退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

文字の大きさ
15 / 37
episode3:おっさんは不意にキャリアアップ的なことを考える

第15話 Fixing a Hole (穴を、塞ぐ)

しおりを挟む
 広大な平原のただ中に、堅固な岩盤をえぐって作られたギムナン・シティ。

 その半地下式の居住区を覆う、不銹金属ステンフリー・メタル高次焼成物メタセラミックで作られた天井シールドの上に俺はいた。
 一昨日の襲撃で破られた採光窓、二十平方メートル分の半透明パネルが近隣の都市ヴィラから早くも納入され、今日はその交換作業が始まっている。
 リグの操縦者が必要ということでR.A.T.sからもこういう場合の慣例に倣って応援を出すことになり、トマツリは俺とゴードンを指名したというわけだ。

 ギムナンでこうした作業用に汎用重機として使用されるのは、奇しくも昨日交戦したタタラと同じメーカー、テックカワサキ社の作業用ワーカーリグ「クグツ」だ。
 コクピットというか操縦席は、ロールバーで囲っただけの開放式。今いる床の下にある居住区までは二百メートルほどの距離があり、ハーネスで座席に固定されていても、恐怖からくる反射なのか会陰部の筋肉がぎゅうっと引きつる。

「く、ふぃヒイッッ……!」

「梁の上を歩くんだ、トンコツ。そうすりゃあ心配はない」

「そうはいっても、やっぱり危険を感じる!」

 パネルの入ったコンテナは大型ヘリコプターで天井シールド外縁部の集積場に降ろされ、各採光窓の四隅に設置されたクレーンのところまで運んで、取り付け作業に備えることになる。その、クレーンのところまで運ぶ作業が俺たち自警団員に割り当てられているのだった。

 クグツで踏んでいいことになっているのは、天井を裏から支えるごついビームのある部分だけ。もし踏み外してシールドを破った時は――理論上は一メートルの積雪にも耐えられるという触れ込みなのだが――破片に巻き込まれないよう背部の緊急スラスターで真上に飛んでから、パラシュートを開いて穴の中へそのまま降りる、というマニュアルが定められている。

 ああもう、考えただけでも会陰部が引きつってキリキリ痛む。ゴードンが昨日に続いて親切にあれこれ教えてくれるのだが、体の感覚だけはしょうがない。なにより、この操縦席が吹きっさらしで、夏とはいえカナダの大地を吹く風が直接肌を撫でるのが、神経に大変よろしくなかった。


 カナダ――そう、ここはかつてのカナダ南部、マニトバ州があった地域だ。
 カナダ北東部を中心に存在する楯状地のおおよそ最西端部で、すぐ近くには大きな湖の跡がある――宿舎の大型ターミナルで検索したそんな知識を、ニコルが得意げに教えてくれた。
 ギムナンで日本語が何となく通じるのは、カナダではある時期に富裕層を中心として日本からの移住者が急増した、そんな歴史の影響があるらしいが。

「よーし下ろすぞトンコツ! そっち合わせろよ!」

「ほ、ほいさっ……!」

 ガラスよりは相当丈夫だが、この石英シリカベースの半透明パネルも落とせば当然破損する。
 どうにか所定の位置にパネルを下ろすと、あとはクレーン作業の技能を習得した作業員たちの仕事だ。リグを使わずに生身で玉掛けを行い、勢いがつきすぎないよう慎重にクレーンを動かして、窓の開口部へとはめ込んでいく。

「ふーっ……」

「高い所は苦手か? だいぶ苦労してるようだな。センチネルで警備にまわった方がよかったんじゃないか」

「うーん、作業用の重機を扱うために一応免許は持ってたから、こっちでも役に立てるかと思ったんだが……考えてみれば、タワークレーンとかは未経験だったんだよなあ」

 ともあれあと半分だ。それで採光窓の修理は終わる。未処理の雨水にはやっぱりまだ、大気圏上層を漂う有害物質や、放射性核種の微粒子なんかがわずかに含まれていて、ギムナンが所有する貴重な有機土壌をそんなものにさらすわけにはいかないのだった。

 普段は決して友好関係とは言い難い他所の管理複合体コープレックスからパネルをすぐ回してもらえたのも、何より手に入れたい肝心の土壌が汚染されては元も子もないから。まあ、なんにしても世知辛い話ではあるのだ。


        * * *


 作業は午前中には大体めどがつき、クグツの「手」はお役御免になった。そこで俺たちは午後からセンチネルに乗り替え、「天井」外周部での警備にまわることになった。

 交代に備えてぱさぱさしたサンドイッチを頬張りながら、俺は昨日のタタラとの戦闘と今日の作業を反芻していた。

「やっぱ、手があるってのは便利なんだよな……」

 盾を装備したタタラは、実際厄介な相手だった。市長がセンテンスを持ち出して同行していなかったら、俺たちは全滅するか、さもなくば奴らが何をしようと手出しできないままやり過ごすしかなかっただろう。
 それにクグツのような安っぽい造りのマシンでも、手があることで繊細な作業までこなせる。パワーショベルのようにいちいちバケット部分を交換せずとも、工具を持ち換えるだけで複数の用途に対応できる柔軟性も確保できるというわけで。

「なあ先輩。R.A.T.sでセンチネル使ってるのは、やっぱり安いからか?」

「んグ。なモガッって?」

 サンドイッチを頬張ったまま喋ろうとして、ゴードンがすごくモゴモゴした。先に飲み込んでからにしろ。

「むパァー……えっとな、調達費のことを言いたいんならそれもあるが……一番のメリットは、操縦が簡単で覚えやすいし、機体の構造がシンプルで整備も楽だ、ってとこだな。現にほら、トンコツはまだ三日目だろ。でも一昨日に続いて昨日も敵を墜としてる」

「昨日は、まあ……あれは市長が」

「それはそうかもしれんけど、まあ誇っていいんじゃねえか。で、センチネルに関して言えば、うちみたいにいつ誰が殉職するかわからん職場に、あんまり熟練の必要な機体は合わねえ、ってことでもあるな」

 なるほど――一見整然とした回答ではある。だが、俺は一抹納得いかないものを感じた。有志でやってるような体裁の割には、いざというときは人員は使い捨てなのか? 
 そう考えてはたと気づく。
 そうか、ここは半ば閉鎖された環境にあって限られたキャパシティをやりくりし、インフラの通っている部屋や食料の配分にも頭を悩ますような街なのだ。

(ああ……レダが傭兵になって出て行ったってのも、もしかしたら……)

 なにかそういう、肩身の狭さというか息苦しさのような物から自分を解放したかったのかもしれない、と思った。そして姉である市長が、自ら貧乏くじを引いてそれを支えたというわけなのか?
 ここに来てから見たもの、考えたこと、様々なものが頭の中をめぐってぼんやりとした形をとる。それはに、よく似たものになっていくように思えた。

「昨日墜とした『タタラ』だが――あいつの残骸は回収したんだよな?」
 
 するっと、そんな言葉が口から滑り出た。

「ああ。夜間組が朝の交代のあと現場へ行って、拾い集めてきたみたいだ」

「あれを――あれの腕を、センチネルにつけるとか……そういうのは可能かな?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...