ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

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Ep.5 母子

.3 首筋の怪我

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「ここちゃーん、おかえりー」

 剛志の元気一杯の笑顔を見ると、大変なことを忘れてしまう。
 大丈夫、この笑顔があるなら私はやっていける。

「つよくん、おかえりー」

 行ってきますの挨拶と同じように、おかえりの挨拶も繰り返す。
 そして、剛志を抱きしめた時に私は違和感を抱いた。

 剛志の首筋に、痣のような怪我がある。
 縦に細長い、黒い痣。

「つよくん、首のここ、どうしたの?」

「くび?」

 剛志は自分の首を触りだした。
 痣のような怪我の部分を直ぐに触ったところからして、何か思い当たる節があるのか、もしかしたら少し痛いのかもしれない。
 でも何故かそれが何の怪我であるのかは、口に出そうとしない。

「知念さん、ちょっといい?」

 そうして剛志が何かを言うのを待っていると、奥から保育士の先生が声をかけてきた。
 保育園唯一の年配の女性の方で、何故だか困り顔というか、申し訳なさそうというか、眉をひそめて目を細めて。
 あまり喜ばしい話じゃないのだろうなと予想しつつも、剛志の事となると聞かなければならないと使命感が働く。

「本当ならメールなりなんなりで知念さんに真っ先に連絡するのがルールなんですが……」

 そこまで言って先生は、言葉を詰まらせる。
 本来のルールとは違う事をやっている、と暗に言われているので続きを聞くのが正直怖かった。
 ろくな事を言わないであろうことはわかっていたから。

「剛志くん、同じ組の子と喧嘩しちゃって」

 ろくな事を言わないと構えていたのに、予想外のことを言われて私は、は?、と失礼な返しをしてしまった。

「ごめんなさいね、直ぐに連絡しなかったしで驚かれるとは思うんだけど」

 剛志が喧嘩?
 そんな馬鹿な。
 剛志は特撮ヒーローに憧れる優しい子だ。
 ヒーローへの憧れを無闇矢鱈と暴力になんて変換しない優しい子だ。

 何かの間違いじゃないのか?、と抗議に大声を出しそうになるのを必死に我慢する。
 先生が言うことが真実なら、喧嘩した相手がいて、下手したら怪我させてしまっているかもしれない。
 大怪我させてしまっていたら、馬鹿ななんて言ってる場合じゃない、謝罪案件だ。

「ちょっと米崎《よねざき》先生。その言い方じゃあ、剛志くんも手を出したみたいになっちゃうじゃないですか?」

 米崎と呼ばれた年配の先生の後ろから、若い女性の保育士の先生が話に割り込んできた。
 確か名前は、守永《もりなが》とか言ったっけ?
 ちょっと幼さの残る顔をしてる、ふくよかな体格の背の低めな先生だ。
 見た目のマスコット的可愛さからか、園児には人気者らしい。

「知念さん、ご連絡をしなかったのは、剛志くん自体は手を出さなかったからなんです。剛志くんは同じ組の別の子を助けてあげる形で、相手の子の前に立ってですね、その際に殴るまででは無いですけど、手が当たってしまったと言いますか――」

 殴られた描写がどうとかよりも、剛志が手を出した訳では無いことで安堵して、頭がいっぱいになって話が入ってこなかった。
 誰かを助けてあげるためだなんて、何とも特撮ヒーローぶりじゃないか。

 私は剛志の頭を撫でてあげた。
 保育園指定の制服の一部である帽子ごしではあるけども、褒めてあげたかった。

「相手の子にはもちろん注意させてもらいましたし、私達の注意が足りていない中で起こった事態ですので、その点を直接お詫びしたく、メールでの連絡の方を差し控えさせてもらった次第です」

 守永先生がそう言って丁寧に頭を下げて、続けて米崎先生も真似るように頭を下げてきた。
 園児も他の保護者の方もいる中で、こういう注目の集まるような事はしないで欲しいのだけど、一旦剛志も喧嘩両成敗みたいな扱いにしようとしたことは謝って欲しかったので、素直に謝罪を受けることにした。
 多分、私のそういった気持ちは頭を下げている米崎先生には伝わらないのだろうけど、守永先生はわかってくれそうなので、そこでも少し心を救われた。

 メールや連絡を事前に貰っていたら、私はどうなっていたのだろうか?
 剛志の為なら仕事を途中でほっぽり出して、すぐさま駆けつけていたかもしれない。
 過保護かもしれないけれど、メールだとか電話だとか実際のものを見れない状態で、怪我をしただと言われていたら仕事は手がつかなかったかもしれない。
 せっかく復帰を受け入れてくれた会社に、迷惑はかけたくなかったので、保育士さん達の判断は正しかったのだろうと思った。

 それに多分、剛志が先生方に連絡させまいと意地を張ったのかもしれない。
 強いヒーローに憧れてるのだから、ちょっとやそっとの暴力に助けを求めたりはしないのだろう。
 すっかり立派なヒーローとしての心持ちを、剛志は抱いてるのかもしれない。
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