最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生

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「おいおい、ヒック。遅いぞ、ヒック。待ちくたびれたぞ馬鹿野郎!!」
「「「「そうだぞ待ちくたびれたぞ馬鹿野郎ヒック!!」」」」

 席に戻ったテツの顔が引きつる。

 アドルフは酒が入り酔っぱらい、何故か自分のテーブルを数人の男が囲い酒盛りをしていたからだ。せっかく作った料理をこのパンツ一丁で男達と肩を組んで歌う下品な男に食わせるのか、と悲しくなるが料理がさめるのも嫌なので皿を彼の前に置く。

「待たせたな。ほら食え。これが地球の料理人の力だ」
「あひゃひゃひゃひゃ!!料理なんてどれも大してかわらねぇってえええええええ!!??うめえええええええ!!??これ本当に同じ肉かよ!?」

 笑いながら肉を食べたアドルフは目を見開き椅子から落ちそうな勢いで驚く。

 とりあえずこの変態が味の変化が分かる最低限の舌を持っていたことに安堵しながらテツも食べ始める。

「う、うめぇえええ!!??おいアンタ凄いな!これワーウルフか!?」
「す、すげぇ!!全然違うじゃねぇか!!」
「もしかしてドラゴンの肉でも使ってんじゃねぇか!?」

 何故か酒盛りしていた男達もアドルフの皿の肉を食らい騒ぎ、いつの間にか戦うように我先と肉を奪い合っていた。

「ちょっと待て、ドラゴンの肉ってなんだ?旨いのか?」

 普通ならドラゴンの存在に驚くはずだがテツはその言葉が気になり聞いてみる。

「ああ?ああ、アンタ流れ人なんだってな。なら俺様が教えてやごふっ!?」
「けけけ。この肉は俺様のものだ」

 何故か男たちを全員叩きのめしアドルフが肉を食らいながらテツの質問に答える。

「いいか?肉が何でうまいか知ってるか?」
「は?いや、それは様々な要素があるが、例えば旨味成分である……」
「ばぁああか!そんな小難しい話じゃねぇよ!正解は魔力だ魔力!!」
「魔力?」

 アドルフの話によると、それは魔物が人間を襲う理由でもあるらしい。

 生き物、食材全てに通ずる魔力。それは旨味の元でもあるらしい。つまり人も魔物も強ければ強い程魔力が多くなり、そして旨味も強くなる。

 魔物が人を襲うのは、見た目が弱そうなのに、人は魔力を多く持つ。つまり魔物からしたら人間は旨いらしい。

「でだ!すべての生き物の頂点に立つ最強の存在!!それはドラゴンだ!!ここまで言えばテツでも答えが分かるだろ!?」
「つまり、つまり最強のドラゴンは多くの魔力を持ち、そして旨い」
「そういう事だ!!まぁドラゴンの肉なんて貴族や王族しか口にしねぇし、奴らでさえ一生に一度口にするかどうかだがな!!」

 その情報を聞いたテツの心は固まる。

「決めた!決めたぞアドルフ!!俺はこの世界でドラゴンを倒して食べる!!これが俺のこの世界での目標だ!!」
「ぐーー、ぐーー……」
「おい!!何寝てんだテメェ!!俺の!男の一世一代の決意を聞け!!くそ!起きねぇこいつ!!」

 テツは自分の決意を無視されパンツ一丁姿で食堂で堂々と寝るおっさんに呆れ項垂れる。

「まぁいい。今日は疲れたたしさっさと寝るか」

 名も知らぬ男達と一緒に気持ちよさそうに眠るアドルフの足を掴み引きづりながら寝室に向かおうとしたテツに影が差す。

「な、なぁアンタ。俺に料理を教えてはくれないだろうか!!頼む!!この通りだ!!」

 突然先ほど料理を教えたこの店の亭主の大男がテツの目の前で土下座をした。

「あ、あのパパが、人に頭を下げてる!?」
「ほ、本当だわ。あの人が頭を下げるなんて明日はドラゴンが襲ってくるかもしれないわ……」

 その光景をみておかみさんと少女が驚き固まっている。テツとしてはドラゴンが襲ってきて欲しいところだが、まぁまずは目の前の男性だ。

 大人になってから人に頭を下げることの大変さはよく理解している。それが仕事ではなく、自分の為なら尚更だ。

「な、なぁアンタ。アタシからもお願いだよ。この人が頭を下げるなんてアタシにプロポーズしたとき以来見たことない。この人も本気って事さ」
「あたしからもお願いします!!パパに料理を教えてあげてください!」

 突然三人から頭を下げられたテツだったが、彼の心はすでに決まっていた。

「わかりました。ただし条件があります。俺は、あと此処にいる変態は金がありません。なので料理を教えている期間、食事と部屋代をタダにして下さい」

 そのテツの言葉に三人は顔を上げ嬉しそうに顔を見合わせると「勿論です!」と答える。

「それともう一つ。俺の指導は厳しいですよ?途中でやめるなんて言わないで下さいね?」
「あ、ああ!!勿論だ、です!!よろしく頼む!です!!」

 「よかったねパパ!」「アンタ良かったじゃない!」と嬉しそうに手を手を握り合う三人をテツは微笑みながら見守る。

 一人の男が料理の道を進もうとしているのに何故それが止められよう。

 テツは期限を一か月と定め、その間真剣にできる限りの事を教えようと心に決める。

 その後テツはアドルフの足を引っ張り二階へ上がると(階段を上がるたびにアドルフの頭が階段にゴンッゴンッと当たるが全く起きなかった)アドルフをベッドに放り投げテツももう一つのベッドに潜る。

 異世界に来て一日目。

 テツはこの世界の料理の可能性に胸躍らせながら夢の中へと誘われた。

「なるほどな。まぁいいんじゃねぇの?お前の人生だ。すきにやりな」

 次の日アドルフと朝食を頂きながら昨晩の話をすると、彼はそう答える。

 別にお互いパーティを組んでいるわけじゃない。その行動は縛れないが一応テツは彼しか知り合いがいなかったので咆哮したまでだが。

「で?アドルフはどうするんだ?」
「俺か。まぁあの件があるからな。暫くこの街を拠点にして金でも稼ぎながらその時を待つさ。何せ一文無しだし、武器がない上に着る服すらねぇ」

 テツは「確かに」と呟き答える。

 彼がパンツ一丁なのはおいといて、テツも日常品が買えるくらいの金はあった方がいいなと思う。

「それによ。テツには命の借りがある。その借りを返すまでは勝手にどっか行ったりしねぇさ」
「別にそんな事気にする必要ねぇよ?あんなの成り行きだったし」
「馬鹿野郎。冒険者ってのは信頼が大事なのさ。どんな事でも借りはしっかり返さねぇと信頼され無くなっちまう」

 「そんなもんか?」と聞くと「そんなもんだ」と答える。

 何気ない朝だったがテツはいきなり一人にならず、こんな変なおっさんでもいてくれることが心強いなと思い苦笑した。

「捨てんじゃねぇ馬鹿野郎!!鶏肉は骨まで使えるんだ!!食材を無駄にするやつは俺が許さん!!」
「包丁の使い方がなってねぇ!!このキャベツの千切りを100個終わるまで飯は食わせねぇぞ!!」

 その日からテツは厨房に籠り大男のダイに料理を叩き込む。

 衛生管理から包丁の使い方から調理まで。一店舗の調理を任せられるようになるまで徹底的に料理を教えた。料理に関しては色々言いたいが、とりあえずこの街で手に入る食材だけに限定して教える。

 ダイは元々知識がなかったからか、変な覚え方をしておらずテツの教えを一から丁寧に覚えた。

 その甲斐あってか、初日にテツの料理を食べた男達の噂のおかげか、宿には日に日にその味を求めてお客様が集まり、一週間もすれば店の前に行列ができるほどだった。

「ダイ、見ろ。たった一週間食材と真剣に向き合っただけでお客様はお前の料理を食べに来るんだ。この一週間の努力はこんなにも目に見えて現れている。残り三週間真剣に続けたら、その先もお前が一人で真剣に料理と向き合い続けたら、それだけお客様は応えてくれる」
「あ、ああ。こんなに繁盛したのは初めてだ……」
「どうだ?わくわくしてこないか?彼らは汗水たらして働いて、その金で食べに来るんだ。今日来てる彼らはお前の料理を食べたくて一日働いたといっても過言じゃない」
「すげぇ。すげぇよ師匠。なんか泣けてくる」
「馬鹿。泣くのははえぇよ。求められた分お前はしっかり答えなきゃ客足はすぐに途絶えるぞ。俺達料理人は常に全力で料理と向き合わなきゃいけない。お前にそれが出来るか?」
「ああ、勿論だ。師匠に頭を下げた時から、いや、師匠の料理を食べた時から俺の人生は決まったんだ。俺も師匠と同じ道を歩むって」

 二人は開店前から並ぶお客様を見てそんな会話をし、そして厨房に消える。

「そろそろ開店の時間だ!気合入れろ!」
「ウィ!シェフ!!」

 今日も店の中から気合の入った男達の声が店前に響き、店は開き人々は我先と店に足を踏み入れていった。

「しっかしこの店も変わったな。今じゃ街全体に知れ渡るほどの料理の名店だって皆が言ってるぜ?」
「俺が教えてんだ。それくらいなってもらわないと困る」

 閉店後いつものようにちゃんと服を着たアドルフと酒を酌み交わしながら話すテツはさも当然の如く答える。

「かー!地球の有名な料理人様は言うことが違うねぇ!っで?今日はどんな料理だ?」
「俺は地球ではかなりなの知れた料理人だった自負はあるからな。料理はそろそろ来るはずだ」

 そんな会話をしていると厨房からダイが緊張した面持ちやってくる。

「お、お待たせしました。今日の料理は『鶏肉のビール煮』です」

 テツは毎日朝昼晩とダイにテーマを与え違う料理を作らせていた。ここにきて二週間。テツは毎日メニューを変えダイに様々な料理を教えた。その中でダイなりに思いついた料理をこうして作らせ評価している。

「はぁ!?鶏肉を『ビール』で煮たのか!?というかビールっていつも飲んでるこの酒だろ!?大丈夫かよ!?」
「ああ、ビール煮は立派な料理だからな」

 そう言いながらテツはそれを口にし、ダイはそれを緊張しながら見守る。

「ん。悪くないな。だが砂糖を焦がす時ビビって早めにビールを入れただろ?本来ビール煮はもっと香ばしく奥深いはずだ」

 その辛口な、だけど的確な評価にダイは肩を落とす。

「だが悪くないぞ。二週間前に比べたら段違いだ。ようやくお前も『煮る』という事がどういうことか分かってきたな」

 テツのその評価にダイは年甲斐もなくガッツポーズをする。

 その光景を毎日手をにぎりながら見守っているおかみさんと少女もお嬉しそうにハイタッチをし、テーブルに急ぎ座るとその料理を口にする。

「ん~~!!パパ美味しいよ!これ本当に美味しい!」
「あら本当ね!ビールが入っているのに子供でも食べられる味。それなのになぜだかビールが飲みたくなる大人な味な感じもする!!」

 二人の評価にダイは泣きそうになりながらもそれを堪え「ありがとう」と口にする。

 毎日三食違う新しい料理を考えるという事はどれほど大変か。しかも朝早くから仕事をしながらだ。

 だがそれは料理人にとって必要不可欠な事だ。だからテツは「失敗してもいい。まずくてもいいからまずは考え挑戦しろ」と毎日言う。

「おいおい本当に大丈夫かよ?ビールだろ?このビールで煮てんだろ?不味くないのか?」

 未だに口にするのを躊躇うアドルフに対し少女が「ならあたしが食べる~!」と言うと、アドルフは「馬鹿!これは俺のだ!」と大人げなくその手を払い意を決したようにそれを口にする。

「う、う、うう……」
「「「うう?」」」
「うめぇええええええ!!なんだこりゃあああ!?ビールが!ビールがしみわたってやがる!!そしてビールがすすむ!!」

 そう叫ぶアドルフに四人は顔を合わせて笑う。

 そんな光景を見てダイは「ちょっと厨房に行ってくる」と言いこちらに背を向け奥へと消えていく。

 子供の前で涙を隠したかったんだろう。

 だが巨体の彼の泣き声も大きく、四人が食べているテーブルまで彼の泣き声が聞こえ四人は笑いながら料理を平らげたのだった。
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