退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode2:R.A.T.s期待の新人リガー、その名は!

第14話 何かが、潜んでいる

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〈最初、検索しても全然それらしい情報が引っ掛からなくてさ。範囲をだいぶ広げてみたのよ。で、昨日聞いた話じゃニコルは車で運ばれてた間の食事を、二回か三回って曖昧な回数で言ってたでしょ〉

「ああ、そうだったな……」

〈つまり、食事の間隔は回数が分からなくなる程度離れてた。ただしその後荒野を横断できる程度には体力は残っていた……とすると、たぶん施設を出てから三日くらいは車で移動したと思うのよね。そうすると――〉

「何か見つけた?」

〈いや、それが全然。よほど巧妙に隠してたのかわからないけど、ギムナンから半径二百キロに範囲を広げてもそれらしい施設はなかった。ただね……〉

 レダは画面の向こうで、自室の大型ターミナルを操作する様子だった。カメラから離れた彼女の膝から上が視界に入り、ショートパンツとスポーツブラしか身に着けていないことに気付いて俺は慌てて目をそらした。
 一瞬画面が暗転し、再び顔がアップになる。彼女の肩越しに、照明をやや落とした薄い抹茶色の壁と、そこに掛けられた小さな銅版画らしきものの額が目に入った。

〈五日前に、GEOGRAAFゲオ・グラーフの保安部隊が、所属不明の輸送機を目撃してる。距離と高度があったせいで正体は確かめられなかった、ってことらしいけど……どうもCC-45みたいでね〉

 初めて耳にする固有名詞が二つもあり、反応に困る。幸い、レダはすぐ自分の過ちに気付いたらしかった。

〈あー、ごめんごめん……GEOGRAAFゲオ・グラーフはこっちの大陸で一番大きな管理複合体コープレックスの基幹企業でさ。モーターグリフやトレッド・リグの、定番って言われるアッセンブリー・パックを売ってるとこ。昨日見たランベルトなんかがその代表かな。そんで、CC-45ってのは昔の軍用大型輸送機でさ〉

 なるほど、そういう会社か。つまりランベルトというのは、機種名というよりそのパーツを組み合わせた購入プランの一つなのだろう。それで、あれだ――

「大型輸送機、か……ちょいちょい野暮用で飛ばす、って訳にはいかなそうな代物だな」

〈うん。これがね……戦車二輌くらいは余裕で運べるんだわ。機体の全高の関係で、さすがにモーターグリフは無理だけどね〉

 そういうのは専用の輸送機がある、と彼女は横を向いて付け加えた。なお視線の先に何があるかは不明。

「なるほど。施設を襲った部隊を、運んだのかもな……」

〈あともう一つ。一昨日の記録だけど、イリディセントって企業から短時間の飛行訓練の連絡が入ってた。その空域がギムナンからかなり近くてさ……八キロしか離れてないんだ〉

「おい、そりゃあ……」

 大本命だ、そう思った。状況も時間も符合するし、かなり怪しいではないか。

「イリディセントってのは、何をやってる企業だ?」

〈生化学や遺伝子工学関連の重要パテントを山ほど抱えてる、バイオ系の会社。ギムナンで供給してる食事パックに謎な肉入ってるでしょ? あれなんかもそうだよ、大豆たんぱくから合成した食肉風成形品ってやつね〉

「ふぅむ……」

 ニコルたちを施設に集めて養育していた、という話と結びつけると、かなりエグい背景がありそうな感じだ。しかし――

〈ニコルの話だと他の子たちはあとから来た方の集団に車で運ばれたみたいだから、直接の関係はないかも〉

 レダも一度はそういう方向を疑ったようだが、どうやらそれは否定するらしい。

「ギムナンへの襲撃はどうだ? 俺が遭遇したランベルトが、何か探していたような動きだったんだが……」

〈ん、どうかな。ニコルの件とつながりがあるとしたら、わざわざモーターグリフで突っ込むような露骨な敵対行為をしなくても、やりようがありそうなんだよねえ……ま、もう少し調べてみる。姉貴とトマツリにもこの件は共有してあるよ。なんか参考になったらいいな〉

「わかった、お疲れさん。しかし、思いのほか話がデカくなりそうで少々怖いな……くれぐれも気をつけてくれ」

〈ありがと……心配してくれるんだ〉

「そりゃあ、まあ――」

 こっちで出来た数少ない知り合いの一人だし。そう言おうとしたら、レダがけたけたと笑ってカメラに大きく顔を寄せてきた。

〈おっさんと寝る前にあたしが死んじまったら、もったいないもんね!〉

「おまっ……ちが――!!」

 弁明の暇もなく、通話が切れた。ええクソ、こんなおっさんをからかってそんなに楽しいのか。

「……そりゃさあ。俺だって木石ぼくせきじゃねえんだ。良い女に脈ありそうなとこ見せられたら、ちょっと意識ぐらいはするさ……でもなあ」

(まだ、今はそれどころじゃねえんだよなぁ)

 別室の大型ターミナルで何か見ているらしいニコルをそっと振り返る。右も左もまだわからない未来世界で、身寄りのない少女を抱え込んで。俺は一体何をやっているのか。

「お電話、終ったんです?」

 ニコルがそう訊きながら、ターミナルの前からこっちへ歩いてきた。

「ああ、終った」

「私もう寝るけど……おじさん、女の子と一緒に寝るのが好きなの? だったら……私が一緒に寝てあげよっか?」

 無邪気な様子でそんなことを言い出す――ああ、こりゃあこの子、まだ何もわかってねぇんだわな。

「あ、いや。おじさんまだちょっと臭いと思うんでな……やめとくわ」

「……そう」

 そっけなく受け入れると、ニコルは自分の部屋のベッドへ行ってしまった。ドアが閉まった後で、俺は日本海溝の底に届きそうな深い深いため息をついた。
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