退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode5:傭兵稼業の、初仕事

第28話 心温まる結末、そして――

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「OK。私をここで降ろして下さい」

ベイカーがシートの後ろから身を乗り出し、コクピットハッチに向かって手を伸ばした。

「え、あんたが行くのか。大丈夫か?」

「むしろ私でなければ困ります。あなた、彼女たちにずっとついて回られて仕事になりますか? ホグマイトに与える餌や水の世話をできるとでも? ここの地上にある施設のケージで今後も飼育を続けるには、私が彼女たちの統率者になる必要があるんです。それでこそ、彼女たちを兵器に転用しようという、所長や上層部の目論見も打ち砕ける」

「なるほど。じゃあしっかり頼むぜ……!」

 俺はコクピットハッチを開放し、体を左側へ大きく傾けてベイカーのために道を開けた。

 よっ、と掛け声をかけてベイカーが地上へ飛び下りる。研究者のわりになかなかの身体能力フィジカルだ――直立状態のケイビシは、コクピット入り口の下辺から床まで、三メートル弱あるのだが……

「おい! フェロモンの容器を割ったりはしてないだろうな!」

 ――大丈夫でーす!

 元気のいい返事にほっと胸をなでおろす。カメラでベイカーを追うと彼は問題の女王のすぐそばに歩み寄り、地面に置いた手提げケースから何かの液体が入った小さなアンプルを取り出した。
 おもむろにアンプルの封を切り、彼は中身を自分の頭上から振りかける。数秒後、ホグマイトの女王は「キュウ」と切なげな鳴き声を上げると白い毛皮に覆われた頭をベイカーに擦り付け、短い触覚でその手を掃くように撫でた。

(なんだか幸せな気分になる光景だが……こいつと同僚はこれから先もまた、この女王の子供を間引いて食うんだよなぁ……?)

 いやまあよそう。その辺を突っ込むと更に話がややこしくなる。ひとしきり異種間のスキンシップが済むと、ベイカーは再びこちらへ歩いてきた。

「どうだ? 上手く行ったのか?」

 ――上々の首尾です! 私はこのまま歩いて行きますので、あなたが先頭に立って施設のゲートへ向かってください!

「あいよ」

 何とも妙な成り行きになったものだ。首をひねりながら来た道を逆に、リフトのところまで通路を進んでいく。まず俺がケイビシごと一度地上へ上がり、リグのマニュピレータ用の大味な操作パネルを使ってケージかごをもう一度下へ下ろした。
 そうしてしばらく待つと――エレベーターシャフトの縦坑を、足を長さいっぱいに突っ張ってホグマイトの群が上ってきた。その中の一匹がベイカーを背中にしがみつかせていた。

 研究施設のゲートまでの距離は、せいぜい二百メートルといったところ。日没を少し過ぎて夕暮れの青い色が空を染めていたが、すぐにゲートの様子が詳細に見えてくる。
 バリケードや機関銃陣地を構築している、といった様子もなく、青い回転灯の灯った白いゲートの前で、簡素な防弾ベストと非常用酸素マスクをつけた門衛が立哨していた。
 歩いて近付くケイビシを認めた門衛は、流石に動揺した様子でこちらへ銃を向け誰何してきた。

 ――な、なんだお前! ここはイリディセント社の……

「ああ、そのイリディセントの依頼で、ホグマイトの駆除にきたユニオンの傭兵だがな。なんか鎮静化したんで、連れてきたぞ。ケージに戻してやってくれ……あんたらも、

 ――なっ……? よし分かった、そこを動くな……上と連絡を取って来る。しばらく待て!

 そう言い置いて門衛がゲートの内側へ引っ込もうとした、その時。

 夜空にばりばりとけたたましい飛行音を響かせて、前後二箇所にローターを具えた大型ヘリコプターが上空へ接近してきた。その機体から、塩辛い男の声が拡声器で地上へ呼びかけてきた。

〈おい、なんだこの騒ぎは! なぜホグマイトが外に出とるんだ!? おまけにそのトレッド・リグは見たところテック・カワサキのもののようだが……誰か私に説明してくれるかね〉

「こっちが言いてえセリフだな……なあ、ベイカーさんよ。あのヘリのおっさんは誰なんだ?」

「ああ。マイケル・ベルシンガー・ニッケルソン氏です。イリディセントの会長ですよ」

「なんと」

「実はすでに、『当研究所には看過できない背任行為がある』という告発を送ってありましてね……いやでも、まさか今夜来るとはなあ!」

 なるほど。イリディセント社の会長というのは、どうやらなかなかに「持って」いる人物らしい。騒然となったファームのヘリポートに悠々と降り立ち、ニッケルソン会長はブージャム・ベイカーとにこやかに握手を交わした――ホグマイトの群に囲まれて。

 その夜のうちにファームの所長が解任のうえ拘束され、現地の警備部隊は会長の指揮下で施設を再掌握した。ベイカーは臨時の所長代行となり、俺はその後二日にわたって警備の一翼を担った後、ユニオンの輸送機で現場を後にした。



=====================

収支

 報酬額                 2,5000A

 諸経費

         ・20mmライフル弾x24発     1,800A 
         ・トレーラー運賃往復     1,250A
 特別加算             3,000A 
 ────────────────────
 
 収入                24,950A 

=====================

        * * *


 ギムナンのゲート前。ユニオンが廻してくれたリグ用トレーラーから降り立つと、そこに市長とトマツリの姿があった。

「やあ、市長に分隊長、お出迎えとは恐縮です! 少し長くなりましたが、無事に終わりましたよ!」

 俺はコクピットハッチを開けて彼らに手を振った。

「……無事で何よりだったわ、サルワタリ」

「いやあ、ふたを開けてみたらとんでもなく変な依頼でしたが、優秀な協力者のおかげで八方丸く収まりましたよ。イリディセントの会長と面識はできたし、報酬もちょいと色を付けてもらって――」

 そこまでまくしたてたところで、俺はハッとして語尾を飲み込んだ。
 市長の表情が石でも飲んだように固い。彼女の目元にはうっすらと赤く腫れたような形跡があるし、トマツリは終始暗然と黙り込んで、顔色が真っ青だ。

「……あの、何かあったんですか」

 市長がその途端、くしゃっと顔をゆがめて涙をあふれさせた。

「サルワタリ……レダが、任務に出たっきり未帰還なの……!! 旧ネブラスカ州の古戦場跡、立ち入り禁止の危険地帯へ向かった後、通信が途絶えたって……」

 なんだって――

「『天秤リーブラ』の本部から、昨日連絡が入った。こっちでも捜索と救援のためにあちこちへ連絡を取ってるところだが……どうも思わしくない」

 トマツリは右手に持ったヘルメットのチンガードを、指から血の気が失せるほど強く握りしめた。
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