退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode5:傭兵稼業の、初仕事

第27話 猛き女王に捧ぐ花束

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 なるほど。そう聞けば、何と言うことのない依頼の文面も別の意味を帯びてくる。

 女王を処分させて、凶暴化したホグマイトについては口をつぐませる。口の堅い傭兵ならその後の経緯を知っても、企業に睨まれる愚は犯さず沈黙を守るだろうし――

(ああ、いや待て待て……ホントにそのくらいので済むか?)

 俺はシートの後ろに挟まるベイカーに尋ねた。

「なあ、学者さんよ……ホグマイトの凶暴化ってのは、実際のところどんな感じなんだ? このトレッド・リグくらいで対処は可能か?」

 後ろからため息が響いた。暗澹とした声でベイカーが語りだす。

「いや、無理でしょう。群生相、と言ってもご存知ではないでしょうが……過去の地球に存在したある直翅目の昆虫は、環境が厳しくなり餌が乏しくなると、狭い場所に集まることになるため、互いのフェロモンの影響で――」

「ああ、サバクトビバッタ……飛蝗の話だな? 知ってるぜ、体が頑丈になって色も変わり、集団で長距離を飛んでありとあらゆる植物を食い荒らす」

「おお……!」

 ベイカーの声に何やら歓喜の響きが混じった。

「ご存知なら話が早い。ホグマイトは女王が死ぬと類似の相変異を起こし、変異の遅れた同族を食らってその養分をもとに脱皮を行い、戦闘形態に変態します。大きさが約二倍になり甲殻は12.7ミリ程度の銃弾を跳ね返す靭性を獲得。それ以上の貫徹体は肥厚した甲殻の中に抱え込んで衝撃を吸収、分散させてしまい数発は持ちこたえます。顎は十ミリ厚のアルミ合金を食い破り、困難な獲物には集団で襲い掛かって食い殺――」

 うわぁお。

「おっそろしいな! じゃあ、女王を殺した奴はどうなる?」

「変態には少し時間がかかるので、脱出は可能かもしれませんが……まあ、このトレッド・リグでも無事は保証できませんね」

 つまり、口止めはホグマイト自体がやってくれる、というわけだ。クソろくでもない。そして知名度の低い傭兵なら、未帰還でもあまり詮索もされないというわけか……!

「ありがとう、あんたに会えたおかげで最悪の結末は避けられた。さてと……じゃあ俺はどうすればいい? 上層部とやらのクソ計画を台無しにしてやる手段を、あんたは何か持ってるのか?」

「ええ。もちろん。女王個体を殺して群れ一つを凶暴化させるとして、それを人間が制御できなければ兵器としては使えません。単に災害が一つ増えるだけです。なので、このケースの中にある合成フェロモンを散布し、特殊な波長の音波で誘導するわけですが……」

「もうそんなものまで出来てるのかよ。完成前に早めにやめろ、いやそもそも研究に着手するな」

「ごもっともです……しかし、このフェロモンには、もう一つ使用法がありまして」

 ああもう。だいたいこの手の研究所はどうかしてると相場が決まってるが、陰謀をつぶそうとしてる側もどうかしすぎてるだろう、これ。最後まで聞いても絶対ろくな話じゃねえぞ――とはいえ。

 俺はギムナンの独立維持のために、財政を救う使命を帯びて戦う男なのだ。何としても、この依頼ミッションを「成功」の二文字に収めて片づけ、初報酬の25000Aur@mを手にしなければならない。

「気が進まんが、聞かせてもらおうか……その、もう一つの使用法とやらを」

「はい。生きた女王個体の前でこのフェロモンを散布すると、女王は直後に見た動くものを群れの――本来は存在するはずのない――上位支配者と認識し、その後を追って移動、群れの全個体にその上位者を守らせます。この場合は、戦闘形態への相変異は起こしませんので、のちの処分はより簡単、安全になりますが」

 ……やっぱりろくでもなかった。

「兵器利用には反対とか言いつつ、ほぼ完成させてんじゃねえか!」

「そうおっしゃる気持ちは分かりますが、この技術があればホグマイトたちを屋外で放牧することも可能になるので……」

 いや、何処で放牧するのよこの時代の、生物相も何もかんも狂ってしまって荒廃した地表のさぁ。
 ともかく、方針は決まりだ。俺のやるべきはこのままシェルター内部の深奥へ進み、女王様にフェロモンを嗅がせてお手をどうぞとばかりに誘い出し、後ろにはホグマイトの軍勢を引き連れて……

 「全部回収してきた」という態で任務成功をアピールしつつ、同時にイリディセント上層部を恫喝する。そういう段取りになろう。

「ふぅ……なんかとんでもねえことになったが、まあ話は分かったし、それなら良心と俺の安全と銭が三方一両損くらいでまとまりそうだな。んじゃあ行くか、ベイカーさんよ」

「ええ、よろしくお願いします」

 というわけで、そういうことになった。

 俺とベイカーを乗せたケイビシは、足音を響かせながら通路を進む。途中で現れたホグマイトは無視した。特にどうということもない。
 こちらから手を出さねば何ということはないおとなしい動物のようだ。さっき殺した何頭かには、すまないことをしてしまった。

 やがて、通路の先に大きな広間が現れた。このシェルターにはもはや電源は通っていないはずなのだが、その空間は何やらぼんやりと明るかった。

「ここは?」

「放棄と同時に廃炉になった原子炉の建屋――建室というべきですかね、そういう場所です。ああ、炉心の燃料は取り除いてありますので、ご心配なく」

 ではこの光は? と思ったのだが、その正体はすぐに知れた。
 格納容器のすぐそばに、トレッド・リグに匹敵するサイズの巨大なホグマイトがいた。そしてその背中から拡がった翼状の器官から、ちょうどホタルのそれのような淡い燐光を発していたのだ。
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