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第8話:そっけない出会いは、寸止めの予感!?〜ムキムキトレーナーと小説家のはじまり〜
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【前書き】
こんにちは、紫です。
今回は、カイとの出会いの話。
最初は“ジムの人”ってだけで、ちょっと怖そうって思ってた。
でも、目が合った瞬間、なんとなく──予感がした。
あのそっけなさの裏に、私の知らない何かが隠れてる気がして。
今ならわかる。
あれは、寸止めの予感だったんだって──。
※今回は出会い編のため、ちょっと長めです。
ーーーーー
カイの腕の中でまどろむ時間は、
まるで甘い夢みたいに心地よくて──
とろんとしたまなざしのまま、紫はカイの胸元に頬を寄せる。
「ねえ……最初に会った日、覚えてる?」
紫がぽつりとつぶやくと、カイは少し目を細めて笑った。
「……ああ。カフェでいきなりお前の文章読んで、惚れそうになった日な」
その言葉に、紫の頬が熱く染まった。
「うそ。あの時そんな顔してなかったのに……」
「そうか? ……けっこう真剣だったぞ?」
カイの低い声が耳に落ちて、紫はくすっと笑う。
──あの日のこと、思い出すたびに胸がふわりとあたたかくなる。
いつの間にか、紫の視界はふわりと霞み、静かな記憶へと溶け込んでいった。
数年前。
静かな昼下がり、いつものカフェの窓際で、紫はパソコンを開いて執筆に没頭していた。
周囲の喧騒も気にならないくらい集中していたその時──
カラン、とドアベルが鳴り、背の高い男性が入ってきた。
彼は迷うことなく、紫の隣の席に腰を下ろす。
ちらりと横を見ると、がっしりした肩と腕、締まったウエストライン。
鍛え上げられた体に、タイトなTシャツが映えている。
──なんか……モデルさんみたい。
でも目元は鋭くて、ちょっと近寄りがたい雰囲気。
と思っていた、その時。
「……それ、お前が書いたのか?」
低くてよく通る声が、紫の耳に落ちた。
思わず画面を見ると、隣の彼──カイが、紫のPCをのぞきこんでいた。
「え……あ、はい」
突然のことに、紫は戸惑いながらもうなずく。
「……すげぇな。入りだけで、引き込まれた。ドキッとした」
──こんなにムキムキな男性が、官能小説の良さ、わかってくれるんだ……
ちょっと意外だけど……嬉しい。
しかも、目がキラキラしてる……
ギャップがすごい……ちょっと、可愛い。
「続き、読ませてもらってもいいか?」
まっすぐな視線に、紫は心臓が跳ねた。
──やばい、声、低くて……好きかも。
「……書きかけなので、読みにくいかもしれませんけど」
恐る恐る差し出すと、彼はすぐにスクリーンに目を落とし、静かに読み始めた。
指先の節の太さ、真剣に読み込む横顔。
紫の鼓動は、いつもと違う速度で鳴っていた。
やがてふっと息をついて、カイは顔を上げる。
「……なるほど。文章も描写も、リアルだな」
「筋肉の動きもちゃんと描きたいなら……俺が素材になってやろうか?」
「えっ……?」
「ジムでトレーナーやってんだ。──俺の筋肉、観察したいなら、どうぞ?」
ニッと笑ったその顔に、紫は完全にやられた。
──え、何それずるい。今の一言で、創作意欲ぶっ刺さったんだけど……。
「……じゃあ、お願いしてもいいですか……?」
震える声でそう言った自分は、あの時、確かに、ときめいていた。
けれど、それが恋なのかはまだわからなかった。
それから数日後、紫は勇気を出して、彼──カイが働くジムへと足を運んだ。
受付で「見学したいんですけど」と伝えると、奥から出てきたカイが、ちょっと驚いたように目を見開いた。
「来たのかよ、ほんとに」
不意に見せた、柔らかい笑顔。
思わず視線を逸らした。
──わたし、今ちょっと嬉しいって思った。
それだけで、また物語が書けそうな気がする。
紫が見学スペースのベンチに座っていると、カイはトレーナーとして客の指導をしながらも、時折こちらをチラリと見る。
そのたびに、紫の心臓は無駄に跳ねてしまった。
ウェア越しでも分かる、しなやかに隆起した背中と腕。
トレーニングで動くたび、筋肉がまるで意志を持ったように形を変えていく。
──すごい……生き物みたい。
現実にいるなんて、信じられない……。
「そろそろ慣れてきたか?」
不意にかけられた声に、紫はハッと顔を上げた。
カイが、水を手にしながら、目の前に立っていた。
「筋トレ見てるだけで、ネタ浮かんだりする?」
「……あ、はい……すごく……創作意欲が刺激されます」
紫の素直な言葉に、カイはにやっと口角を上げた。
「へえ。じゃあ、実際に体の動き、もっと近くで見てみる?」
「えっ……」
「モデルって言っただろ。……俺、約束守るタイプなんだよ」
そんなことを言いながら、紫をトレーニングスペースの端へと連れていく。
フォームを見せながら、腹筋や腕を動かしてみせるカイ。
──うそ。なにこれ、資料じゃなくて……目の毒……。
体が熱くなるのは、気温のせいじゃなかった。
日を追うごとに、紫は何度もジムに通った。
取材、という名目を盾にして。
そのたびに、カイのいろんな表情を知った。
真剣に指導している顔。
不意に笑った時の優しい目元。
そして、誰よりも努力して、黙々と自分を鍛えている姿。
「……あの人、自分の身体に、誇りと情熱を持ってるんだな……」
気づけば、紫の胸は、カイの存在でいっぱいになっていた。
──これは、もう、完全に……
「……恋だ」
小さく呟いた自分の声に、頬が自然と火照る。
──そして、あの日から。
私の物語には、彼──カイが住み着いた。
登場人物として。
インスピレーションの源として。
……そして、もうひとつの意味で──心と身体の、真ん中に。
画面がぼやけるように、ふわりと意識が現在に戻る。
いつの間にか、紫はカイの胸に寄りかかっていた。
腕の中は、いつものように安心する体温で満たされている。
「……ニヤニヤしてんじゃねぇよ。何思い出してた?」
カイの低い声が耳元で囁かれると、紫は少しだけ身体を引いて、その顔を見上げた。
「ふふ……出会った時のこと、思い出してたの。あの時、最初に声かけてくれたのがカイでよかったな、って」
「……そっか」
カイの瞳がふわりと和らぐ。
「……今もだけど、あのときからもう、とっくに惚れてたかもな」
ぽつりとこぼされたその言葉に、紫の胸が熱くなる。
そっと伸ばした指で、カイの頬に触れた。
「……好き。カイが、わたしの物語に出てきてくれて、本当に良かった」
「甘えんの、うまくなったな」
そう言ってカイは、紫の腰をぐっと引き寄せた。
唇が重なる。
最初はそっと──でも、すぐに舌が絡み、熱を帯びていく。
深く、長く、息が止まりそうになるほどのキス。
「んっ……カイ、……ん……」
キスの合間に名前を呼ぶ声が、余計にカイの理性を煽る。
唇が離れた瞬間、紫は息を整えながら、潤んだ瞳で見上げてくる。
その表情を見て、カイはふっと笑った。
「……あの頃は、キス下手だったよな」
「えっ……」
「初めてのときなんか、触れただけで真っ赤になってさ──『今日は執筆があるから』って逃げられたっけ」
「……うっ、それ言う?」
「言う。ぜってー忘れねぇし。俺、結構傷ついたんだからな?」
「だって、カイの体温、高すぎて……心臓ばくばくでまともに書けなかったの……」
紫が照れたように視線を逸らすと、カイはわざと低く囁いた。
「で? あの時、もう俺のこと好きだったんだろ?」
「……」
「なーんで黙るの。図星って顔してんじゃん」
「……もう、うるさい」
カイの胸元を軽く叩きながらも、紫の顔は耳まで真っ赤だった。
「俺が告白したとき、もうとっくに落ちてたんだろ? なぁ、紫?」
「……うん」
小さくこぼしたその言葉が、まっすぐカイの胸に届いた。
「……可愛いな、ほんと。今も、あの時より何倍も」
再び唇を重ね、深く絡まり溶け合う温度が2人を包む。
キスの余韻にぐったりしながら、紫がとろんとした瞳でカイを見上げる。
その視線が可愛くて、たまらない。
カイは腰に腕をまわし、ぐいっと紫を自分の方へ引き寄せた。
「……なぁ、紫」
低く囁く声が、耳にぞくりと響く。
「お前、あの頃──触れるだけで逃げてたくせに、今はこんな顔して、俺のこと誘ってるみたいじゃん」
紫の耳たぶを、指先でくすぐるようになぞる。
「……ほんとは、もっと触れてほしいんだろ?」
囁きながら、カイの手がゆっくりと太ももに滑り込む。
撫でるような、熱を纏った掌。
紫は思わず肩を震わせて、息を呑んだ。
「……やめ、ないで」
「……ん? 何が?」
カイの手は、もう一方の太ももへと移り、すれすれの距離で撫でるだけ。
「欲しそうな顔して、声まで甘くなって。……可愛すぎんだろ」
カイの声が低く落ちる。
「……もっと、欲しいか?」
紫の唇が、小さく震えた。
「……ほしい」
その一言を待っていたように、カイはニヤリと笑って──
「そっか。でも、今日は我慢な」
手の動きをぴたりと止めて、腰だけ引き寄せたまま、キスだけを落とす。
紫が「え……」と呟くより早く、
カイはそのまま紫の額に口づけて、低く囁いた。
「また、いい顔するタイミングで……たっぷり、焦らしてやるよ」
カイのキスが離れたあと、
紫はまだ熱の残る唇を指先でそっとなぞった。
触れられた場所すべてが、じんわり火照っているのに──
カイの手は、もうどこにも触れていない。
「……ずるい、また……寸止め……」
ぽつりとこぼすと、すぐそばでくすりと笑うカイの声。
「俺のせいにすんなよ。誘ったの、お前だろ?」
耳元に落ちるその低音に、また体が反応してしまう。
それでも紫は、カイの胸元に顔をうずめて、ぎゅっと抱きしめた。
「……好き。好きすぎて、爆発しそう……」
カイの匂い、体温、心臓の鼓動。
全部が紫の“好き”に火をつける。
焦らされて、じらされて、それでも。
たまらなく、愛しくて。
「……焦らされても、カイのこと、ますます好きになっちゃうんだけど。責任とって?」
小さな声でそう囁くと、カイは苦笑しながら、そっと頭を撫でてくれた。
「……お前、焦らされてる時が一番いい顔するな」
「うるさい……」
カイの胸にすり寄るその顔は、でもどこか満たされていて。
──寸止めのくせに、こんなに幸せなの、
たぶん、カイだけ。
ーーーーー
【後書き】
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は紫とカイの“出会い編”ということで、じれじれする前の二人の距離感を描いてみました✨
でも、じれ甘寸止めの片鱗は、すでにあの頃から始まっていたのかも……?笑
次回もお楽しみに!
こんにちは、紫です。
今回は、カイとの出会いの話。
最初は“ジムの人”ってだけで、ちょっと怖そうって思ってた。
でも、目が合った瞬間、なんとなく──予感がした。
あのそっけなさの裏に、私の知らない何かが隠れてる気がして。
今ならわかる。
あれは、寸止めの予感だったんだって──。
※今回は出会い編のため、ちょっと長めです。
ーーーーー
カイの腕の中でまどろむ時間は、
まるで甘い夢みたいに心地よくて──
とろんとしたまなざしのまま、紫はカイの胸元に頬を寄せる。
「ねえ……最初に会った日、覚えてる?」
紫がぽつりとつぶやくと、カイは少し目を細めて笑った。
「……ああ。カフェでいきなりお前の文章読んで、惚れそうになった日な」
その言葉に、紫の頬が熱く染まった。
「うそ。あの時そんな顔してなかったのに……」
「そうか? ……けっこう真剣だったぞ?」
カイの低い声が耳に落ちて、紫はくすっと笑う。
──あの日のこと、思い出すたびに胸がふわりとあたたかくなる。
いつの間にか、紫の視界はふわりと霞み、静かな記憶へと溶け込んでいった。
数年前。
静かな昼下がり、いつものカフェの窓際で、紫はパソコンを開いて執筆に没頭していた。
周囲の喧騒も気にならないくらい集中していたその時──
カラン、とドアベルが鳴り、背の高い男性が入ってきた。
彼は迷うことなく、紫の隣の席に腰を下ろす。
ちらりと横を見ると、がっしりした肩と腕、締まったウエストライン。
鍛え上げられた体に、タイトなTシャツが映えている。
──なんか……モデルさんみたい。
でも目元は鋭くて、ちょっと近寄りがたい雰囲気。
と思っていた、その時。
「……それ、お前が書いたのか?」
低くてよく通る声が、紫の耳に落ちた。
思わず画面を見ると、隣の彼──カイが、紫のPCをのぞきこんでいた。
「え……あ、はい」
突然のことに、紫は戸惑いながらもうなずく。
「……すげぇな。入りだけで、引き込まれた。ドキッとした」
