12 / 54
Ep.2 恋人
.3 大学受験
しおりを挟む
何か目標があるわけでもない私は、進学をギリギリまで悩んでいた。
けれど、親の勧めもあって「一応大学ぐらいは出ておこう」と思い、受験戦争に参戦した。
こんな軽い気持ちで大学受験ができる環境にいることに、私はとても感謝している。
やりたいことがないなら、やりたいことが見つかるまで先延ばしにすればいい。
でも、ニートや引きこもりになるのはさすがに世間体が悪いし、何より、織田翔に愛想を尽かされるのは嫌だった。
――そういう理由で選んだ進学。
他の受験生に対して、後ろめたさを感じる。
この考えを、数少ない友人に話してみたことがある。
すると、彼女は笑いながら、あっけらかんとこう言った。
「大丈夫だよ、周りの受験生だって似たような考え方してる人いるって~」
同類がいれば、それで許される?
赤信号、みんなで渡れば怖くない、ってやつ?
いや、怖いものは怖いし、私はそんな群れの中で歩きたいわけじゃない。
そんな彼女は、しっかりとした人生設計をした上で受験を決めていた。
私が受けたこの大学も滑り止め程度らしく、合格発表の日には姿を見せなかった。
――代わりに隣に立っていたのは、やっぱり、織田翔だった。
「おお! あったあった! 木根の番号、あったぜ! すげぇ!!」
私より先に、自分の番号より先に、織田翔は私の番号を見つけてくれた。
周りの誰よりも喜んでくれるその姿に、何故だか自分で見つけるよりも嬉しくなった。
だから、今度は私が探す番だと思った。
必死になって、織田翔の番号を探す。
「あ、あったよ! 織田君の番号!!」
あった!
呟いていた番号が目に飛び込む。
確認するために、三度、数字を指でなぞる。
あった――!
「お、おお! マジか!? やべぇ、ちょっと泣きそう」
織田翔は、ダンスの憧れの先輩がいるからと、この大学を受験した。
学力にはあまり自信がなく、進路指導の先生からも難色を示されていた。
一芸合格が狙える別の大学を勧められたのに、それをキッパリと断って、
この大学一本に絞り、勉強に励んでいた。
私は、その努力をずっと見ていた。
「泣いても、いいんじゃない?」
「ん? んー、でもまだ泣くには早いよな」
言いながら、彼は満面の笑みを浮かべる。
まるで新しいダンスに挑戦する時みたいに、心底楽しそうな顔をしていた。
「……スタート?」
「そ。今までのは、スタート地点に立つための準備だったんだよ」
そう言って、織田翔は上を指さした。
つられて私も、空を見上げる。
綺麗な、青空。
「おお、気持ちの良い空だな。合格日和だ!」
吸い込まれそうなほど、青く澄んでいる。
「ねぇ、織田君?」
「何だ?」
「空って……遠いね」
吸い込まれそうなのに、切なくなるほど遠い。
どれだけ手を伸ばしても、届きはしない。
「ん? ……ああ、遠いな。まだまだ遠い」
私の言葉の意図に気づいてくれたのか、織田翔はいつになく物憂げな顔をした。
「なぁ、木根」
「……何?」
「このあと、ちょっと話があるんだ」
「……わかった」
青空に雲が流れていく。
時は流れて、少しずつ変化を迎える。
けれど、親の勧めもあって「一応大学ぐらいは出ておこう」と思い、受験戦争に参戦した。
こんな軽い気持ちで大学受験ができる環境にいることに、私はとても感謝している。
やりたいことがないなら、やりたいことが見つかるまで先延ばしにすればいい。
でも、ニートや引きこもりになるのはさすがに世間体が悪いし、何より、織田翔に愛想を尽かされるのは嫌だった。
――そういう理由で選んだ進学。
他の受験生に対して、後ろめたさを感じる。
この考えを、数少ない友人に話してみたことがある。
すると、彼女は笑いながら、あっけらかんとこう言った。
「大丈夫だよ、周りの受験生だって似たような考え方してる人いるって~」
同類がいれば、それで許される?
赤信号、みんなで渡れば怖くない、ってやつ?
いや、怖いものは怖いし、私はそんな群れの中で歩きたいわけじゃない。
そんな彼女は、しっかりとした人生設計をした上で受験を決めていた。
私が受けたこの大学も滑り止め程度らしく、合格発表の日には姿を見せなかった。
――代わりに隣に立っていたのは、やっぱり、織田翔だった。
「おお! あったあった! 木根の番号、あったぜ! すげぇ!!」
私より先に、自分の番号より先に、織田翔は私の番号を見つけてくれた。
周りの誰よりも喜んでくれるその姿に、何故だか自分で見つけるよりも嬉しくなった。
だから、今度は私が探す番だと思った。
必死になって、織田翔の番号を探す。
「あ、あったよ! 織田君の番号!!」
あった!
呟いていた番号が目に飛び込む。
確認するために、三度、数字を指でなぞる。
あった――!
「お、おお! マジか!? やべぇ、ちょっと泣きそう」
織田翔は、ダンスの憧れの先輩がいるからと、この大学を受験した。
学力にはあまり自信がなく、進路指導の先生からも難色を示されていた。
一芸合格が狙える別の大学を勧められたのに、それをキッパリと断って、
この大学一本に絞り、勉強に励んでいた。
私は、その努力をずっと見ていた。
「泣いても、いいんじゃない?」
「ん? んー、でもまだ泣くには早いよな」
言いながら、彼は満面の笑みを浮かべる。
まるで新しいダンスに挑戦する時みたいに、心底楽しそうな顔をしていた。
「……スタート?」
「そ。今までのは、スタート地点に立つための準備だったんだよ」
そう言って、織田翔は上を指さした。
つられて私も、空を見上げる。
綺麗な、青空。
「おお、気持ちの良い空だな。合格日和だ!」
吸い込まれそうなほど、青く澄んでいる。
「ねぇ、織田君?」
「何だ?」
「空って……遠いね」
吸い込まれそうなのに、切なくなるほど遠い。
どれだけ手を伸ばしても、届きはしない。
「ん? ……ああ、遠いな。まだまだ遠い」
私の言葉の意図に気づいてくれたのか、織田翔はいつになく物憂げな顔をした。
「なぁ、木根」
「……何?」
「このあと、ちょっと話があるんだ」
「……わかった」
青空に雲が流れていく。
時は流れて、少しずつ変化を迎える。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました
ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公
某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生
さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明
これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語
(基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる