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Ep.4 兄弟
.7 出世
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入社六年目。
それは同時に、僕が三十歳になる年でもあった。
同期の多くは結婚していて、子供もいるらしい。
結婚式の招待状が届く度にそんな話を耳にした。
だが、残念ながら僕には縁の無い話であった。
そもそも年中各地を飛び回る生活をしているので出会いがないし、作るつもりもなかった。
僕はまだ遊びたい盛りだったし、今は仕事が楽しい時期だ。
それに、いずれは結婚したいと漠然と思っていたが、それがいつなのかまでは考えていなかった。
なんとなく、その日が来たら相手を見つけて、その人と結婚するのかなと考えていただけだ。
そんなある日のことだった。
戸塚部長に呼び出された僕は、部長室へと足を運んだ。
中に入ると、そこには戸塚部長の姿しかなかった。
どうやら平先輩はいないようだ。
珍しいこともあるものだと、不思議に思った。
僕は姿勢を正すと、頭を下げた。
部長は真剣な表情を浮かべて、そして、静かに切り出した。
突然のことに、僕は戸惑ってしまった。
だが、すぐに冷静さを取り戻し、部長の話を聞くことにした。
衝撃的だった。
僕が海外事業部の部長に就任するという話だ。
正直なところ、まだ実感が湧かなかった。
あの失敗以降、海外事業部は社内で最も業績が悪い部署になっていた。
戸塚部長が倒れてからというもの、海外事業部の業績は悪化の一途を辿っていた。
僕達もなんとか立て直そうと努力したが、それも虚しく失敗に終わってしまった。
その責任を取らされて降格や左遷されるのではないかと、密かに恐れていたが、まさか自分が海外事業部のトップになるとは夢にも思っていなかった。
とはいえ、これもまた人事異動の一環に過ぎない。
おそらく僕の評価を踏まえた人事なのだろう。
だが、それでも構わないと思った。
管理職についてあの失敗の責任を取れと言うのであれば、それに従うのみだ。
入社六年目にして部長就任なんて大出世だ。
兄の背中を追うのなら、このチャンスをものにしなければならない。
それから、引き継ぎのためにしばらくの間、平先輩と一緒に仕事をすることとなった。
引き継ぎといっても、それほど大掛かりなものでもない。
資料をまとめたり、業務連絡をするくらいだ。
だが、そんな中でも僕は一つだけ気になっていることがあった。
それは、平先輩の様子についてだ。
以前と比べて覇気がなく、どこか元気がないように見えた。
僕は何かあったのかと思い平先輩に直接問いかけた。
「何があったのか、だって? 藤崎君、君は今回の人事について何も思わないのか?」
平先輩が普段見せない鋭い目つきで睨んできた。
「昨年から続く海外事業部の業績の悪さの責任を取らすための人事だと思っていますよ。あのプロジェクトのリーダーは僕でしたし、出世とは名ばかりの最後の試しなんでしょう」
戸塚部長と平先輩は別部署に異動となったが、どちらも部長職に就くことになった。
平先輩にとっても出世と言える。
僕の場合は出世を最後の餌に、試されているのはわかっていた。
早期に結果を出せなければ、息子だろうと弟だろうと切り捨てるつもりなのだろう。
「あのプロジェクトは、先方の気まぐれで失敗に終わった話なんだぞ。君だって憤慨していたじゃないか。そんなものの責任を負えだなんて、ふざけてるとしか思えない」
「確かに向こうさんの気まぐれでしたが、でもそれを覆せなかったのもまた僕たちの力不足でした。信頼を得られなかったのは事実です。僕たちにも責任はあると思いますよ」
弱音を喚いて許してくれるような父親ではないし、ましてや弱音を喚くような兄ではなかった。
この会社にいる以上、あの二人の裁定に従うしかない。
お眼鏡にかなうように尽力するしかない。
「別の部署に異動になって、僕は君を助けられなくなる。戸塚部長も同じ様に思っているだろう。疲労なんかで倒れた僕らの分も君が補わされることになるんだぞ」
「平先輩と戸塚部長にはこれまで散々お世話になってきたんです。そんな風に言わないでください。それに僕一人で全てをやるわけじゃない。先輩や部長が育ってたグループメンバーもいるから大丈夫ですよ」
勝算なんて何も無かったが、手駒があることは確かだった。
入社六年目。
僕は逆境の中、海外事業部部長にと出世した。
それは同時に、僕が三十歳になる年でもあった。
同期の多くは結婚していて、子供もいるらしい。
結婚式の招待状が届く度にそんな話を耳にした。
だが、残念ながら僕には縁の無い話であった。
そもそも年中各地を飛び回る生活をしているので出会いがないし、作るつもりもなかった。
僕はまだ遊びたい盛りだったし、今は仕事が楽しい時期だ。
それに、いずれは結婚したいと漠然と思っていたが、それがいつなのかまでは考えていなかった。
なんとなく、その日が来たら相手を見つけて、その人と結婚するのかなと考えていただけだ。
そんなある日のことだった。
戸塚部長に呼び出された僕は、部長室へと足を運んだ。
中に入ると、そこには戸塚部長の姿しかなかった。
どうやら平先輩はいないようだ。
珍しいこともあるものだと、不思議に思った。
僕は姿勢を正すと、頭を下げた。
部長は真剣な表情を浮かべて、そして、静かに切り出した。
突然のことに、僕は戸惑ってしまった。
だが、すぐに冷静さを取り戻し、部長の話を聞くことにした。
衝撃的だった。
僕が海外事業部の部長に就任するという話だ。
正直なところ、まだ実感が湧かなかった。
あの失敗以降、海外事業部は社内で最も業績が悪い部署になっていた。
戸塚部長が倒れてからというもの、海外事業部の業績は悪化の一途を辿っていた。
僕達もなんとか立て直そうと努力したが、それも虚しく失敗に終わってしまった。
その責任を取らされて降格や左遷されるのではないかと、密かに恐れていたが、まさか自分が海外事業部のトップになるとは夢にも思っていなかった。
とはいえ、これもまた人事異動の一環に過ぎない。
おそらく僕の評価を踏まえた人事なのだろう。
だが、それでも構わないと思った。
管理職についてあの失敗の責任を取れと言うのであれば、それに従うのみだ。
入社六年目にして部長就任なんて大出世だ。
兄の背中を追うのなら、このチャンスをものにしなければならない。
それから、引き継ぎのためにしばらくの間、平先輩と一緒に仕事をすることとなった。
引き継ぎといっても、それほど大掛かりなものでもない。
資料をまとめたり、業務連絡をするくらいだ。
だが、そんな中でも僕は一つだけ気になっていることがあった。
それは、平先輩の様子についてだ。
以前と比べて覇気がなく、どこか元気がないように見えた。
僕は何かあったのかと思い平先輩に直接問いかけた。
「何があったのか、だって? 藤崎君、君は今回の人事について何も思わないのか?」
平先輩が普段見せない鋭い目つきで睨んできた。
「昨年から続く海外事業部の業績の悪さの責任を取らすための人事だと思っていますよ。あのプロジェクトのリーダーは僕でしたし、出世とは名ばかりの最後の試しなんでしょう」
戸塚部長と平先輩は別部署に異動となったが、どちらも部長職に就くことになった。
平先輩にとっても出世と言える。
僕の場合は出世を最後の餌に、試されているのはわかっていた。
早期に結果を出せなければ、息子だろうと弟だろうと切り捨てるつもりなのだろう。
「あのプロジェクトは、先方の気まぐれで失敗に終わった話なんだぞ。君だって憤慨していたじゃないか。そんなものの責任を負えだなんて、ふざけてるとしか思えない」
「確かに向こうさんの気まぐれでしたが、でもそれを覆せなかったのもまた僕たちの力不足でした。信頼を得られなかったのは事実です。僕たちにも責任はあると思いますよ」
弱音を喚いて許してくれるような父親ではないし、ましてや弱音を喚くような兄ではなかった。
この会社にいる以上、あの二人の裁定に従うしかない。
お眼鏡にかなうように尽力するしかない。
「別の部署に異動になって、僕は君を助けられなくなる。戸塚部長も同じ様に思っているだろう。疲労なんかで倒れた僕らの分も君が補わされることになるんだぞ」
「平先輩と戸塚部長にはこれまで散々お世話になってきたんです。そんな風に言わないでください。それに僕一人で全てをやるわけじゃない。先輩や部長が育ってたグループメンバーもいるから大丈夫ですよ」
勝算なんて何も無かったが、手駒があることは確かだった。
入社六年目。
僕は逆境の中、海外事業部部長にと出世した。
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