14 / 37
episode2:R.A.T.s期待の新人リガー、その名は!
第14話 何かが、潜んでいる
しおりを挟む
〈最初、検索しても全然それらしい情報が引っ掛からなくてさ。範囲をだいぶ広げてみたのよ。で、昨日聞いた話じゃニコルは車で運ばれてた間の食事を、二回か三回って曖昧な回数で言ってたでしょ〉
「ああ、そうだったな……」
〈つまり、食事の間隔は回数が分からなくなる程度離れてた。ただしその後荒野を横断できる程度には体力は残っていた……とすると、たぶん施設を出てから三日くらいは車で移動したと思うのよね。そうすると――〉
「何か見つけた?」
〈いや、それが全然。よほど巧妙に隠してたのかわからないけど、ギムナンから半径二百キロに範囲を広げてもそれらしい施設はなかった。ただね……〉
レダは画面の向こうで、自室の大型ターミナルを操作する様子だった。カメラから離れた彼女の膝から上が視界に入り、ショートパンツとスポーツブラしか身に着けていないことに気付いて俺は慌てて目をそらした。
一瞬画面が暗転し、再び顔がアップになる。彼女の肩越しに、照明をやや落とした薄い抹茶色の壁と、そこに掛けられた小さな銅版画らしきものの額が目に入った。
〈五日前に、GEOGRAAFの保安部隊が、所属不明の輸送機を目撃してる。距離と高度があったせいで正体は確かめられなかった、ってことらしいけど……どうもCC-45みたいでね〉
初めて耳にする固有名詞が二つもあり、反応に困る。幸い、レダはすぐ自分の過ちに気付いたらしかった。
〈あー、ごめんごめん……GEOGRAAFはこっちの大陸で一番大きな管理複合体の基幹企業でさ。モーターグリフやトレッド・リグの、定番って言われるアッセンブリー・パックを売ってるとこ。昨日見たランベルトなんかがその代表かな。そんで、CC-45ってのは昔の軍用大型輸送機でさ〉
なるほど、そういう会社か。つまりランベルトというのは、機種名というよりそのパーツを組み合わせた購入プランの一つなのだろう。それで、あれだ――
「大型輸送機、か……ちょいちょい野暮用で飛ばす、って訳にはいかなそうな代物だな」
〈うん。これがね……戦車二輌くらいは余裕で運べるんだわ。機体の全高の関係で、さすがにモーターグリフは無理だけどね〉
そういうのは専用の輸送機がある、と彼女は横を向いて付け加えた。なお視線の先に何があるかは不明。
「なるほど。施設を襲った部隊を、運んだのかもな……」
〈あともう一つ。一昨日の記録だけど、イリディセントって企業から短時間の飛行訓練の連絡が入ってた。その空域がギムナンからかなり近くてさ……八キロしか離れてないんだ〉
「おい、そりゃあ……」
大本命だ、そう思った。状況も時間も符合するし、かなり怪しいではないか。
「イリディセントってのは、何をやってる企業だ?」
〈生化学や遺伝子工学関連の重要パテントを山ほど抱えてる、バイオ系の会社。ギムナンで供給してる食事パックに謎な肉入ってるでしょ? あれなんかもそうだよ、大豆たんぱくから合成した食肉風成形品ってやつね〉
「ふぅむ……」
ニコルたちを施設に集めて養育していた、という話と結びつけると、かなりエグい背景がありそうな感じだ。しかし――
〈ニコルの話だと他の子たちはあとから来た方の集団に車で運ばれたみたいだから、直接の関係はないかも〉
レダも一度はそういう方向を疑ったようだが、どうやらそれは否定するらしい。
「ギムナンへの襲撃はどうだ? 俺が遭遇したランベルトが、何か探していたような動きだったんだが……」
〈ん、どうかな。ニコルの件とつながりがあるとしたら、わざわざモーターグリフで突っ込むような露骨な敵対行為をしなくても、やりようがありそうなんだよねえ……ま、もう少し調べてみる。姉貴とトマツリにもこの件は共有してあるよ。なんか参考になったらいいな〉
「わかった、お疲れさん。しかし、思いのほか話がデカくなりそうで少々怖いな……くれぐれも気をつけてくれ」
〈ありがと……心配してくれるんだ〉
「そりゃあ、まあ――」
こっちで出来た数少ない知り合いの一人だし。そう言おうとしたら、レダがけたけたと笑ってカメラに大きく顔を寄せてきた。
〈おっさんと寝る前にあたしが死んじまったら、もったいないもんね!〉
「おまっ……ちが――!!」
弁明の暇もなく、通話が切れた。ええクソ、こんなおっさんをからかってそんなに楽しいのか。
「……そりゃさあ。俺だって木石じゃねえんだ。良い女に脈ありそうなとこ見せられたら、ちょっと意識ぐらいはするさ……でもなあ」
(まだ、今はそれどころじゃねえんだよなぁ)
別室の大型ターミナルで何か見ているらしいニコルをそっと振り返る。右も左もまだわからない未来世界で、身寄りのない少女を抱え込んで。俺は一体何をやっているのか。
「お電話、終ったんです?」
ニコルがそう訊きながら、ターミナルの前からこっちへ歩いてきた。
「ああ、終った」
「私もう寝るけど……おじさん、女の子と一緒に寝るのが好きなの? だったら……私が一緒に寝てあげよっか?」
無邪気な様子でそんなことを言い出す――ああ、こりゃあこの子、まだ何もわかってねぇんだわな。
「あ、いや。おじさんまだちょっと臭いと思うんでな……やめとくわ」
「……そう」
そっけなく受け入れると、ニコルは自分の部屋のベッドへ行ってしまった。ドアが閉まった後で、俺は日本海溝の底に届きそうな深い深いため息をついた。
「ああ、そうだったな……」
〈つまり、食事の間隔は回数が分からなくなる程度離れてた。ただしその後荒野を横断できる程度には体力は残っていた……とすると、たぶん施設を出てから三日くらいは車で移動したと思うのよね。そうすると――〉
「何か見つけた?」
〈いや、それが全然。よほど巧妙に隠してたのかわからないけど、ギムナンから半径二百キロに範囲を広げてもそれらしい施設はなかった。ただね……〉
レダは画面の向こうで、自室の大型ターミナルを操作する様子だった。カメラから離れた彼女の膝から上が視界に入り、ショートパンツとスポーツブラしか身に着けていないことに気付いて俺は慌てて目をそらした。
一瞬画面が暗転し、再び顔がアップになる。彼女の肩越しに、照明をやや落とした薄い抹茶色の壁と、そこに掛けられた小さな銅版画らしきものの額が目に入った。
〈五日前に、GEOGRAAFの保安部隊が、所属不明の輸送機を目撃してる。距離と高度があったせいで正体は確かめられなかった、ってことらしいけど……どうもCC-45みたいでね〉
初めて耳にする固有名詞が二つもあり、反応に困る。幸い、レダはすぐ自分の過ちに気付いたらしかった。
〈あー、ごめんごめん……GEOGRAAFはこっちの大陸で一番大きな管理複合体の基幹企業でさ。モーターグリフやトレッド・リグの、定番って言われるアッセンブリー・パックを売ってるとこ。昨日見たランベルトなんかがその代表かな。そんで、CC-45ってのは昔の軍用大型輸送機でさ〉
なるほど、そういう会社か。つまりランベルトというのは、機種名というよりそのパーツを組み合わせた購入プランの一つなのだろう。それで、あれだ――
「大型輸送機、か……ちょいちょい野暮用で飛ばす、って訳にはいかなそうな代物だな」
〈うん。これがね……戦車二輌くらいは余裕で運べるんだわ。機体の全高の関係で、さすがにモーターグリフは無理だけどね〉
そういうのは専用の輸送機がある、と彼女は横を向いて付け加えた。なお視線の先に何があるかは不明。
「なるほど。施設を襲った部隊を、運んだのかもな……」
〈あともう一つ。一昨日の記録だけど、イリディセントって企業から短時間の飛行訓練の連絡が入ってた。その空域がギムナンからかなり近くてさ……八キロしか離れてないんだ〉
「おい、そりゃあ……」
大本命だ、そう思った。状況も時間も符合するし、かなり怪しいではないか。
「イリディセントってのは、何をやってる企業だ?」
〈生化学や遺伝子工学関連の重要パテントを山ほど抱えてる、バイオ系の会社。ギムナンで供給してる食事パックに謎な肉入ってるでしょ? あれなんかもそうだよ、大豆たんぱくから合成した食肉風成形品ってやつね〉
「ふぅむ……」
ニコルたちを施設に集めて養育していた、という話と結びつけると、かなりエグい背景がありそうな感じだ。しかし――
〈ニコルの話だと他の子たちはあとから来た方の集団に車で運ばれたみたいだから、直接の関係はないかも〉
レダも一度はそういう方向を疑ったようだが、どうやらそれは否定するらしい。
「ギムナンへの襲撃はどうだ? 俺が遭遇したランベルトが、何か探していたような動きだったんだが……」
〈ん、どうかな。ニコルの件とつながりがあるとしたら、わざわざモーターグリフで突っ込むような露骨な敵対行為をしなくても、やりようがありそうなんだよねえ……ま、もう少し調べてみる。姉貴とトマツリにもこの件は共有してあるよ。なんか参考になったらいいな〉
「わかった、お疲れさん。しかし、思いのほか話がデカくなりそうで少々怖いな……くれぐれも気をつけてくれ」
〈ありがと……心配してくれるんだ〉
「そりゃあ、まあ――」
こっちで出来た数少ない知り合いの一人だし。そう言おうとしたら、レダがけたけたと笑ってカメラに大きく顔を寄せてきた。
〈おっさんと寝る前にあたしが死んじまったら、もったいないもんね!〉
「おまっ……ちが――!!」
弁明の暇もなく、通話が切れた。ええクソ、こんなおっさんをからかってそんなに楽しいのか。
「……そりゃさあ。俺だって木石じゃねえんだ。良い女に脈ありそうなとこ見せられたら、ちょっと意識ぐらいはするさ……でもなあ」
(まだ、今はそれどころじゃねえんだよなぁ)
別室の大型ターミナルで何か見ているらしいニコルをそっと振り返る。右も左もまだわからない未来世界で、身寄りのない少女を抱え込んで。俺は一体何をやっているのか。
「お電話、終ったんです?」
ニコルがそう訊きながら、ターミナルの前からこっちへ歩いてきた。
「ああ、終った」
「私もう寝るけど……おじさん、女の子と一緒に寝るのが好きなの? だったら……私が一緒に寝てあげよっか?」
無邪気な様子でそんなことを言い出す――ああ、こりゃあこの子、まだ何もわかってねぇんだわな。
「あ、いや。おじさんまだちょっと臭いと思うんでな……やめとくわ」
「……そう」
そっけなく受け入れると、ニコルは自分の部屋のベッドへ行ってしまった。ドアが閉まった後で、俺は日本海溝の底に届きそうな深い深いため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる