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ACT2:妖魔王の旌旗
圧倒
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渉猟械のはるか後方に関所の胸壁が見える。月陰に黒く沈んだ壁には、大きく開け放たれた城門によって矩形の切れ目が生じているのがわかった。あえて門の上に楼閣や櫓を設けない構造は、そこを通過するべき巨大物体が存在するためだ。
〈レンボス卿、後は私に任せろ。下がって休むのだ〉
ここしばらくの間にすっかり慣れ親しんだ、張りのある美声が響いた。レンボスのかすれた声がそれに応える。
〈おお、その械体はマーガンディ……ガラヴェイン卿も来て下さったのか……!〉
「ふう……っ」
俺の口からも思わず安堵の吐息がもれる。パキラはしっかり械匠の仕事をやり遂げてくれたようだ。
こっちはこっちで手近のほうの魔甲兵をビュランで削って足止めし、再生にかかったところを下段突き二発で屠った。
〈ここまでの距離を走ってくるのは心もとないかとも思えたが、パキラ殿と械匠衆の腕は確かなものだった。どうやらマーガンディーの足、破損前は萎えておったらしい!〉
ガラヴェインの述懐と同時に、マーガンディは左手の盾を振り上げた。半月型の両端を内側へ曲げた形をしたその盾は、外縁部が鋭いエッジを持つように作られている。攻防一体の武器なのだ。それが魔甲兵の股間に真正面から食い込んだ。
(うひぃ!)
敵のことながら思わず視線をそむける。巨像は膝から崩れ落ち、上半身を地面に突っ伏したうずくまるような形で動きを止めた。
〈どうやら休めるのだな……ガラヴェイン卿、マーガンディの剣をお返しする〉
呼びかけとともにマクガヴァンが右手の剣を差し出す。
〈うむ〉
マーガンディが受け取ると、左腕のない渉猟械は立ち去り難そうに半身に構えたまま、一歩、また一歩と関所へ向かって後退していった。
〈さて……ひと暴れさせてもらおうか。この一か月ほどの無念、こやつらにぶつけてくれるぞ〉
ガラヴェインは完全装備のマーガンディーを駆り、大胆にも敵数体からなる集団の中へと躍り込ませた。
――ワッハハハハハハ! フハハハーハハハッ!
騎士本人のものではない笑い声が械体から響き、岩山にこだまする。
腰を落とした低い姿勢からほとんど膝を動かさずに、マーガンディは100mを超える距離を瞬時に移動した――人間でいえば5m近くを一足の間合いに収める動きだ。
滑るようなその挙動とともに、剣をふるって次の魔甲兵を腰のあたりで真っ二つに斬り捨てた。
「速いな……それに強い。マクガヴァンと較べても数段格上って感じだが」
マーガンディのほとばしるような強さに訝しさを覚えたが、カイルダインはその疑問をいとも簡単に解いた。
(マクガヴァンは械体内の冷却水を半分以上失っていました。おそらく左腕の損傷部分から流出したのでしょう。その状態で稼働させるために熱晶石からの発熱も、現在マーガンディーから観測されるものの三分の一以下に抑えられていたようです――マーガンディーがいま発揮しているのが、渉猟械の本来的ポテンシャル。そういうことです)
「なるほどね――っと、ガラヴェイン卿、気を付けて下さい! こいつらは腰部の中枢を破壊しないと再生するんだ!」
〈む! 大まかな情報は届いていたが、これはそういう敵か!〉
魔甲兵の再生能力は確かに厄介だ。いうなれば、初見殺し。これに物量が加わることで敵はボルミ城塞の守りを突破したに違いない。だが情報を共有してしまえば、あちらのアドヴァンテージは消え去るのだ。
青い光を破損部分に灯して再生を開始した魔甲兵に、マーガンディーはもう一撃鋭い突きを繰り出した。中枢を貫かれた敵が細かな断片に分解していく。
渉猟械の頭部がそれを確認するようにわずかに動き、三本のスリットの奥で視覚器のレンズが月光を反射してきらめいた。そのまま流れるような動作で次の魔甲兵へ向かう。
(マーガンディの参戦でどうやらここは持ちこたえられそうですね。好機です――佩用者、私達はさきほど探知した敵の司令塔を叩きましょう)
「おっしゃあ、待ってたぜ! 星幽光翼!」
再び魂跡華が消費され、械体の背部に光の翼が花開いた。こちらを見上げるように蠢く魔甲兵の群を見下ろして虚空を駆ける。
進行方向奥に広がる岩山の斜面に、奇妙に颯爽としたポーズで立つ物体が見えてきた。
間違いない。それは械体の各所に流麗な装飾を施された渉猟械だった。基本的なデザインはほとんどマクガヴァンやマーガンディーと共通だが、頭部から羚羊に似た角を生やし、絢爛豪華な刺しゅうを施された旗を長大な竿の先端から翻している。旗手然とした姿だ。
敵の渉猟械はこちらを認めたらしく、やや慌てたような動作でその場所から移動を始めた。
「逃がすかよッ!」
加速しつつ着地。その速度を殺さずそのまま回し蹴りへとつなぐ。
「食らえッ、足尖鏨刃!」
魔甲兵を切り裂くカイルダインの蹴りを、敵渉猟械が旗竿で受けた。そのまま竿は敵の手の中で半分ずつに分かれる。
重量を支える梃子の支点を失い、旗は大きく傾いてほとんど地につきかけた。
「ヨクモッ!」
伝声管を通じて人間のものではない音声が響き、渉猟械は旗竿を残った部分の中ほどで持ち替えた。
旗の刺繍は残虐趣味な美しさをもつ意匠だ。真っ先に目に飛び込んだのは、四肢を鎖で戒められた少女の絵姿――体の前面をこちらへ向けて双丘を晒し、眼を閉じた顔だけを横向きにそむけている。
周囲には骨と荊で構成された文様が額縁のように取り囲み、少女の下腹部には判読しがたい奇怪な文字が腰布のように覆いかぶさっていた。
まったく場違いなことに、俺はそれを見て21世紀日本のとあるものを連想していた――美少女キャラクターのちょっぴり恥ずかしい姿をプリントした、抱き枕カバーだ。
だが、この旗の図像はあくまでも禍々しく、つぶさに見れば少女の体には肋骨の下辺から胸郭の中央部に向かって長大な曲刀が突き通されているのだった。
「こいつに顔をうずめて寝ようって気にはならないな!」
再び共振拳を起動、上段から手刀を振り下ろす。敵はそれを旗で包み込むように受け――と、見えたのは詐術。こちらの視界を旗でふさぎ、距離を開けつつ側面へ踏み込んでいた。
カイルダインのセンサーはそれを察知しているが、俺の対応は悲しいかな一瞬遅れた。渉猟械がかざした右掌の、前方1m足らずの空間から青緑色の焔が吹き出す。その長い舌が危うくこちらの胴をかすめ、俺は息をのんだ。
「危ねえッ!?」
サーガラックが発動したような、護令械の固有能力だろうか? だがカイルダインはその正体を直ちに看破していた。
(佩用者、これは魔術です! こちらの術者が使うものに類似していますが、力の源はおそらく、あちらの佩用者自身の霊的な特性によるものでしょう。とすると相手は恐らく、人間ではありません)
「なぜ、そうと解る?」
(火炎の放出の際に、詠唱を伴っていませんでした。恐らくは半ば先天的に身に着けた術であるはずです)
「念じれば済むってことか? 厄介だな!」
くだんの焔は単なる燃焼ガスではないらしかった。何らかの毒性物質を含み、掃射した範囲の物体を腐蝕させている。岩の表面が黄色く泡立って煙を上げ、干からびた灌木がどろりとした粘液に変わる様が映像面にクローズアップされた。
「距離をとれ!」
半ば自分自身に命令、光翼をうち振って後方へと飛ぶ。
――コンナ護令械ガ存在スルトハナ! 俺ハ、でぃあすぽいりあ侵攻部隊第一軍司令、青焔ノぐらむどれっどダ。我ガ毒炎デ汚泥ト化スガイイ!
優位に立ったと見たか、敵は名告りを上げてこちらを煽る。なんとなく下顎から牙の伸びたオーク系亜人類の面構えが頭に浮かんだ。
もしもそれが当たっているならば、沼妖精ユルルドニュッネの容姿といい、この妖魔王の軍団というのは――俺の感覚では――極めてオーソドックスな西欧ファンタジー風の敵性勢力らしい。構成種族もそのメンタリティーもだ。
「ふん、威勢のいい割には腰が引けてるぜ、グラムドレッド! 俺は修道僧ヴォルター、これなるは神械カイルダイン! 貴様を討ってこの国の反撃の一歩を印すとしよう!」
(かっこいい! 佩用者素敵です! さああの飾りたてた粗悪品をいっちょうギタギタのバラバラに!)
「言われるまでもなく! 共振ォ――」
(あ、待って待って! 待ってください! あの焔にはちょっと触りたくないです、ばっちいんで! まずは遠隔攻撃にしましょう)
腰が引けているのはカイルダインのほうだった!
「何だよもう、めんどくせえなあ! 殴らせろよ、こいつ片づければ一段落じゃないのか?」
(そこでです! 少しもったいないですが、ひとつ大盤振る舞いと行きましょう。佩用者、魂跡華5、霊力130の追加使用許可をお願いします)
カイルダインがいきなりヘビーめのリソース消費を要求してきた。
「おいおい、あとで『やめときゃよかった』って思っても知らないぞ……で、何をする気だ」
(欺陽槍を複数、広域にばら撒いて、あの敵に個別誘導で投射します。命中しても消えないタイプのものを)
なるほど、それなら撃ち落とすのも火炎で燃やし尽くすのも難しい。強烈なダメージを与えられるだろう。
「よし、許可する。やれ!」
(了解、ではさらに上空へ! タイミングと技名はお願いしますね)
「丸投げかよ!」
(私は佩用者のセンスを高ぁく評価しています!)
精神がおかしな方向性で鍛えられつつある気がするが、そこはそれ。地上からこちらを見上げる渉猟械を見据え、俺は気合を込めて――
カイルダインの両腕が胸の前でX字に組まれ、一気に両サイドへ開かれる。そこに浮かび上がる、20本の光槍。通常のものより五割ほど長いそれが、等間隔のまま斜め下へ向けて扇のように開いた。
「欺陽槍・ファランクス!」
開いた腕を頭上から縦に振り下ろす動作とともに、光槍が宙を駆け、炎をかいくぐって渉猟械に次々と突き刺さった。絹糸束筒を貫き断裂させたらしく、敵の動きが止まる。かざした腕の先から再び焔がほとばしったが、その腕はあらぬ方向へとねじ曲がったままで、こちらへ向けられることはもはやなかった。
――オオッ、オノレ! コレデハ青焔ガツカエヌ……!!
「出オチに終わって残念だったな、グラムドレッド!」
カイルダインを敵の正面、至近距離に着地させ、共振拳を起動したまま右拳で頭部を撃ち抜いた。それは左右の飾り角を残して、ビスケットを砕いたように塵と化した。
さらに左手で敵の右腕を掴んでねじ上げる。
「このまま振動波を最大出力で送り込んでやる……!」
――グ、グエワアアアアッ!?
グラムドレッドの渉猟械の、装甲と骨格が粉々に粉砕されていく。
(さすがは佩用者! 共振拳をこんな風に使うとは!)
「ふふん。実はその、俺の大好きなロボット漫画でこんな風にとどめを刺す奴があってな」
やがてその破壊は内部の熱晶石に及んで――
トラスカン峠北方の岩山に、小さな爆発が上がる。それは関所の兵士たちからも辛うじて視界に入っていた。
〈レンボス卿、後は私に任せろ。下がって休むのだ〉
ここしばらくの間にすっかり慣れ親しんだ、張りのある美声が響いた。レンボスのかすれた声がそれに応える。
〈おお、その械体はマーガンディ……ガラヴェイン卿も来て下さったのか……!〉
「ふう……っ」
俺の口からも思わず安堵の吐息がもれる。パキラはしっかり械匠の仕事をやり遂げてくれたようだ。
こっちはこっちで手近のほうの魔甲兵をビュランで削って足止めし、再生にかかったところを下段突き二発で屠った。
〈ここまでの距離を走ってくるのは心もとないかとも思えたが、パキラ殿と械匠衆の腕は確かなものだった。どうやらマーガンディーの足、破損前は萎えておったらしい!〉
ガラヴェインの述懐と同時に、マーガンディは左手の盾を振り上げた。半月型の両端を内側へ曲げた形をしたその盾は、外縁部が鋭いエッジを持つように作られている。攻防一体の武器なのだ。それが魔甲兵の股間に真正面から食い込んだ。
(うひぃ!)
敵のことながら思わず視線をそむける。巨像は膝から崩れ落ち、上半身を地面に突っ伏したうずくまるような形で動きを止めた。
〈どうやら休めるのだな……ガラヴェイン卿、マーガンディの剣をお返しする〉
呼びかけとともにマクガヴァンが右手の剣を差し出す。
〈うむ〉
マーガンディが受け取ると、左腕のない渉猟械は立ち去り難そうに半身に構えたまま、一歩、また一歩と関所へ向かって後退していった。
〈さて……ひと暴れさせてもらおうか。この一か月ほどの無念、こやつらにぶつけてくれるぞ〉
ガラヴェインは完全装備のマーガンディーを駆り、大胆にも敵数体からなる集団の中へと躍り込ませた。
――ワッハハハハハハ! フハハハーハハハッ!
騎士本人のものではない笑い声が械体から響き、岩山にこだまする。
腰を落とした低い姿勢からほとんど膝を動かさずに、マーガンディは100mを超える距離を瞬時に移動した――人間でいえば5m近くを一足の間合いに収める動きだ。
滑るようなその挙動とともに、剣をふるって次の魔甲兵を腰のあたりで真っ二つに斬り捨てた。
「速いな……それに強い。マクガヴァンと較べても数段格上って感じだが」
マーガンディのほとばしるような強さに訝しさを覚えたが、カイルダインはその疑問をいとも簡単に解いた。
(マクガヴァンは械体内の冷却水を半分以上失っていました。おそらく左腕の損傷部分から流出したのでしょう。その状態で稼働させるために熱晶石からの発熱も、現在マーガンディーから観測されるものの三分の一以下に抑えられていたようです――マーガンディーがいま発揮しているのが、渉猟械の本来的ポテンシャル。そういうことです)
「なるほどね――っと、ガラヴェイン卿、気を付けて下さい! こいつらは腰部の中枢を破壊しないと再生するんだ!」
〈む! 大まかな情報は届いていたが、これはそういう敵か!〉
魔甲兵の再生能力は確かに厄介だ。いうなれば、初見殺し。これに物量が加わることで敵はボルミ城塞の守りを突破したに違いない。だが情報を共有してしまえば、あちらのアドヴァンテージは消え去るのだ。
青い光を破損部分に灯して再生を開始した魔甲兵に、マーガンディーはもう一撃鋭い突きを繰り出した。中枢を貫かれた敵が細かな断片に分解していく。
渉猟械の頭部がそれを確認するようにわずかに動き、三本のスリットの奥で視覚器のレンズが月光を反射してきらめいた。そのまま流れるような動作で次の魔甲兵へ向かう。
(マーガンディの参戦でどうやらここは持ちこたえられそうですね。好機です――佩用者、私達はさきほど探知した敵の司令塔を叩きましょう)
「おっしゃあ、待ってたぜ! 星幽光翼!」
再び魂跡華が消費され、械体の背部に光の翼が花開いた。こちらを見上げるように蠢く魔甲兵の群を見下ろして虚空を駆ける。
進行方向奥に広がる岩山の斜面に、奇妙に颯爽としたポーズで立つ物体が見えてきた。
間違いない。それは械体の各所に流麗な装飾を施された渉猟械だった。基本的なデザインはほとんどマクガヴァンやマーガンディーと共通だが、頭部から羚羊に似た角を生やし、絢爛豪華な刺しゅうを施された旗を長大な竿の先端から翻している。旗手然とした姿だ。
敵の渉猟械はこちらを認めたらしく、やや慌てたような動作でその場所から移動を始めた。
「逃がすかよッ!」
加速しつつ着地。その速度を殺さずそのまま回し蹴りへとつなぐ。
「食らえッ、足尖鏨刃!」
魔甲兵を切り裂くカイルダインの蹴りを、敵渉猟械が旗竿で受けた。そのまま竿は敵の手の中で半分ずつに分かれる。
重量を支える梃子の支点を失い、旗は大きく傾いてほとんど地につきかけた。
「ヨクモッ!」
伝声管を通じて人間のものではない音声が響き、渉猟械は旗竿を残った部分の中ほどで持ち替えた。
旗の刺繍は残虐趣味な美しさをもつ意匠だ。真っ先に目に飛び込んだのは、四肢を鎖で戒められた少女の絵姿――体の前面をこちらへ向けて双丘を晒し、眼を閉じた顔だけを横向きにそむけている。
周囲には骨と荊で構成された文様が額縁のように取り囲み、少女の下腹部には判読しがたい奇怪な文字が腰布のように覆いかぶさっていた。
まったく場違いなことに、俺はそれを見て21世紀日本のとあるものを連想していた――美少女キャラクターのちょっぴり恥ずかしい姿をプリントした、抱き枕カバーだ。
だが、この旗の図像はあくまでも禍々しく、つぶさに見れば少女の体には肋骨の下辺から胸郭の中央部に向かって長大な曲刀が突き通されているのだった。
「こいつに顔をうずめて寝ようって気にはならないな!」
再び共振拳を起動、上段から手刀を振り下ろす。敵はそれを旗で包み込むように受け――と、見えたのは詐術。こちらの視界を旗でふさぎ、距離を開けつつ側面へ踏み込んでいた。
カイルダインのセンサーはそれを察知しているが、俺の対応は悲しいかな一瞬遅れた。渉猟械がかざした右掌の、前方1m足らずの空間から青緑色の焔が吹き出す。その長い舌が危うくこちらの胴をかすめ、俺は息をのんだ。
「危ねえッ!?」
サーガラックが発動したような、護令械の固有能力だろうか? だがカイルダインはその正体を直ちに看破していた。
(佩用者、これは魔術です! こちらの術者が使うものに類似していますが、力の源はおそらく、あちらの佩用者自身の霊的な特性によるものでしょう。とすると相手は恐らく、人間ではありません)
「なぜ、そうと解る?」
(火炎の放出の際に、詠唱を伴っていませんでした。恐らくは半ば先天的に身に着けた術であるはずです)
「念じれば済むってことか? 厄介だな!」
くだんの焔は単なる燃焼ガスではないらしかった。何らかの毒性物質を含み、掃射した範囲の物体を腐蝕させている。岩の表面が黄色く泡立って煙を上げ、干からびた灌木がどろりとした粘液に変わる様が映像面にクローズアップされた。
「距離をとれ!」
半ば自分自身に命令、光翼をうち振って後方へと飛ぶ。
――コンナ護令械ガ存在スルトハナ! 俺ハ、でぃあすぽいりあ侵攻部隊第一軍司令、青焔ノぐらむどれっどダ。我ガ毒炎デ汚泥ト化スガイイ!
優位に立ったと見たか、敵は名告りを上げてこちらを煽る。なんとなく下顎から牙の伸びたオーク系亜人類の面構えが頭に浮かんだ。
もしもそれが当たっているならば、沼妖精ユルルドニュッネの容姿といい、この妖魔王の軍団というのは――俺の感覚では――極めてオーソドックスな西欧ファンタジー風の敵性勢力らしい。構成種族もそのメンタリティーもだ。
「ふん、威勢のいい割には腰が引けてるぜ、グラムドレッド! 俺は修道僧ヴォルター、これなるは神械カイルダイン! 貴様を討ってこの国の反撃の一歩を印すとしよう!」
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「言われるまでもなく! 共振ォ――」
(あ、待って待って! 待ってください! あの焔にはちょっと触りたくないです、ばっちいんで! まずは遠隔攻撃にしましょう)
腰が引けているのはカイルダインのほうだった!
「何だよもう、めんどくせえなあ! 殴らせろよ、こいつ片づければ一段落じゃないのか?」
(そこでです! 少しもったいないですが、ひとつ大盤振る舞いと行きましょう。佩用者、魂跡華5、霊力130の追加使用許可をお願いします)
カイルダインがいきなりヘビーめのリソース消費を要求してきた。
「おいおい、あとで『やめときゃよかった』って思っても知らないぞ……で、何をする気だ」
(欺陽槍を複数、広域にばら撒いて、あの敵に個別誘導で投射します。命中しても消えないタイプのものを)
なるほど、それなら撃ち落とすのも火炎で燃やし尽くすのも難しい。強烈なダメージを与えられるだろう。
「よし、許可する。やれ!」
(了解、ではさらに上空へ! タイミングと技名はお願いしますね)
「丸投げかよ!」
(私は佩用者のセンスを高ぁく評価しています!)
精神がおかしな方向性で鍛えられつつある気がするが、そこはそれ。地上からこちらを見上げる渉猟械を見据え、俺は気合を込めて――
カイルダインの両腕が胸の前でX字に組まれ、一気に両サイドへ開かれる。そこに浮かび上がる、20本の光槍。通常のものより五割ほど長いそれが、等間隔のまま斜め下へ向けて扇のように開いた。
「欺陽槍・ファランクス!」
開いた腕を頭上から縦に振り下ろす動作とともに、光槍が宙を駆け、炎をかいくぐって渉猟械に次々と突き刺さった。絹糸束筒を貫き断裂させたらしく、敵の動きが止まる。かざした腕の先から再び焔がほとばしったが、その腕はあらぬ方向へとねじ曲がったままで、こちらへ向けられることはもはやなかった。
――オオッ、オノレ! コレデハ青焔ガツカエヌ……!!
「出オチに終わって残念だったな、グラムドレッド!」
カイルダインを敵の正面、至近距離に着地させ、共振拳を起動したまま右拳で頭部を撃ち抜いた。それは左右の飾り角を残して、ビスケットを砕いたように塵と化した。
さらに左手で敵の右腕を掴んでねじ上げる。
「このまま振動波を最大出力で送り込んでやる……!」
――グ、グエワアアアアッ!?
グラムドレッドの渉猟械の、装甲と骨格が粉々に粉砕されていく。
(さすがは佩用者! 共振拳をこんな風に使うとは!)
「ふふん。実はその、俺の大好きなロボット漫画でこんな風にとどめを刺す奴があってな」
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