山小屋

穏人(シズヒト)

文字の大きさ
2 / 5

2

しおりを挟む
 女と初めて出会したのは何処ぞの道路の上でだった。ガムだかなんだかわからないものがこびりついた汚え道路で、スカート履いて大股広げていたのが最初の姿だった。ベロンベロンに酔っ払い、情けねえ姿を晒す女に「大丈夫か」と声を掛け、肩を貸し、そのままたまに利用するホテルへと連れて行ってやった。とりあえずすること一発ヤッて、目を覚ました女を適当に言いくるめ、以降、この女のアパートに寄生して俺は暮らしている。
 ぼーっとしているとキッチンからカチャカチャと音が聞こえてきた。いつもの音だ。面白くもないバラエティーを見るともなしに見ていると、耳に入り込んでくる何の感性にも響かねえ音。俺は耳障りなカチャカチャ音からテレビに意識を向けようとしたが、そこで俺の目の前にテレビがないことに気が付いた。ああそうだ、俺は山小屋にいるのだ。しかし何故山小屋なぞにいるのかはわからない。先程中断された思考を再び巡らせようとしたが、その前に女の声が耳穴に割り込んできた。
「あー、疲れた」
 などと言いながらわざとらしく肩を回して歩いてくる。そんなに肩が凝るっていうならマッサージにでも行きゃあ良いのに、「私は働いてるんです」みてえなザアとらしい真似しやがって。女はもう一度見せつけるように嫌みたらしく肩を回すと、俺の隣に腰を下ろし、腕を絡ませ擦り寄ってきた。同棲して半年ぐらいはこんなこともあったっけなあ。最近はさすがにしなくなったが。こいつと出会って何年経ったか。あれは確か、俺がまだ二十七そこらの頃で……。
「なあ、お前いくつだっけ」
「何よ、急に歳の話なんてやめて」
「今更恥ずかしがるようなことかよ」
「三十六よ。まだ、三十六歳よ」
 言うと女は頬を少し膨らませ、俺の腕にしがみつき続けた。まだ三十六って、ほぼ三十七だって言ってるのと同意義じゃねえか。つうか三十六の時点で十分ババアだっての。ババアが今更何悪足掻きしてやがんだ。本当に気色悪いな。
 と馬鹿正直に口にして、機嫌を損ねられても面倒なので間違っても言いやしないが、そこでこいつと出会ってから五年経っていることを思い出した。俺が今三十二で、あの時が二十七だから、こいつと出会って同棲してからそろそろ五年経つ頃だ。
 もう潮時だよなあ、と何もない壁を見ながら思った。金を貰えるから付き合ってやっていたけれど、さすがにババアだ。ババアの老後なぞ見たくはない。五年も介護してやったんだし、もうお役御免でいいだろう、と俺は一人頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...