5 / 5
最終話 聖女の力が失われた日
しおりを挟む
「あの、令嬢ジェーン様は……? 家族になると、親しく思うと殿下は仰いました」
「ジェーンは、兄上と一緒になるのだ。もうすぐ婚約が決まる。家族になるわけだ」
ようやく事態が飲み込めてきた私は、安堵の息を吐いた。
「ということは、ジェーン様とよく話されていたのは——」
「ソフィアと俺の様子を見て、ジェーンに問い詰められてな。俺がソフィアを愛していると言ってからは、色々と相談に乗ってもらった。彼女は君の気持ちをも確かめようとしていたはずだ」
確かにジェーン様は私に会いに来て、いろいろな話をした。
じゃあ、別の勝負って言ったのも。
「記憶力や頭の良さを大変褒めていた。仕事以外でも、飲み込みが早かったようだな。あっという間に淑女として恥ずかしくない姿に成長していく君を見て、ジェーンは喜びつつも君に負けないぞと思っていたようだ」
ジェーン様に私は認められていたんだ。
とても嬉しい。
「どうして……そんなことを……?」
「もちろん、結婚後の公務を行ってもらうためだ」
「結婚後の?」
「そうだ。ジェーンは、君を妹のように感じていたようだ。俺と君との関係については、傍観することに決めたようだったが……公務を君と共にこなすことを楽しみに待っている」
なんと言うことだ……ジェーン様は、殿下との関係をも見守って下さっていたのだ。
「じゃあ、じゃあ……殿下が手切れの品として何が欲しいか聞いてきたのは?」
「手切れの品? 何の話だ。君が質素な生活を続けているから、何か欲しいものが無いかと聞いたのだ。ネックレスでも指輪でも、なんでも用意するつもりだったのだが……あの時は、最高の答えをくれたね——」
最高……?
「——『あなたがいれば、それだけで』」
確かにそう言った。
もちろん、それは正直なあの時の気持ちだ。
思い出になるようなものなど要らない……という意味を込めていた。
でも、それがまさか、そんな風に伝わっていたとは。
「俺がいれば何も要らないなんて、最高の言葉じゃないか? 感無量になって、俺は君を抱き締めてしまった……」
私はカッと顔に血が上るのを感じた。
顔が熱くなり、瞳が潤む。
とても恥ずかしい……。
「じゃあ……寝室を分けたのは」
「あの時言ったことそのままだ。うっかり俺が我慢できず、聖女の力を失わせるわけにはいかないからね」
それって……。
私を抱きたいと?
嬉しさのあまりニヤつく口元を隠すのに必死になる。
「だが、いつまでも聖女の祈りを強いることは君の負担になるし、俺だってずっと我慢——というか、君と一緒になるために、俺主導で魔物の討伐を開始したのだ。騎士達には無理をさせてしまったが、彼らはやれやれと言いながらも良くやってくれた」
急に殿下は早口になり、関係の無さそうなことを口にしはじめた。
「我慢……?」
そう言うと、殿下は真っ赤に顔を染め、そっぽを向かれてしまう。
「そ、そこは拾うんだな。だから……だから……そんなことはもういいではないか」
真っ赤に頬を染める殿下はとても可愛らしく。
私は、もうどうにも我慢ができなくなって殿下を抱き締めた。
殿下は私の背中に腕を回しつつも、不満を漏らす。
「だから、我慢できなくなるだろう!?」
私が誤解していただけ。
殿下の行動は全て、私を思いやって下さった結果。
それに、私と早く一緒になりたくて討伐を急いだため、忙しくされていた。
ああ……もっとちゃんと向き合って話していれば、取り越し苦労はしなくてもよかったのに。
今では笑い話にできる幸せ。
殿下は、気持ちを伝えることを、私も溜め込まず気持ちを伝えるようにすることを、お互いに約束した。
これからは無理することなく俺に頼れと、殿下は言ってくださった。
私とアレックス殿下の結婚式が行われた。
お披露目の際も、私のこれまでの聖女としての実績に加え、令嬢ジェーン様から学んだ気品ある振るまいのおかげで、恥をかかずに済む。
そして……なんと、ジェーン様と王太子殿下の結婚式と同時に執り行われ、王都は大きく湧いたのだった。
待望の初夜は、もう恥ずかしくて。
でも幸せで。
思いっきり甘えた私に彼は応えてくれた。
もう我慢しなくてよいのだと、安堵の表情を浮かべて。
その日、私は聖女から「普通の人間」になった。
力を失っても、殿下の態度は全く変わらないどころか……今まで以上に、愛して下さった。
聖女としての力はなくなったけど、その特別な魔法の力以外は、ほぼそのまま。
元々、この身体の能力だということなのだろう。
結婚後に聞いた話だけど、私たちの子孫から、再び聖女が生まれるという説もあるそうだ。
とはいえ、そう言われたところでピンとこないし、本当かどうかは分からない。
私は、白き令嬢ジェーン様より教えて頂いたことを用いて、殿下の公務に付き添う。
知識は奪われない。
将来に繋がる力を与えて下さったジェーン様に頭が上がらない。
過去、国を守ってきた青き聖女。
未来に向かう力を下さった白き令嬢。
私たちは、国王や王子らと共に王国を盛り上げていく。
その結果、王国は更なる興隆を極めていくのだった——。
「ジェーンは、兄上と一緒になるのだ。もうすぐ婚約が決まる。家族になるわけだ」
ようやく事態が飲み込めてきた私は、安堵の息を吐いた。
「ということは、ジェーン様とよく話されていたのは——」
「ソフィアと俺の様子を見て、ジェーンに問い詰められてな。俺がソフィアを愛していると言ってからは、色々と相談に乗ってもらった。彼女は君の気持ちをも確かめようとしていたはずだ」
確かにジェーン様は私に会いに来て、いろいろな話をした。
じゃあ、別の勝負って言ったのも。
「記憶力や頭の良さを大変褒めていた。仕事以外でも、飲み込みが早かったようだな。あっという間に淑女として恥ずかしくない姿に成長していく君を見て、ジェーンは喜びつつも君に負けないぞと思っていたようだ」
ジェーン様に私は認められていたんだ。
とても嬉しい。
「どうして……そんなことを……?」
「もちろん、結婚後の公務を行ってもらうためだ」
「結婚後の?」
「そうだ。ジェーンは、君を妹のように感じていたようだ。俺と君との関係については、傍観することに決めたようだったが……公務を君と共にこなすことを楽しみに待っている」
なんと言うことだ……ジェーン様は、殿下との関係をも見守って下さっていたのだ。
「じゃあ、じゃあ……殿下が手切れの品として何が欲しいか聞いてきたのは?」
「手切れの品? 何の話だ。君が質素な生活を続けているから、何か欲しいものが無いかと聞いたのだ。ネックレスでも指輪でも、なんでも用意するつもりだったのだが……あの時は、最高の答えをくれたね——」
最高……?
「——『あなたがいれば、それだけで』」
確かにそう言った。
もちろん、それは正直なあの時の気持ちだ。
思い出になるようなものなど要らない……という意味を込めていた。
でも、それがまさか、そんな風に伝わっていたとは。
「俺がいれば何も要らないなんて、最高の言葉じゃないか? 感無量になって、俺は君を抱き締めてしまった……」
私はカッと顔に血が上るのを感じた。
顔が熱くなり、瞳が潤む。
とても恥ずかしい……。
「じゃあ……寝室を分けたのは」
「あの時言ったことそのままだ。うっかり俺が我慢できず、聖女の力を失わせるわけにはいかないからね」
それって……。
私を抱きたいと?
嬉しさのあまりニヤつく口元を隠すのに必死になる。
「だが、いつまでも聖女の祈りを強いることは君の負担になるし、俺だってずっと我慢——というか、君と一緒になるために、俺主導で魔物の討伐を開始したのだ。騎士達には無理をさせてしまったが、彼らはやれやれと言いながらも良くやってくれた」
急に殿下は早口になり、関係の無さそうなことを口にしはじめた。
「我慢……?」
そう言うと、殿下は真っ赤に顔を染め、そっぽを向かれてしまう。
「そ、そこは拾うんだな。だから……だから……そんなことはもういいではないか」
真っ赤に頬を染める殿下はとても可愛らしく。
私は、もうどうにも我慢ができなくなって殿下を抱き締めた。
殿下は私の背中に腕を回しつつも、不満を漏らす。
「だから、我慢できなくなるだろう!?」
私が誤解していただけ。
殿下の行動は全て、私を思いやって下さった結果。
それに、私と早く一緒になりたくて討伐を急いだため、忙しくされていた。
ああ……もっとちゃんと向き合って話していれば、取り越し苦労はしなくてもよかったのに。
今では笑い話にできる幸せ。
殿下は、気持ちを伝えることを、私も溜め込まず気持ちを伝えるようにすることを、お互いに約束した。
これからは無理することなく俺に頼れと、殿下は言ってくださった。
私とアレックス殿下の結婚式が行われた。
お披露目の際も、私のこれまでの聖女としての実績に加え、令嬢ジェーン様から学んだ気品ある振るまいのおかげで、恥をかかずに済む。
そして……なんと、ジェーン様と王太子殿下の結婚式と同時に執り行われ、王都は大きく湧いたのだった。
待望の初夜は、もう恥ずかしくて。
でも幸せで。
思いっきり甘えた私に彼は応えてくれた。
もう我慢しなくてよいのだと、安堵の表情を浮かべて。
その日、私は聖女から「普通の人間」になった。
力を失っても、殿下の態度は全く変わらないどころか……今まで以上に、愛して下さった。
聖女としての力はなくなったけど、その特別な魔法の力以外は、ほぼそのまま。
元々、この身体の能力だということなのだろう。
結婚後に聞いた話だけど、私たちの子孫から、再び聖女が生まれるという説もあるそうだ。
とはいえ、そう言われたところでピンとこないし、本当かどうかは分からない。
私は、白き令嬢ジェーン様より教えて頂いたことを用いて、殿下の公務に付き添う。
知識は奪われない。
将来に繋がる力を与えて下さったジェーン様に頭が上がらない。
過去、国を守ってきた青き聖女。
未来に向かう力を下さった白き令嬢。
私たちは、国王や王子らと共に王国を盛り上げていく。
その結果、王国は更なる興隆を極めていくのだった——。
74
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
これからもあなたが幸せでありますように。
石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。
小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
殿下、私の身体だけが目当てなんですね!
石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。
それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。
ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる