ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

文字の大きさ
49 / 54
Ex

Ep.2.9 虚ろに揺らぐ Ex.希望

しおりを挟む
 私を守るということは、自身の命を投げ出すということ。

「だからさ、暫くそばにいてほしい。全てが終わるまで、俺に守らせて欲しい」

 モンスターがいつ現れるかは、ワイドショーでは言ってなかった。
 元から決まってないのか、誰も証言出来ていないのか。
 そもそもモンスターなんてモノがいるかどうかも、怪しい話なんだ。

「あのね、翔。私ね、付き合っている人がいるの」

「そ、そっか。そうだよな」

 正直、ヒーロー・チェーンとかいう都市伝説も、織田翔のことも信じられない。
 姑息だとは思わないけど、しつこい性格の織田翔が、嘘並べて私を口説こうとしてるのかもしれない。
 だから、判断基準だった。
 滴のことを言って、織田翔がどう反応するのか、が。

「じゃあ、その彼氏にも説明させてくれないか。ヒーロー・チェーンのこと」

「説明、って。ねぇ、何でそんなにヒーロー・チェーンのこと信じられるの?」

 あまりに嘘臭い都市伝説を、こんなに信じられるのは不思議だ。
 私なら例え痣が出来たって、偶然で済ますし、馬鹿らしくて人に話そうなんて思わない。

「俺さ、やっぱりまだ來未のことが好きなんだよ」

 織田翔は首筋を擦りながらそう言った。
 それ以上の説明は無かった。
 それが全てなんだ、ということ。

 やめてほしい。
 そういうのを真っ直ぐな瞳で言うのは。
 さっきまで虚ろな瞳だったのに、一瞬かつての力強さを取り戻していた。 
 あのキラキラした、瞳。
 夢を追う、瞳。
 今はその対象が私なのだろうか?
 私を守ることが、夢なのだろうか?

 織田翔は、今、私を選んだのか。
 全てを捨てて。

 私は――私は何を選ぶ?

→織田翔。
 佐波滴。

「わかった、翔を信じる」

 半年前まで私が求めたキラキラしたものが、そこにはあった。

「ありがとう、来未」

 織田翔は少し息を吐いた後、にこやかに微笑んだ。
 死を覚悟しているというのに、昔みたいに優しく微笑んだ。
 何でそんな顔が出来るのだろうか。
 私にはわからない。
 もっと恐怖に怯えてしまっても誰も笑いはしないし、咎めたりもしない。
 理不尽で嘘臭い、迫り来る死。
 そんなものに怯えるのは当たり前だと思う。

 現に私の手は震えていた。
 織田翔を信じるというのは、その嘘臭い都市伝説を信じるということだ。
 私と翔、お互いに訪れる死を信じるということだ。
 私がもっとも恐れているのは――

「翔は……翔は、本当にそれでいいの?」

「来未?」

「私なんかの為に夢を諦めちゃってさ。痣なんて見て見ぬふりで良かったじゃない」

 私を助ける為に、夢を諦めて日本に帰国して。
 私を助ける為に、夢を投げ捨てて命まで投げ捨てる。
 本当ならキラキラしたステージの上で踊り続けていたいのだろうに、私はその機会を奪ってしまっている。

「出来るわけないだろ、そんなこと」

「やってよ、そのぐらい! じゃないと、私は……」

 夢を追いかけた男を諦めた私の立場。
 そんな惨めでエゴの塊のようなものに、私の心は引っ掛かっている。
 翔はきっと私の事を心から守りたいと願っている。
 それなのに私は、私の想いだけを気にしている。
 あの時の心の穴を、それだけを気にしている。

 だけど、それは私にとって何よりも大きいのだ。
 私の、私の命よりも。

 低い唸り声が聞こえた。
 気のせいかもしれないと、そう言い訳してもいいほど遠くから聞こえた。
 だけど、身体中に言い知れぬ恐怖が過ぎった。
 理由が明確ではないのに、死を身近に感じる。
 唸り声の主が私を殺すのだ。
 それがはっきりと理解出来た。

「本当に来たんだな。本当はさ、都市伝説はやっぱり都市伝説でした、ってオチが良かったんだけどさ」

 私を怖がらせないようにと、私に負い目を持たせないようにと、翔は軽口を叩く。
 ありえない都市伝説を信じて右往左往していたバカなカップル、そういうオチなら良かったと私も思う。
 今ならまたあの頃のようにカップルに戻ってもいいとさえ思ってしまっている。

「ねぇ、翔?」

「来未?」

「やっぱりさ、翔は夢を追いかけてよ。そうじゃないとさ、私、納得いかないもの」

「何言ってんだよ、来未」

 何を言ってるのか?
 それは私にもわからない。
 頭に滴の微笑みが過ぎったが、首を横に振ってかき消した。
 もう、会えないよ。

「生きて、って言ってるの!!」

 自分が口にしてる言葉がつまりどういうことなのか、頭より先に身体が理解して震えだした。

「来未、本当に何言ってるのかわかってんのか?」

 わかってる。
 何を言ってるのか、そして、このままだとこの問答が繰り返されるのも。

 だから、私は――走り出した。
 唸り声が聞こえた方へ。
 あの時と同じように後ろで翔の声が聞こえた。
 あの時と違うのは、翔の追いかけてくる足音が聞こえること。
 そして、前からも足音が聞こえること。
 悲鳴が聞こえること。

 近づいていく、全てが。

 私、翔、モンスター。
 ――死。

 ああ、私が死んで翔が夢を叶えるんだ。

 キラキラ、するんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

処理中です...