月世界の白昼夢

清泪─せいな

文字の大きさ
3 / 5

スペースインベーター

しおりを挟む
 ビービービーッ。

 けたたましく鳴る警告音に、意識を取り戻す。
 パイロットスーツ内、耳元で鳴り響くので酷くうるさい。
 訓練施設の起床タイマーを思い出す。
 何個投げ捨てて壊したことか。
 備品の破壊は始末書が面倒だったなと、苦い思い出が頭に過る。

「──作業員、応答お願いします」

 女性の──聞き慣れたAIの声が聞こえ、注文通り応答する。

「バイタルデータより貴方の意識が途切れていたことを確認。こんな状況で寝てたのですか?」

 誰が設定したのか皮肉めいた口調でAIが問う。
 サポート役なのだから、もっとフレンドリーに気を遣う設定にすればいいものの。
 どんな趣味なんだか。
 仲間内でも随分と不評なのに、頑なに設定は変わらなかった。
 一度設定したものはそうそう簡単に変えられないのか、そもそも誰かモデルがいて変えたくないのか。

 とにかく皮肉に対して苛立っていても仕方がないので、答えを返す。
 寝てたのではない、気絶していたのだ。
 そもそもパイロットスーツのカメラが、すでに録画しているはずだ。
 それなのに、AIが確認を怠るとは思えない。

 月面基地内に何処からか侵入した未知の生命体に遭遇、四足歩行の奇妙な動きに対応出来ず体当たりされ呆気なく気を失った。
 自覚するだけで情けなくなる出来事を、何故口頭で説明しなければならないのか。

「気をつけてくださいと忠告しました。既にケーブル作業員、カクーラー作業員、メサ作業員の三名が死亡しています。なのに、貴方は一人で対峙した」

 訓練施設の教官より嫌な物言いするAIにうんざりする。
 一人で対峙したことを咎められても仕方ない。
 ファラオもミラも既に襲撃されて怪我を負って医務室だ。
 医療カプセルに寝そべって保管中とあらば、それを守ってやらなきゃならないだろう。

 たった一体の侵入で基地内は半壊状態になっていた。
 通路の天井には、張り巡らされた電気ケーブルが所々で千切れ、垂れ下がっている。
 外壁が壊されている部分もあるが、緊急防衛策で穴埋めの特殊スポンジで閉ざされている。
 一先ず、呼吸をするのにまだ問題は無い。

「近くのステーションからの救助は、まだ五時間ほどかかる見通しです」

 聞いてもいないのに嫌な情報を垂れ流すAI。
 その五時間を隠れられる場所があればいいのだが、爆弾にも耐えれる造りをしてるはずの壁がこうも簡単に破壊されたので、そんな場所はこの基地には存在しないだろう。

 相手の破壊力は驚異的だ。
 それなのに、体当たりで右腕一本が折れた程度で済んだのは奇跡だった。
 高性能のパイロットスーツのおかげもあるのだろうが、そんな高額の投資で作られたパイロットスーツが無惨に引き裂かれた姿をもう三つも見てきた。

 さて、どうしたものか?

「搭載カメラに移った生命体の分析完了。月で生息、進化を遂げてきた種であると思われます」

 だろうな、という感想が漏れる。
 そうであってほしいとも思っていた。
 自分達のように別の惑星から何かしらの手段で月にやってきた生命体だったとしたら、地球だってヤツの標的になりかねない。
 月の先住民だということは、縄張りにやってきた侵入者を懲らしめにやってきたということか。
 どちらも侵入者退治に躍起なんだな。

 ファラオとミラ、生存者を連れて月を脱出したいところだが、向こうさんもなかなか頭が回るようで脱出手段は真っ先に破壊された。
 知ってたのか、知ったのかは気になるところだがこっちの技術について理解してる節があるのが何とも不利である。
 こちらは何も知らないのに、向こうはこちらを知っている。
 いや、知らされていないのか。
 分析できるだけの情報があるのだから、上層部偉いさんは周知のはず。
 秘密基地に連れてった宇宙人、ってオチじゃないだろうな。

 ビービービーッ!

 再びけたたましく鳴る警告音。
 何だ、と問いかけるもそれで音が止むわけではない。

「生命体、急速接近。右の壁、来ます!」

 壁? 

 AIの言葉に戸惑っていると、そこへ壁を突き破ってヤツが現れる。
 光沢のある黒い鱗が並ぶ胴体に多関節の長い四足。
 くねらせた首についた細長い顔は、猿のような突き出した口元とのっぺりとした頭部で構成されていて、鼻も眼も無かった。
 破壊された壁の向こうには月面が広がり、音も瓦礫も吸い込まれていく。
 しかし、すぐさま緊急防衛策が作動し、壁が埋まる。
 通路に音が戻る。
 鳴り響く警告音、ぬちゃぁと滑る生命体の足音。

「警告、一人で対峙できる相手ではありません」

 他人事なAIの声。
 わかってるよ!、と怒鳴り散らし一目散で逃げ出す。
 さて、どうする?

 大丈夫だ、落ち着け。
 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...