14 / 65
ACT1:闘技場都市の支配者
アースラ
しおりを挟む
見えていたはずだった。だが少女騎士の突進はあまりに速く、そして重かった。
分厚い刃を備えた長柄まで鉄製の両手斧と、小柄な体を力士のように錯覚させる重厚な全身鎧。そして彼女自身の質量が一体になって俺を打倒した。
「ぐぼっ!」
まともに言葉などでない。俺はそのまま3mほどふっとばされて、背中から舗道に叩き付けられた。
「危な……ッ!」
辛うじて難を逃れたパキラが息をのむ。少女騎士の手を離れた斧がなだれ落ちるように倒れ込んできて、俺の膝の横30㎝ほどの場所で敷石に当たって跳ね、ひどい音を立てた。
背中を強打したせいで呼吸がまともにできない。
「お……おおぅ?」
自分自身もつんのめってうつぶせに倒れた騎士が、ようやく手をついて立ち上がる。顔を上げて俺と斧を見較べ、一瞬遅れ彼女は耳をつんざくような悲鳴を上げた。
「うわああああああッ! すまぬ! すまぬッ! 怪我はないか、大丈夫か!? 生きておるのか? 駄目なのか!? 頼む、妾に拭いようのない悔恨を残したまま逝かんでくれぃ!」
高速で這い寄って俺のシャツの胸に取りすがり、ものすごい力で締め上げながら頬と額をすりつけて涙目でまくしたてる。俺は体のどこも切断されなかったことを確かめながら、のろのろと体を起こした。
「あの、えっと、生きてます。生きてますので離してください……」
俺はやっとのことで彼女の鎧の肩を手でたたき、それだけを伝えた。
「いやもう、本当にすまなんだ。あまり気が昂ぶって斧の刃に覆いを付けることも忘れ、ろくに前も見ずに走り出してしまったのじゃ……その、今度から気を付ける」
やっとのことで落ち着きを取り戻した少女は、ガラス器に注がれた甘い茶を麦わらストローでちゅう、と音を立ててすすった。
械匠ギルドの建物からほど近い、路傍に出された茶店の屋台。その店先の丸テーブルを囲んで、俺たちはその少女騎士と向かい合って座っていた。
「今度から、とおっしゃいましても……」
パキラが困惑の表情を浮かべて、自分の前のガラス器を両掌で包んだ。言いたいことはなんとなくわかる。気を付けていただくべき『今度』がある、という想定をそもそもしていない。したくない。
「ううっ……妾のごときすぐ沸騰するぴーぴーヤカンのがんがらがんで生まれたときから権力の甘味にどっぷり浸かって周囲の迷惑も顧みず暴れまわるイノシシ娘とは金輪際関わりたくない、とそう申すのじゃな?」
――寸分のよどみもない素晴らしい滑舌。まるで日頃から練習を積んだセリフのようだ。
「言ってません。関わりたくないのは事実だけど言ってませ」
パキラが口を滑らせ、あわてて口を押えた。あーあ。
「そうか、関わりたくないか……しかたないのう。妾が悪いのじゃ。身から出たサビじゃカスじゃ。垢玉じゃ」
意気消沈してうなだれる騎士。鎧の肩アーマーが支えるものをなくして下方へずれ、ガシャ、と音を立てた。
俺も麦わらストローを咥えて、冷茶を一口すすった。黒砂糖よりも少し高純度に精製された砂糖のさらりとした甘みと、シナモン的なものを主体にした香料のさわやかな刺激。
ただし適量を超えて投入されているため、舌が麻痺しそうに甘い。
「ギルドであんなに怒鳴っていた割に、ずいぶんとその……率直に謝られるんですね。あと、自己言及はそのくらいにして、そろそろお互いに自己紹介でもしませんか――その、こうしてお茶をご馳走いただいてることでもありますし」
卑屈に、と形容しかけて俺は危ないところで言い換えた。
「あ、うむ、そうじゃな。……自分の非を認めて謝ることができないのは余裕のない人間、善根をうち枯らしたものの陥る過ちじゃ。家庭教師のワリブがそう教えてくれた。妾には非を認めて償うだけの余裕がある。だから惜しみなく謝るぞ」
(やだこの子、めんどくさい)
(しっ)
耳元に囁くパキラを肘でつついて黙らせた。
「自己紹介を提案してくれるということは、まだより良い関係を結ぶ機会が残っていると解釈してよいのじゃな? では妾から名乗ろう――アースラ・ゲイルウィン、当年とって十七歳になる。見ての通りの騎士じゃ。ちと仔細あってな、任務でこっちへ来ておるのじゃ」
「ご丁寧にありがとうございます。俺はヴォルター。遊歴修行中の身ですので家名を伏せさせていただきますが、同じく騎士です」
アースラと名乗った騎士は、俺を見つめて目を輝かせた。
「おお、そなたも騎士か! して、そちは?」
パキラのほうに向き直り、会話の進行をうながす。
「械匠見習のパキラ・フロインダウトと申します」
「なるほど、械匠と騎士であったか……それでギルドにな。得心いったのじゃ。はて、それにしてもフロインダウトとな? どこかで耳にしたような……うぬ、思い出せぬ」
首をかしげるアースラの背後に、ばたばたと足音を立てて鎖鎧を身に着けた男たちが駆け寄ってきた。
「姫様!」
「姫様、ここにおいででしたか」
アースラが「邪魔すんな」と言いたげな嫌そうな表情になる。
「何じゃ、お主らか。どうした」
男たちの一人、きりりとした眉と異様に涼やかな瞳をした美丈夫が口を開いた。
「何じゃ、ではございませぬ! 我ら随員の反対を押し切って、闘技場に一試合出ると決められたのは姫様ではありませんか。選手控室へ入られるお時間が迫っておりますぞ。興行ものとはいえ決闘の刻限に遅れるは騎士の名折れ、ささ」
「うわあああッ! 忘れておったァッ!」
アースラが両手で頭を抱えるようにして椅子から跳ね上がった。肩アーマーが背中側にずれてガシャシャ、と音を立てる。
「主! われら三名の茶代はここに置いておく、釣りはこの騎士ヴォルターに取らせよ。また来る、うまい茶であったぞ!」
銀貨2枚をテーブルの上にパシッと置くと、彼女は21世紀地球の最新型戦車がその場で旋回するような、重厚かつシャープな動作で身をひるがえした。
「うむ、謝罪の途中で申し訳ないがこれで一旦失礼する。ヴォルターにパキラよ、お主らもギルドの用事を済ませたら闘技場に参れ。妾の試合を観るがよいぞ。試合後は控室前で待っていてくれい。」
首だけ振り向いて、俺たちに向かってニカッと笑う。彼女はそのまま暴れ馬のような勢いで敷石を踏み鳴らして走り出した。
「急ぐぞ! 控室まで駆け足、訓練だと思って走れッ!」
「姫様!お待ちを!」
「姫様!斧をお忘れです!」
「ええいまたか、お主が持って来いガラヴェイン!」
美丈夫は斧を肩の上に抱え、俺たちに一礼するとアースラのあとを追って走り出す。190cmほどの長身、逆三角形のボディビルダーと水泳選手の中間のような体型がいつまでも目に焼き付いた。
械匠ギルド館の前庭に積み上げられた輜重械の部品をまえに、パキラとギルド係員はてきぱきと商談を進めていた。
「こちらの関節軸と熱水管の調整弁で10ディアス。こちらの絹糸束筒は無傷ですので15ディアスで引き取りましょう」
「あ、はい。じゃあそれでお願いします……こちらの装甲類は?」
かすかに眉をひそめ、パキラが係員の表情をうかがう。
「一度溶かして成形しなおすことになりますので、地金としての価値にしか……3ディアスで如何でしょう」
「仕方ないわね。まあそんなところかしら。それでお願いします」
パキラはため息をついて買取承諾書にサインした。期待したより少し安い。それにしてもこの世界は思いのほか金属が安いようだ。
(まあ、地球の歴史上の時代とは労働力の性質が違うんだろうなあ……)
市壁と城門を見たときにも感じたことだ。鉱石の採掘や鉄をはじめ金属材料の成形に護令械が使えるなら、あとはその運用にかかる費用と手間が工業生産のコストを左右する。
30mサイズの鉄の巨人を製造し運用する社会が前近代的な規模の細々とした工業生産でまかなえるはずもない。
とにかく、今日の駐械料金は確保できたわけだ。パキラもこの機会に、械匠ギルド係員からいろいろと聞き出しているようだった。会話がここまで聞こえてくる。
「……認可状を発行するには、技能試験に合格することと、ギルドが信頼出来ると認めるに足る人物による身元保証が必要ですな」
「ダンバーの械匠ギルドに籍を置く鍛冶司、ダールハム・フロインダウトに師事していたんですが、不足でしょうか?」
パキラがギルド係員に食い下がった。ダールハムというのが親方の名らしい。
「ダールハム殿のお名前は私も聞き及んでおりますが、ご本人がいらっしゃらないことには……まあ、とにかく見習として登録されては。市内各所の工房で炉を使えるだけでもずいぶん違うかと思います」
「そうですね、いろいろとありがとうございました。ではしばらくお世話になります」
申し訳なさそうにうつむくギルド係員に頭を下げ、パキラはやや意気消沈した面持ちでギルド館を出てきた。
「お待たせ」
「お疲れさん。よかったのか、側にいなくて。荷物持ちくらいはできたのに」
「いいわ。そういう仕事はギルド付きの徒弟がすることよ。あなたは騎士って事になってるんだからどっしり構えてて……8ディアスあれば、まあまともなベッドのある宿に二日は泊まれるわね」
「……だいたい二万円くらいか。なるほど」
「ニマンエン?」
「何でもない」
井出川准としての記憶に強く関連した語彙は、翻訳されずに俺の口から出る。パキラには理解できないのだ。
「これからどうするの? 宿をとるにはまだ時間ありそうだけど」
「あの騎士――姫さんが言ってた、試合とやらを見に行こう。どうせ闘技場には行ってみるつもりだったし」
先ほどアースラが向かった方向を見る。探すまでもなく、そこに闘技場があった。ローマの円形劇場に似ているが、土台や柱のあちこちに鉄製のたがや突起物がとりつけられ、油を塗られて黒々と輝いている。黒い茨で作られた、巨大な冠とでも言ったような外観だ。近づくにつれ内部からは遠雷のような歓声が聞こえてきた。
分厚い刃を備えた長柄まで鉄製の両手斧と、小柄な体を力士のように錯覚させる重厚な全身鎧。そして彼女自身の質量が一体になって俺を打倒した。
「ぐぼっ!」
まともに言葉などでない。俺はそのまま3mほどふっとばされて、背中から舗道に叩き付けられた。
「危な……ッ!」
辛うじて難を逃れたパキラが息をのむ。少女騎士の手を離れた斧がなだれ落ちるように倒れ込んできて、俺の膝の横30㎝ほどの場所で敷石に当たって跳ね、ひどい音を立てた。
背中を強打したせいで呼吸がまともにできない。
「お……おおぅ?」
自分自身もつんのめってうつぶせに倒れた騎士が、ようやく手をついて立ち上がる。顔を上げて俺と斧を見較べ、一瞬遅れ彼女は耳をつんざくような悲鳴を上げた。
「うわああああああッ! すまぬ! すまぬッ! 怪我はないか、大丈夫か!? 生きておるのか? 駄目なのか!? 頼む、妾に拭いようのない悔恨を残したまま逝かんでくれぃ!」
高速で這い寄って俺のシャツの胸に取りすがり、ものすごい力で締め上げながら頬と額をすりつけて涙目でまくしたてる。俺は体のどこも切断されなかったことを確かめながら、のろのろと体を起こした。
「あの、えっと、生きてます。生きてますので離してください……」
俺はやっとのことで彼女の鎧の肩を手でたたき、それだけを伝えた。
「いやもう、本当にすまなんだ。あまり気が昂ぶって斧の刃に覆いを付けることも忘れ、ろくに前も見ずに走り出してしまったのじゃ……その、今度から気を付ける」
やっとのことで落ち着きを取り戻した少女は、ガラス器に注がれた甘い茶を麦わらストローでちゅう、と音を立ててすすった。
械匠ギルドの建物からほど近い、路傍に出された茶店の屋台。その店先の丸テーブルを囲んで、俺たちはその少女騎士と向かい合って座っていた。
「今度から、とおっしゃいましても……」
パキラが困惑の表情を浮かべて、自分の前のガラス器を両掌で包んだ。言いたいことはなんとなくわかる。気を付けていただくべき『今度』がある、という想定をそもそもしていない。したくない。
「ううっ……妾のごときすぐ沸騰するぴーぴーヤカンのがんがらがんで生まれたときから権力の甘味にどっぷり浸かって周囲の迷惑も顧みず暴れまわるイノシシ娘とは金輪際関わりたくない、とそう申すのじゃな?」
――寸分のよどみもない素晴らしい滑舌。まるで日頃から練習を積んだセリフのようだ。
「言ってません。関わりたくないのは事実だけど言ってませ」
パキラが口を滑らせ、あわてて口を押えた。あーあ。
「そうか、関わりたくないか……しかたないのう。妾が悪いのじゃ。身から出たサビじゃカスじゃ。垢玉じゃ」
意気消沈してうなだれる騎士。鎧の肩アーマーが支えるものをなくして下方へずれ、ガシャ、と音を立てた。
俺も麦わらストローを咥えて、冷茶を一口すすった。黒砂糖よりも少し高純度に精製された砂糖のさらりとした甘みと、シナモン的なものを主体にした香料のさわやかな刺激。
ただし適量を超えて投入されているため、舌が麻痺しそうに甘い。
「ギルドであんなに怒鳴っていた割に、ずいぶんとその……率直に謝られるんですね。あと、自己言及はそのくらいにして、そろそろお互いに自己紹介でもしませんか――その、こうしてお茶をご馳走いただいてることでもありますし」
卑屈に、と形容しかけて俺は危ないところで言い換えた。
「あ、うむ、そうじゃな。……自分の非を認めて謝ることができないのは余裕のない人間、善根をうち枯らしたものの陥る過ちじゃ。家庭教師のワリブがそう教えてくれた。妾には非を認めて償うだけの余裕がある。だから惜しみなく謝るぞ」
(やだこの子、めんどくさい)
(しっ)
耳元に囁くパキラを肘でつついて黙らせた。
「自己紹介を提案してくれるということは、まだより良い関係を結ぶ機会が残っていると解釈してよいのじゃな? では妾から名乗ろう――アースラ・ゲイルウィン、当年とって十七歳になる。見ての通りの騎士じゃ。ちと仔細あってな、任務でこっちへ来ておるのじゃ」
「ご丁寧にありがとうございます。俺はヴォルター。遊歴修行中の身ですので家名を伏せさせていただきますが、同じく騎士です」
アースラと名乗った騎士は、俺を見つめて目を輝かせた。
「おお、そなたも騎士か! して、そちは?」
パキラのほうに向き直り、会話の進行をうながす。
「械匠見習のパキラ・フロインダウトと申します」
「なるほど、械匠と騎士であったか……それでギルドにな。得心いったのじゃ。はて、それにしてもフロインダウトとな? どこかで耳にしたような……うぬ、思い出せぬ」
首をかしげるアースラの背後に、ばたばたと足音を立てて鎖鎧を身に着けた男たちが駆け寄ってきた。
「姫様!」
「姫様、ここにおいででしたか」
アースラが「邪魔すんな」と言いたげな嫌そうな表情になる。
「何じゃ、お主らか。どうした」
男たちの一人、きりりとした眉と異様に涼やかな瞳をした美丈夫が口を開いた。
「何じゃ、ではございませぬ! 我ら随員の反対を押し切って、闘技場に一試合出ると決められたのは姫様ではありませんか。選手控室へ入られるお時間が迫っておりますぞ。興行ものとはいえ決闘の刻限に遅れるは騎士の名折れ、ささ」
「うわあああッ! 忘れておったァッ!」
アースラが両手で頭を抱えるようにして椅子から跳ね上がった。肩アーマーが背中側にずれてガシャシャ、と音を立てる。
「主! われら三名の茶代はここに置いておく、釣りはこの騎士ヴォルターに取らせよ。また来る、うまい茶であったぞ!」
銀貨2枚をテーブルの上にパシッと置くと、彼女は21世紀地球の最新型戦車がその場で旋回するような、重厚かつシャープな動作で身をひるがえした。
「うむ、謝罪の途中で申し訳ないがこれで一旦失礼する。ヴォルターにパキラよ、お主らもギルドの用事を済ませたら闘技場に参れ。妾の試合を観るがよいぞ。試合後は控室前で待っていてくれい。」
