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最終話 聖女の力が失われた日
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「あの、令嬢ジェーン様は……? 家族になると、親しく思うと殿下は仰いました」
「ジェーンは、兄上と一緒になるのだ。もうすぐ婚約が決まる。家族になるわけだ」
ようやく事態が飲み込めてきた私は、安堵の息を吐いた。
「ということは、ジェーン様とよく話されていたのは——」
「ソフィアと俺の様子を見て、ジェーンに問い詰められてな。俺がソフィアを愛していると言ってからは、色々と相談に乗ってもらった。彼女は君の気持ちをも確かめようとしていたはずだ」
確かにジェーン様は私に会いに来て、いろいろな話をした。
じゃあ、別の勝負って言ったのも。
「記憶力や頭の良さを大変褒めていた。仕事以外でも、飲み込みが早かったようだな。あっという間に淑女として恥ずかしくない姿に成長していく君を見て、ジェーンは喜びつつも君に負けないぞと思っていたようだ」
ジェーン様に私は認められていたんだ。
とても嬉しい。
「どうして……そんなことを……?」
「もちろん、結婚後の公務を行ってもらうためだ」
「結婚後の?」
「そうだ。ジェーンは、君を妹のように感じていたようだ。俺と君との関係については、傍観することに決めたようだったが……公務を君と共にこなすことを楽しみに待っている」
なんと言うことだ……ジェーン様は、殿下との関係をも見守って下さっていたのだ。
「じゃあ、じゃあ……殿下が手切れの品として何が欲しいか聞いてきたのは?」
「手切れの品? 何の話だ。君が質素な生活を続けているから、何か欲しいものが無いかと聞いたのだ。ネックレスでも指輪でも、なんでも用意するつもりだったのだが……あの時は、最高の答えをくれたね——」
最高……?
「——『あなたがいれば、それだけで』」
確かにそう言った。
もちろん、それは正直なあの時の気持ちだ。
思い出になるようなものなど要らない……という意味を込めていた。
でも、それがまさか、そんな風に伝わっていたとは。
「俺がいれば何も要らないなんて、最高の言葉じゃないか? 感無量になって、俺は君を抱き締めてしまった……」
私はカッと顔に血が上るのを感じた。
顔が熱くなり、瞳が潤む。
とても恥ずかしい……。
「じゃあ……寝室を分けたのは」
「あの時言ったことそのままだ。うっかり俺が我慢できず、聖女の力を失わせるわけにはいかないからね」
それって……。
私を抱きたいと?
嬉しさのあまりニヤつく口元を隠すのに必死になる。
「だが、いつまでも聖女の祈りを強いることは君の負担になるし、俺だってずっと我慢——というか、君と一緒になるために、俺主導で魔物の討伐を開始したのだ。騎士達には無理をさせてしまったが、彼らはやれやれと言いながらも良くやってくれた」
急に殿下は早口になり、関係の無さそうなことを口にしはじめた。
「我慢……?」
そう言うと、殿下は真っ赤に顔を染め、そっぽを向かれてしまう。
「そ、そこは拾うんだな。だから……だから……そんなことはもういいではないか」
真っ赤に頬を染める殿下はとても可愛らしく。
私は、もうどうにも我慢ができなくなって殿下を抱き締めた。
殿下は私の背中に腕を回しつつも、不満を漏らす。
「だから、我慢できなくなるだろう!?」
私が誤解していただけ。
殿下の行動は全て、私を思いやって下さった結果。
それに、私と早く一緒になりたくて討伐を急いだため、忙しくされていた。
ああ……もっとちゃんと向き合って話していれば、取り越し苦労はしなくてもよかったのに。
今では笑い話にできる幸せ。
殿下は、気持ちを伝えることを、私も溜め込まず気持ちを伝えるようにすることを、お互いに約束した。
これからは無理することなく俺に頼れと、殿下は言ってくださった。
私とアレックス殿下の結婚式が行われた。
お披露目の際も、私のこれまでの聖女としての実績に加え、令嬢ジェーン様から学んだ気品ある振るまいのおかげで、恥をかかずに済む。
そして……なんと、ジェーン様と王太子殿下の結婚式と同時に執り行われ、王都は大きく湧いたのだった。
待望の初夜は、もう恥ずかしくて。
でも幸せで。
思いっきり甘えた私に彼は応えてくれた。
もう我慢しなくてよいのだと、安堵の表情を浮かべて。
その日、私は聖女から「普通の人間」になった。
力を失っても、殿下の態度は全く変わらないどころか……今まで以上に、愛して下さった。
聖女としての力はなくなったけど、その特別な魔法の力以外は、ほぼそのまま。
元々、この身体の能力だということなのだろう。
結婚後に聞いた話だけど、私たちの子孫から、再び聖女が生まれるという説もあるそうだ。
とはいえ、そう言われたところでピンとこないし、本当かどうかは分からない。
私は、白き令嬢ジェーン様より教えて頂いたことを用いて、殿下の公務に付き添う。
知識は奪われない。
将来に繋がる力を与えて下さったジェーン様に頭が上がらない。
過去、国を守ってきた青き聖女。
未来に向かう力を下さった白き令嬢。
