ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

文字の大きさ
2 / 54
Op

.2 首筋の痣

しおりを挟む
  
 ヒーロー・チェーン。
 テレビの特撮ヒーローを、チェーンメールにしたようなもの。

 選ばれた人間が、心から愛している人をモンスターから守るために変身しなければならないというもの。
 そして、それが不規則に無秩序に他人に受け継がれていくという都市伝説。

 彼女は、そう簡単に説明した。
 別段、怖い話ではない。
 なんなら、子供心に憧れていたヒーローになるチャンスが突然訪れるだけの話だ。
 気になる部分は多々あるが、あまりに突飛すぎて質問する気も失せる。
 よくこんなのが女子高生に流行るもんだな。
 都市伝説としては結構平和な部類に入るんじゃないだろうか。

「平和じゃないよ、ちっとも。こういうのって中途半端だと流行らないんだよ、知ってた?」

 そうだろうな、と僕は頷いた。
 ということは、倒すべきモンスターが凶悪で、最愛の人を守りきることがほとんど不可能……そんな類の話なのだろうか?
 都市伝説に“モンスター”なんて単語が絡んでくるのがなんとも今のゲーム世代らしい。

 お化けも、妖怪も、怪人も。

 そんな言葉は古くさいからな。
 そのうち、モンスターって言葉も古くさいと思ってしまうんだろうか。

「ヒーローに変身したらその人は戦い終わったら死んじゃうんだって」

 だからチェーンメールみたいなもんなんだよ、と彼女は続けた。

 送られてきた時点で、不幸を運ぶもの。
 それがチェーンメール。
 順番が回ってきた時点で生死の天秤にかけられるヒーロー・チェーン。
 もちろんヒーローに変身しなければ、最愛の人はモンスターに殺されてしまう。
 モンスターは標的を殺した時点で消えていくらしいので、見殺しにして自分が助かるという選択肢が生まれる。

「最愛の人、ってやっぱり自分の命とだったら天秤にかけちゃうのかな」

 どう思う?、と彼女に問われ、僕は首を横に振った。

 女子高生に受ける都市伝説ってのは、思ってたよりも救いが無い。
 信じないタイプと聞かれ頷いて正解だった。
 僕はこんな話を信じたくはない。
 僕は彼女を見てるのも辛くなって、視線を時計にやった。

 休憩時間が過ぎている。

「ヤバい、戻らないと」

 彼女は慌てて立ち上がり、手に持った空き缶をゴミ箱に入れる。
 僕も残ったコーヒーを飲みほして、続いてゴミ箱に入れる。
 最後に休憩室のドアを開けて部屋を出ようとした彼女は、振り返りこう言った。


「あ、そうだ、ヒーローになる人にはね……」



 
 仕事が終わって家に帰る。

 高校を卒業してそのまま今の会社に入社して、二十歳になって一人暮らしを始めた。
 部屋は、僕が朝出ていったそのままで真っ暗だ。
 玄関の壁のスイッチを押し、照明をつける。
 家賃の安いアパートの狭い部屋だ、数歩歩くとリビング。
 首を締めつけるネクタイを外して上着を脱ぎ捨て、ほとんどベッド代わりのソファーに倒れ込むように座った。

 小さな部屋。
 ただ、それだけの空間。

 入社四年目。

 システムエンジニアという肩書きを持っていて、工場用の機械の設計をしている。
 日々を納期と苦情との戦いで消化していく。
 家賃と生活費を支払えば余裕がなくなる程度の安い給料で、早朝から深夜まで働かされる。
 体重は入社当時から大分と減って、入社当時に買った背広がぶかぶかで着られなくなってしまった。

 玄関の電灯と、カーテンを開けたままの窓から差す月明かりで意外と明るいものだと思い、僕は部屋の電灯をつけずにいた。
 薄暗い部屋はわりと好きだ、考え事がスムーズにできる。
 これが真っ暗だと暗闇に飲み込まれそうで不安で堪らなく考えを整理できないし、明るいと散漫としてこれもまとまらない。

 休憩室での彼女との会話を思い出す。

 ヒーロー・チェーン。

 ヒーローになって最愛の人を守るという都市伝説。
 ヒーローになった者は死に、しかしヒーローにならなかったら最愛の人は殺される救いが無い話。

 ソファーに崩れた身体を起こす。
 月明かりに照らされて、鏡の様にテレビに僕がくっきりと映っている。

 外に出ることが少なくなったせいで、色白になった肌。
 その顔にはっきりと見える目の下のクマ。
 伸ばしっぱなしの髪。
 生気の無いその僕はまるで、不審者のようだ。
 髪は大分伸びていて後ろでくくれそうだった。

 晩飯にと買ってきた弁当屋の袋を漁る。
 弁当から輪ゴムを取り髪を後ろで束ねる。

 首の右側に、黒く細長い痣が浮かんでいた。

 彼女は言っていた。

「あ、そうだ。ヒーローになる人にはね、痣ができるんだって。首に、火傷の痕みたいな」

 数日前に突然できた痣。
 痛みも記憶もない、突然できた痣。
 僕はそれを指でなぞった。

 仄かに、冷たかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

処理中です...