首だけ振り向いて、俺たちに向かってニカッと笑う。彼女はそのまま暴れ馬のような勢いで敷石を踏み鳴らして走り出した。
「急ぐぞ! 控室まで駆け足、訓練だと思って走れッ!」
「姫様!お待ちを!」
「姫様!斧をお忘れです!」
「ええいまたか、お主が持って来いガラヴェイン!」
美丈夫は斧を肩の上に抱え、俺たちに一礼するとアースラのあとを追って走り出す。190cmほどの長身、逆三角形のボディビルダーと水泳選手の中間のような体型がいつまでも目に焼き付いた。
械匠ギルド館の前庭に積み上げられた輜重械の部品をまえに、パキラとギルド係員はてきぱきと商談を進めていた。
「こちらの関節軸と熱水管の調整弁で10ディアス。こちらの絹糸束筒は無傷ですので15ディアスで引き取りましょう」
「あ、はい。じゃあそれでお願いします……こちらの装甲類は?」
かすかに眉をひそめ、パキラが係員の表情をうかがう。
「一度溶かして成形しなおすことになりますので、地金としての価値にしか……3ディアスで如何でしょう」
「仕方ないわね。まあそんなところかしら。それでお願いします」
パキラはため息をついて買取承諾書にサインした。期待したより少し安い。それにしてもこの世界は思いのほか金属が安いようだ。
(まあ、地球の歴史上の時代とは労働力の性質が違うんだろうなあ……)
市壁と城門を見たときにも感じたことだ。鉱石の採掘や鉄をはじめ金属材料の成形に護令械が使えるなら、あとはその運用にかかる費用と手間が工業生産のコストを左右する。
30mサイズの鉄の巨人を製造し運用する社会が前近代的な規模の細々とした工業生産でまかなえるはずもない。
とにかく、今日の駐械料金は確保できたわけだ。パキラもこの機会に、械匠ギルド係員からいろいろと聞き出しているようだった。会話がここまで聞こえてくる。
「……認可状を発行するには、技能試験に合格することと、ギルドが信頼出来ると認めるに足る人物による身元保証が必要ですな」
「ダンバーの械匠ギルドに籍を置く鍛冶司、ダールハム・フロインダウトに師事していたんですが、不足でしょうか?」
パキラがギルド係員に食い下がった。ダールハムというのが親方の名らしい。
「ダールハム殿のお名前は私も聞き及んでおりますが、ご本人がいらっしゃらないことには……まあ、とにかく見習として登録されては。市内各所の工房で炉を使えるだけでもずいぶん違うかと思います」
「そうですね、いろいろとありがとうございました。ではしばらくお世話になります」
申し訳なさそうにうつむくギルド係員に頭を下げ、パキラはやや意気消沈した面持ちでギルド館を出てきた。
「お待たせ」
「お疲れさん。よかったのか、側にいなくて。荷物持ちくらいはできたのに」
「いいわ。そういう仕事はギルド付きの徒弟がすることよ。あなたは騎士って事になってるんだからどっしり構えてて……8ディアスあれば、まあまともなベッドのある宿に二日は泊まれるわね」
「……だいたい二万円くらいか。なるほど」
「ニマンエン?」
「何でもない」
井出川准としての記憶に強く関連した語彙は、翻訳されずに俺の口から出る。パキラには理解できないのだ。
「これからどうするの? 宿をとるにはまだ時間ありそうだけど」
「あの騎士――姫さんが言ってた、試合とやらを見に行こう。どうせ闘技場には行ってみるつもりだったし」
先ほどアースラが向かった方向を見る。探すまでもなく、そこに闘技場があった。ローマの円形劇場に似ているが、土台や柱のあちこちに鉄製のたがや突起物がとりつけられ、油を塗られて黒々と輝いている。黒い茨で作られた、巨大な冠とでも言ったような外観だ。近づくにつれ内部からは遠雷のような歓声が聞こえてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる