは一切持っていなかった。そんなエリスがたった3ヵ月でレベル15まで上がった事には理由があった。

 『寄生』である。

 本人は全くそんなつもりはなかったし、『寄生』というワードすら知らなかった。しかしエルフという端麗な容姿、タガーも弓も魔法も使えそうな万能感を醸すエリスは、引く手数多であちこちのPTで臨時サポート、怪我で動けないメンバーの代役として呼ばれた。

 後衛として待機しているだけで順調にレベルが上がったが、肝心な時に動きが悪く段々とボロが出始めた。
そして呼ばれる事がなくなり、採集、探し物、調査依頼などで何とか食い繋いで今に至る。

 勘違いした周りも悪かったが、何も出来ない事を言わず、断る事をしなかったエリスも悪かった。そうして信用を失ったまま、エリスは何とか挽回しようと奮闘していたのである。

 色々な人に声を掛けハンターに誘い、依頼を熟すものの、自身のレベルアップに繋がる事は無かった…。

 そんな中、エリスは『恐怖のジョシコーセー』の噂を聞いて、調査依頼のついでにミラに接触する事に成功する。

 なんとかミラ…いや美裸を説得してハンターPTとして登録したエリスは美裸の未知なるスキルに最後の望みを賭けた。

 そしてついに自らの能力の開花を掛けた最後の闘いを始めた。



 美裸に絡まれていた先程のハンターPTが、ギルドから出て行くエリスと美裸をチラリと見る。

「…エリスのヤツ、性懲りもなく依頼受けてるし…」
「アイツはハンターに向いてないよ。早く辞めればいいのにねぇ(笑)」

 話しているこのPTは男三人、女二人のバランスを重視したCランクハンターPTである。前衛が片手剣と盾持ち戦士男、槍使い女に大剣の男、後衛にアサシン男と魔法使い女がいる。

「あの地味で変なヤツ連れて行ってどうするんだか(笑)」
「そもそもエリスは戦闘能力ゼロ、回復能力なしだよ(笑)?新しい相方の方もどう見ても近接戦闘系じゃないし、また依頼失敗するんじゃないの(笑)?」
「ちょっと邪魔しに行ってやるか?」
「…バカッ!!『邪魔』するとギルド規定違反になるでしょ(笑)?」
「お前ら、こういう時は『ひやかし』に行くって言うんだよ(笑)」
「それじゃ、ちょっとひやかしにでも行くか(笑)?」 
「だな!!少し様子見に行ってやろうぜ!!」

 そう言って立ち上がろうとしたPTの傍に慌てて駆け寄るミカ。

「アンタ達、いい加減悪ふざけ止めた方が良いよ?」
「大丈夫だって、ミカ。アイツら俺らより弱いんだから何も出来ねぇって(笑)!!」

 そんなPTメンバーに、ミカが一枚の測定用紙を見せる。
 
「エリスはともかく、あの美裸には手を出さ無い方が良い。アレはかなり危険な能力者だからね…」

 しかし、測定用紙を見たハンター達は声を上げて笑った。

「…アイツ、不気味なヤツだと思ってたけど思念力以外ゴミカスじゃねーかよ(笑)。こんなのに何を気を付けるんだよ(笑)?」
「エリスのヤツ、こんな弱いヤツ連れて行ってどうするんだか(笑)」

 笑いながら立ち上がったハンターPTは、ゾロゾロとギルドから出て行く。
一人そこ残されたミカが、ぽつりと呟いた。

「…解かってないな…。他の能力値がゴミカスでも、思念力が強過ぎるのが一番危険なんですよ…」

 ギルド受付職員ミカの忠告は、PTメンバーには届かなかった…。
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