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episode5:傭兵稼業の、初仕事
第25話 遺伝子改変生物ホグマイト
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傭兵ユニオンから市長の手を経て俺に届けられた以来の内容は、次のようなものだった。
=================
依頼者: イリディセント・フード&ストック社
信頼できる傭兵を求めています。
出来れば余り著名でない、口が堅い方を。至急。
* * * *
弊社の研究施設で飼育していた遺伝子改変生物「ホグマイト」がケージを破って脱走し、隣接する放棄された地下シェルター群に逃げ込んでしまいました。
ホグマイトは豚に似た食性と白アリに似た社会性を持った、大型犬サイズの内骨格化した節足動物です。
女王に相当する個体に統率されていますが、この女王が何らかの理由で凶暴化すると、通常の兵力では手が付けられないほどの脅威となりかねません。
迅速に女王個体を探し出して処分し、ホグマイトを鎮静化させてください。そこまでお願いできれば、あとは当社の現場スタッフが群れを施設へ連れ戻すことができるはずです。
期限:一週間以内
報酬:25000Aur@m
=================
いきなりヘビーな任務だな、と思ったものだ。添付の資料によれば、放棄シェルターは天井高が最大八メートルほどで、モーターグリフが活動できるサイズではない。勢い、投入されるのは小ぶりなトレッド・リグ、ということになるわけだ。
イリディセント社としてはこの事案を極力外部に出さず、内々に収めてしまいたい。というわけで、依頼を実行できるのはリガー傭兵一人まで、というオーダーになっている。
それを知った時は受けていいのかかなり危ぶんだが、既に市長が契約を済ませてしまっていた。
「少々軽率過ぎませんかね」
「契約済み」と聞かされて、その時はさすがに俺も市長に苦情を言ったのだが。
〈心配ありません。ホグマイトは確かに人間が生身で相手するには無理のある相手です。でも平均的なリグの装甲と12.7ミリ機銃以上の火器があれば、まず安全に無力化できるわ〉
市長は割と軽い感じでそう請け合った。妙に詳しい風である。
〈今までにも何頭かの個体がケージを破って施設内にさまよい出たことは何度かあるんです。私も現役の時に一度、処分を引き受けたことがありました。そこそこ安全にいい稼ぎになるわよ。リグさえあればね〉
〈それならまあ、確かに悪くないですが……〉
ちなみに報酬額の25000Aur@mというのは、おおよそ日本円で100万円くらいの感覚になるようだ。
貨幣単位Aur@mは「アウラム」と読む。
これはこの時代のやや崩壊しつつあるネットワーク社会において、歴史上の「金」に相当する価値を、という理念が込められ「天秤」がそれを保証する、信用貨幣であるそうだ。
なお、今後ギムナンが購入するドウジは一機の調達費が200万Aur@mと計上されている。俺が一人で稼ぐとしたらあと100回弱ほど、このくらいの依頼を取ればいいことになる。うむ、結構きつい。
〈今回の案件で不安なのは「規模」ね。これまでの事例では、女王個体は常にイリディセントの管理下にとどまっていたから……まあ、それでも問題はないと思います。落ち着いて一匹づつ対処できれば、クグツのマニュピレーターでも殴り殺せる相手よ〉
――つまり、タタラ由来の格闘対応したナックルを持つ俺のリグなら、より楽に対処できるということだ。
そんなに楽観的でいいのかと疑い深い気持ちになるが、とにかく、俺は現地入りの前日つまり今日まで三日間、可能な限りの準備に勤しんだのだった。
* * *
ドウジのコクピットとOSを組み込み、ARゴーグルでの入力と情報処理に対応した、カスタムメイドの「タタラ」――今後当面の間、俺の専用機体となるコードネーム「ケイビシ」が、イリディセント社のファームに近い放棄地区の、重機用進入口からリフトで降ろされた。
右腕には反動を抑えた二十ミリセミオート・ライフル、左腕には野盗が使っていたのと同様の盾をやや切り詰めたものを装備。あと左手首には例の「KODZUKA」ブレードが収納されている。
古いシェルター内の通路は埃が積もって黴臭く、リグのエアフィルターを通してもなんとなく空気がよろしくない。
ゴーグルとモニタに表示される映像にサーマルセンサーの情報を重ねてやると、三百メートルほど先の通路に数頭分、確かにそれらしい大きさの熱源がある。
二酸化炭素の濃度分布も、その辺りに集中していた。
邪魔になる場合は女王個体以外も排除していいと、依頼人の了解を得ている。おれはゆっくりと曲がり角に踏み出し、薄暗がりに蠢く白っぽい塊を認めると、その頭部めがけてライフルの引き金を丁寧に引き絞った。
トンネル特有の残響効果も重なって、ギィンと発振したような酷く耳障りな砲声があたりの空気を引っ叩く。
「ギュイ」というような奇声を残して、ホグマイトの死骸が転がり、床が血で汚れた。
(まずは上々の滑り出し、かな)
依頼では、この生物の組織サンプルも採れということだったが、まあ帰り際にでも残った個体を片づけて採取した方がいいだろう。肉質に言及するところを見るとこいつはどうも食用として作られているらしいが、だったらなるべく新鮮なところを持って帰るのが、いいお土産になるのじゃないか――
