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episode1:ここは現実――止しといて欲しかった
第7話 極度に状況をわきまえない義侠心は、下心と見分けがつきにくい
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「レダのやつ……なあおっさん、分かってると思うが――」
「ああ。本気にするわけあるか」
あの女、レダ・ハーケンを抱ける? くわばら、くわばら、だ。彼女が何を思ってあんなことを言うのかわからないが、そんな煽り文句を本気にして実力以上に頑張ったりしたら絶対死ぬに決まってる。
何せこっちは、いきなり訳も分からないまま戦場に放り込まれて、たった一回だまし討ちの不意打ちで格上を殺しただけのビギナーに過ぎない。何をやってもそこら中に死因だらけだろう。
「右も左も分からん世界で、明日から武装警備員だ。浮かれてるヒマはない」
「そうか、なら安心した――」
――トマツリ分隊長、ちょっと……
いつのまにかそばに寄ってきていた、さっきのヒョロい青年がトマツリに何ごとか耳打ちする。その内容を聞いたトマツリの顔が、さっと曇った。
「そりゃあ、弱ったな……」
「どうしたんだ?」
気になったのであえて聞いてみる。こんな状況では空気を読む余裕もない。
「いや、それがな……空くはずだと思ってた住宅が、空かなくなった」
「ん……俺のか?」
トマツリが首を横に振った。
「あんたの分はR.A.T.sの宿舎を一人分まわすからいいんだ。問題は……あのニコルって子のほうさ。今日結婚するはずだったカップルが婚約を解消してな、一つ空くはずだった部屋が据え置きになったんだ」
「なんだそりゃ……あんたらやっぱり、結構余裕あるんじゃねえか? ……そういえばさっき、動けないって言ってたのはどうしたんだ?」
トマツリがきょとんとした顔をしたので、俺は話の接ぎ穂にちょっと窮した。
「あの、ほら。センチネルの操縦を教えてもらった時の」
――アレかあ、とトマツリが呆けた声を上げた。
「や、崩れた梁材が指揮車の上に落ちてきてな……フレームとドライブシャフトがつぶれて動けなくなったんだ。迂闊に出ると掃射を食らうから、死んだふりして車の中でじっとしてた」
「あ。さっき駐機場で見た車、それか」
「そういうことだ。しかし参ったな……」
「よくわからんが、住宅事情ってそんなにひっ迫してるのか? さっきの戦闘で壊れたあたりには人影もないようだったが」
「いや、むしろそれが答えだ。建物だけあっても住めるわけじゃないんだ。電気や上下水道の設備も必要になる」
言われて胸に落ちた。なるほど、そりゃそうだ。箱だけ用意してインフラがないんじゃ、ホームレスや難民と大して変わらない。
あの女の子、ニコルに割り当てる住宅が無いとなると――その時、不意にアイデアが一つ頭にひらめいた。ひらめいたもののどうにも愚かしい案で、口に出すのがややためらわれたのだが。
「なあ。もうひとつ質問なんだが……俺に回してくれる宿舎って、何部屋くらいある?」
「ん。二部屋あるが……え、おい、まさか」
「うん。他にどうしても調整がつかなければ、俺の宿舎にしばらく預かってもいいんじゃないかと」
「認められるわけないだろ! あんた莫迦か! ちょっと待て、他の……女の隊員にあたってみるから」
マイクで立て続けにあちこちへ問い合わせを入れるトマツリだったが、どうやらそのことごとくが断られたらしかった。消沈した顔で言うには――
「ダメだ。部屋の片づけが面倒くさいとか、非番の時に恋人を呼べなくなるとか……あいつらと来たら!」
「自由な感じで、いい部隊だな?」
「いつ殉職するか分からんから、あんまり煩いことも言えないんだよなあ……」
仕方なしに、二人でさっきの食堂というか談話室に戻って、ニコルに事の次第を打ち明けた。だが、彼女は意外にも、ニッコリと微笑んで答えたのだ。
「いいですよ。前いたところでは一人ずつの部屋なんてなかったし……それに、おじさんは私のこと助けようとしてくれたし、ここで最初の知り合いですから……あ、臭いのは我慢します」
「そろそろ許してくれよ……ニンニクの匂いなら二日もすれば抜けるから」
かくして、俺のこの世界での最初の一日は概ね終った。俺とニコルは宿舎に案内され、大小二つの部屋をそれぞれ使うことになった。くじ引きの結果、俺が小さい方だ。シャワーを交代で使ったが、特に浴室で鉢合わせるようなこともなく。
俺はその夜遅くまで、貸与されたこっちの携帯端末機――蓋つきの懐中時計を思わせるボディから、空中にUIの映像が投影されるタイプのそれをいじって過ごした。
ベッドわきの壁に掛けられたハンガーには制服。サイドテーブルの上にはサクラギがつけていたのと同じタイプのヘルメット。
規格が全然違うせいで、会社のやつからこっちの端末機にデータを移すことはできなかった。充電も無理だ。残り十パーセントほどのバッテリーを惜しんで、俺はそれっきり古い携帯の電源を落とし、他の持ち物と一緒にクローゼットにしまいこんだ。
「ああ。本気にするわけあるか」
あの女、レダ・ハーケンを抱ける? くわばら、くわばら、だ。彼女が何を思ってあんなことを言うのかわからないが、そんな煽り文句を本気にして実力以上に頑張ったりしたら絶対死ぬに決まってる。
何せこっちは、いきなり訳も分からないまま戦場に放り込まれて、たった一回だまし討ちの不意打ちで格上を殺しただけのビギナーに過ぎない。何をやってもそこら中に死因だらけだろう。
「右も左も分からん世界で、明日から武装警備員だ。浮かれてるヒマはない」
「そうか、なら安心した――」
――トマツリ分隊長、ちょっと……
いつのまにかそばに寄ってきていた、さっきのヒョロい青年がトマツリに何ごとか耳打ちする。その内容を聞いたトマツリの顔が、さっと曇った。
「そりゃあ、弱ったな……」
「どうしたんだ?」
気になったのであえて聞いてみる。こんな状況では空気を読む余裕もない。
「いや、それがな……空くはずだと思ってた住宅が、空かなくなった」
「ん……俺のか?」
トマツリが首を横に振った。
「あんたの分はR.A.T.sの宿舎を一人分まわすからいいんだ。問題は……あのニコルって子のほうさ。今日結婚するはずだったカップルが婚約を解消してな、一つ空くはずだった部屋が据え置きになったんだ」
「なんだそりゃ……あんたらやっぱり、結構余裕あるんじゃねえか? ……そういえばさっき、動けないって言ってたのはどうしたんだ?」
トマツリがきょとんとした顔をしたので、俺は話の接ぎ穂にちょっと窮した。
「あの、ほら。センチネルの操縦を教えてもらった時の」
――アレかあ、とトマツリが呆けた声を上げた。
「や、崩れた梁材が指揮車の上に落ちてきてな……フレームとドライブシャフトがつぶれて動けなくなったんだ。迂闊に出ると掃射を食らうから、死んだふりして車の中でじっとしてた」
「あ。さっき駐機場で見た車、それか」
「そういうことだ。しかし参ったな……」
「よくわからんが、住宅事情ってそんなにひっ迫してるのか? さっきの戦闘で壊れたあたりには人影もないようだったが」
「いや、むしろそれが答えだ。建物だけあっても住めるわけじゃないんだ。電気や上下水道の設備も必要になる」
言われて胸に落ちた。なるほど、そりゃそうだ。箱だけ用意してインフラがないんじゃ、ホームレスや難民と大して変わらない。
あの女の子、ニコルに割り当てる住宅が無いとなると――その時、不意にアイデアが一つ頭にひらめいた。ひらめいたもののどうにも愚かしい案で、口に出すのがややためらわれたのだが。
「なあ。もうひとつ質問なんだが……俺に回してくれる宿舎って、何部屋くらいある?」
「ん。二部屋あるが……え、おい、まさか」
「うん。他にどうしても調整がつかなければ、俺の宿舎にしばらく預かってもいいんじゃないかと」
「認められるわけないだろ! あんた莫迦か! ちょっと待て、他の……女の隊員にあたってみるから」
マイクで立て続けにあちこちへ問い合わせを入れるトマツリだったが、どうやらそのことごとくが断られたらしかった。消沈した顔で言うには――
「ダメだ。部屋の片づけが面倒くさいとか、非番の時に恋人を呼べなくなるとか……あいつらと来たら!」
「自由な感じで、いい部隊だな?」
「いつ殉職するか分からんから、あんまり煩いことも言えないんだよなあ……」
仕方なしに、二人でさっきの食堂というか談話室に戻って、ニコルに事の次第を打ち明けた。だが、彼女は意外にも、ニッコリと微笑んで答えたのだ。
「いいですよ。前いたところでは一人ずつの部屋なんてなかったし……それに、おじさんは私のこと助けようとしてくれたし、ここで最初の知り合いですから……あ、臭いのは我慢します」
「そろそろ許してくれよ……ニンニクの匂いなら二日もすれば抜けるから」
かくして、俺のこの世界での最初の一日は概ね終った。俺とニコルは宿舎に案内され、大小二つの部屋をそれぞれ使うことになった。くじ引きの結果、俺が小さい方だ。シャワーを交代で使ったが、特に浴室で鉢合わせるようなこともなく。
俺はその夜遅くまで、貸与されたこっちの携帯端末機――蓋つきの懐中時計を思わせるボディから、空中にUIの映像が投影されるタイプのそれをいじって過ごした。
ベッドわきの壁に掛けられたハンガーには制服。サイドテーブルの上にはサクラギがつけていたのと同じタイプのヘルメット。
規格が全然違うせいで、会社のやつからこっちの端末機にデータを移すことはできなかった。充電も無理だ。残り十パーセントほどのバッテリーを惜しんで、俺はそれっきり古い携帯の電源を落とし、他の持ち物と一緒にクローゼットにしまいこんだ。
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