最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生

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サーペント2

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 船の上に沈黙が訪れる。サーペントはどこからやってくるのか想像もできないからだ。だが、そんな中動いたのはテツだった。

「アイスボール」

 船の端でそう呟き、今乗っている大きな船と同じ大きさの不格好な氷の塊を次々に作りだし、そして近くの運河へと落としていく。

 誰もが、アイスボールというサイズじゃないだろ、と心の中で突っ込みながらも、その大きさに言葉にできなかった。

「お、おいテツ。何してるんだ?」

 唯一テツの魔力の多さを知っていたアドルフが聞いてくる。

「ああ、さっきも言ったが、アイツは船の作る波でこちらの位置を割り出してくる。つまり、こうしていくつも似たような大きさのものを運河に浮かべれば、アイツはどれが本物の船かわからなくなるって事だ」

 それは皆にとって朗報だった。船は下からの攻撃には対応できない。だがテツの氷のおかげで、そのリスクが大きく減った事となる。

「貴殿の魔力はすさまじいな。これほど大きな氷の塊を作り出せるのは、エルフの中でも少数のものだけだろう」

 いつの間にかレイが近くにより、運河に浮かぶ氷を眺めながらそう呟く。メルとミルもそんなテツを褒めているのか、テツの両脇に寄り添い、体をすりすりと摺り寄せてきた。可愛い二人の頭を撫でながら、テツはアドルフの方へ向き直り、そして言い忘れていたことを話す。

「そうだ。アドルフさんや。ヘビってのは体を攻撃しても割と平気で動くぞ?ヘビの弱点は頭部だ。そこを叩けばそれで終わるだろうさ。あまり体を攻撃されると食べるところが無くなっちまう」
「「「「「だからそれを早く言え!!」」」」」

 そんな事より、ちょっと試したい料理があるんだが。と話しを続けるテツを無視して、アドルフとケイトは疲れた顔で作戦について話し合う。既にテツの頭にはサーペントを食べることしか頭にないのだろう。なんだかアドルフは悲しくなっていた。

 皆が武器を握り、サーペントの出現を待つ中、複数の騎士がケイトの指示で一つの氷の塊に「風魔法」のウィンドボールをぶつけていた。

「あれは何をやってるんだ?」

 黄金色のメルとミルの尻尾をふさふさ撫で遊んでいるテツは、近くにいたレイに彼らの行動について聞く。

「ああ、あれはテツ殿のアドバイスを参考にているそうだ。ああやって一つの氷に魔法を当て続け動かせば、サーペントはそれが本物だと勘違いして攻撃してくるだろうという事らしい」

 成程、調理法のついでに話した事が参考になっているのか、何でも言ってみるものだなとテツは納得した。本当はもっと料理について語りたかったが、誰も聞いてくれないのでメルとミルに構ってもらっている訳だ。

 二人はテツに尻尾を撫でられ嬉しそうに耳をぴくぴくさせながら、テツに顔をすりすりと擦り付けている。まるで本物の狐のようだ。アドルフとケイトが居れば自分は必要ないだろうと、テツは完全に気を抜いている状況だった。

 ピクリ、と二人が止まり、そして立ち上がった。どうやらそろそろサーペントが出てくるようだ。それを羨ましそうに見ていたアドルフの表情も引き締まり、ケイトに「そろそろ来るぞ」と教えてあげる。というかあいつどれだけ懐かれたいんだ、とテツはため息をついた。

 次の瞬間、騎士達が魔法を打ち続けていた氷の固まりが二つに割れ、サーペントが出てくる。あれがもし自分達の乗る船だったら、と顔を青くするが、すぐに思考を切り替えケイトが叫ぶ。

「今だ!頭を狙えよ!放て!!」

 号令と共に大砲が放たれる。だがサーペントも流石に予想していたのだろう。尾を水面に叩きつけると、船より高く水の舞い上がり、水の壁ができる。

 砲弾はその壁に阻まれサーペントまでは届かない。悔しがるケイトをよそに、舞い上がった水が落ち、サーペントの顔が見えた瞬間サーペントは水の塊を放つ。

 騎士たちは慌てて回避しようとするが、その必要はない。いつの間にかテツのそばを離れたレイが、飛んできた二つの水の塊を切り裂いたからだ。

「貴殿らばかりに働かせては、我らの立つ瀬がないからな」

 レイは船に着地し、そう呟くと、その時サーペントが悲鳴を上げる。メルとミルだ。気が付けば二人はサーペントの両側についているエラを斬り落としていた。その動きの速さに、テツ以外の者には彼女達の動きが全く見えなかったほどだ。だがこれでサーペントは呼吸が出来なくなった。倒すのは時間の問題だろう。
 
 またいつの間にか、メルとミルが戻って来て、わくわくしたような顔でテツの前に立つとテツを見つめる。褒めて欲しいのだろう。テツは微笑みながら二人を撫でてあげると、二人は嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振った。

