最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生

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幕間~食事会前の出来事2~

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「それで、「たかだかゴブリンでしょ?」って馬鹿にして一人で突っ走っていったミリアに、追いついた時にはゴブリンに追い詰められて服を破られていて。そこで慌てて助ける事があったんですよ!全くいつもこの自信はどこから出てくるのガッファ!?痛い痛い!!ごめんごめん!悪かったからもう言わないから内ももばかり杖で突っつかないで!!」

 ダイスケは謝りながらも何度もミリアの失敗談を話し、何度もミリアに怒られていた。なんだかんだ仲のいい二人を微笑ましそうに見守りながら、テツは疑問に思っていた事を聞いてみることにした。

「なぁ、カモガールってどんな魔物なんだ?地球のカモとは違うのか?」
「いたたた。ああ、カモガールは俺も見たことはないんですよね。聞いた話では、カモガールは群れをなして生息しているそうです。当然オスとメスがいて、オスの方が数が少ないため、メスがオスに求愛行動をするみたいですね。見た目としてはメスの方が大きく、美味しく高価と言われているのもメスらしいです」

 ダイスケは、ミリアに攻撃される内ももをさすりながらテツに説明をしてくれる。つまり、オスはただのカモ、メスがカモガールというなんとも安直な名前だ。見ればオスかメスかはすぐにわかるとの事。ダイスケのチート能力、スマートフォンを使いカモガールの生息地に向かった。

「そろそろ着きますね。この先にある湖の周りに沢山生息しているみたいです」

 街道から少し離れた林の中を進むと、遠くから鳥の鳴き声が聞こえ一同は息を潜め静かに進んでいく。

「あれが、カモガールですね……」
「ああ、見れば分かる。なんていうか、乙女なんだな」

 キラキラと輝く湖の畔、爽やかな風に揺らめく草草の上で羽を休めているカモの群れ。その群れを遠目でもじもじしながら見つめるピンク色をした大き目なカモ。その羽を必要以上に撫でまわしたり、わざと大きな声を出しオスの気を引こうとしているピンクのカモの集団がカモガールなのだろう。

「なんていうか、アイドルを追っかけている女子みたいですね」
「ああ、言いたいことは分かる。俺の苦手なタイプの女子だ」
「僕もです」

 時頼、カモがカモガールの視線に気が付き軽く羽を広げ挨拶をすると、カモガールからは黄色い(?)悲鳴が上がる。まさにアイドルとファンの関係のようだ。カモってこんなに人間じみた生き物だったか?

「俺たちは一体何を見せられているんだろうな……」
「何でしょうね……」

 羽を広げ、カモガールにアピルールしたカモが歩き出すと、一定の距離を開けながら後ろからぞろぞろとカモガールが群れをなして付いていく。なんだか昭和のアイドルと追っかけを見せられている気分だ。

「あんなのさっさと倒して帰るわよ!!」

 少し離れた草むらに無を潜めカモたちを観察していると、ミリアは我慢できなかったのか突然立ち上がりカモたちの方へ駆けて行ってしまった。カモたちは突然現れたミリアに驚き唖然とした表情で立ち止まったが、カモガールは違った。意中の男性(?)に向かい走りながら杖を構える敵に対し、素早く反応しカモを守るようにミリアの前に立ちはだかった。
 
「ミリア!!」

 カモガールの動きに、いち早く反応したのがダイスケだった。ミリアの声初めて聴いたな、なんて呑気な事を考えていたテツとは違い、短い間だが冒険者として経験を積んできたダイスケは危険を感じたのだろう。ミリアを追いかけ全速力で駆け出していた。

「我が命に従え!「ウィンドウォール」!!」

 ミリアが短く詠唱を唱えると、ミリアの前に風の防壁が出来上がる。これでミリアを攻撃しようと飛んできたカモガールは風の壁に激突し倒せるだろう。テツとミリアはそう思い安堵した瞬間だった。

「「「「グァアアアアア!!」」」」

 叫ぶカモガールが羽を大きく振るうと、風で出来た障壁が切り裂かれミリアの前にカモガールが数体現れる。

「えっ!?」

 まさかいとも簡単に、自分がつくった障壁が破られるとは思わなかったのだろう。次の詠唱に入っていたミリアは唖然とし、詠唱をやめて立ち尽くしてしまった。障壁を切り裂いたという事は、カモガールの攻撃にはかなりの殺傷能力があるのだろう。仕方がない、と包丁に手をかけ飛び出そうとしたテツは、それを見て目を見開き、そして微笑みながら包丁から手を離す。

「ミリア!伏せろ!!」

 後ろから飛んできた声に従うようにミリアがしゃがむと、 カモガールの前にダイスケが飛び出し手に持っていた剣を横に一閃した。

 ダイスケの剣は、飛んできた二匹のカモガールを切り裂いたが、全てとまではいかずに彼は残ったカモガールの攻撃を正面から受けてしまう。

「ダイスケ!?」

 悲鳴に近いような声で、ミリアは叫ぶ。肩や胸を斬られ膝から崩れ落ちそうになるダイスケは、その声が耳に入った瞬間足に力を入れて立ち上がる。後ろにいるテツやミリアからしたら、彼の表情は分からない。だが、その背中は普段の頼りない彼のそれではなく、立派な大きな男の背中に見えた。

 傷口が焼ける様に傷み、思わず声を出してしまいそうになるのを我慢してダイスケは剣を強く握りしめる。後ろではテツが見ているはずだ。彼の背中を見て、ずっと自分も大きな背中をした男になりたいと思っていた。そしてミリアもいる。女性の前でかっこ悪い所は見せたくない。たとえその子が、自分ではなく別の男性の事を想っていても。

 カモガールは倒したと思った相手が立ち上がり剣を構えたことに驚き、一旦距離を置く。相手は二人、皆で囲み攻撃すればいける。そう思ったとき、それに気が付いた。

 同時にダイスケもそれに気が付いた。ありがとうございます。心の中でお礼を言い、ダイスケは駆け出した。

「はぁあああああああああ!!!」

 ダイスケの張り上げた声と気合、そしてそれに動揺し身動き取れないカモガール達は次々にダイスケに斬られていく。ある程度の数を斬った所で、カモガール達はそれが無くなったことに気が付き、慌てて逃げ出していった。

「ダイスケ!!」

 カモガール達がいなくなったことにより安心したのか、膝から崩れ落ちるダイスケにミリアが慌てて駆け出し受け止めてあげる。

「ありがとうミリア。君が後ろにいたから頑張れたよ。だけど、今度から突然飛び出すのはやめような」
「うん。分かった。ごめんなさい」

 腕の中でつぶやくダイスケに、ミリアは涙を流しながら微笑み答える。ダイスケが後ろの方を見ると、微笑みながらこちらを見ているテツの姿があった。テツは小さく頷いて見せ、ダイスケもまた、テツに頷き返す。

 カモガール達がダイスケを攻撃し着地したその瞬間、テツは敵に気づかれないようにカモたちの足元を「氷魔法」で固めていた。その為カモたちは動けなくなり、ダイスケに次々に斬られていったわけだ。他のカモたちも同様にテツに足元を凍らされ、援護に行けないまま斬られていく。そしてある程度の数を倒したところで、テツは足元の氷を溶かし、カモたちを逃がしたという寸法だ。

 だがダイスケの事しかミリアはその事に気が付いていない。テツに見守られながら、二人は暫くそうして寄り添い綺麗な湖の畔で座り込んでいた。

「今日はありがとうございました!」

 クエストを終え、カモガール達をギルドに納品したダイスケとミリアは、テツにお礼を言ってお別れをした。ダイスケの傷はテツが治している。テツは厨房で魔法を使って料理をする為に、コックたちに様々な魔法を教えられその基礎を習得していた。

 笑顔で手を振り城に帰っていくテツの背中を見て、ダイスケはまだまだあの背中には遠いなと感じた。テツにかかればカモたちは一瞬で倒せただろう。だが、彼はサポートに徹し、自分を立ててくれた。男としても、人としてもテツの背中は遠い。だが、だからこそかっこよく憧れる背中だ。

「あ、そういえばミリア。良かったのか?テツさんに想いを伝えなくて。付いていかなくていいのか?」

 ふと思い出したように、ダイスケはミリアに問う。ミリアの目的は、テツに告白しついていくこと。ダイスケと最初にパーティを組むときにミリアが言った目標だ。

 ダイスケ言葉を受け、テツの背中を見つめていたミリアはダイスケに向き直る。

「いいのよ。好きと憧れは違うと分かったもの。それに、アンタはまだまだ一人じゃ危なっかしいからね!暫く私が付いていてあげるわよ!」

 ダイスケは今まで見たことない程綺麗な咲いた花のような笑顔を向けられ頬を染める。まるで世界から音が消えたような、時が止まったような感覚にダイスケは動揺し、何とか口を開く。

「あ、危なっかしいのはミリアだろ?またいきなり敵の前に飛び出して」

 お礼を言おうと思ったのに、本当にテツに付いていかなくていいのか聞こうと思ったのに。ついついそんな言葉が出てしまい、さら慌てるダイスケにの内ももにミリアのローキックが炸裂する。

「ふん!そんな攻撃も避けられないようじゃ、まだまだなのよアンタは!」

 ほら、行くわよ!膝を付き顔を顰めながら足をさするダイスケに背を向け、ミリアは歩き出す。それに慌ててダイスケは、まだ気が付いていない。

 この短い期間で、ダイスケはミリアの命を二度も助けた。別の男を追いかけるミリアの手を引き、何度も引っ張ってくれた。そしてテツと会い、ミリアは気が付いた。自分が本当に好きなのは、この頼りないダイスケだと。

 その事に気が付き、ミリアはダイスケとこれからも行動を共にすることを決める。その気持ちを伝えるのは、まだ大分先だろう。彼がもっと頼りある男になってから。二人がもっと成長してから。

 そんなことを考え頬を染めながら微笑み歩くミリアの背中を、足が痛いダイスケはふらふらと追いかける。二人の冒険は今始まったばかり。そんな二人を祝福するかのように、暖かくなってきた春の風が優しく二人の頬を撫でた。
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