ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

文字の大きさ
50 / 54
Ex

Ep.2.11 来未 Ex.選択

しおりを挟む
 突然、低い唸り声のようなものが聞こえた。
 気のせい、かもしれない。
 ありもしない都市伝説の話をしているから、その気になってしまってるのかもしれない。
 そう言い訳してもいいほど、遠くから聞こえた。
 だけど、身体中に言い知れぬ恐怖が過ぎった。
 理由が明確ではないのに、死を身近に感じる。
 駅のホームの端に立つような、建物の屋上の縁に立つような、一歩先に死を直面してる気がする。
 唸り声の主が、私を殺すのだ。
 それがはっきりと理解できた。

「どうした、来未?」

 私は今どんな表情をしてるのだろうか?
 私の様子が余程おかしいのか、滴は目を丸くして驚いている。

「今の聞こえた? 何かの唸り声みたいな」

「唸り声?」

「うん、唸り声だと思う。滴、聞こえなかった?」

 もう一度、低い唸り声が聞こえた。

「やっぱり、聞こえる。ねぇ、聞こえたでしょ、滴も」

「き、きっと、風か何かの音だよ」

 滴は少し戸惑う様子で、首を横に振った。
 戸惑ってるのは私の様子がおかしいからか、ありえないと思ってた都市伝説に真実味が出てきたからか。

「違うの、私、わかるの」

「わかる、って?」

「私を殺しに、何かが、向かって来てる」

「何かって……」

 言いかけて、滴は突然、私のスマートフォンを奪った。

「何するの、滴!?」

「そ、その元カレに電話しよう。は、話が本当なら、た、助けてもらうしかない」

 嘘だと笑い話にしようとしていた、織田翔が持ち出した都市伝説に現実味を感じ出している。
 まだ私しか実感していないだろうこの恐怖が、何故か滴にも伝播してしまっていた。
 滴は震える手で、私のスマートフォンのロックを解除していく。
 互いに秘密を持たないと、教えあった事が間違いだったとは今は思いたくない。

「助けてもらうって、それじゃあ翔が死んじゃうよ」

 嘘みたいだと信じていなかった話なのに、自分に迫る死を感じられただけでその全てを理解できた気がしている。
 私に死が迫るのなら、選択する側の織田翔にも感じ取れるものがあるのだろうと、わかってしまう。

「そうじゃなきゃ、来未が死ぬことになるんだろう!? 彼は覚悟を決めたんだ。やってもらうしかない」

 何故か滴の言い方に、織田翔への理解を感じなかった。
 きっと、滴は織田翔の事をこの都市伝説の解決方法程度にしか思っていないのだろう。
 使わないと損するぞ、とクーポン券のような扱いみたいに思えた。

 また、唸り声が聞こえた。
 続いて、足音。
 さらに、続いて悲鳴が聞こえる。
 防音処理のしっかりされた高級マンションだというのに、家の外からハッキリと悲鳴が聞こえる。

「モ、モンスターは標的を殺すまで周りを巻き込んで殺すらしい。来未、躊躇ってる暇なんて無いんだ。聞こえただろ、今の悲鳴が!?」

 滴はがたがたと震える手で、私のスマートフォンを操作していく。
 その電話が、私と翔の命を決めようとしている。
 私はその電話を――

→止めた。
 止めなかった。

 滴から電話を奪い返した。

「な、何をするんだ来未。状況がわかってるのか!?」

 いつも温厚な滴が血相を変えて、私を怒鳴りつけようとせんばかりだ。

「……わかってる。私のせいで翔を殺すところだった」

「私のせいで、って。ヒーロー・チェーンが本当なら原因は彼の方だろう? 彼が君を想うばかりに……」

「そう、想うばかりに夢を捨てて私を守るために帰ってきた。そんな翔に私は死んでくれだなんて電話、できないよ」

 唸り声、足音、悲鳴。
 響く音がよりハッキリと聞こえてきた。
 マンションを登って来ているのだろうか?
 声が、音が大きくなる度に、私の震えも私の意思とは関係無く増していく。

「出来ないって言うなら、代わりに僕がするさ!」

「死ねって宣告するようなものだよ? 人殺しだよ? そんなの黙って見ていられないよ!」

「人殺しって……男の気持ちもわかってやれよ!」

「わかってる、わかってるから! だから……」

 私はそんな気持ちに応えられないのに。
 助けると言ってくれた織田翔じゃなくて、今目の前で怒鳴りだした佐波滴を選んだのだ。
 甘んじて受け入れるなんて、出来るわけない。

「だったら、勝手にしろ! 僕は死ぬのは嫌だからな、死ぬ気だって言うならこの部屋を出てってくれ」

「……え?」

「巻き込まれるのは嫌だって言ってるんだ。さぁ、出ていけよ」

 滴は今まで見たこともない冷徹な顔をしていた。
 他人事と決め込んだのだろうか。

 もちろん巻き込む気なんて最初から無かった、けれど――。

 選択肢は二つしか無かった。
 私か、翔か。
 死んで欲しくなくて、死にたくなかった。
 そんな考えは、甘いのだろうか。
 何でこんな理不尽なことになってしまったんだろうか?
 私が何をしたというんだ。

 冷めた目で滴が私を見ていた。
 出ていくのを監視しているのだ。

 唸り声が近づいてくる。
 足音が近づいてくる。

 もう、助けを呼ぶ時間は無い。

 私は部屋を出た。
 これで、翔も滴も助かるのだ。
 そう言い聞かすしか、この涙を止める術はなかった。
 
 私は、誰を愛していたのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

処理中です...