──こんなにムキムキな男性が、官能小説の良さ、わかってくれるんだ……
ちょっと意外だけど……嬉しい。
しかも、目がキラキラしてる……
ギャップがすごい……ちょっと、可愛い。
「続き、読ませてもらってもいいか?」
まっすぐな視線に、紫は心臓が跳ねた。
──やばい、声、低くて……好きかも。
「……書きかけなので、読みにくいかもしれませんけど」
恐る恐る差し出すと、彼はすぐにスクリーンに目を落とし、静かに読み始めた。
指先の節の太さ、真剣に読み込む横顔。
紫の鼓動は、いつもと違う速度で鳴っていた。
やがてふっと息をついて、カイは顔を上げる。
「……なるほど。文章も描写も、リアルだな」
「筋肉の動きもちゃんと描きたいなら……俺が素材になってやろうか?」
「えっ……?」
「ジムでトレーナーやってんだ。──俺の筋肉、観察したいなら、どうぞ?」
ニッと笑ったその顔に、紫は完全にやられた。
──え、何それずるい。今の一言で、創作意欲ぶっ刺さったんだけど……。
「……じゃあ、お願いしてもいいですか……?」
震える声でそう言った自分は、あの時、確かに、ときめいていた。
けれど、それが恋なのかはまだわからなかった。
それから数日後、紫は勇気を出して、彼──カイが働くジムへと足を運んだ。
受付で「見学したいんですけど」と伝えると、奥から出てきたカイが、ちょっと驚いたように目を見開いた。
「来たのかよ、ほんとに」
不意に見せた、柔らかい笑顔。
思わず視線を逸らした。
──わたし、今ちょっと嬉しいって思った。
それだけで、また物語が書けそうな気がする。
紫が見学スペースのベンチに座っていると、カイはトレーナーとして客の指導をしながらも、時折こちらをチラリと見る。
そのたびに、紫の心臓は無駄に跳ねてしまった。
ウェア越しでも分かる、しなやかに隆起した背中と腕。
トレーニングで動くたび、筋肉がまるで意志を持ったように形を変えていく。
──すごい……生き物みたい。
現実にいるなんて、信じられない……。
「そろそろ慣れてきたか?」
不意にかけられた声に、紫はハッと顔を上げた。
カイが、水を手にしながら、目の前に立っていた。
「筋トレ見てるだけで、ネタ浮かんだりする?」
「……あ、はい……すごく……創作意欲が刺激されます」
紫の素直な言葉に、カイはにやっと口角を上げた。
「へえ。じゃあ、実際に体の動き、もっと近くで見てみる?」
「えっ……」
「モデルって言っただろ。……俺、約束守るタイプなんだよ」
そんなことを言いながら、紫をトレーニングスペースの端へと連れていく。
フォームを見せながら、腹筋や腕を動かしてみせるカイ。
──うそ。なにこれ、資料じゃなくて……目の毒……。
体が熱くなるのは、気温のせいじゃなかった。
日を追うごとに、紫は何度もジムに通った。
取材、という名目を盾にして。
そのたびに、カイのいろんな表情を知った。
真剣に指導している顔。
不意に笑った時の優しい目元。
そして、誰よりも努力して、黙々と自分を鍛えている姿。
「……あの人、自分の身体に、誇りと情熱を持ってるんだな……」
気づけば、紫の胸は、カイの存在でいっぱいになっていた。
──これは、もう、完全に……
「……恋だ」
小さく呟いた自分の声に、頬が自然と火照る。
──そして、あの日から。
私の物語には、彼──カイが住み着いた。
登場人物として。
インスピレーションの源として。
……そして、もうひとつの意味で──心と身体の、真ん中に。
画面がぼやけるように、ふわりと意識が現在に戻る。
いつの間にか、紫はカイの胸に寄りかかっていた。
腕の中は、いつものように安心する体温で満たされている。
「……ニヤニヤしてんじゃねぇよ。何思い出してた?」
カイの低い声が耳元で囁かれると、紫は少しだけ身体を引いて、その顔を見上げた。
「ふふ……出会った時のこと、思い出してたの。あの時、最初に声かけてくれたのがカイでよかったな、って」
「……そっか」
カイの瞳がふわりと和らぐ。
「……今もだけど、あのときからもう、とっくに惚れてたかもな」
ぽつりとこぼされたその言葉に、紫の胸が熱くなる。
そっと伸ばした指で、カイの頬に触れた。
「……好き。カイが、わたしの物語に出てきてくれて、本当に良かった」
「甘えんの、うまくなったな」
そう言ってカイは、紫の腰をぐっと引き寄せた。
唇が重なる。
最初はそっと──でも、すぐに舌が絡み、熱を帯びていく。
深く、長く、息が止まりそうになるほどのキス。
「んっ……カイ、……ん……」
キスの合間に名前を呼ぶ声が、余計にカイの理性を煽る。
唇が離れた瞬間、紫は息を整えながら、潤んだ瞳で見上げてくる。
その表情を見て、カイはふっと笑った。
「……あの頃は、キス下手だったよな」
「えっ……」
「初めてのときなんか、触れただけで真っ赤になってさ──『今日は執筆があるから』って逃げられたっけ」
「……うっ、それ言う?」
「言う。ぜってー忘れねぇし。俺、結構傷ついたんだからな?」
「だって、カイの体温、高すぎて……心臓ばくばくでまともに書けなかったの……」
紫が照れたように視線を逸らすと、カイはわざと低く囁いた。
「で? あの時、もう俺のこと好きだったんだろ?」
「……」
「なーんで黙るの。図星って顔してんじゃん」
「……もう、うるさい」
カイの胸元を軽く叩きながらも、紫の顔は耳まで真っ赤だった。
「俺が告白したとき、もうとっくに落ちてたんだろ? なぁ、紫?」
「……うん」
小さくこぼしたその言葉が、まっすぐカイの胸に届いた。
「……可愛いな、ほんと。今も、あの時より何倍も」
再び唇を重ね、深く絡まり溶け合う温度が2人を包む。
キスの余韻にぐったりしながら、紫がとろんとした瞳でカイを見上げる。
その視線が可愛くて、たまらない。
カイは腰に腕をまわし、ぐいっと紫を自分の方へ引き寄せた。
「……なぁ、紫」
低く囁く声が、耳にぞくりと響く。
「お前、あの頃──触れるだけで逃げてたくせに、今はこんな顔して、俺のこと誘ってるみたいじゃん」
紫の耳たぶを、指先でくすぐるようになぞる。
「……ほんとは、もっと触れてほしいんだろ?」
囁きながら、カイの手がゆっくりと太ももに滑り込む。
撫でるような、熱を纏った掌。
紫は思わず肩を震わせて、息を呑んだ。
「……やめ、ないで」
「……ん? 何が?」
カイの手は、もう一方の太ももへと移り、すれすれの距離で撫でるだけ。
「欲しそうな顔して、声まで甘くなって。……可愛すぎんだろ」
カイの声が低く落ちる。
「……もっと、欲しいか?」
紫の唇が、小さく震えた。
「……ほしい」
その一言を待っていたように、カイはニヤリと笑って──
「そっか。でも、今日は我慢な」
手の動きをぴたりと止めて、腰だけ引き寄せたまま、キスだけを落とす。
紫が「え……」と呟くより早く、
カイはそのまま紫の額に口づけて、低く囁いた。
「また、いい顔するタイミングで……たっぷり、焦らしてやるよ」
カイのキスが離れたあと、
紫はまだ熱の残る唇を指先でそっとなぞった。
触れられた場所すべてが、じんわり火照っているのに──
カイの手は、もうどこにも触れていない。
「……ずるい、また……寸止め……」
ぽつりとこぼすと、すぐそばでくすりと笑うカイの声。
「俺のせいにすんなよ。誘ったの、お前だろ?」
耳元に落ちるその低音に、また体が反応してしまう。
それでも紫は、カイの胸元に顔をうずめて、ぎゅっと抱きしめた。
「……好き。好きすぎて、爆発しそう……」
カイの匂い、体温、心臓の鼓動。
全部が紫の“好き”に火をつける。
焦らされて、じらされて、それでも。
たまらなく、愛しくて。
「……焦らされても、カイのこと、ますます好きになっちゃうんだけど。責任とって?」
小さな声でそう囁くと、カイは苦笑しながら、そっと頭を撫でてくれた。
「……お前、焦らされてる時が一番いい顔するな」
「うるさい……」
カイの胸にすり寄るその顔は、でもどこか満たされていて。
──寸止めのくせに、こんなに幸せなの、
たぶん、カイだけ。
ーーーーー
【後書き】
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は紫とカイの“出会い編”ということで、じれじれする前の二人の距離感を描いてみました✨
でも、じれ甘寸止めの片鱗は、すでにあの頃から始まっていたのかも……?笑
次回もお楽しみに!
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