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Ep.2 恋人
.6 ぽかりと空いた穴
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「ヒーロー・チェーンって知ってる?」
朝のワイドショーがそう伝えた。
画面には数日前の一家惨殺事件のニュースが映し出されている。
唯一の生き残りである父親が事件の容疑者らしいのだけど、本人は容疑を否定しているらしい。
そんなの嘘に決まっているじゃないか、と私は思うのだけど、ネットでの噂は容疑の否定を後押ししている。
殺された家族の死因は、人の手によるものではありえないものらしい。
どこから出た情報で、どの程度専門的な判別なのかは知らないけれど、ネット上ではすっかり広まっている。
そしてそれが、ワイドショーのひとネタとして扱われている。
ヒーロー・チェーン──。
女子高生の間で流行ってる都市伝説。
私も女子高生から歳を重ねて暫くになるので、ピンとも来ない話だ。
ただ、今時の一家惨殺事件を都市伝説と関連付けるなんて、不謹慎だとか不躾だとかクレームが来るんじゃないかと、変な勘繰りしか思い付かなかった。
一家惨殺事件なんて物騒な事件を見ながら、こんな報道の仕方をするくらいには、世の中平和なんだろう。
そう思いながら、私はテレビを消した。
テレビを消して、私は仕事に行く準備を進めた。
織田翔と別れて、私は実家に戻った。
家族はその事について細かくは聞いてこなかった。
織田翔と別れたことは、やっぱり私の中では大きなことではあった。
心にぽかりと穴が空く、という表現を実感する良い機会になった。
そして、その穴はやがて違う何かで埋まるということを知る機会になった。
私にとってそれは、仕事、だった。
何も考えたくなかったので、仕事に没頭した。
少しの隙間も無いようにスケジュールを仕事関連で埋めた。
休憩など、気を抜く時間であるその時にも、仕事のことを考えていた。
最初は嫌で仕方なかった。
でもいつの間にか慣れ、気づけば手放せなくなっていた。
穴を埋めて、柱となった。
私は仕事に生きる。
仕事とともに。
無理をしてるつもりはなかった。
でも、楽しんでいるわけでもなかった。
だって、仕事だもの。
そう理由付ける私に声をかけたのは、優しいと評判の先輩だった。
佐波《さわ》滴《しずく》。
女性の様なその名前のように柔らかな物腰の彼は、女性陣から好評だった。
「木根さん、最近無理してない? 何か手伝えることがあったら言ってね?」
端正な顔立ちに、軽めのパーマがかかったミディアムヘア。
細い目の目尻が少し垂れていて、自然と微笑んでいるように見える。
柔らかな物腰を引き立たせるように、細身の身体に合わせたような細めのネクタイをしていて、ワイシャツの上にグレーのカーディガンを羽織っている。
気さくな物言いがこなれた感じだった。
それは、そうだ。
会社勤めが長いのだから。
でもそういうのじゃなくて、女性への接し方にこなれた感じを受けた。
だから、私は――
「大丈夫です。心遣いありがとうございます」
少し他人行儀過ぎるかと思ったけど、私は一礼して佐波滴の申し出を断った。
「そう? いや、大丈夫ならいいんだ。また、何かある時は声をかけてよ」
佐波滴は爽やかな微笑みを崩さずに、自分の職務に戻っていった。
私は今、甘えている場合じゃないから。
もっと詰めなきゃ。
もっと、追い込まなきゃ。
その空白に飲み込まれそうだった。
朝のワイドショーがそう伝えた。
画面には数日前の一家惨殺事件のニュースが映し出されている。
唯一の生き残りである父親が事件の容疑者らしいのだけど、本人は容疑を否定しているらしい。
そんなの嘘に決まっているじゃないか、と私は思うのだけど、ネットでの噂は容疑の否定を後押ししている。
殺された家族の死因は、人の手によるものではありえないものらしい。
どこから出た情報で、どの程度専門的な判別なのかは知らないけれど、ネット上ではすっかり広まっている。
そしてそれが、ワイドショーのひとネタとして扱われている。
ヒーロー・チェーン──。
女子高生の間で流行ってる都市伝説。
私も女子高生から歳を重ねて暫くになるので、ピンとも来ない話だ。
ただ、今時の一家惨殺事件を都市伝説と関連付けるなんて、不謹慎だとか不躾だとかクレームが来るんじゃないかと、変な勘繰りしか思い付かなかった。
一家惨殺事件なんて物騒な事件を見ながら、こんな報道の仕方をするくらいには、世の中平和なんだろう。
そう思いながら、私はテレビを消した。
テレビを消して、私は仕事に行く準備を進めた。
織田翔と別れて、私は実家に戻った。
家族はその事について細かくは聞いてこなかった。
織田翔と別れたことは、やっぱり私の中では大きなことではあった。
心にぽかりと穴が空く、という表現を実感する良い機会になった。
そして、その穴はやがて違う何かで埋まるということを知る機会になった。
私にとってそれは、仕事、だった。
何も考えたくなかったので、仕事に没頭した。
少しの隙間も無いようにスケジュールを仕事関連で埋めた。
休憩など、気を抜く時間であるその時にも、仕事のことを考えていた。
最初は嫌で仕方なかった。
でもいつの間にか慣れ、気づけば手放せなくなっていた。
穴を埋めて、柱となった。
私は仕事に生きる。
仕事とともに。
無理をしてるつもりはなかった。
でも、楽しんでいるわけでもなかった。
だって、仕事だもの。
そう理由付ける私に声をかけたのは、優しいと評判の先輩だった。
佐波《さわ》滴《しずく》。
女性の様なその名前のように柔らかな物腰の彼は、女性陣から好評だった。
「木根さん、最近無理してない? 何か手伝えることがあったら言ってね?」
端正な顔立ちに、軽めのパーマがかかったミディアムヘア。
細い目の目尻が少し垂れていて、自然と微笑んでいるように見える。
柔らかな物腰を引き立たせるように、細身の身体に合わせたような細めのネクタイをしていて、ワイシャツの上にグレーのカーディガンを羽織っている。
気さくな物言いがこなれた感じだった。
それは、そうだ。
会社勤めが長いのだから。
でもそういうのじゃなくて、女性への接し方にこなれた感じを受けた。
だから、私は――
「大丈夫です。心遣いありがとうございます」
少し他人行儀過ぎるかと思ったけど、私は一礼して佐波滴の申し出を断った。
「そう? いや、大丈夫ならいいんだ。また、何かある時は声をかけてよ」
佐波滴は爽やかな微笑みを崩さずに、自分の職務に戻っていった。
私は今、甘えている場合じゃないから。
もっと詰めなきゃ。
もっと、追い込まなきゃ。
その空白に飲み込まれそうだった。
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