 突然サーペントのエラを斬り落とし、気が付けば戻ってていた可愛らしい二人に、ケイトとアドルフは呆気に取られていたが気を取り直し、叫ぶ。

「今だ!サーペントに回復の隙を与えるな!」

 アドルフとケイトが手をかざし、炎の槍を数十本創り出すと、それをサーペントの顔に目掛け放ち、騎士たちがそれに続く。

 数百を超える矢がサーペントの顔に突き刺さる。ゆっくりと弧を描きながらサーペントは倒れ、そして沈黙した。

「我らの勝利だ!!」

 それを見たケイトが叫ぶ。アドルフにケイト、獣国の王女直属の護衛兵。サーペント一匹に対して過剰戦力だったのかもしれない。騎士たちは張り裂けんばかりに声を上げ、武器を天に向かって突き出した。

「メルとミルも偉かったぞ。お前達のおかげだ。レイもな。お疲れさん」

 テツのねぎらいの言葉にメルとミルは、小さな胸を突き出し「ふんっ」と息を漏らし自慢げだ。レイは照れてはないが、その尻尾はぶんぶんと振られていた。褒められて嬉しかったのだろう。

 誰もが戦いは終わったと油断していた。だがその中を、一人が駆け抜け叫ぶ。

「まだだ!!」

 クロエがそう叫ぶ手すりから飛ぶと、まるで鐘の音を鳴らしたかのような大きな音が辺りを包み、クロエが吹き飛ぶ。皆が顔を上げれば、目を真っ赤にして怒るサーペントがこちらを睨み、そしてクロエが弾いた水の塊が、まるで滝のように落ちてくる。

「おいおい、こっちは今いい気分なんだ。水を差すなよ」

 アドルフがそう呟くながら船の壁を使い跳躍すると、吹き飛ばされるクロエを足場に踏みつけさらに高く飛び上がる。

「終わりだ!!」

 アドルフがそう叫ぶのと同時に、サーペントの顔が真ん中から二つにずれる。近づけさえすれば、サーペントはアドルフの敵ではなかったようだ。アドルフが船に着地するのと同時に、サーペントは再び倒れ、今度こそ死んだ。

「間合いに入れれば、あれはただのヘビだ」

 アドルフは剣を肩に乗せニカッと笑い、船の上は再び歓声に包まれた。

「「「「姫様!!」」」」

 歓声を聞いてサーペントを倒したと判断したのだろう。メアリーが船から飛び出し、小島にいる仲間たちと再会を果たしていた。騎士達も次々に降りていき、そして仲間との再会を喜んだ。

「大丈夫かクロエ?」

 皆が船から降り仲間たちとの再会を喜ぶ間、吹き飛ばされ踏みつけられたクロエ救出しに、テツとアドルフは運河へ落ち近くの氷の塊へとよじ登っていたクロエのそばに降りていく。

「あー、悪かったなクロエ。俺のジャンプ力ではあいつの顔までは飛べなくてだな……」

 近くに近寄り謝罪する二人だったが、クロエはずぶ濡れのまましゃがみこみ、こちらを背にしている為その表情は見えない。長い髪を濡らし、手を地に着く彼女の背中はどこか怖かった。

「だ、だがクロエのおかげで皆が助かった!あ、あれは凄かった!」
「そ、そうだぞクロエ!お前さんが居なかったらサーペントと会ってすぐに船は大破してた!いやぁ流石「障壁のクロエ」だ!!」

 おっさん二人は彼女の機嫌を取ろうと必死だ。ちらりとクロエを見ると、まだ黙ったままこちらを背にして黙っている。怖い。実に怖い。おっさん二人にとって女性の沈黙は怖い。悲しいことに、童貞おっさんと素人童貞のおっさん達にとって、サーペントを倒すより、女性の機嫌を取る方が難題だった。

「いやぁ!しかし水も滴るいい女とはこのことですなアドルフ殿!その後ろ姿だけでも美しいとわかる!」
「いや全くですなテツ殿!障壁から「女神クロエ」と言い換えてもいい程ですな!」 

 まるでコントのように明るく話す二人は、再びちらりとクロエを見るが、彼女はまだ動かない。二人は冷汗をかき、辺りを沈黙が包もうとしたとき、クロエがゆっくりと口を開いた。

「……私は船が大破するほどの攻撃を二度も受けた。しかしアドルフ殿は、そんな私を皆の前で踏みつけるどころか、氷の浮かぶ運河に突き落とした」

 髪を揺らしながら、ゆっくり話すクロエの背中は最早ホラー映画に出てきそうなほど怖かった。二人は額に汗を流しながら、ごくりと唾を呑む。

「普通するか?こう見えて私は伯爵家の跡取りだぞ?それを踏みつけ、運河に落とすか?」

 クロエはゆっくりと立ち上がりながら話す。何か言い訳をしようとするが、何も浮かばず困るテツはちらりとアドルフを見る。アドルフは今にも泣きそうな顔をしていた。彼もどうしたらいいのか分からないのだろう。女性慣れしていないおっさん二人には、腹をくくり彼女に怒られるその時を待つ。

「ふふふっ。ふふふふっ。ふふふふふふふっ」

 クロエはゆっくりと濡れた髪を揺らしながらこちらに振り向く。テツは固まり、アドルフの目頭にはすでに涙が溜まっていた。

「フハハハハ!見つけた!見つけたぞ!!アドルフ殿!貴殿こそ私の旦那様にふさわしい!私と結婚をしてくれ!」
「「……え?」」

 二人は想定外の言葉に固まる。あれ?怒ってないの?ダンナサマ?ケッコン?そしてとの蕩けた顔を見て二人は思い出す。

 あ、こいつドMだった。と。
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