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episode6:レダ・ハーケン救出作戦
第37話 脱出
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〈ひゅうっ、何とか間に合ったか?〉
「助かった!」
レダに礼を言いつつ、滑落したタタラを追う。武器を持つ右腕めがけて二十ミリを手動で連射。
ソードオフ機関銃を撃ち抜いて爆発が起き、タタラが攻撃手段を失った。
(これで一機がコクピット潰して大破、二機が無力化、と……ちょいと面倒だな)
カメラをつぶした無反動砲持ちと、今の機銃持ちはまだ乗員が生きている。投降させるのが穏当だが、その後はどうする?
戦意を失った相手をわざわざ引きずり出して殺すのは、さすがに気分が悪い。だが生かしておくメリットもない。
〈右だおっさん、まだ終わってねえ!〉
ギョッとしてカメラを向ける。視界を失ったはずの、無反動砲持ちのタタラがこちらに武器を向けていた――コクピットハッチを全開にして、そこから直接肉眼でこちらを捉えていたのだ。
「あーもう!! どうあっても俺に――」
直接目視なのが幸いだった。敵は機器のサポートを失って照準をロックする事が出来ず、わずかに発射にまごついたのだ。盾を斜めに構えて突っ込む――斜面の上からなのでこちらも転倒が怖い。だがどうにか相手の懐に飛び込み、右腕を盾でカチ上げた。
だがこの間合いでは俺に決め手がない。二十ミリは銃身が長すぎてケイビシとタタラの間に割り込めず、「KODZUKA」は左手首。判断に窮した俺は、いろんな意味で最悪な選択をした。
二十ミリ・セミオートライフルをその場に投棄し、タタラのむき出しになったコクピットにケイビシの鉄拳を叩きこんだのだ。
「人殺しをさせやがるかよ……! どチクショウが」
めり込んだ拳と機体の間から、赤黒い液体が滴った。
* * *
戦闘は終わった。タタラの残骸からまんまと三機分の燃料電池を抜き出して、ネオンドーザーのメルカトル脚部に接続。作業の仕上げをしながら、俺はついため息を漏らした。
通信機越しに聞こえたらしく、レダがしんみりとした調子で慰めてくれた。
〈気にすんなよ、おっさん。傭兵やってりゃこんなことは何度でもある。それにあいつらだって、こっちを殺して弾薬やら部品やら奪うつもりで来てたんだから……〉
「……ああ。そうだな」
〈命のやり取りやってるときに、こっちだけ手を汚さずに綺麗でいたいなんて思うのは、傲慢ってもんさ〉
まあ理屈は分かる。分かるが、直に人間を殴りつぶす羽目になったのは大分堪えた。
げんなりしながら、それでも俺は勤めて明るい声で答えた。
「作業を急ごう。この土地が傭兵にも各企業にも一貫して怖れられてるってことは……やっぱり、あの程度の野盗が出るだけとは思えん。早めにここを離れたい」
〈そうだな。あいつも結局、一言も口きかねえし……〉
レダが言うのは、二番目に撃破した機銃持ちタタラのパイロットのことだ。
四十前後のむさくるしい男だったが、こちらへ激しい敵意を向けるばかりで情報提供の呼びかけにも応じないので、パラシュートの紐で縛って転がしてある。連れて帰っても扱いに困るし、そのまま置いていくつもりでいた。
運が良ければ仲間が迎えに来てくれるだろうし、ここにはとがった物やギザギザしたものはいくらでもある。その気になれば紐をこすりつけて切断することも可能なはずだ。
接続は終わった。俺がケイビシで周囲を警戒するなか、レダが負傷した体に鞭打ってネオンドーザーの起動にかかる。
目下一番の問題は履帯の状態だ。クロムを含む耐候性合金を主体に、連結ピンの接続部などにはチタン合金を使用して対候性に考慮した代物だが、なにせ百年近く野ざらしになっていた。そもそも動かせるのかどうか――
それでも、未帰還のままに終わることも覚悟した当初の状況からすれば、いいところまでこぎつけたと言える。
「これで最後の最後にコケたら、全部がパァだからな……ホントもう、頼むぜ……」
燃料電池が反応を再開し、電力が供給され始めたらしい。モーターの回転音とギヤの噛み合う音が次第に高まり、やがて機体がガクン、と揺れた。
錆と泥で固まった履帯から、薄っすらと土煙が上がる。
〈よし、いけそうだ。どこまで持つかは怪しいけど……センサーに検知されるような異常はなし。おっさん、重機の営業やデモで経験あんだろ? 音聴いてみてどんな感じ?〉
「技術の基盤というか水準が違いすぎて何とも言えんが……まあ、危なっかしい感じは特にないか。出発しよう……!」
ネオンドーザーは履帯を軋ませて後進し、大きな半径で旋回を始めた。その場で方向転換する超信地旋回は、履帯に負担がかかるため極力避けるように言い含めてある。あたりには錆混じりの土煙がもうもうと激しく立ち込めた。
〈んじゃ出すぜ、乗ってくれおっさん……!〉
「おう。振り落とさないでくれよ」
〈じゃじゃ馬みたいに言うない〉
車台の後部、いくつかの余剰部品を積み上げたデッキの上に、ケイビシでお邪魔する。若干ネオンドーザーの行き脚が鈍ったように感じたが、レダからは特に注意もなかった。
「さてと、長距離通信アンテナはイッちまってたから……マッケイへの連絡には何か手を考えないとだな」
〈ああ、それなら……北へ二十キロくらい行ったところに、なんかそれらしい施設があったな……機能が残ってるか分からんけど〉
「手掛かりがないよりましだな。そこを目指してみるか」
さらば、スコッツ・ブラフの奇観よ――数キロを進んだところで振り返るように機体のカメラを向けたその、やや逆光の風景の中。なにかリグとも戦車ともつかない奇妙な影が、いくつか現れて、動き回るのを見たような気がした。
だが、すぐにそれはおりから吹き始めた風が砂嵐となる中で、判然としなくなってしまったのだった――
(episode6:fin)
「助かった!」
レダに礼を言いつつ、滑落したタタラを追う。武器を持つ右腕めがけて二十ミリを手動で連射。
ソードオフ機関銃を撃ち抜いて爆発が起き、タタラが攻撃手段を失った。
(これで一機がコクピット潰して大破、二機が無力化、と……ちょいと面倒だな)
カメラをつぶした無反動砲持ちと、今の機銃持ちはまだ乗員が生きている。投降させるのが穏当だが、その後はどうする?
戦意を失った相手をわざわざ引きずり出して殺すのは、さすがに気分が悪い。だが生かしておくメリットもない。
〈右だおっさん、まだ終わってねえ!〉
ギョッとしてカメラを向ける。視界を失ったはずの、無反動砲持ちのタタラがこちらに武器を向けていた――コクピットハッチを全開にして、そこから直接肉眼でこちらを捉えていたのだ。
「あーもう!! どうあっても俺に――」
直接目視なのが幸いだった。敵は機器のサポートを失って照準をロックする事が出来ず、わずかに発射にまごついたのだ。盾を斜めに構えて突っ込む――斜面の上からなのでこちらも転倒が怖い。だがどうにか相手の懐に飛び込み、右腕を盾でカチ上げた。
だがこの間合いでは俺に決め手がない。二十ミリは銃身が長すぎてケイビシとタタラの間に割り込めず、「KODZUKA」は左手首。判断に窮した俺は、いろんな意味で最悪な選択をした。
二十ミリ・セミオートライフルをその場に投棄し、タタラのむき出しになったコクピットにケイビシの鉄拳を叩きこんだのだ。
「人殺しをさせやがるかよ……! どチクショウが」
めり込んだ拳と機体の間から、赤黒い液体が滴った。
* * *
戦闘は終わった。タタラの残骸からまんまと三機分の燃料電池を抜き出して、ネオンドーザーのメルカトル脚部に接続。作業の仕上げをしながら、俺はついため息を漏らした。
通信機越しに聞こえたらしく、レダがしんみりとした調子で慰めてくれた。
〈気にすんなよ、おっさん。傭兵やってりゃこんなことは何度でもある。それにあいつらだって、こっちを殺して弾薬やら部品やら奪うつもりで来てたんだから……〉
「……ああ。そうだな」
〈命のやり取りやってるときに、こっちだけ手を汚さずに綺麗でいたいなんて思うのは、傲慢ってもんさ〉
まあ理屈は分かる。分かるが、直に人間を殴りつぶす羽目になったのは大分堪えた。
げんなりしながら、それでも俺は勤めて明るい声で答えた。
「作業を急ごう。この土地が傭兵にも各企業にも一貫して怖れられてるってことは……やっぱり、あの程度の野盗が出るだけとは思えん。早めにここを離れたい」
〈そうだな。あいつも結局、一言も口きかねえし……〉
レダが言うのは、二番目に撃破した機銃持ちタタラのパイロットのことだ。
四十前後のむさくるしい男だったが、こちらへ激しい敵意を向けるばかりで情報提供の呼びかけにも応じないので、パラシュートの紐で縛って転がしてある。連れて帰っても扱いに困るし、そのまま置いていくつもりでいた。
運が良ければ仲間が迎えに来てくれるだろうし、ここにはとがった物やギザギザしたものはいくらでもある。その気になれば紐をこすりつけて切断することも可能なはずだ。
接続は終わった。俺がケイビシで周囲を警戒するなか、レダが負傷した体に鞭打ってネオンドーザーの起動にかかる。
目下一番の問題は履帯の状態だ。クロムを含む耐候性合金を主体に、連結ピンの接続部などにはチタン合金を使用して対候性に考慮した代物だが、なにせ百年近く野ざらしになっていた。そもそも動かせるのかどうか――
それでも、未帰還のままに終わることも覚悟した当初の状況からすれば、いいところまでこぎつけたと言える。
「これで最後の最後にコケたら、全部がパァだからな……ホントもう、頼むぜ……」
燃料電池が反応を再開し、電力が供給され始めたらしい。モーターの回転音とギヤの噛み合う音が次第に高まり、やがて機体がガクン、と揺れた。
錆と泥で固まった履帯から、薄っすらと土煙が上がる。
〈よし、いけそうだ。どこまで持つかは怪しいけど……センサーに検知されるような異常はなし。おっさん、重機の営業やデモで経験あんだろ? 音聴いてみてどんな感じ?〉
「技術の基盤というか水準が違いすぎて何とも言えんが……まあ、危なっかしい感じは特にないか。出発しよう……!」
ネオンドーザーは履帯を軋ませて後進し、大きな半径で旋回を始めた。その場で方向転換する超信地旋回は、履帯に負担がかかるため極力避けるように言い含めてある。あたりには錆混じりの土煙がもうもうと激しく立ち込めた。
〈んじゃ出すぜ、乗ってくれおっさん……!〉
「おう。振り落とさないでくれよ」
〈じゃじゃ馬みたいに言うない〉
車台の後部、いくつかの余剰部品を積み上げたデッキの上に、ケイビシでお邪魔する。若干ネオンドーザーの行き脚が鈍ったように感じたが、レダからは特に注意もなかった。
「さてと、長距離通信アンテナはイッちまってたから……マッケイへの連絡には何か手を考えないとだな」
〈ああ、それなら……北へ二十キロくらい行ったところに、なんかそれらしい施設があったな……機能が残ってるか分からんけど〉
「手掛かりがないよりましだな。そこを目指してみるか」
さらば、スコッツ・ブラフの奇観よ――数キロを進んだところで振り返るように機体のカメラを向けたその、やや逆光の風景の中。なにかリグとも戦車ともつかない奇妙な影が、いくつか現れて、動き回るのを見たような気がした。
だが、すぐにそれはおりから吹き始めた風が砂嵐となる中で、判然としなくなってしまったのだった――
(episode6:fin)
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