ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

文字の大きさ
29 / 54
Ep.4 兄弟

.7 出世

しおりを挟む
 入社六年目。
 それは同時に、僕が三十歳になる年でもあった。
 同期の多くは結婚していて、子供もいるらしい。
 結婚式の招待状が届く度にそんな話を耳にした。
 だが、残念ながら僕には縁の無い話であった。  
 そもそも年中各地を飛び回る生活をしているので出会いがないし、作るつもりもなかった。
 僕はまだ遊びたい盛りだったし、今は仕事が楽しい時期だ。
 それに、いずれは結婚したいと漠然と思っていたが、それがいつなのかまでは考えていなかった。
 なんとなく、その日が来たら相手を見つけて、その人と結婚するのかなと考えていただけだ。

 そんなある日のことだった。
 戸塚部長に呼び出された僕は、部長室へと足を運んだ。
 中に入ると、そこには戸塚部長の姿しかなかった。
 どうやら平先輩はいないようだ。
 珍しいこともあるものだと、不思議に思った。

 僕は姿勢を正すと、頭を下げた。
 部長は真剣な表情を浮かべて、そして、静かに切り出した。
 
 突然のことに、僕は戸惑ってしまった。
 だが、すぐに冷静さを取り戻し、部長の話を聞くことにした。
 衝撃的だった。
 僕が海外事業部の部長に就任するという話だ。
 正直なところ、まだ実感が湧かなかった。
 あの失敗以降、海外事業部は社内で最も業績が悪い部署になっていた。
 戸塚部長が倒れてからというもの、海外事業部の業績は悪化の一途を辿っていた。
 僕達もなんとか立て直そうと努力したが、それも虚しく失敗に終わってしまった。
 その責任を取らされて降格や左遷されるのではないかと、密かに恐れていたが、まさか自分が海外事業部のトップになるとは夢にも思っていなかった。
 とはいえ、これもまた人事異動の一環に過ぎない。
 おそらく僕の評価を踏まえた人事なのだろう。
 だが、それでも構わないと思った。
 管理職についてあの失敗の責任を取れと言うのであれば、それに従うのみだ。
 入社六年目にして部長就任なんて大出世だ。
 兄の背中を追うのなら、このチャンスをものにしなければならない。

 それから、引き継ぎのためにしばらくの間、平先輩と一緒に仕事をすることとなった。
 引き継ぎといっても、それほど大掛かりなものでもない。
 資料をまとめたり、業務連絡をするくらいだ。
 だが、そんな中でも僕は一つだけ気になっていることがあった。
 それは、平先輩の様子についてだ。
 以前と比べて覇気がなく、どこか元気がないように見えた。
 僕は何かあったのかと思い平先輩に直接問いかけた。

「何があったのか、だって? 藤崎君、君は今回の人事について何も思わないのか?」

 平先輩が普段見せない鋭い目つきで睨んできた。

「昨年から続く海外事業部の業績の悪さの責任を取らすための人事だと思っていますよ。あのプロジェクトのリーダーは僕でしたし、出世とは名ばかりの最後の試しなんでしょう」

 戸塚部長と平先輩は別部署に異動となったが、どちらも部長職に就くことになった。
 平先輩にとっても出世と言える。
 僕の場合は出世を最後の餌に、試されているのはわかっていた。
 早期に結果を出せなければ、息子だろうと弟だろうと切り捨てるつもりなのだろう。

「あのプロジェクトは、先方の気まぐれで失敗に終わった話なんだぞ。君だって憤慨していたじゃないか。そんなものの責任を負えだなんて、ふざけてるとしか思えない」

「確かに向こうさんの気まぐれでしたが、でもそれを覆せなかったのもまた僕たちの力不足でした。信頼を得られなかったのは事実です。僕たちにも責任はあると思いますよ」


 弱音を喚いて許してくれるような父親ではないし、ましてや弱音を喚くような兄ではなかった。
 この会社にいる以上、あの二人の裁定に従うしかない。
 お眼鏡にかなうように尽力するしかない。

「別の部署に異動になって、僕は君を助けられなくなる。戸塚部長も同じ様に思っているだろう。疲労なんかで倒れた僕らの分も君が補わされることになるんだぞ」

「平先輩と戸塚部長にはこれまで散々お世話になってきたんです。そんな風に言わないでください。それに僕一人で全てをやるわけじゃない。先輩や部長が育ってたグループメンバーもいるから大丈夫ですよ」

 勝算なんて何も無かったが、手駒があることは確かだった。
 
 入社六年目。
 僕は逆境の中、海外事業部部長にと出世した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

処理中です...