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Ep.2 恋人
.1 ダンスのお誘い
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《夢》に、私は殺された。
織田翔の最初の印象は、『チャラい』だった。
「なぁなぁ、えっと……木根さん、だっけ? ダンスって興味あったりする?」
私は、一瞬誰に話しかけているのか分からなかった。
織田翔は、いつも賑やかなグループにいる。
学校中の誰とでも話せるタイプで、軽やかで、人懐っこくて、明るい。
クラスの中心にいる男子の一人で、先生に対しても軽口を叩けるような存在だ。
それに対して、私──木根來未は、目立つわけでもなく、地味でもなく、『普通』の範疇にいる女子。
休み時間は同じような友人と過ごして、それなりに楽しく会話はするけれど、翔のようにクラスの誰とでも話せるタイプではない。
翔とは、特に関わる理由のない関係だった。
だから、名前を呼ばれたこと自体が驚きだった。
「……え?」
不意を突かれて、間抜けな声が出た。
「えっと、ダンスって興味あったりする?」
翔は気さくな笑みを浮かべている。
悪意のない、屈託のない表情。
それでも私は、咄嗟に首を横に振った。
ダンス。
それは、私にとっては テレビでアイドルが踊っているもの か、体育の授業でやらされるもの。
趣味でもなければ、関心を持ったこともない。
「そっかー」
翔は困ったように額に手をやる。
そんな仕草すら、どこか『サマになっている』と思ってしまう自分がいる。
「あの……どうしたの?」
なんとなく、そのまま無視するのも気まずくて、問いかけた。
「いやぁ、今度ダンスイベントやるんだけどさ、お客さん集めてて。来ない?」
……ダンスイベント?
一瞬、言葉の意味がつかめなかった。
「いやいやいや……」
私は思わず、数歩後ずさる。
どう考えても、怪しすぎる。
合コンの発展形か?
それとも、何かの勧誘か?
「ちょっ、違う違う! マジで健全なやつ!」
翔は両手をぶんぶん振りながら否定する。
「ヤリサーとかじゃないから!」
……ヤリサー?
槍について熱く語るサークル?
いや違う、そういう意味じゃない。
思考がズレているのは分かっていたけれど、翔の勢いに押されて頭の中がまとまらない。
「俺ら、本気でプロ目指してんのね? だから、ちょっとしたライブハウス借りて、イベントやってみようって話になってさ」
プロ、ねえ。
でも、翔のダンスへの熱量は、冗談で言っている感じじゃない。
そのあたりは 『チャラさ』よりも『本気さ』 が勝っている印象だった。
……まぁ、それでも『私が行く理由』はないんだけど。
「私は、そういうのよく分からないし……」
逃げるようにそう言ったのに、翔は食い下がる。
「いいっていいって! ドリンク付きで、無料だから!」
怪しさが増した。
けれど、翔のノリに押されてしまった私は、結局 『見るだけなら』 という条件でイベントに行くことになった。
小さなライブハウスは、女子率高めの観客で混雑していた。
思ったより本格的な雰囲気で、ステージもちゃんとした照明が当たっている。
――織田翔って、こんなに人気あるんだ。
ちょっと意外だった。
私が入場したことに気づいたのか、翔がステージ上から手を振ってきた。
……気まずい。
振り返そうと思った瞬間、周囲の女子たちが一斉に手を振り出した。
「私よ、私のために翔くんは手を振ってくれたのよ!」
と言わんばかりの熱気。
私はちょっと引き気味に、そっと視線を逸らした。
──織田翔は、やっぱり『そういう世界の人間』なんだ。
そう思った。
けれど、ステージが始まり、翔が踊り出した瞬間──
その認識は変わった。
キラキラしていた。
それが、最初の感想だった。
織田翔のダンスは、まるでスポットライトを浴びた主人公みたいだった。
手の動き、足のステップ、流れるようなリズム。
リズムに合わせて軽やかに動く体が、どこまでも自由で、どこまでも楽しそうで──
私は、気づけば目を奪われていた。
踊るキミを見て、恋が始まって──
気づけば、頭の中で曲が流れていた。
私は、不覚にも恋をしてしまった。
織田翔に、恋をしてしまったのだ。
織田翔の最初の印象は、『チャラい』だった。
「なぁなぁ、えっと……木根さん、だっけ? ダンスって興味あったりする?」
私は、一瞬誰に話しかけているのか分からなかった。
織田翔は、いつも賑やかなグループにいる。
学校中の誰とでも話せるタイプで、軽やかで、人懐っこくて、明るい。
クラスの中心にいる男子の一人で、先生に対しても軽口を叩けるような存在だ。
それに対して、私──木根來未は、目立つわけでもなく、地味でもなく、『普通』の範疇にいる女子。
休み時間は同じような友人と過ごして、それなりに楽しく会話はするけれど、翔のようにクラスの誰とでも話せるタイプではない。
翔とは、特に関わる理由のない関係だった。
だから、名前を呼ばれたこと自体が驚きだった。
「……え?」
不意を突かれて、間抜けな声が出た。
「えっと、ダンスって興味あったりする?」
翔は気さくな笑みを浮かべている。
悪意のない、屈託のない表情。
それでも私は、咄嗟に首を横に振った。
ダンス。
それは、私にとっては テレビでアイドルが踊っているもの か、体育の授業でやらされるもの。
趣味でもなければ、関心を持ったこともない。
「そっかー」
翔は困ったように額に手をやる。
そんな仕草すら、どこか『サマになっている』と思ってしまう自分がいる。
「あの……どうしたの?」
なんとなく、そのまま無視するのも気まずくて、問いかけた。
「いやぁ、今度ダンスイベントやるんだけどさ、お客さん集めてて。来ない?」
……ダンスイベント?
一瞬、言葉の意味がつかめなかった。
「いやいやいや……」
私は思わず、数歩後ずさる。
どう考えても、怪しすぎる。
合コンの発展形か?
それとも、何かの勧誘か?
「ちょっ、違う違う! マジで健全なやつ!」
翔は両手をぶんぶん振りながら否定する。
「ヤリサーとかじゃないから!」
……ヤリサー?
槍について熱く語るサークル?
いや違う、そういう意味じゃない。
思考がズレているのは分かっていたけれど、翔の勢いに押されて頭の中がまとまらない。
「俺ら、本気でプロ目指してんのね? だから、ちょっとしたライブハウス借りて、イベントやってみようって話になってさ」
プロ、ねえ。
でも、翔のダンスへの熱量は、冗談で言っている感じじゃない。
そのあたりは 『チャラさ』よりも『本気さ』 が勝っている印象だった。
……まぁ、それでも『私が行く理由』はないんだけど。
「私は、そういうのよく分からないし……」
逃げるようにそう言ったのに、翔は食い下がる。
「いいっていいって! ドリンク付きで、無料だから!」
怪しさが増した。
けれど、翔のノリに押されてしまった私は、結局 『見るだけなら』 という条件でイベントに行くことになった。
小さなライブハウスは、女子率高めの観客で混雑していた。
思ったより本格的な雰囲気で、ステージもちゃんとした照明が当たっている。
――織田翔って、こんなに人気あるんだ。
ちょっと意外だった。
私が入場したことに気づいたのか、翔がステージ上から手を振ってきた。
……気まずい。
振り返そうと思った瞬間、周囲の女子たちが一斉に手を振り出した。
「私よ、私のために翔くんは手を振ってくれたのよ!」
と言わんばかりの熱気。
私はちょっと引き気味に、そっと視線を逸らした。
──織田翔は、やっぱり『そういう世界の人間』なんだ。
そう思った。
けれど、ステージが始まり、翔が踊り出した瞬間──
その認識は変わった。
キラキラしていた。
それが、最初の感想だった。
織田翔のダンスは、まるでスポットライトを浴びた主人公みたいだった。
手の動き、足のステップ、流れるようなリズム。
リズムに合わせて軽やかに動く体が、どこまでも自由で、どこまでも楽しそうで──
私は、気づけば目を奪われていた。
踊るキミを見て、恋が始まって──
気づけば、頭の中で曲が流れていた。
私は、不覚にも恋をしてしまった。
織田翔に、恋をしてしまったのだ。
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