『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました

宵原リク

文字の大きさ
9 / 16

第9話迫る影、揺れる心

しおりを挟む
 数日が経った。
 政宗の屋敷はいつも通り静かで、番狐たちも落ち着いていた。
 ただ――私の胸の奥だけは、ふわふわと不安が残っていた。

 外に出ることを控えているせいで、庭の風の匂いを感じる時間が増えた。
 それは穏やかで、幸せなはずなのに……どこか落ち着かない。

「……政宗、今日は帰りが遅いな」

 書斎で何か調べていると言っていたけれど、
 気づけば日が暮れ始めていた。

 そんな時だった。

 コン、コン。

 控えめなノックが部屋に響く。

「椿様。政宗様がお呼びです」

「今から……?」

「はい。至急とのことです」

 胸がざわりと揺れた。
 嫌な予感がする。
 番狐の顔は普段よりわずかに緊張していた。

 私は部屋を出て、政宗の書斎へ向かった。

◆◆◆

 扉を開けた瞬間――空気が、一気に張り詰めた。

 政宗は机の前に立っていた。
 その目は鋭く、瞳の奥には金色の光がちらついている。

「椿様。来てくださってありがとうございます」

「政宗……何があったの?」

 声が震えた。
 政宗はすぐに私へ歩み寄り、そっと肩に触れる。

「驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、どうしても伝えねばならないことがあります」

「……うん」

 政宗はわずかに息を整えた。

「八代家が本日……椿様奪還の正式命令を出しました」

「…………え?」

 頭が真っ白になった。
 政宗の言葉は続く。

「名目は家の名誉を守るため。そして――椿を保護することが国の務めであるとまで言い始めています」

「そんな……」

 手が震える。
 もう家に戻る意思なんてない。
 だけど、彼らにそんな理屈は関係ないのだ。

「政宗……どうしよう……」

 泣きそうな声で縋るように言った瞬間、
 政宗は私の手を両手で包み込んだ。

「心配はいりません。必ず守ります」

「でも……あの家の人たちは……」

「ええ。彼らは強引な手段を使ってくるでしょう。
 だからこそ、椿様に伝えねばなりません」

 政宗の声が少しだけ低くなった。

「――今夜、八代家の者たちがこの屋敷の周辺に現れました」

「っ……!」

 一気に背中が強張る。

「ま、まだこの屋敷には入ってきてないのよね……?」

「安心してください。番狐たちが結界を張り、外からは絶対に入れません。
 ですが……」

「……ですが?」

「彼らは諦めていません。
 “政宗に連れて行かれた”という噂が広まり、椿様を所有物のように扱う言葉まで聞こえる」

 胸が痛くなった。
 あの家の人たちは、私の意思なんて最初から見ていなかった。

 政宗はそっと私の頬に触れ、まっすぐ見つめる。

「椿様。ここからは、私の願いでもあります」

「……政宗の?」

「はい。どうか……屋敷から離れないでください。
 外へ出た瞬間、狙われる可能性があります」

「……わかった。怖いけど……政宗がそう言うなら」

 小さく震える声で答えると、
 政宗は強く抱きしめてきた。

「大丈夫です。どれほどの敵が来ようと、私がすべて退けます。
 椿様を手放すつもりはありません」

 その言葉に胸が熱くなり、涙がにじむ。

◆◆◆

 その時――屋敷の外で、突然、鈴の音が鳴った。

 ――カラン……コォン……!

「っ、何……!?」

 驚いて身をこわばらせる。

 政宗の表情が一瞬だけ鋭くなる。

「……椿様、下がってください」

 そう言うと政宗は扉に向き直り、わずかに妖気を放つ。

「番狐たちが結界を張り直しています。ですが――
 どうやら八代家の陰祓いが一人、屋敷の結界に触れたようです」

「い、陰祓いって……八代家の……術師……?」

「ええ。家の護りを担当する、かなり腕の立つ者です」

 鼓動が早くなる。
 政宗はそんな私を抱き寄せ、低く囁くように言った。

「安心してください。結界が破られることはありません。
 ですが……これで明らかになりました」

「な、何が……?」

「八代家は正式に敵となったということです」

 その言葉に、ぞくりと背筋が震えた。
 けれど。

 政宗の腕の中は、温かかった。

「椿様。何があっても離れません。
 ……どうか、信じて」

「……うん。信じる。政宗のこと、全部」

 震える声でそう言うと、政宗は優しく微笑んだ。

「ありがとうございます。
 椿様――必ず、この手で守ります」

 外では風が鳴り、鈴が揺れる音が続いていた。

 まるで、嵐がすぐそこまで迫っているかのように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

婚約破棄したくせに「僕につきまとうな!」とほざきながらストーカーするのやめて?

百谷シカ
恋愛
「うぅーん……なんか……うん、……君、違うんだよね」 「はっ!?」 意味不明な理由で婚約破棄をぶちかましたディディエ伯爵令息アンリ・ヴァイヤン。 そんな奴はこっちから願い下げよ。 だって、結婚したって意味不明な言掛りが頻発するんでしょ? 「付き合うだけ時間の無駄よ」 黒歴史と割り切って、私は社交界に返り咲いた。 「君に惚れた。フランシーヌ、俺の妻になってくれ」 「はい。喜んで」 すぐに新たな婚約が決まった。 フェドー伯爵令息ロイク・オドラン。 そして、私たちはサヴィニャック伯爵家の晩餐会に参加した。 するとそこには…… 「おい、君! 僕につきまとうの、やめてくれないかッ!?」 「えっ!?」 元婚約者もいた。 「僕に会うために来たんだろう? そういうの迷惑だ。帰ってくれ」 「いや……」 「もう君とは終わったんだ! 僕を解放してくれ!!」 「……」 えっと、黒歴史として封印するくらい、忌み嫌ってますけど? そういう勘違い、やめてくれます? ========================== (他「エブリスタ」様に投稿)

処理中です...