退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

文字の大きさ
25 / 37
episode5:傭兵稼業の、初仕事

第25話 遺伝子改変生物ホグマイト

しおりを挟む
 傭兵マークユニオンから市長の手を経て俺に届けられた以来の内容は、次のようなものだった。

=================

 依頼者: イリディセント・フード&ストック社 
 
 信頼できる傭兵を求めています。
 出来れば余り著名でない、口が堅い方を。至急。 
 
 * * * * 
  
 弊社の研究施設で飼育していた遺伝子改変生物「ホグマイト」がケージを破って脱走し、隣接する放棄された地下シェルター群に逃げ込んでしまいました。

 ホグマイトは豚に似た食性と白アリに似た社会性を持った、大型犬サイズの内骨格化した節足動物です。
 女王に相当する個体に統率されていますが、この女王が何らかの理由で凶暴化すると、通常の兵力では手が付けられないほどの脅威となりかねません。

 迅速に女王個体を探し出して処分し、ホグマイトを鎮静化させてください。そこまでお願いできれば、あとは当社の現場スタッフが群れを施設へ連れ戻すことができるはずです。

 期限:一週間以内
 
 報酬:25000Aur@m

=================

 いきなりヘビーな任務だな、と思ったものだ。添付の資料によれば、放棄シェルターは天井高が最大八メートルほどで、モーターグリフが活動できるサイズではない。勢い、投入されるのは小ぶりなトレッド・リグ、ということになるわけだ。

 イリディセント社としてはこの事案を極力外部に出さず、内々に収めてしまいたい。というわけで、依頼を実行できるのはリガー傭兵一人まで、というオーダーになっている。
 それを知った時は受けていいのかかなり危ぶんだが、既に市長が契約を済ませてしまっていた。



「少々軽率過ぎませんかね」

 「契約済み」と聞かされて、その時はさすがに俺も市長に苦情を言ったのだが。

〈心配ありません。ホグマイトは確かに人間が生身で相手するには無理のある相手です。でも平均的なリグの装甲と12.7ミリ機銃以上の火器があれば、まず安全に無力化できるわ〉

 市長は割と軽い感じでそう請け合った。妙に詳しい風である。

〈今までにも何頭かの個体がケージを破って施設内にさまよい出たことは何度かあるんです。私も現役の時に一度、処分を引き受けたことがありました。そこそこ安全にいい稼ぎになるわよ。リグさえあればね〉

〈それならまあ、確かに悪くないですが……〉

 ちなみに報酬額の25000Aur@mというのは、おおよそ日本円で100万円くらいの感覚になるようだ。

 貨幣単位Aur@mは「アウラム」と読む。
 これはこの時代のやや崩壊しつつあるネットワーク社会において、歴史上の「きん」に相当する価値を、という理念が込められ「天秤リーブラ」がそれを保証する、信用貨幣であるそうだ。

 なお、今後ギムナンが購入するドウジは一機の調達費が200万Aur@mと計上されている。俺が一人で稼ぐとしたらあと100回弱ほど、このくらいの依頼を取ればいいことになる。うむ、結構きつい。


〈今回の案件で不安なのは「規模」ね。これまでの事例では、女王個体は常にイリディセントの管理下にとどまっていたから……まあ、それでも問題はないと思います。落ち着いて一匹づつ対処できれば、クグツのマニュピレーターでも殴り殺せる相手よ〉

 ――つまり、タタラ由来の格闘対応したナックルを持つ俺のリグなら、より楽に対処できるということだ。
 そんなに楽観的でいいのかと疑い深い気持ちになるが、とにかく、俺は現地入りの前日つまり今日まで三日間、可能な限りの準備に勤しんだのだった。


        * * *


 ドウジのコクピットとOSを組み込み、ARゴーグルでの入力と情報処理に対応した、カスタムメイドの「タタラ」――今後当面の間、俺の専用機体となるコードネーム「ケイビシ」が、イリディセント社のファームに近い放棄地区の、重機用進入口からリフトで降ろされた。

 右腕には反動を抑えた二十ミリセミオート・ライフル、左腕には野盗が使っていたのと同様の盾をやや切り詰めたものを装備。あと左手首には例の「KODZUKA」ブレードが収納されている。

 古いシェルター内の通路は埃が積もって黴臭く、リグのエアフィルターを通してもなんとなく空気がよろしくない。
 ゴーグルとモニタに表示される映像にサーマルセンサーの情報を重ねてやると、三百メートルほど先の通路に数頭分、確かにそれらしい大きさの熱源がある。
 二酸化炭素の濃度分布も、その辺りに集中していた。

 邪魔になる場合は女王個体以外も排除していいと、依頼人の了解を得ている。おれはゆっくりと曲がり角に踏み出し、薄暗がりに蠢く白っぽい塊を認めると、その頭部めがけてライフルの引き金を丁寧に引き絞った。

 トンネル特有の残響効果も重なって、ギィンと発振したような酷く耳障りな砲声があたりの空気を引っ叩く。

「ギュイ」というような奇声を残して、ホグマイトの死骸が転がり、床が血で汚れた。

(まずは上々の滑り出し、かな)

 依頼では、この生物の組織サンプルも採れということだったが、まあ帰り際にでも残った個体を片づけて採取した方がいいだろう。肉質に言及するところを見るとこいつはどうも食用として作られているらしいが、だったらなるべく新鮮なところを持って帰るのが、いいお土産になるのじゃないか――

 とりとめもなくそんなことを考えながら進んでいくと――前方の壁に、ライトに照らされてぼんやりとにじんだ大きな影が映った。

 ギョッとさせられることには、その影の主はどうやら人型をしているらしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...