退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode3:おっさんは不意にキャリアアップ的なことを考える

第16話 安物に命は預けられない

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「センチネルに腕を? そいつは無理な相談だろうな」

 ゴードンはあっさりと俺の思い付きを否定してくれた。

「見りゃわかると思ったがな……センチネルは軽快に走り回ることを主眼に設計されてるから、構造的に余裕がない。両サイドに腕をつけようにも、そこには適切な強度を確保できるだけのフレームも入ってない。んで、内部容積はコクピットと動力部と機銃の銃架を詰め込んだらもうそれでギリギリだ」

「なるほど、そうか……」

 言われてみれば確かにそうだ。センチネルがすぐ弾切れを起こすのもそのせいだろう。軽量化を目指し過ぎて空きスペースがないのだ。

「どうしたんだトンコツ。何を考えてる?」

「ああ。昨日の戦闘について俺なりに。市長がいてセンテンスを持ち出してたから勝てたが、センチネルだけでタタラの相手じゃ、間違いなくこっちの分が悪かった……違うか?」

「いや、間違ってないな。俺たちは昨日、すっげぇラッキーだった。そういうことだ」

 うむ。このゴードンという男、戦闘はあまり得手ではないが頭がいい。ヘルメットの機能レクチャーもばっちりだったし、聞けば大抵のことは教えてくれる。物事を自分の頭で体系的に理解し、それを分かりやすく他人に伝えるのが上手いということだ。
 こういう人材をセンチネルのような貧弱な機体に乗せて死なせるのは、どう考えてもしのびない。

「そういうことだよな。だからもっと使い勝手のいい機体が必要だと思うんだ……タタラと真っ向勝負できるくらいの。俺が思うに、あの機体の長所は手があることだ。それで、あの残骸の腕をこっちに付けられないかな、と」

「……呆れたおっさんだなぁ」

 ゴードンはため息をつくと、言った。

「そういうのは普通、隊長とか市長とかが考えることだろうに。だが、言ってることは間違ってない」

 間違ってなくても立場が足りなければ意見は通らない。ああ、そうさ、よく知ってるよ。未来に来たからってその辺は変わるまい。第一まだ三日目だ――

「ギムナンに、もちっと金がありゃあな……ふむ」

 ん? 何か少し風向きが変わったような。

「よし、トンコツ。ちょいと一緒にトマツリのとこにいくぞ。あと、ファクトリーに」

「ファクトリー? 自警団のガレージとはまた別なのか?」

 ゴードンが突然立ち上がって居住区へのリフトへと歩き出した。俺も慌てて後を追う。そのはずみで、サンドイッチの最後のひとかけらが口元から転げ落ちた。

「ガレージはただの格納庫だ。修理や塗装、部品の交換なんかは、もっと奥にある専用の工場でやるんだよ……昨日のタタラの残骸も、今そこにあるんだ」



「実のところ、こっちでもその辺を全然考えてないわけじゃないんだ」

 俺たちの話を一通り聞くと、トマツリは思案顔でうなずいた。

「が、しかし……市として予算のことまで考えると、センチネルの継続運用で、ってことになってしまうんだよな。ただ、一機くらいは残骸から組み上げられるんじゃないかと思って残骸を回収したわけだが」

 なるほど。そりゃまあ、責任者がいるわけだし、素人が口を出すまでもなくそのあたりは検討済みか。

「ええ、そういうわけで隊長! このトンコツをファクトリーに連れてってやりたいんですが、構いませんね?」

「……あのな、お前ら本当なら午後も天井に出て警備だろうが……まあいい、サルワタリはこのギムナンでの実績が早めに欲しいだろうしな。技師連中としっかり話し合っとけ。全く、サボる恰好の口実を見つけやがって」

「すんません」「せん」

 頭を下げる俺たちだが、ゴードンもトマツリも顔は笑っていた。何だ、仕込み済みってことじゃないのかこれは?


        * * *


「見学か? そこらへんちょっと散らかしてるからな、足元、気をつけてくれよ」

 挨拶をしながらファクトリーに踏み込むと、作業中の技術者エンジニアが振り向きながら注意喚起してくれた。

 天井まで二十メートルほどの高さがある空間が、居住区から北にある岩壁を穿って作られている。その岩穴の床にレールを敷いてブリッジクレーンを設置し、電力用の配線や照明を配置してあるのだった。

「散らかしてる」と言われた辺りを見て俺はうなずいた。トレッド・リグ「タタラ」の腕と足が数機分、コクピットを含む胴体が二基積み上げられている。

「まるまる回収してきた感じだな……ホントに、一機くらいなら作れそうだ」

「そう上手く行くといいんだがな……まあちょっと、ここのスタッフ連中と話してみよう」

 ゴードンは作業場をすり抜けて、奥の事務所らしきものの方へ歩いていく。

親父おやっさん、どんな具合だい?」

 ちょうど一間ほどの間口のある入り口からゴードンが声をかけると、中でタッチパッドらしきものを操作していた眼鏡の初老男性が、ぷいと顔を上げてこっちを向いた。

「おう、ゴードン。それに……ああ、今度入った新人のリグ使いリガーってのはもしかしてそいつか?」

「あ、サルワタリです。どうも」

「おぅ……ニホン人の『ドーモ』ってやつ、ホントにあったんだなぁ。初めて聞いたわ」

「ええ……?」

 予想もしない反応を受けて困惑する。あれか、トマツリやサクラギは言わないのか……

「まあいい、あんたらが回収してきたタタラの部品だが……さっきあらかた検査が終わったとこだ。おかげで頼まれてたクグツの修理が一日延びたが……まあ、それもいい。結論から言うと、これだけじゃ直ぐに稼働するタタラを用意するのは不可能だぁな」

「うーん、そうかい? 二機分はありそうに見えるけどなぁ」

「バラして使うつもりなら、もうちょっと倒し方を工夫しねえとなあ」

 そう言われて、はて、と前回の戦闘の結果を思い起こす。俺と市長が倒したのは二機。一つは飛び越えた後の背面からの機銃とロケットの集中砲火で爆砕。
 もう一機はキレイに決まった機動で、中枢部分バイタルパートにロケットを直撃させてぶち抜いた。

 残り二機はマンセル――つまりゴードンと、アレジの組がやったが、片方倒した時点で確かどちらも弾切れ寸前に……なるほど、ダメそうだ。

「手足はまあ一機分とスペアパーツ何組かにはなるが、コクピットがダメだ。一機分はハチの巣みてぇになっちまってるし、もう一機は……投降する前にOSを消去してやがった」

「あの野郎……やってくれるじゃねえか」

 ゴードンが毒づく。いや、お前が加減してればもう一個は確保できたんじゃないのか。

「まあ、使えるようにするにはメーカーの……テックカワサキの協力が必要になるな。ただ、あそことはんだ」

 どうすっかねぇ、と途方に暮れた様子で残骸を見廻す「親父っさん」だったが――俺には彼の言葉はむしろ、突破口に思えた。


 何となれば。取引がないなら、取引を始めればいいのだ。
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