退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode5:傭兵稼業の、初仕事

第24話 やや遅めのデブリーフィング

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〈ゴルトバッハの野郎ぉ……〉

 携帯端末の上に浮かんだホロ画面の向こうで、レダがデスクに突っ伏して呪詛の声を上げた。
 
〈あいつのおかげであたしの護衛任務は失敗扱い。天秤での評価がSからA+に下がっちまった。S.P.O.R.T.S機器5セット分の弁償は被らされるし、散々だぜ……!〉

「その、何て言っていいのか分からんが。なんかすまん」

〈いやまあ、あたしも慢心してたよ、そりゃ認める……誰か信用できる同僚を最低一人は連れてくるべきだったわ。でもやっぱり、あいつ許せねえ〉

「両社ともリグだけじゃなく、来てた人員の半数が死んでるからなあ……」


 あのコンペ襲撃から二週間経っている。ついでに言えば俺がこの時代に飛ばされてから、ちょうど今日で一カ月め。
 野盗どもから手に入れたタタラの残骸はレストアが終り、明日からいよいよ傭兵業の本格開始。この間レダからは先輩として、リグでの模擬戦や生身での射撃訓練、特殊工作員めいた潜入偵察の初歩と、各種の武器、銃器の扱いを教わったが――
 
〈いいかおっさん。この短期間にしちゃだいぶ仕上がったと思うけど、それでもあんたはまだほんの素人だ。『天秤リーブラ』の基準から言うとせいぜい『アメーバ級候補生』――〉

「よくわからんが、それはどのくらい凄いんだ?」

〈傭兵として単騎で活動を認められる最下級の正規パイロットより、二つ下。まだ全然ダメってことだよ〉

「そんなにか」

 少々がっかりさせられる。だが、この荒廃した時代に都市外おんもへ出て活動するには、覚える事、身に着けるべきことがまだまだたくさんあるのは俺でもわかる。
 
〈だからさ、慢心すんなってこと。かく言うあたしだってこの間はあのザマで足をすくわれたんだからな。ホント、あの野郎……〉

 レダの怒りは再びゴルトバッハに向けられた。二人の傭兵ランキングは共にそのまま変動なしだが、ゴルトバッハは『天秤リーブラ』に登録していないので、レダと違って評価ダウンといったペナルティを受けていないのだ――こちらが知り得る限りでは。
 
〈あいつは多分、GEOGRAAFと裏で契約してるはずさ。機体見ればそのくらいの想像はつく……大方、コンペに呼ばれなかったGEOGRAAFの営業部あたりから、嫌がらせを頼まれたんだろう〉

「アリなのか、そういうのは」

 『天秤』に関するレダの説明もあって、俺はこの世界の傭兵というのはもっと孤高なものだと思っていたのだが。

傭兵マークユニオンはゆっるい組織だからね。『天秤』と違ってリガーやグライフに中立性とかモラルを求めない。依頼を斡旋して情報交換の場を提供して、ランキングを集計して競争をあおるだけ。傭兵同士のトラブルには基本的に介入しない。あと年会費をちょびっと取る〉

「なるほど」

 想像するに、実績と信用を築いた傭兵なんかが小人数、引退後に管理職に収まって集めた会費を運用して悠々自適、といったところなのだろう。命を的のヤクザな商売だ、そのポジションを争う競争相手はいずれ自動的に減っていく。うまいカラクリだ。
 
〈まあ、上手に利用すればそれなりに便利なとこさ……とにかくおっさんは当面、死なないように立ち回ってうまくやりなよ。ああ、あとさ〉

 レダは突っ伏していたデスクから顔を上げると、少し頬を赤らめて言い添えた。
 
〈あん時のおっさんのサポート、悪くなかったよ……実際助かった。じゃ、またな〉

 投げキッスのポーズを一瞬映して、画面が終了した。
 
 
        * * *
       
 
 レダとの電話を終えると、ニコルがキッチンで待っていた。彼女は一週間前からギムナンの教育機関に通うようになっているが、何があっても毎日決まった時間には帰ってきて、自分と俺の食事を用意してくれるのだ。

 はたしてテーブルの上には、黄色いペーストをかけられた白い粒状パスタがトレーに盛られている。
 
「お、カレーか。美味そうだな!」

「はい。私、これ好きです」

「うん、そうか」

 ニコルに合わせて「美味そう」と言っては見たものの実はあんまり食指が動かない――こんな世界で贅沢な話だとは思うが。

 玉ねぎとじゃがいもとニンジンはギムナンの有機土壌で育てた本物の野菜だが、スパイスは合成品でバリエーションが乏しく味に深みとか厚みがないし、肉は例によってイリディセント製の大豆たんぱく加工品謎肉
 バターの代わりには怪しげな合成マーガリンが使われている。一度舐めてみたが、味はなかなか良いのがかえって不気味だった。
 
「……あーうん、おじさんこの野菜のとこだけでいいや……あとはニコルが食べて」

「いいの? わぁい」

 喜んでくれるのはいいが、こんな幼い子供が食い物のハードルが低いのはどうにも心が痛む。まあ、その方がこの世界では生きやすいのだろうが。 
 俺は取り分けた野菜を食いながら、明日から始まる依頼の内容を、もう一度携帯端末から確認した。その大まかなあらましは――


 イリディセント社が所有する「ファーム」で増殖、脱走した遺伝子改変生物の、駆除及び組織サンプルの確保だ。
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