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ACT1:闘技場都市の支配者
長者ゴータム
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華美な旗だった。
光沢のあるオレンジ色の布に、鮮やかな青で染め抜かれた奇妙な紋章。
鎧を付けた二体の人物が左右対称に踊るようなポーズをとり、その間には神殿のような建物と花束。神殿の内側には金糸で刺繍された天秤があしらわれている。
騎雉の男はこちらから100mほどの距離で立ち止まり、口に手を当てて大声で呼ばわった。
「お尋ね申し上げる! 此方へお出でになられたるは、何処の騎士にあらせられるや? 我、主人より確かめてまいれとの下知をたまわれり」
(うわ、すげえ時代がかった言い回し!)
俺は若干の気おくれを感じた。俺のもう半分がこの世界の言語に対する理解を与えてくれてなお、これ。
ということはおそらく、この使者らしき男の言い回しは、この世界でもすでに、ずれているのだろう。
「私にまかせて」
パキラが俺のそばに素早く駆け寄り、小声で鋭くそういった。
「頼む」
輜重械フェルディナンドを停止させ、パキラは手すりから下がった縄梯子から地面に降りた。30mほど前方へ進み、騎雉の男へ呼びかける。
「お答えいたします。これなるはモルテンバラの最果てよりまかり出し、騎士ヴォルターとその愛械カイルダイン。父祖の威光に頼らず進まんとする修行の途ゆえ、家名を明かせぬことをお許しください」
年恰好に似合わぬ大人びた口上を、立て板に水を流すようにさらりと述べる――その姿に俺は深い感銘を受けた。
恐らく彼女の『親方』による教育の成果だ。
使者のほうも同じ思いだったらしい。何かに打たれたように雉上で背筋を伸ばすと、乗騎に足を曲げさせ地面に降り立った。右拳を左掌で包み込む拱手の礼をとり、頭を下げる。
「これは丁寧なご挨拶、痛み入る。それがしはブルゼンの長者ゴータム様の従者、ザイダと申す。して、貴女は?」
「カイルダインの械匠として同道しております、パキラ・フロインダウトと申します」
「あい分かり申した。しからばひとまず、主に復命をば。しばし待たれよ」
男は再び騎雉にまたがり、来た方向へと駆け戻っていく。目を凝らせば道のかなたには、飾りたてた何台もの輜重械を連ね騎雉隊を伴った豪華な行列が、足を止めてこちらの様子をうかがっているのがわかった。
「何だろう、あれ」
縄梯子を上がってきたパキラに尋ねてみた。
「多分富裕な商人、もしくは土豪ね。紋章に天秤が描かれてた……商売で財を成した一門ってことよ」
「『長者』っていってたな」
「ええ。つまり、ただの財産家じゃないわ。信心深くて諸神とその神殿に手厚く布施を行い、貧しい人にも施しを欠かさない。そんな徳のある人だけが『長者』と呼ばれるのよ」
「なるほど」
イスラム、もしくはヒンドゥー的な価値観が浸透した社会らしい。蓄えた富を社会に還元する行為には自己満足や傲慢、あるいは巧妙な自己防衛の側面もある。
だが現実にそれで救われる命、守られる尊厳があるならば単なる方便以上の価値があるのだ。
「今年は両陽の合と夏が重なる『大夏』の年よ。真陽と欺陽が左右に並んで輝いてる。長者様はきっと、一族を引き連れて涼しい地方へ移動するところね」
「ははあ、豪勢なもんだな」
「私も見るのは初めて。路地裏ではそんなの、雲の上の世界の話だったもの」
何にしても、騎士に見えないこともない格好に着替えた後で助かった。
「カイルダイン! 降着体勢をとってくれ」
(なんと、四つん這いですか!?)
(そうじゃない、何で嬉しそうなんだ……ひざまずくんだよ)
くそ、ダメだ。今の反応のあとだとこれでもまだ怪しげに聞こえる。
(分かりました。で、どうするのです?)
カイルダインから白けた感じの思念が送られてきた。
「お前が自分で歩けると知られたくない。俺は今降りたことにしよう」
(なるほど、しかし、あの使者から佩用者は見えていたのでは?)
俺は空を指差した。
「距離があったし、さっきの使者の位置からは逆光だ。帽子を変えれば分かるまい」
パキラが荷物の中からもう一つ、黒い帽子を出してきてくれた。それをかぶり、ひざまずいたカイルダインの足元にパキラと二人立って、行列を待ち受ける。
長者ゴータムの乗り物は、色鮮やかな文様織りの布を日よけに架け渡した、壮麗な輜重械だった。大きさはフェルディナンドより一回り小さい程度。
歩みを止めたその械体は左側にリフトがついており、山羊髭の老人がその上に立って降りてくる。周りには側仕えの女たちが恭しく日傘を差しかけ、三宝のような台に盛られた菓子や、水差しらしきものを捧げ持って控えていた。
「おお、なんと勇壮な! これほどの護令械は王都にも僅かであろう……」
老人は俺たちにはほとんど目もくれず、カイルダインを見上げて子供のように興奮した様を見せた。
「もったいないお言葉、恐縮です」
パキラがひざまずいて丁重に挨拶をし、俺にも同様にしろと促して胴着を引っ張った。
騎士ヴォルターは武辺一筋の田舎者、世知にたけた械匠が要所要所でふさわしい振る舞いを入れ知恵している、という態である。大体現実に即した演出だ。
老人は鷹揚に笑って俺の非礼を許し、その場に簡易の席を設けて俺たちに茶をふるまってくれた。
「ふむ、するとこの先七日の場所には、泉があると」
「そうです。近辺にはまだ流賊の残党が潜んでいるやもしれません。ご注意くださいませ」
俺たちは長者ゴータムと談笑し、道中の様々な情報を交換し合った。長者はパキラが想像した通り、避暑地へ向かう移動の途中だった。
「こんな事なら、手心を加えず討ち懲らしたほうがよかったか――」
俺が武骨にそう漏らすと、長者は笑いながら手を振った。
「いやいや、渉猟械持ちの賊など、討ち取っていただけただけでも望外のことであった。幸い腕の立つものを多数、騎雉隊として連れてきておる。あとはこの者たちで取り押さえられよう……良きかな、騎士ヴォルター殿。貴公とカイルダインは、世のため、そしてこの老人のために善行を施してくださった」
(いやぁ、それほどでも)
(しっ)
カイルダインが調子に乗った思念を飛ばし、俺は無言でそれをたしなめる。周りにまで届いていないといいのだが。
「そうだ、ここから三日程、岩山の間の分かれ道で標識が壊れていました。ここから向かう分には大きな間違いはないと思いますが……なにぶん、時刻によっては方向を見失いそうな場所。お気を付けください」
パキラにまでは届いていたらしい。彼女は冷や汗を浮かべて話題に穂を継いだ。
「おお、それはいかんな。あとで供のものによく伝えておかねば……もしや騎士殿たちもそこで道を間違えられたのでは?」
「そうです。ダンバーへ行くつもりだったのですが」
「おかげで水が――」
パキラが俺の手の甲をつねり、長者はまた愉快そうに笑った。
「そういえば、騎士殿のカイルダインは、少し変わっておりますな。武器も盾もないようだが……ひょっとすると渉猟械ではないのであろうかな?」
長者は妙なことを気にした。どうもこの御仁、護令械が大層お好きらしい。マニアというやつだ。うかつな対応をすると、本当にカイルダインの本質を看破されてしまうかもしれない。
「なにぶんにも僻地にありましたし、とても古いものみたいなんです。ヴォルター様の生家に招かれて初めて見せられたときは、私もびっくりしました」
パキラはうまく調子を合わせてくれている。
「なるほど……もしかすると、戦闘用の護令械が闘将械と渉猟械に分かれる以前の物かもしれぬな」
「言われてみれば、渉猟械の脚部と胴に、闘将械の肩と腕を継いだような姿ですね」
「うむ。実に興味深い……そういえば、械匠殿は、ブルゼンの街をご存知か?」
「いえ、知りません。その……ここから近いんですか? 長者様はそちらからいらしたそうですが」
少し話の流れが変わり、パキラはきょとんとした顔になった。
「ブルゼンはここからほんの二日の位置にある」
「ありがたい、それなら何とか手持ちの水でしのげないこともないか」
「ああ、水はこちらからも少し差し上げよう。進路の危難を取り去ってくれた、せめてもの礼に……それでな、ブルゼンでは古い時代の護令械を一械、保存しておる。十年に一度くらい、新たな護令械を勧請するために王都から神官や械匠たちが大勢訪れることがあるし、近隣の騎士叙任も行われることがある」
「へえ……それは見てみたいですね、是非」
パキラが俄然目を輝かせた。
「その関係で、ブルゼンには武器製作に長けた械匠たちが多数、工房を持っておるのだ……カイルダインにもよい得物が必要であろう。是非ブルゼンで、心行くまで吟味されるがよかろう」
「なるほど……」
そういうところなら、械匠の認可状を申請できるかもしれない。それに、拾い集めてきた護令械の部品も売れるだろう。
「そういう尚武の街ゆえな、闘技場が設けられ、腕に覚えのあるものが賭け試合を行ったりもしておる。退屈したら観に行かれるのもよかろう。護令械での試合はまずなかろうがな」
長者の何気ない言葉に、俺とパキラは思わず顔を見合わせた。
小一時間もすると、長者は再び輜重械の上に戻り、行列はしずしずと進み始めた。しずしずといっても輸送用大型輜重械の平均的な速度は、見たところ時速20kmよりもやや遅い程度だ。徒歩ではついていけるものではない。
昔TVでみたインドあたりのバスそのままに、人を鈴なりに乗せた何台もの輜重械が歩いていく。その足元を騎雉にまたがった戦士たちが走った。
長者ゴータムは俺たちに水を大樽二つと、石炭を大袋に二つ分けてくれた。おおよそ100kgほどありそうだ。俺たちはようやく一息ついて、残りの道程をまだ見ぬ街へ向けて進んだ。
「闘技場、か……どんなものか見てみるまでは分からないが……」
「気になる?」
「ああ。イデカワ分は気が進まないんだが、ヴォルター分がな」
物事に対するこの相反する感情と反応。なぜ今の俺はこんなふうにできているのだろう?
「そうかあ……二人分が一つの体に入ってるって、どんな感じ?」
パキラが不思議そうに俺を見た。
「凄く不安だ。でも、時々とても心強い気持ちになるんだ」
「ふふ。闘技場、路銀の足しになるような感じだといいけど」
「そうだな」
パキラが明るい声で笑う。それは俺を勇気づけてくれているように思えた。
光沢のあるオレンジ色の布に、鮮やかな青で染め抜かれた奇妙な紋章。
鎧を付けた二体の人物が左右対称に踊るようなポーズをとり、その間には神殿のような建物と花束。神殿の内側には金糸で刺繍された天秤があしらわれている。
騎雉の男はこちらから100mほどの距離で立ち止まり、口に手を当てて大声で呼ばわった。
「お尋ね申し上げる! 此方へお出でになられたるは、何処の騎士にあらせられるや? 我、主人より確かめてまいれとの下知をたまわれり」
(うわ、すげえ時代がかった言い回し!)
俺は若干の気おくれを感じた。俺のもう半分がこの世界の言語に対する理解を与えてくれてなお、これ。
ということはおそらく、この使者らしき男の言い回しは、この世界でもすでに、ずれているのだろう。
「私にまかせて」
パキラが俺のそばに素早く駆け寄り、小声で鋭くそういった。
「頼む」
輜重械フェルディナンドを停止させ、パキラは手すりから下がった縄梯子から地面に降りた。30mほど前方へ進み、騎雉の男へ呼びかける。
「お答えいたします。これなるはモルテンバラの最果てよりまかり出し、騎士ヴォルターとその愛械カイルダイン。父祖の威光に頼らず進まんとする修行の途ゆえ、家名を明かせぬことをお許しください」
年恰好に似合わぬ大人びた口上を、立て板に水を流すようにさらりと述べる――その姿に俺は深い感銘を受けた。
恐らく彼女の『親方』による教育の成果だ。
使者のほうも同じ思いだったらしい。何かに打たれたように雉上で背筋を伸ばすと、乗騎に足を曲げさせ地面に降り立った。右拳を左掌で包み込む拱手の礼をとり、頭を下げる。
「これは丁寧なご挨拶、痛み入る。それがしはブルゼンの長者ゴータム様の従者、ザイダと申す。して、貴女は?」
「カイルダインの械匠として同道しております、パキラ・フロインダウトと申します」
「あい分かり申した。しからばひとまず、主に復命をば。しばし待たれよ」
男は再び騎雉にまたがり、来た方向へと駆け戻っていく。目を凝らせば道のかなたには、飾りたてた何台もの輜重械を連ね騎雉隊を伴った豪華な行列が、足を止めてこちらの様子をうかがっているのがわかった。
「何だろう、あれ」
縄梯子を上がってきたパキラに尋ねてみた。
「多分富裕な商人、もしくは土豪ね。紋章に天秤が描かれてた……商売で財を成した一門ってことよ」
「『長者』っていってたな」
「ええ。つまり、ただの財産家じゃないわ。信心深くて諸神とその神殿に手厚く布施を行い、貧しい人にも施しを欠かさない。そんな徳のある人だけが『長者』と呼ばれるのよ」
「なるほど」
イスラム、もしくはヒンドゥー的な価値観が浸透した社会らしい。蓄えた富を社会に還元する行為には自己満足や傲慢、あるいは巧妙な自己防衛の側面もある。
だが現実にそれで救われる命、守られる尊厳があるならば単なる方便以上の価値があるのだ。
「今年は両陽の合と夏が重なる『大夏』の年よ。真陽と欺陽が左右に並んで輝いてる。長者様はきっと、一族を引き連れて涼しい地方へ移動するところね」
「ははあ、豪勢なもんだな」
「私も見るのは初めて。路地裏ではそんなの、雲の上の世界の話だったもの」
何にしても、騎士に見えないこともない格好に着替えた後で助かった。
「カイルダイン! 降着体勢をとってくれ」
(なんと、四つん這いですか!?)
(そうじゃない、何で嬉しそうなんだ……ひざまずくんだよ)
くそ、ダメだ。今の反応のあとだとこれでもまだ怪しげに聞こえる。
(分かりました。で、どうするのです?)
カイルダインから白けた感じの思念が送られてきた。
「お前が自分で歩けると知られたくない。俺は今降りたことにしよう」
(なるほど、しかし、あの使者から佩用者は見えていたのでは?)
俺は空を指差した。
「距離があったし、さっきの使者の位置からは逆光だ。帽子を変えれば分かるまい」
パキラが荷物の中からもう一つ、黒い帽子を出してきてくれた。それをかぶり、ひざまずいたカイルダインの足元にパキラと二人立って、行列を待ち受ける。
長者ゴータムの乗り物は、色鮮やかな文様織りの布を日よけに架け渡した、壮麗な輜重械だった。大きさはフェルディナンドより一回り小さい程度。
歩みを止めたその械体は左側にリフトがついており、山羊髭の老人がその上に立って降りてくる。周りには側仕えの女たちが恭しく日傘を差しかけ、三宝のような台に盛られた菓子や、水差しらしきものを捧げ持って控えていた。
「おお、なんと勇壮な! これほどの護令械は王都にも僅かであろう……」
老人は俺たちにはほとんど目もくれず、カイルダインを見上げて子供のように興奮した様を見せた。
「もったいないお言葉、恐縮です」
パキラがひざまずいて丁重に挨拶をし、俺にも同様にしろと促して胴着を引っ張った。
騎士ヴォルターは武辺一筋の田舎者、世知にたけた械匠が要所要所でふさわしい振る舞いを入れ知恵している、という態である。大体現実に即した演出だ。
老人は鷹揚に笑って俺の非礼を許し、その場に簡易の席を設けて俺たちに茶をふるまってくれた。
「ふむ、するとこの先七日の場所には、泉があると」
「そうです。近辺にはまだ流賊の残党が潜んでいるやもしれません。ご注意くださいませ」
俺たちは長者ゴータムと談笑し、道中の様々な情報を交換し合った。長者はパキラが想像した通り、避暑地へ向かう移動の途中だった。
「こんな事なら、手心を加えず討ち懲らしたほうがよかったか――」
俺が武骨にそう漏らすと、長者は笑いながら手を振った。
「いやいや、渉猟械持ちの賊など、討ち取っていただけただけでも望外のことであった。幸い腕の立つものを多数、騎雉隊として連れてきておる。あとはこの者たちで取り押さえられよう……良きかな、騎士ヴォルター殿。貴公とカイルダインは、世のため、そしてこの老人のために善行を施してくださった」
(いやぁ、それほどでも)
(しっ)
カイルダインが調子に乗った思念を飛ばし、俺は無言でそれをたしなめる。周りにまで届いていないといいのだが。
