ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

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Ep.4 兄弟

.6 疲労

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 入社五年目。
 海外事業部に配属されて五年目となった僕は、グループリーダーという立場が安定してきた。
 途中から任されるという形ではなく、最初からグループの長として任命されて新人の育成なども任されるようになっていた。
 以前のグループリーダーであった平先輩は海外事業部の部長補佐として、海外事業部の部長の仕事をサポートしている。
 部長補佐という役職は正直よくわからないが、他社で言う課長職に相当するらしい。
 グループリーダーという立場の僕は言うならば係長らしい。
 ややこしいなと、実際になってから思う。

 新人研修同期組はそれぞれそのややこしい役職につき出して、それぞれの部署のそれぞれの忙しさに追われていて、滅多に飲み会を開かなくなった。
 僕や寺尾さんなんかはそもそも月の多くを出張に当てられ会社にいることが少なくなってきていたので、たまに開かれる飲み会にすら参加出来ていなかった。
 オンラインミーティングやネットワークのやり取りが主になっているため、会社に居なくてもグループリーダーとして業務は滞ることなく行えていた。

 平部長補佐のフォローもあって、海外事業部の部長は仕事がしやすいと評判だった。
 その分、平先輩の負担が大きいように思えたが、本人に聞くと案外大丈夫らしい。
 むしろ、部長の手伝いが出来るのは光栄なことなんだそうだ。

 そんな多忙な日々を送る中、ある日突然に戸塚部長が倒れた。
 幸い命に関わるような病気ではなく、ただの過労が原因だそうだ。
 業績が悪いわけでもない父親の会社が、ブラックな労働時間を強いるわけはない。
 そういうのは常務になった兄が強く取り締まっていた。
 決められた時間内に成果を上げるよう努め、時間外労働は極力減らしていく方針だったのだが、そもそも『決められた時間』という概念が、出張の多い海外事業部には適用しづらかった。
 戸塚部長は海外事業部の業績が少しでも良くなるようにと、各グループが抱えるプロジェクトにも積極的に関わっていた。
 本来部長という立場ならば管理を優先する為にそれほど深く関わらなくてもいいのにである。
 その意気込みが、疲労として戸塚部長にのしかかった。
 
 戸塚部長が不在の間は、平先輩が代理として務めることになった。
 平先輩が優秀なのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
 平先輩がいなかったら、今ごろどうなっていたことだろうか。
 平先輩のおかげで、なんとか持ち堪えることが出来た。

 しかし、それも長くは続かなかった。
 今度は平先輩も倒れてしまったのだ。
 平先輩は、海外事業部の部長の仕事に加えて自分の仕事もこなしていた。
 それは、とても大変なことだったと思う。
 平先輩も、僕と同じで努力なんて苦手なタイプだと思うんだけどなぁ……。
 
 他の先輩方や、寺尾さんとも協力しながら戸塚部長と平先輩が不在の穴を補っていく。
 こういうリカバリーがしやすいようにグループリーダー制なんてものがあるのかもしれない。

 僕も仕事はできる方だと自負していたが、やはり二人と比べるとまだまだだと痛感させられた。
 なんとか二人分の業務の穴を補っていけてると思っていたのだが、限界は近かった。
 このままでは各プロジェクトに支障が出ると思いながらも、手は追いつかずにいた。

 そんなある日、事件が起きた。
 僕達海外事業部は、一つの大きな案件を任されることになった。
 今までにないくらいの大きな規模の仕事で、正直不安がないと言えば嘘になる。
 だが、それを表に出すようなことはしない。
 この仕事をやり遂げれば、間違いなく僕の評価が上がるだろう。
 それはつまり、昇進を意味する。
 ここで頑張らない理由などどこにもない。
 僕は気合いを入れて、目の前にある資料を読み込んでいった。

 そうして、迎えた当日。
 緊張した面持ちの先輩方を横目に、僕は一人落ち着いていた。
 これなら問題なく成功させられるだろうと、確信していたからだ。
 そうこうしているうちに、会議が始まった。
 僕達のグループはプレゼンを担当することになっている。
 さあ、いよいよだ。

 僕達は用意してきた資料を元に説明を始めた。
 途中、何人かから質問を受けたが、事前に準備をしていたこともあり、スムーズに答えられた。
 その後も順調に進み、ついに最後の質疑応答の時間となった。
 そこで、一人の男が立ち上がって言った。
 僕達が任されたプロジェクトの責任者を務める人物だった。
 彼は立ち上がり、僕達に鋭い視線を向けた。
 その迫力は凄まじく、僕は思わず怯んでしまった。
 しかし、僕は負けじとその目を見つめ返した。
 そして、その男は口を開いた。
 その口から発せられた言葉は、意外なものだった。

 彼が口にしたのは、このプロジェクトへの参加を辞退したいという旨の言葉だった。
 それを聞いた瞬間、僕は耳を疑った。
 なんでだ……?
 ここまで完璧だったはずなのに……!」

 他の先輩方は唖然とするばかりで何も言えずにいるようだ。
 そりゃそうだ、僕でさえ驚いているんだから。
 僕達は必死になって説得を試みた。
 すると、責任者の男はゆっくりと語り始めた。
 その内容は、僕にとって信じられないものばかりだった。
 曰く、この仕事は自分の手に余るものだと言う。
 確かに、この規模のプロジェクトだと彼一人では荷が重いかもしれない。
 だけど、だからといって、僕達がサポートすればなんとかなるはずだ。
 そんな理由で仕事ひとつ無きものにしようなんて馬鹿げている。
 そう思って、何度も食い下がったが、彼の意思が変わることはなかった。
 結局、その男が辞退してしまったことで、後任の誰かが選ばれることも無く僕達のプロジェクトはお蔵入りにさせられた。

 それから、しばらくして平先輩と戸塚部長が復帰した。
 平先輩は相変わらず優秀だったが、戸塚部長は少し様子がおかしかった。
 どう見ても無理をしているようだった。
 平先輩はそれを心配しているが、戸塚部長は何も語ろうとしなかった。
 一体、何があったのだろうか。
 違和感を覚えたが、結局何も聞けないまま、仕事に追われる日々が続いた。
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