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IV
30 潜む影と見つける老獪
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デトハーの東側、宿屋付近には武志、ヴィンド、アースカ、そしてギルド所属の傭兵スピュートとギルド組員二人が配置されていた。
北の破壊された門には、ノール、ミュレット、そして傭兵ブッレヤクサの姿。
さらにその少し離れた場所では、スバードとクルパの二人が消火活動にあたっていた。
街全体では、ギルド員や旅人たちが、消火や避難誘導、そして魔狼の討伐に奔走している。
混乱の街の片隅、建物の隙間で人目を避け、息を潜める男。
目出し帽のように、頭から粗末なマントを被り、夜の闇がその姿を闇に溶かしていた。
突き出した手で宙に渦巻く魔素を操り──魔狼を作り出していた。
「・・・・・・魔獣使いってな、器用なものだな。オタク、普段は絵でもやってんのかい?」
魔素を操る男──魔獣使いと呼ばれた男の背後からしゃがれた声が聞こえる。
影に紛れるようにもう一人、長身の男がそこに立っていた。
「話しかけないでくれるか? こっちも集中してやってるんだ」
魔獣使いの男はしゃがれた声の主へと振り返る事なく、突き出した手の先にある魔素へと集中していた。
「つれないことを言うなよ。こちとらアンタの護衛なんて任されて、暇してんだ。せめて話し相手ぐらいにはなって欲しいもんだぜ」
しゃがれた声の男の言葉に魔獣使いの男は苛立ち、それが魔素へと伝わり渦が歪み始める。
刺々しい形へと成り、魔獣使いの男は慌ててそれを制御する為に力を緩める。
「ふざけるなよ。こうやって話し声でここがバレる可能性だってあるんだ。それに今は予想以上に早い対処で魔狼が倒されちまってる。新たな魔狼を作り出すので手一杯なんだよ!」
冷静さを取り戻さなくてはならないと魔素の乱れに反省しつつも、無理解な護衛役にいちいちな説明をするだけで苛立ちは増していく。
「街に三方、魔獣使いを用意してるはずだけどそれで間に合ってないって事か。なるほど、やり手が多いねぇ、この街は」
魔獣使いの苛立ちと焦りに対して、しゃがれた声の男はのんびりとした対応だった。
危機感が足りないんじゃないか、と抗議してやりたい気持ちであったが魔獣使いは口を閉ざした。
この男と口論している場合ではない。
今優先すべきは、魔狼の生成なのだ。
魔狼を次々生成しなければ、この任務は失敗へと追い込まれる。
頭の中にかつて対峙した魔狼の姿を思い描き、それを渦巻く魔素を介して練り上げていく。
「魔獣使い、って言うから魔獣を手懐ける力でもあるのかと思ってたけど、魔獣を魔素で再現する力とはねぇ。それって絵描きか、造形師とかが向いてるんじゃないのかい? あるいは彫刻師。あ、魔狼の石像は人気でそうな気もするな、厄除けに向いてそう」
新たな魔狼が一匹、生成され街に放たれていく様を見ながらしゃがれた声の男はそんな感想を口にして、魔獣使いの男はそれを無視することにした。
絵描き、造形師、彫刻師──美術の道に進みたいと願ったことなど当たり前のようにあった。
それだけを夢見て生きてきた、はずだった。
大陸で戦争が始まり出して、男は魔獣使いとしての才を見出され徴兵されてしまった。
拒否権は無く、培ってきた技術は全て魔獣という兵器として使われることになった。
机の上のリンゴ、窓の外の景色、隣に住む麗人。
描きたいものは山ほどあった。
だが、今作るのは狼、蜥蜴、骸骨といった殺戮の象徴ばかりだ。
見た人を喜ばせる為に描きたかったはずなのに、見た人間を殺すために作り出している。
そんな無念を振り払う為に、今は無心になって魔狼を作り出さなければならない。
心を殺さなければ、人は殺せない。
心を殺さなければ、戦争には勝てない。
心を殺さなければ、国を守ることは出来ない。
心を殺さなければ、芸術の道に戻ることは出来ない。
心を殺し、人を殺さなければ、俺は死ぬんだ──
「──素早い出現に近くにいるかと予想しましたが、ようやく見つけましたぞ」
魔獣使いの男の思考を遮るようにかけられた言葉は、目の前、腰あたりに杖を構えた老人が一人。
先に放った魔狼に襲われることなく影に身を潜めていた男の眼前に、気配一つ察知させることなく現れた老人。
魔獣使いの男は驚きと恐怖に息を吸い込み、か細い音を鳴らす。
老人の左手は杖を握り、右手はその杖の先端を掴んでいた。
杖の構えとしてはおかしな様子に、魔獣使いの男は瞬時に判断して後ろへと仰け反る。
「どきなっ!」
魔獣使いが仰け反る。
その肩を引き寄せ、後方へと押し飛ばすしゃがれ声の男。
そして、自らが前へと出た。
突然現れた老人──ヴィンドの仕込み杖の抜刀が横一線、魔獣使いを追い、薙ごうとするもそれをしゃがれた声の男が遮った。
ぶつかり、夜の街に響く金属音。
ヴィンドの刃を止めたのは、しゃがれた声の男の構えた赤鉄のトンファー。
「ほう、あまり見ないエモノですな?」
「いいだろ、コイツ? もう一本あるぜ!!」
右手に構えたトンファーで刃を止め、左手に構えたもう一対をヴィンドの喉元へと突き出す。
しゃがれ声の男の突きは、長身から繰り出される一撃。
槍のような鋭さと距離を備えていた。
北の破壊された門には、ノール、ミュレット、そして傭兵ブッレヤクサの姿。
さらにその少し離れた場所では、スバードとクルパの二人が消火活動にあたっていた。
街全体では、ギルド員や旅人たちが、消火や避難誘導、そして魔狼の討伐に奔走している。
混乱の街の片隅、建物の隙間で人目を避け、息を潜める男。
目出し帽のように、頭から粗末なマントを被り、夜の闇がその姿を闇に溶かしていた。
突き出した手で宙に渦巻く魔素を操り──魔狼を作り出していた。
「・・・・・・魔獣使いってな、器用なものだな。オタク、普段は絵でもやってんのかい?」
魔素を操る男──魔獣使いと呼ばれた男の背後からしゃがれた声が聞こえる。
影に紛れるようにもう一人、長身の男がそこに立っていた。
「話しかけないでくれるか? こっちも集中してやってるんだ」
魔獣使いの男はしゃがれた声の主へと振り返る事なく、突き出した手の先にある魔素へと集中していた。
「つれないことを言うなよ。こちとらアンタの護衛なんて任されて、暇してんだ。せめて話し相手ぐらいにはなって欲しいもんだぜ」
しゃがれた声の男の言葉に魔獣使いの男は苛立ち、それが魔素へと伝わり渦が歪み始める。
刺々しい形へと成り、魔獣使いの男は慌ててそれを制御する為に力を緩める。
「ふざけるなよ。こうやって話し声でここがバレる可能性だってあるんだ。それに今は予想以上に早い対処で魔狼が倒されちまってる。新たな魔狼を作り出すので手一杯なんだよ!」
冷静さを取り戻さなくてはならないと魔素の乱れに反省しつつも、無理解な護衛役にいちいちな説明をするだけで苛立ちは増していく。
「街に三方、魔獣使いを用意してるはずだけどそれで間に合ってないって事か。なるほど、やり手が多いねぇ、この街は」
魔獣使いの苛立ちと焦りに対して、しゃがれた声の男はのんびりとした対応だった。
危機感が足りないんじゃないか、と抗議してやりたい気持ちであったが魔獣使いは口を閉ざした。
この男と口論している場合ではない。
今優先すべきは、魔狼の生成なのだ。
魔狼を次々生成しなければ、この任務は失敗へと追い込まれる。
頭の中にかつて対峙した魔狼の姿を思い描き、それを渦巻く魔素を介して練り上げていく。
「魔獣使い、って言うから魔獣を手懐ける力でもあるのかと思ってたけど、魔獣を魔素で再現する力とはねぇ。それって絵描きか、造形師とかが向いてるんじゃないのかい? あるいは彫刻師。あ、魔狼の石像は人気でそうな気もするな、厄除けに向いてそう」
新たな魔狼が一匹、生成され街に放たれていく様を見ながらしゃがれた声の男はそんな感想を口にして、魔獣使いの男はそれを無視することにした。
絵描き、造形師、彫刻師──美術の道に進みたいと願ったことなど当たり前のようにあった。
それだけを夢見て生きてきた、はずだった。
大陸で戦争が始まり出して、男は魔獣使いとしての才を見出され徴兵されてしまった。
拒否権は無く、培ってきた技術は全て魔獣という兵器として使われることになった。
机の上のリンゴ、窓の外の景色、隣に住む麗人。
描きたいものは山ほどあった。
だが、今作るのは狼、蜥蜴、骸骨といった殺戮の象徴ばかりだ。
見た人を喜ばせる為に描きたかったはずなのに、見た人間を殺すために作り出している。
そんな無念を振り払う為に、今は無心になって魔狼を作り出さなければならない。
心を殺さなければ、人は殺せない。
心を殺さなければ、戦争には勝てない。
心を殺さなければ、国を守ることは出来ない。
心を殺さなければ、芸術の道に戻ることは出来ない。
心を殺し、人を殺さなければ、俺は死ぬんだ──
「──素早い出現に近くにいるかと予想しましたが、ようやく見つけましたぞ」
魔獣使いの男の思考を遮るようにかけられた言葉は、目の前、腰あたりに杖を構えた老人が一人。
先に放った魔狼に襲われることなく影に身を潜めていた男の眼前に、気配一つ察知させることなく現れた老人。
魔獣使いの男は驚きと恐怖に息を吸い込み、か細い音を鳴らす。
老人の左手は杖を握り、右手はその杖の先端を掴んでいた。
杖の構えとしてはおかしな様子に、魔獣使いの男は瞬時に判断して後ろへと仰け反る。
「どきなっ!」
魔獣使いが仰け反る。
その肩を引き寄せ、後方へと押し飛ばすしゃがれ声の男。
そして、自らが前へと出た。
突然現れた老人──ヴィンドの仕込み杖の抜刀が横一線、魔獣使いを追い、薙ごうとするもそれをしゃがれた声の男が遮った。
ぶつかり、夜の街に響く金属音。
ヴィンドの刃を止めたのは、しゃがれた声の男の構えた赤鉄のトンファー。
「ほう、あまり見ないエモノですな?」
「いいだろ、コイツ? もう一本あるぜ!!」
右手に構えたトンファーで刃を止め、左手に構えたもう一対をヴィンドの喉元へと突き出す。
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