ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

文字の大きさ
1 / 54
Op

.1 都市伝説

しおりを挟む

「ヒーロー・チェーンって知ってる?」


 彼女は携帯の画面を見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。
 突然の問いにうまく聞き取れず、間の抜けた返事をしてしまう。

「だから、ヒーロー・チェーンって知ってる?」

 聞き慣れない単語に、僕は首を横に振った。
 彼女はちらりとこちらを見たが、すぐに携帯に視線を戻す。

「女子高生で流行ってるんだって」

 なるほど。

 僕には縁のない話だ。
 女子高生の知り合いもいないし、妹もいない。
 親戚にいたとしても交流はないし、年下の彼女がいるわけでもない。
 僕はしがないサラリーマンで、今もこうして会社の休憩時間を過ごしている。

「知らないなぁ~」

 彼女は携帯の画面を睨みながら、ぼやいた。
 もちろん、彼女も女子高生ではない。
 僕より年上の先輩だ。
 なのに、知らなかったのが悔しいのか、携帯を睨みつけている。

 その様子が少し可笑しくて、僕は彼女を放っておくことにした。
 椅子を立ち、自販機で缶コーヒーを二つ。
 彼女は微糖、僕はブラック。
 休憩室には、僕たち二人しかいない。

 誰もが仕事に追われ、必死で働いているのだろう。
 僕も、ついさっきまで時間を忘れて仕事に没頭していた。

 納期はモンスターみたいなものだ。
 倒しても倒しても現れる。
 経験値と給料は手に入るが、世界は一向に平和にならない。
 そういえば、最近ゲームをしていないな。

 微糖の缶コーヒーを、彼女の視界に入るように差し出す。

「ありがと」
 
 軽く礼を言い、彼女は受け取った。
 僕はまたパイプ椅子に座る。
 古びた椅子が軋んだ。
 まだ携帯を見つめる彼女に、僕は適当に話を振る。
 本当は興味が無かったが、無視するわけにもいかない。

「都市伝説。ほら、口裂け女とか、ああいうの」

 口裂け女なんて、いつの時代の話だろう。
 僕が子供のころにはすでに昔話の一種だった気がする。
 子供の頃は得体の知れないものが怖かったが、今は何よりも他人のほうが怖い時代だ。
 口裂け女には対処法があったけれど、ただの他人には対処法なんてない。

「そういうの信じないタイプ?」

 素直に頷くと、彼女は明らかに不満そうな顔をした。
 素直さを褒めてほしいくらいなのに。

「つまんない」

 ぼやきながら携帯を閉じ、缶コーヒーを開ける。
 一口飲んで、盛大な溜め息。
 僕はそれを黙って見守った。
 こういうとき、彼女が話すまで待つのが正解だ。
 彼女はコーヒーを飲んでは溜め息をつき、飲んでは溜め息をつきを繰り返す。
 何度か僕を睨んできたが、僕は何も言わず、コーヒーをちびちびと飲んでいた。
 ブラックはやはり苦い。僕には合わない。

 飲み干したところで、彼女は息を吸い込んだ。
 溜め息を取り戻すように。
 日頃から、溜め息をつくと老ける、と言っているから吸い込んでチャラにしてるのかもしれない。

「休憩時間を有意義に過ごそうと話題を提供しているんだから、もっとノってきなさいよ」

 有意義に過ごすのに、オカルト話が主な都市伝説の話をするのはどうかと思ったが僕は頷いた。

 もう一度、さっきの話が何なのかを聞く。
 そういえば、僕はただ都市伝説を信じてないと頷いただけなのに何故怒られたんだろう?
 彼女は、携帯電話をもう一度開いた。

「ヒーロー・チェーンって女子高生で流行ってる都市伝説があるんだって。ほら、インターネットニュースにも取り上げられてる」

 彼女は、携帯電話の画面を僕に向ける。
 顔の目の前まで近づけられた画面には、大手の検索サイトのトップページが表示されている。

 女子高生で大流行、ヒーロー・チェーンとは?

 週刊誌の安易な見出しの様だ。

「私もとうとう流行に取り残されてしまった」

 彼女はそう言って、携帯電話を閉じる。
 眼前で閉じられたので、眉間が挟まれそうになった。

 彼女が女子高生だったのは、実に八年も前の話だ。
 時代に取り残されたかどうかはわからないが、女子高生の話題についていけなくても無理はないと思う。
 流行なんてついていけなくても困りはしないと僕は思ってる。
 ましてや、こんなテレビのニュースで聞くことも無いような都市伝説についていけないからといって、どうだと言うんだろうか?

 そう言ったところで彼女は聞きもしない。
 彼女にとって時間を感じるのはとても重大らしい。
 肝心の内容の説明が一向に始まらない。

 休憩時間が終わりそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...