私たちは、国王や王子らと共に王国を盛り上げていく。
その結果、王国は更なる興隆を極めていくのだった——。
「ジェーンは、兄上と一緒になるのだ。もうすぐ婚約が決まる。家族になるわけだ」
ようやく事態が飲み込めてきた私は、安堵の息を吐いた。
「ということは、ジェーン様とよく話されていたのは——」
「ソフィアと俺の様子を見て、ジェーンに問い詰められてな。俺がソフィアを愛していると言ってからは、色々と相談に乗ってもらった。彼女は君の気持ちをも確かめようとしていたはずだ」
確かにジェーン様は私に会いに来て、いろいろな話をした。
じゃあ、別の勝負って言ったのも。
「記憶力や頭の良さを大変褒めていた。仕事以外でも、飲み込みが早かったようだな。あっという間に淑女として恥ずかしくない姿に成長していく君を見て、ジェーンは喜びつつも君に負けないぞと思っていたようだ」
ジェーン様に私は認められていたんだ。
とても嬉しい。
「どうして……そんなことを……?」
「もちろん、結婚後の公務を行ってもらうためだ」
「結婚後の?」
「そうだ。ジェーンは、君を妹のように感じていたようだ。俺と君との関係については、傍観することに決めたようだったが……公務を君と共にこなすことを楽しみに待っている」
なんと言うことだ……ジェーン様は、殿下との関係をも見守って下さっていたのだ。
「じゃあ、じゃあ……殿下が手切れの品として何が欲しいか聞いてきたのは?」
「手切れの品? 何の話だ。君が質素な生活を続けているから、何か欲しいものが無いかと聞いたのだ。ネックレスでも指輪でも、なんでも用意するつもりだったのだが……あの時は、最高の答えをくれたね——」
最高……?
「——『あなたがいれば、それだけで』」
確かにそう言った。
もちろん、それは正直なあの時の気持ちだ。
思い出になるようなものなど要らない……という意味を込めていた。
でも、それがまさか、そんな風に伝わっていたとは。
「俺がいれば何も要らないなんて、最高の言葉じゃないか? 感無量になって、俺は君を抱き締めてしまった……」
私はカッと顔に血が上るのを感じた。
顔が熱くなり、瞳が潤む。
とても恥ずかしい……。
「じゃあ……寝室を分けたのは」
「あの時言ったことそのままだ。うっかり俺が我慢できず、聖女の力を失わせるわけにはいかないからね」
それって……。
私を抱きたいと?
嬉しさのあまりニヤつく口元を隠すのに必死になる。
「だが、いつまでも聖女の祈りを強いることは君の負担になるし、俺だってずっと我慢——というか、君と一緒になるために、俺主導で魔物の討伐を開始したのだ。騎士達には無理をさせてしまったが、彼らはやれやれと言いながらも良くやってくれた」
急に殿下は早口になり、関係の無さそうなことを口にしはじめた。
「我慢……?」
そう言うと、殿下は真っ赤に顔を染め、そっぽを向かれてしまう。
「そ、そこは拾うんだな。だから……だから……そんなことはもういいではないか」
真っ赤に頬を染める殿下はとても可愛らしく。
私は、もうどうにも我慢ができなくなって殿下を抱き締めた。
殿下は私の背中に腕を回しつつも、不満を漏らす。
「だから、我慢できなくなるだろう!?」
私が誤解していただけ。
殿下の行動は全て、私を思いやって下さった結果。
それに、私と早く一緒になりたくて討伐を急いだため、忙しくされていた。
ああ……もっとちゃんと向き合って話していれば、取り越し苦労はしなくてもよかったのに。
今では笑い話にできる幸せ。
殿下は、気持ちを伝えることを、私も溜め込まず気持ちを伝えるようにすることを、お互いに約束した。
これからは無理することなく俺に頼れと、殿下は言ってくださった。
私とアレックス殿下の結婚式が行われた。
お披露目の際も、私のこれまでの聖女としての実績に加え、令嬢ジェーン様から学んだ気品ある振るまいのおかげで、恥をかかずに済む。
そして……なんと、ジェーン様と王太子殿下の結婚式と同時に執り行われ、王都は大きく湧いたのだった。
待望の初夜は、もう恥ずかしくて。
でも幸せで。
思いっきり甘えた私に彼は応えてくれた。
もう我慢しなくてよいのだと、安堵の表情を浮かべて。
その日、私は聖女から「普通の人間」になった。
力を失っても、殿下の態度は全く変わらないどころか……今まで以上に、愛して下さった。
聖女としての力はなくなったけど、その特別な魔法の力以外は、ほぼそのまま。
元々、この身体の能力だということなのだろう。
結婚後に聞いた話だけど、私たちの子孫から、再び聖女が生まれるという説もあるそうだ。
とはいえ、そう言われたところでピンとこないし、本当かどうかは分からない。
私は、白き令嬢ジェーン様より教えて頂いたことを用いて、殿下の公務に付き添う。
知識は奪われない。
将来に繋がる力を与えて下さったジェーン様に頭が上がらない。
過去、国を守ってきた青き聖女。
未来に向かう力を下さった白き令嬢。
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その結果、王国は更なる興隆を極めていくのだった——。
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