「そうだ、ここから三日程、岩山の間の分かれ道で標識が壊れていました。ここから向かう分には大きな間違いはないと思いますが……なにぶん、時刻によっては方向を見失いそうな場所。お気を付けください」
パキラにまでは届いていたらしい。彼女は冷や汗を浮かべて話題に穂を継いだ。
「おお、それはいかんな。あとで供のものによく伝えておかねば……もしや騎士殿たちもそこで道を間違えられたのでは?」
「そうです。ダンバーへ行くつもりだったのですが」
「おかげで水が――」
パキラが俺の手の甲をつねり、長者はまた愉快そうに笑った。
「そういえば、騎士殿のカイルダインは、少し変わっておりますな。武器も盾もないようだが……ひょっとすると渉猟械ではないのであろうかな?」
長者は妙なことを気にした。どうもこの御仁、護令械が大層お好きらしい。マニアというやつだ。うかつな対応をすると、本当にカイルダインの本質を看破されてしまうかもしれない。
「なにぶんにも僻地にありましたし、とても古いものみたいなんです。ヴォルター様の生家に招かれて初めて見せられたときは、私もびっくりしました」
パキラはうまく調子を合わせてくれている。
「なるほど……もしかすると、戦闘用の護令械が闘将械と渉猟械に分かれる以前の物かもしれぬな」
「言われてみれば、渉猟械の脚部と胴に、闘将械の肩と腕を継いだような姿ですね」
「うむ。実に興味深い……そういえば、械匠殿は、ブルゼンの街をご存知か?」
「いえ、知りません。その……ここから近いんですか? 長者様はそちらからいらしたそうですが」
少し話の流れが変わり、パキラはきょとんとした顔になった。
「ブルゼンはここからほんの二日の位置にある」
「ありがたい、それなら何とか手持ちの水でしのげないこともないか」
「ああ、水はこちらからも少し差し上げよう。進路の危難を取り去ってくれた、せめてもの礼に……それでな、ブルゼンでは古い時代の護令械を一械、保存しておる。十年に一度くらい、新たな護令械を勧請するために王都から神官や械匠たちが大勢訪れることがあるし、近隣の騎士叙任も行われることがある」
「へえ……それは見てみたいですね、是非」
パキラが俄然目を輝かせた。
「その関係で、ブルゼンには武器製作に長けた械匠たちが多数、工房を持っておるのだ……カイルダインにもよい得物が必要であろう。是非ブルゼンで、心行くまで吟味されるがよかろう」
「なるほど……」
そういうところなら、械匠の認可状を申請できるかもしれない。それに、拾い集めてきた護令械の部品も売れるだろう。
「そういう尚武の街ゆえな、闘技場が設けられ、腕に覚えのあるものが賭け試合を行ったりもしておる。退屈したら観に行かれるのもよかろう。護令械での試合はまずなかろうがな」
長者の何気ない言葉に、俺とパキラは思わず顔を見合わせた。
小一時間もすると、長者は再び輜重械の上に戻り、行列はしずしずと進み始めた。しずしずといっても輸送用大型輜重械の平均的な速度は、見たところ時速20kmよりもやや遅い程度だ。徒歩ではついていけるものではない。
昔TVでみたインドあたりのバスそのままに、人を鈴なりに乗せた何台もの輜重械が歩いていく。その足元を騎雉にまたがった戦士たちが走った。
長者ゴータムは俺たちに水を大樽二つと、石炭を大袋に二つ分けてくれた。おおよそ100kgほどありそうだ。俺たちはようやく一息ついて、残りの道程をまだ見ぬ街へ向けて進んだ。
「闘技場、か……どんなものか見てみるまでは分からないが……」
「気になる?」
「ああ。イデカワ分は気が進まないんだが、ヴォルター分がな」
物事に対するこの相反する感情と反応。なぜ今の俺はこんなふうにできているのだろう?
「そうかあ……二人分が一つの体に入ってるって、どんな感じ?」
パキラが不思議そうに俺を見た。
「凄く不安だ。でも、時々とても心強い気持ちになるんだ」
「ふふ。闘技場、路銀の足しになるような感じだといいけど」
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