とりとめもなくそんなことを考えながら進んでいくと――前方の壁に、ライトに照らされてぼんやりとにじんだ大きな影が映った。
ギョッとさせられることには、その影の主はどうやら人型をしているらしかった。
=================
依頼者: イリディセント・フード&ストック社
信頼できる傭兵を求めています。
出来れば余り著名でない、口が堅い方を。至急。
* * * *
弊社の研究施設で飼育していた遺伝子改変生物「ホグマイト」がケージを破って脱走し、隣接する放棄された地下シェルター群に逃げ込んでしまいました。
ホグマイトは豚に似た食性と白アリに似た社会性を持った、大型犬サイズの内骨格化した節足動物です。
女王に相当する個体に統率されていますが、この女王が何らかの理由で凶暴化すると、通常の兵力では手が付けられないほどの脅威となりかねません。
迅速に女王個体を探し出して処分し、ホグマイトを鎮静化させてください。そこまでお願いできれば、あとは当社の現場スタッフが群れを施設へ連れ戻すことができるはずです。
期限:一週間以内
報酬:25000Aur@m
=================
いきなりヘビーな任務だな、と思ったものだ。添付の資料によれば、放棄シェルターは天井高が最大八メートルほどで、モーターグリフが活動できるサイズではない。勢い、投入されるのは小ぶりなトレッド・リグ、ということになるわけだ。
イリディセント社としてはこの事案を極力外部に出さず、内々に収めてしまいたい。というわけで、依頼を実行できるのはリガー傭兵一人まで、というオーダーになっている。
それを知った時は受けていいのかかなり危ぶんだが、既に市長が契約を済ませてしまっていた。
「少々軽率過ぎませんかね」
「契約済み」と聞かされて、その時はさすがに俺も市長に苦情を言ったのだが。
〈心配ありません。ホグマイトは確かに人間が生身で相手するには無理のある相手です。でも平均的なリグの装甲と12.7ミリ機銃以上の火器があれば、まず安全に無力化できるわ〉
市長は割と軽い感じでそう請け合った。妙に詳しい風である。
〈今までにも何頭かの個体がケージを破って施設内にさまよい出たことは何度かあるんです。私も現役の時に一度、処分を引き受けたことがありました。そこそこ安全にいい稼ぎになるわよ。リグさえあればね〉
〈それならまあ、確かに悪くないですが……〉
ちなみに報酬額の25000Aur@mというのは、おおよそ日本円で100万円くらいの感覚になるようだ。
貨幣単位Aur@mは「アウラム」と読む。
これはこの時代のやや崩壊しつつあるネットワーク社会において、歴史上の「金」に相当する価値を、という理念が込められ「天秤」がそれを保証する、信用貨幣であるそうだ。
なお、今後ギムナンが購入するドウジは一機の調達費が200万Aur@mと計上されている。俺が一人で稼ぐとしたらあと100回弱ほど、このくらいの依頼を取ればいいことになる。うむ、結構きつい。
〈今回の案件で不安なのは「規模」ね。これまでの事例では、女王個体は常にイリディセントの管理下にとどまっていたから……まあ、それでも問題はないと思います。落ち着いて一匹づつ対処できれば、クグツのマニュピレーターでも殴り殺せる相手よ〉
――つまり、タタラ由来の格闘対応したナックルを持つ俺のリグなら、より楽に対処できるということだ。
そんなに楽観的でいいのかと疑い深い気持ちになるが、とにかく、俺は現地入りの前日つまり今日まで三日間、可能な限りの準備に勤しんだのだった。
* * *
ドウジのコクピットとOSを組み込み、ARゴーグルでの入力と情報処理に対応した、カスタムメイドの「タタラ」――今後当面の間、俺の専用機体となるコードネーム「ケイビシ」が、イリディセント社のファームに近い放棄地区の、重機用進入口からリフトで降ろされた。
右腕には反動を抑えた二十ミリセミオート・ライフル、左腕には野盗が使っていたのと同様の盾をやや切り詰めたものを装備。あと左手首には例の「KODZUKA」ブレードが収納されている。
古いシェルター内の通路は埃が積もって黴臭く、リグのエアフィルターを通してもなんとなく空気がよろしくない。
ゴーグルとモニタに表示される映像にサーマルセンサーの情報を重ねてやると、三百メートルほど先の通路に数頭分、確かにそれらしい大きさの熱源がある。
二酸化炭素の濃度分布も、その辺りに集中していた。
邪魔になる場合は女王個体以外も排除していいと、依頼人の了解を得ている。おれはゆっくりと曲がり角に踏み出し、薄暗がりに蠢く白っぽい塊を認めると、その頭部めがけてライフルの引き金を丁寧に引き絞った。
トンネル特有の残響効果も重なって、ギィンと発振したような酷く耳障りな砲声があたりの空気を引っ叩く。
「ギュイ」というような奇声を残して、ホグマイトの死骸が転がり、床が血で汚れた。
(まずは上々の滑り出し、かな)
依頼では、この生物の組織サンプルも採れということだったが、まあ帰り際にでも残った個体を片づけて採取した方がいいだろう。肉質に言及するところを見るとこいつはどうも食用として作られているらしいが、だったらなるべく新鮮なところを持って帰るのが、いいお土産になるのじゃないか――
とりとめもなくそんなことを考えながら進んでいくと――前方の壁に、ライトに照らされてぼんやりとにじんだ大きな影が映った。
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