16 / 65
ACT1:闘技場都市の支配者
入浴
しおりを挟む
「くっ……殺せ……!!」
静まり返った闘技場に、ガイスの血の絡まった喉声が響いた。
「莫迦め! お主にはまだこの先に人生が残っておるわ」
うつぶせに倒れたガイスのかたわらに膝をつき、アースラが両手を合わせる。
――スカンダルガの大悲、施薬の霊験を顕したまえ。
静かな詠唱の一声。彼女の両手がガイスの背中にかざされ、薄桃色の光が広がった。それが倒れ伏した男の体にゆっくりと吸い込まれていく。彼は苦しげに起き上がりかけ、そこから再び崩れてごろりと仰向けに横たわった。
「なぜ殺さん……小娘に負けた俺は、もはやここで食ってはいけんのだ。楽にしてくれ」
「自暴自棄になるでない。今は優れた戦士は一人でも無駄にできぬ。体を治して王都に来るのじゃ。さすれば帝国騎士団の指南役に推薦してやろう」
「これは、悪夢か――」
ガイスは絶句して目を閉じた。
南側の貴賓席へと向き直り、騎士姫は高々と右手を突き上げる。
――試合終了! 勝者、アースラ・ゲイルウィン。 両者、素晴らしい戦いを見せてくれましたァッ!
観衆が総立ちになり、嵐のように沸いた。
「ゲイルウィンか……なんとも懐かしい家名だ――いい試合だった。勝負には負けたとはいえ、あの傭兵隊長ガイスとやらもなかなか見事な戦いぶりだったな。さて、私はこれで失礼しよう」
覆面の女がすっと立ち上がった。
「もう見ないのか?」
思わず声をかけ、そう尋ねた。席料半ディアス、日本円にして約1250円。映画観覧料などと比較すれば特に高くもないが、わずか10分にも満たない試合を一つ見て帰るというのはいささかもったいなくはないか。
「ほかにも用事がある。それに配当をさっさと受け取りたい――4倍だからな。ではまた」
「あ……」
気づいて然るべきだった! 闘技場の出場者がローマの剣闘士のような奴隷身分でないのなら、彼らの生活はどうやって成り立つのか――当然、賭けが行われているのだ。
「賭けておけばよかったな。まるで頭になかった」
「私も」
パキラと顔を合わせ、もう一度振り返ると、覆面の女はすでにその場にいなかった。
「何だったのかしら、あの人」
「『ではまた』と、言ったな……」
男のような口ぶり。特にそういった風習もないと思われるこの地にあって、目元以外をさらさないその姿。妙な女だった。
控室を訪問してみると、アースラは負傷した額に膏薬を貼り付け、脱いだ鎧をかたわらに置いてくつろいでいた。里芋の葉っぱのような形の扇子をバタバタと動かして顎の下やシャツの中をあおいでいる。
「なんじゃなんじゃ、賭けを忘れたじゃと!? お主ら、妾が何のために観戦に誘ったと――」
儲かったか、と訊かれ率直に事実を伝えると、畳んだ扇子でべしべしと卓を叩いて罵倒された。
「まったく、何という奴らじゃ……ぶつかって突き飛ばした償いに、儲けさせてやろうと思うたのに」
「……何だか、すみません」
なんで俺は謝っているのだろう。
「すこしわからないところがあったんですが。結局どういう試合だったんですか、あれ。よく考えてみれば、無差別級王者にいきなり挑戦できるってのも変だし……」
パキラが尋ねた。アースラは卓を叩く手を止めてにやりと笑う。
「なかなか良いところに気が付いたのう。そちの言う通り、本来ならこの闘技場でその座をかけて王者に挑戦するには、最下位から始めて勝ち上がるしかない。だがそれではつまらんし、時間もない。妾は、王座を争わぬ余興試合という名目で、あの男の代理人に話を持ち掛けたのよ」
「なんで、そんなにしてまで……」
「あの男はの、あまりに強すぎた。圧倒的に勝ち過ぎたのじゃ。試合を組もうとしてももはや対戦相手がおらぬありさま。だがこうでもせねば自分で闘技場から退くことはなかったであろう……今回の出張は一に戦闘用護令械の新規勧請、二に王国の戦力を補いうる優れた戦士の登用、そして最も重要な三つめは――」
「姫様」
側に控えていたあの美丈夫、ガラヴェインがアースラに目配せしてあからさまに釘を刺した。彼には悪いがこれだけではっきりした――三つめとはなにか極秘のことらしい。
「む――っふん。つまり、どうあってもあの男、傭兵隊長ガイス・ラフマーンを下さねばならなかったというわけなのじゃ。護令械の勧請はちと骨が折れるようであるしのぅ……」
「闘技場では、指南役にと仰せだったようでしたが」
「うむ。あれだけの腕なら若い騎士を鍛えるに不足なしじゃ。法術を覚える素養があれば、渉猟械か、場合によっては闘将械を佩用させてもよいな」
「姫様、さすがに闘将械は」
「わかっておる、わかっておる。だからこそこのブルゼン訪問を妾も当てにしておったのじゃ! 保存護令械『モルドヴォス』はきわめて古い。闘将械を組み上げるに足る『令呪錦』を複製できる可能性もある。なのに領主めは何を考えておるのじゃ……」
(いうなれば武将登用に、大型兵器の新造か。これはどうも、きな臭い事情が動いているみたいだな)
ゲームや小説のおかげでこういうことには頭が機敏に反応する。恐らく、戦争が避けられない状況が近づいてきているのだ――それで田舎騎士という触れ込みの俺たちにも、やたらと厚意を示してくれるのかもしれない。
「まあよい、今日の試合は満足した。宿に帰って美味いものでも食い、英気を養おうぞ。お主らも一緒に参れ」
アースラはジャキっと作動音がしそうな動作で立ち上がり、俺たちを見まわしてニカッと笑った。
「は、はあ」
「ありがたき幸せにございます」
パキラがアースラの足元にひざまずいて一礼する。その手を取ってパキラを立たせようとして、アースラがふと、微妙に顔をしかめた。
「……お主ら、ちと臭うの」
* * * * * * *
――わはは! 妾の背丈はお主に及ばぬが、こっちは妾の勝ちじゃな!
――いや、あのっ!勝ち負けとかあるんですか!? これ!
――ひがむなひがむな、聞けばそちはまだ十五になったばかりとな。ならばあと二年、妾と同じ歳にもなればもう少し成長するであろうよ。うむ、ソイ豆を食え。たんとな! そしてあの騎士にちっと揉んでもらえ! わははは!
――そういいながらのその怪しげな手つきはやめてください!
大浴場である。数人で貸し切りにするのは気が引けるほどの広さ。
浴室ふたつは高い壁で隔てられてはいるが、天井のあたりはつながった空間だ。切り出した雪花石膏とタイルで化粧され、白く輝く床と壁。湯気のたなびくその建物の隣のエリアから、若い娘の笑い声と混乱気味の悲鳴が響いてくる。
緑色のタイルで深く見えるように演出された浴槽に身を沈め、俺は湯から出るに出られずにいた。壁の向こうにはアースラとパキラ。水を跳ね飛ばす音がざあざあと響き、何やら大変な活劇が演じられているようだった。
音で想像するしかない。そして、想像すればこちらはさらに身動きが取れなくなる。
「どうしてこうなった」
温泉などで同席した少女たちが胸部装甲の形状や装甲厚を話題にして騒ぐ、などということはフィクションの中だけのこと、ある種のファンタジーだと思っていたのだ。
ところがどっこい、現実はこのありさまである。いろいろと辛い。
吸着性の高い粘土と細かな砂で汚れを大まかに落とした後、蒸し風呂で汗腺や毛穴を開かせ、たっぷりと汗を流してこのローマもしくは日本風の浴槽へ。
体がほぐれて気持ちいいのはいいが、これでは耳からの刺激が強烈過ぎて困る。
おまけに、パキラがアースラと一緒にいるのと同様に、俺の前にはあのきりりとした眉に涼やかな瞳の美丈夫――騎士ガラヴェインがたった今、入ってきたところだった。
「ほほう……これはなかなか、雄渾な。ヴォルター殿はどちらかといえば小柄なほうだと思うが、なかなかどうして」
「なっ……やめてくださいガラヴェイン卿! 入ってくるなりそんな……パキラに聞こえるじゃないですか。だいたい湯を透かしてよく見えますね?」
ざばざばと湯をかきまぜて波をたて、光の進路をかき乱す。
「ん、真っ赤な顔をしているが、湯あたりでもされたか。謙遜することはない、なかなか見事な筋肉ではないか。もう少し脂肪を付けたほうが騎士としては望ましいと思うが……」
……そっちでしたか。
ぐったりと湯船の縁に頭をもたせ掛けて放心。本当に湯あたりしそうだ。
「しかし腰布なしで入るとは、ヴォルター殿はなかなか豪快だな」
ガラヴェインがからからと笑った。彼の腰には入浴用の腰布がきっちり巻かれている。
「うぐぐ……どうにも、ちょっとした慣習の違いに気づきませんで」
それが作法と知っていればこっちだって最初から! 大体、修学旅行などでも水着を着て入るのはご法度だったし、東京の銭湯でも湯船に手拭いを浸けるのはマナー違反だったではないか。
「さて、そろそろ上がるか。この後は入念な按摩で体のコリをほぐすのだ。ヴォルター殿には拙者が施術して進ぜよう」
「え」
浴場の従業員たちが俺たちを囲み、乾いた布でぱたぱたと体を拭いてくれた。そこまではいい。だが、そのまま担ぎ上げられて別室へ――さわやかな香りの香油が背中から全身へ塗り拡げられ、しっとりと温かなガラヴェインの指で、俺の全身がくまなく揉みほぐされていった。
「うわ、あのっ、ちょっと、そんなところも!? いや待って」
マッサージはたっぷり一時間半近く続けられた。ゆったりした部屋着に着替えたあと通された宴席は、それは素晴らしいものだった。
だがそこで再会したパキラと俺は、まさに脳天から煙を吹いているような心持ち。体の疲れをほぐした代わりに精神に大ダメージを負ったまま、ぐったりしながら食事をしたのだった。
時折、どちらからともなく「ぷしゅー」と気の抜けるような吐息が漏れた。何度も。
静まり返った闘技場に、ガイスの血の絡まった喉声が響いた。
「莫迦め! お主にはまだこの先に人生が残っておるわ」
うつぶせに倒れたガイスのかたわらに膝をつき、アースラが両手を合わせる。
――スカンダルガの大悲、施薬の霊験を顕したまえ。
静かな詠唱の一声。彼女の両手がガイスの背中にかざされ、薄桃色の光が広がった。それが倒れ伏した男の体にゆっくりと吸い込まれていく。彼は苦しげに起き上がりかけ、そこから再び崩れてごろりと仰向けに横たわった。
「なぜ殺さん……小娘に負けた俺は、もはやここで食ってはいけんのだ。楽にしてくれ」
「自暴自棄になるでない。今は優れた戦士は一人でも無駄にできぬ。体を治して王都に来るのじゃ。さすれば帝国騎士団の指南役に推薦してやろう」
「これは、悪夢か――」
ガイスは絶句して目を閉じた。
南側の貴賓席へと向き直り、騎士姫は高々と右手を突き上げる。
――試合終了! 勝者、アースラ・ゲイルウィン。 両者、素晴らしい戦いを見せてくれましたァッ!
観衆が総立ちになり、嵐のように沸いた。
「ゲイルウィンか……なんとも懐かしい家名だ――いい試合だった。勝負には負けたとはいえ、あの傭兵隊長ガイスとやらもなかなか見事な戦いぶりだったな。さて、私はこれで失礼しよう」
覆面の女がすっと立ち上がった。
「もう見ないのか?」
思わず声をかけ、そう尋ねた。席料半ディアス、日本円にして約1250円。映画観覧料などと比較すれば特に高くもないが、わずか10分にも満たない試合を一つ見て帰るというのはいささかもったいなくはないか。
「ほかにも用事がある。それに配当をさっさと受け取りたい――4倍だからな。ではまた」
「あ……」
気づいて然るべきだった! 闘技場の出場者がローマの剣闘士のような奴隷身分でないのなら、彼らの生活はどうやって成り立つのか――当然、賭けが行われているのだ。
「賭けておけばよかったな。まるで頭になかった」
「私も」
パキラと顔を合わせ、もう一度振り返ると、覆面の女はすでにその場にいなかった。
「何だったのかしら、あの人」
「『ではまた』と、言ったな……」
男のような口ぶり。特にそういった風習もないと思われるこの地にあって、目元以外をさらさないその姿。妙な女だった。
控室を訪問してみると、アースラは負傷した額に膏薬を貼り付け、脱いだ鎧をかたわらに置いてくつろいでいた。里芋の葉っぱのような形の扇子をバタバタと動かして顎の下やシャツの中をあおいでいる。
「なんじゃなんじゃ、賭けを忘れたじゃと!? お主ら、妾が何のために観戦に誘ったと――」
儲かったか、と訊かれ率直に事実を伝えると、畳んだ扇子でべしべしと卓を叩いて罵倒された。
「まったく、何という奴らじゃ……ぶつかって突き飛ばした償いに、儲けさせてやろうと思うたのに」
「……何だか、すみません」
なんで俺は謝っているのだろう。
「すこしわからないところがあったんですが。結局どういう試合だったんですか、あれ。よく考えてみれば、無差別級王者にいきなり挑戦できるってのも変だし……」
パキラが尋ねた。アースラは卓を叩く手を止めてにやりと笑う。
「なかなか良いところに気が付いたのう。そちの言う通り、本来ならこの闘技場でその座をかけて王者に挑戦するには、最下位から始めて勝ち上がるしかない。だがそれではつまらんし、時間もない。妾は、王座を争わぬ余興試合という名目で、あの男の代理人に話を持ち掛けたのよ」
「なんで、そんなにしてまで……」
「あの男はの、あまりに強すぎた。圧倒的に勝ち過ぎたのじゃ。試合を組もうとしてももはや対戦相手がおらぬありさま。だがこうでもせねば自分で闘技場から退くことはなかったであろう……今回の出張は一に戦闘用護令械の新規勧請、二に王国の戦力を補いうる優れた戦士の登用、そして最も重要な三つめは――」
「姫様」
側に控えていたあの美丈夫、ガラヴェインがアースラに目配せしてあからさまに釘を刺した。彼には悪いがこれだけではっきりした――三つめとはなにか極秘のことらしい。
「む――っふん。つまり、どうあってもあの男、傭兵隊長ガイス・ラフマーンを下さねばならなかったというわけなのじゃ。護令械の勧請はちと骨が折れるようであるしのぅ……」
「闘技場では、指南役にと仰せだったようでしたが」
「うむ。あれだけの腕なら若い騎士を鍛えるに不足なしじゃ。法術を覚える素養があれば、渉猟械か、場合によっては闘将械を佩用させてもよいな」
「姫様、さすがに闘将械は」
「わかっておる、わかっておる。だからこそこのブルゼン訪問を妾も当てにしておったのじゃ! 保存護令械『モルドヴォス』はきわめて古い。闘将械を組み上げるに足る『令呪錦』を複製できる可能性もある。なのに領主めは何を考えておるのじゃ……」
(いうなれば武将登用に、大型兵器の新造か。これはどうも、きな臭い事情が動いているみたいだな)
ゲームや小説のおかげでこういうことには頭が機敏に反応する。恐らく、戦争が避けられない状況が近づいてきているのだ――それで田舎騎士という触れ込みの俺たちにも、やたらと厚意を示してくれるのかもしれない。
「まあよい、今日の試合は満足した。宿に帰って美味いものでも食い、英気を養おうぞ。お主らも一緒に参れ」
アースラはジャキっと作動音がしそうな動作で立ち上がり、俺たちを見まわしてニカッと笑った。
「は、はあ」
「ありがたき幸せにございます」
パキラがアースラの足元にひざまずいて一礼する。その手を取ってパキラを立たせようとして、アースラがふと、微妙に顔をしかめた。
「……お主ら、ちと臭うの」
* * * * * * *
――わはは! 妾の背丈はお主に及ばぬが、こっちは妾の勝ちじゃな!
――いや、あのっ!勝ち負けとかあるんですか!? これ!
――ひがむなひがむな、聞けばそちはまだ十五になったばかりとな。ならばあと二年、妾と同じ歳にもなればもう少し成長するであろうよ。うむ、ソイ豆を食え。たんとな! そしてあの騎士にちっと揉んでもらえ! わははは!
――そういいながらのその怪しげな手つきはやめてください!
大浴場である。数人で貸し切りにするのは気が引けるほどの広さ。
浴室ふたつは高い壁で隔てられてはいるが、天井のあたりはつながった空間だ。切り出した雪花石膏とタイルで化粧され、白く輝く床と壁。湯気のたなびくその建物の隣のエリアから、若い娘の笑い声と混乱気味の悲鳴が響いてくる。
緑色のタイルで深く見えるように演出された浴槽に身を沈め、俺は湯から出るに出られずにいた。壁の向こうにはアースラとパキラ。水を跳ね飛ばす音がざあざあと響き、何やら大変な活劇が演じられているようだった。
音で想像するしかない。そして、想像すればこちらはさらに身動きが取れなくなる。
「どうしてこうなった」
温泉などで同席した少女たちが胸部装甲の形状や装甲厚を話題にして騒ぐ、などということはフィクションの中だけのこと、ある種のファンタジーだと思っていたのだ。
ところがどっこい、現実はこのありさまである。いろいろと辛い。
吸着性の高い粘土と細かな砂で汚れを大まかに落とした後、蒸し風呂で汗腺や毛穴を開かせ、たっぷりと汗を流してこのローマもしくは日本風の浴槽へ。
体がほぐれて気持ちいいのはいいが、これでは耳からの刺激が強烈過ぎて困る。
おまけに、パキラがアースラと一緒にいるのと同様に、俺の前にはあのきりりとした眉に涼やかな瞳の美丈夫――騎士ガラヴェインがたった今、入ってきたところだった。
「ほほう……これはなかなか、雄渾な。ヴォルター殿はどちらかといえば小柄なほうだと思うが、なかなかどうして」
「なっ……やめてくださいガラヴェイン卿! 入ってくるなりそんな……パキラに聞こえるじゃないですか。だいたい湯を透かしてよく見えますね?」
ざばざばと湯をかきまぜて波をたて、光の進路をかき乱す。
「ん、真っ赤な顔をしているが、湯あたりでもされたか。謙遜することはない、なかなか見事な筋肉ではないか。もう少し脂肪を付けたほうが騎士としては望ましいと思うが……」
……そっちでしたか。
ぐったりと湯船の縁に頭をもたせ掛けて放心。本当に湯あたりしそうだ。
「しかし腰布なしで入るとは、ヴォルター殿はなかなか豪快だな」
ガラヴェインがからからと笑った。彼の腰には入浴用の腰布がきっちり巻かれている。
「うぐぐ……どうにも、ちょっとした慣習の違いに気づきませんで」
それが作法と知っていればこっちだって最初から! 大体、修学旅行などでも水着を着て入るのはご法度だったし、東京の銭湯でも湯船に手拭いを浸けるのはマナー違反だったではないか。
「さて、そろそろ上がるか。この後は入念な按摩で体のコリをほぐすのだ。ヴォルター殿には拙者が施術して進ぜよう」
「え」
浴場の従業員たちが俺たちを囲み、乾いた布でぱたぱたと体を拭いてくれた。そこまではいい。だが、そのまま担ぎ上げられて別室へ――さわやかな香りの香油が背中から全身へ塗り拡げられ、しっとりと温かなガラヴェインの指で、俺の全身がくまなく揉みほぐされていった。
「うわ、あのっ、ちょっと、そんなところも!? いや待って」
マッサージはたっぷり一時間半近く続けられた。ゆったりした部屋着に着替えたあと通された宴席は、それは素晴らしいものだった。
だがそこで再会したパキラと俺は、まさに脳天から煙を吹いているような心持ち。体の疲れをほぐした代わりに精神に大ダメージを負ったまま、ぐったりしながら食事をしたのだった。
時折、どちらからともなく「ぷしゅー」と気の抜けるような吐息が漏れた。何度も。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる