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第1話:お前、もう充分吸ったろ?猫が虎になって襲ってきた日
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「ん~……今日もいい匂い~……」
ミユはソファにだらりと寝転ぶ一匹の茶虎猫に顔を埋め、思いきり鼻から息を吸い込んだ。
白いお腹はふかふかで、ぷにぷにの前足には靴下みたいな白毛。
掌に収まるこの丸さと温もり、そしてシャンプーと猫特有のやさしい獣の香りが混ざった匂いがたまらなくて――つい、今日も“猫吸い”に没頭してしまう。
はいはい、撫でるからお腹見せて?」
撫でればゴロゴロ、ひっくり返ればへそ天。
ピンと立った尻尾、つんとした顔とは裏腹に、甘え方は赤ちゃんみたいで……。
今日も安心しきったその腹に、思わず顔を埋めた。
「ふふ……ほんと、大好き……」
「シエンのおてて、今日も白靴下可愛い~……この白いとこ、ほんと天才……」
そう呟きながら、肉球にそっと唇を寄せてちゅ、とキスを落とす。耳の横をくすぐると、シエンは小さく「ふにゃ……」と鳴いて体をくるんと丸めた。
ここは、動物たちと心を通わせることができる“共話種”が珍しくない街。ミユはそんな特別な猫、茶虎の“シエン”とふたり暮らしをしていた。
(……猫と話せるなんて、昔の私じゃ考えられなかったなぁ)
そう思いながら、ミユはいつも通り、お腹やお尻、足の付け根に鼻を押しつけ、首筋や白い前足にキスをばらまいた。
「……はぁ~、好きすぎて吸いすぎちゃう~……」
そんなミユの声に、白靴下の猫は片目を細め、ふ、と喉を鳴らす。
……その直後。
「……毎日飽きずに吸って……どんだけ俺に夢中なんだよ、お前」
低くて艶のある声が、唐突に耳元で響いた。
「っ……え、えっ……?」
ぴくり。
「……え?」
毛皮の中で何かが脈打つような気配。
次の瞬間、柔らかな身体が、ぐにゃりと変形するように揺らいだ。
「──えっ、え、なに、え、ちょ、えっ⁉︎」
ミユが顔を上げると、そこにはもう、さっきまでの可愛い猫の姿はなかった。
代わりに、琥珀色の瞳をした青年――いや、“獣人”がそこにいた。
茶虎色の耳をぴくりと動かしながら、ふわふわの尻尾を揺らしし、ソファの上でミユに馬乗りになっている。
「…え?もしかして…シエンなの?」
「……お前、もう充分吸ったろ? 今度は、俺の番だ。逃がさねぇから、覚悟しろよ?」
その笑みに、ミユの背筋がぞくりと震えた。
(え……えっ、なにこれ、なにこれ、なにこれ!?)
混乱するミユを見て、獣人の彼――シエンは、猫耳をぴんと立てたまま、ふわりと鼻先を寄せてくる。
「……いいじゃん。さっきまでさんざん俺の匂い嗅いでたんだし。お前も、ちゃんと吸わせろよ?」
――この瞬間を、虎視眈々と狙っていたのだ。
鼻先がふわ、と触れた。
ぬるく温かい呼気が頬にかかる。琥珀色の瞳が、ぐっと近づく。
「……ミユ、こういうの、“鼻チュー”って言うんだろ?」
シエンの低い声がすぐ目の前で響く。
「…ずっと、こうしたかった」
ちょん、と鼻と鼻とが触れ合った瞬間、ミユの心臓が跳ね上がった。
(なにこれ、可愛いのに……声、色気ずるい……)
「ふ……ん」
今度は、鼻先を頬にすりつけながら、シエンがミユの首元へと顔を埋めてくる。
「ん~……やっぱ、今日もいい匂い。柔軟剤? いや、ミユの匂いか……」
首すじをふわふわと嗅がれながら、ミユは肩をびくりと揺らした。
「……っ、やだ、そんな嗅がないで……」
「やだって言っても、止まんねぇよ」
シエンがくくっと喉で笑う。まるで狩りを前にした虎。肉食獣のような、喉の奥で鳴る音。
「……まだ吸い足りない。ミユの匂い、ちゃんと俺の奥まで染み込ませるから。ミユもいつもやってるだろ?」
そう囁いたかと思えば、ぴたり、と唇が鎖骨のすぐ下に吸いついた。
「ふ、ぁ……っ!」
柔らかい吸いつき。だけど、じんわり痺れるような力加減。
そこだけ熱くて、痺れて、じわじわトロける感覚が走る。
「やっぱ背中も嗅いでいい?」
「い、いやっ、ちょ……やめ、シエ……んっ……!」
「ミユのここんとこさ、発情期のメス猫みてーな良い匂いなんだよなぁ」
逃げようとしても、彼の腕の中はあたたかくて、ぎゅっと捕まえられるような安心感と緊張感でいっぱいになる。
「ん、可愛い声。……まだ吸ってるだけだから。すぐ食べたりしねぇよ」
「それが一番こわいんだけど……!」
シエンの顔が、ぐっとミユの耳元へ近づく。
掠れるような低音で囁かれるその声に、鼓膜がびりつく。
「……今度は、俺がたっぷり味わう番。逃げられると思うなよ?」
体をすくませたミユの肌を、ぴくんと指先がなぞる。
そのまま、お腹のへそ下あたりに鼻先が落ちて――くんくん、と深く匂いを嗅ぐ。
「さっきまで夢中で嗅いでたよな?……今度は、俺の番。遠慮すんなよ、ミユ」
ニヤリと笑いながら低く甘く、でも抗えない“獣の命令”。
指先がミユの太ももをじわじわと撫でていく。
……まだ、先には進まないくせに…
「や、あ……そこ、シエン……やだ、吸っちゃ……っ!」
ちゅっ、と音がした。
舌先で優しく吸われただけなのに、
ビクッと背中が跳ねて、思わずシエンの髪をぎゅっと掴んでしまう。
「……ミユ、ここ吸うの好きだよな? お前、いつもここで……ちゅるっ」
おへその少し下あたりに吸いつかれて、息が止まった。
――わ、私、毎日……シエンにこんなこと、してたの……?
シエンの、ここを……?
その事実に思い至った瞬間、顔から火が出そうになる。
熱い。お腹の奥も、胸の内も、全部ぐちゃぐちゃに溶けそう。
「う、そ……やだ、もぅっ…」
恥ずかしくてたまらないのに、
シエンの舌が、まだそこに這ってる。
指一本触れられていないのに、
もう、ずっと奥の方までトロトロにされていく――。
「んっ……ぁ……ダメ……」
口ではそう言ってるのに、足先はぴんと伸びて、指先がソファの端を掴んでいる。
逃げようとしてるわけじゃない。
ただ、これ以上責められたら、自分がどうなってしまうのか分からないから――。
「ん? ダメって……ほんとに?」
ぴたりと動きを止めたシエンが、わざとらしく問いかけてくる。
その声が、腹部に触れる舌先よりも、ずっと熱く感じてしまうのが悔しい。
「ダメって顔じゃねぇな、ミユ。
むしろ――“もっと吸ってください”って、言ってるように見えるけど?」
ずるい。そんなこと言われたら……言い返せなくなっちゃう。
シエンの視線が、琥珀のように熱を宿して私を射抜く。
猫のときより、ずっと鋭くて――でも、その奥には甘やかな、熱を孕んだ光が揺れていた。
「毎日お前が吸ってたとこ、今……俺が吸ってるだけなのに。
なんでそんなに……トロトロなんだよ、ミユ」
「……っ、ん……っ、ああ……」
シエンの舌がまた、じっくりと肌を這う。
柔らかく吸い上げたあと、ちゅ、と軽く弾くように唇を離して、次の場所へと滑っていく。
そんなことされたら……思い出しちゃう。
自分が、どれだけシエンに夢中だったか――毎日、無意識にどれだけ吸いまくってたのか。
「――私、こんなに……してたの……?」
思わず目を伏せて、両手で顔を隠してしまう。
でも、逃げられない。身体の奥がじんわり熱くて、もう、どうにもならない
「……ふっ、ん……っあ……っ、シエン……やだっ……」
肌に這う熱。
舌先が、線を描くようにおへそをなぞるたびに、ミユの腰が震える。
そこは……自分がいつも無意識に吸ってた、シエンの匂いがいちばん濃い場所。
今、逆にそこを――じっくり、ゆっくり、攻められてるなんて……。
「へぇ……やっぱココ、弱ぇんだ。腰までビクビクしてんじゃん」
耳元じゃない。
シエンの声は、下――お腹のすぐそばから響いてくる。
じんわり熱い吐息と共に、舌先が敏感な皮膚をゆっくりと撫でるように滑って……。
「なぁ、ミユ……」
吸い上げた場所に、ぴとりと唇を重ねたまま――低く、熱っぽい声で囁く。
「お前さ、俺のここ吸うの……ほんっと好きだよな?
毎日しつこいくらい嗅いで、スーハースーハーして……俺に“依存”してたの、分かってる?」
「っ――~~っ……あ……うぅ……っ」
羞恥と快感がいっぺんに押し寄せて、ミユの喉から声が漏れる。
なのに、シエンはその震えも逃さずに――にやりと、獲物を追い詰める肉食獣の笑み。
「なぁ、どうすんの?
俺、お前が吸いまくってた分、返してやんなきゃ、って思ってたのに……
いざ吸ってやったら、トロトロになってるって……どーゆーこと?」
そんな言葉と共に、今度はやや強引に、唇が吸い付く。
ちゅ、と柔らかく、しかし深く肌を吸い上げて――ミユの身体が、またびくりと跳ねた。
「……ん? 今、震えたな」
シエンが低く囁く声は、吸いついたおへそのあたりから震えるように響いた。
「イきそうなんだろ? ……隠しても、バレバレだよ、ミユ」
ちゅ、っと軽く吸われただけで、びくんと腰が跳ねた。
息が詰まる。声が漏れる。喉が熱くなる。
体中が、まるでどこかが切り替わったみたいに敏感になっている。
「っ……ダメ、なの……もぅ、変に、なってっ……」
ミユの声はか細くて、触れただけで壊れそうに震えていた。
なのに──
「……可愛いヤツだな」
そう呟いたシエンが、舌を這わせる。
下腹部のやわらかな肌に、じんわりと温かい感触が染み込む。
舌先で円を描かれ、息を飲む隙間すら与えられず──
「ミユ、毎日俺のこと吸ってたのに、自分が吸われたらこんなにとろけんのな」
「俺の匂い、俺の舌……ちゃんと感じてるか?…かぷっ」
シエンが優しく甘噛み、
ぴくっ、とミユの足が震えたその瞬間──
「っあ……っあ、あぁ……!」
体の奥から、熱い波が一気に押し寄せる。
ひとつ、軽く、けれど確かな快楽の波に呑まれて、
ミユの体はシエンの腕の中でびくびくと跳ねた。
「……イったな?ちゃんと感じてんじゃん」
耳元に落とされた低い囁き。
「吸われて可愛くとろけんの、お前だけだよ──ミユ」
優しく、だけど雄の熱が滲んだ声で、そう囁かれた瞬間。
ミユの頬は、桜のように真っ赤に染まっていた
「……ふ…そんな顔すんの、反則だろ」
シエンはミユの頬に頬をすり寄せながら、すうっと深く息を吸い込んだ。
熱く火照った身体から立ち上る甘い匂いを、まるで悦ぶように堪能している。
「……ほんっと、俺の匂いに染まるの、似合ってる」
「とろけた声も、震えてる指も、全部、俺のせいってわかるとさ──」
低く笑うその声に、ぞくりと背筋が震える。
けれど、突き放されるようなことは何一つなかった。
シエンの手は優しく、でも逃がさないようにミユの腰を抱きしめている。
まるで、大事な宝物でも扱うように。
「……ミユ。もっと、混ざりたい」
耳元で、囁きが落ちる。
「まだ満足してねぇんだよ。……さっきからずっと、限界ギリギリなんだ」
ミユの耳にかかる吐息が熱い。
その直後──
「さっき、吸ってる時に震えたお前の声、あのトロ顔、ずっと脳に残ってんの」
「だから……次は、俺にも気持ちよくさせて?」
「…まって…シエンっ今まだ、むりだよ…」
唇が、首筋に落ちる。
今度はもう、焦らすつもりなんてない。
「俺の番だろ?」
「なぁ、ミユ……お前の奥、もっと深く、感じてるかちゃんと教えな?」
潤んだ瞳で見つめるミユ。不安と期待に震えながら拒む様子はない
「……ふぅ。そんな顔すんの、煽ってるようなもんだろ…」
吐息混じりの声が、すぐ耳の横で溶けた。
熱が移る。鼓動が重なる。
「震えてんの、わかる?」
「さっきまで、お前が俺にしてたこと……今、全部お返ししてるだけだってのに」
シエンの指が、優しくミユの髪を梳いた。
吐息はまだ近く、ミユの肌に降るようにかかる。
「それとも、甘やかされ慣れてないだけか?」
クス、と笑う気配。けれどその声には、熱がこもっていた。
「……ミユ。お前、匂いも、声も、全部俺を煽るんだよ、わかってんの?」
首筋にキス。
そのまま、耳朶をなぞるように囁く。
「さっき、お腹に顔うずめた時──俺、マジで我慢してた」
「これ以上やったら、お前が壊れそうで。……けど、もう無理かも」
甘えるようで、命令のようで。
低くて、蕩けるような声。
「このままくっついてるだけで我慢なんて、できねぇだろ」
「……なぁミユ。もっと、奥まで触れてもいいよな?もう、こんなにトロトロだしな?」
熱い手のひらが、ミユの背をなぞる。
爪は立てない。でも、逃げられないように。
「“ここ”がほしい」
シエンがミユの耳元で熱く低く囁く
「ずっと前から、この瞬間を……虎視眈々と狙ってたんだよ…」
頬に唇が落ちる。唇が重なる。
まるで、契りの合図のように──
ふたりの体温が、音もなく溶け合う。
部屋の灯りはそのままに──夜は、静かに更けていった。
ミユはソファにだらりと寝転ぶ一匹の茶虎猫に顔を埋め、思いきり鼻から息を吸い込んだ。
白いお腹はふかふかで、ぷにぷにの前足には靴下みたいな白毛。
掌に収まるこの丸さと温もり、そしてシャンプーと猫特有のやさしい獣の香りが混ざった匂いがたまらなくて――つい、今日も“猫吸い”に没頭してしまう。
はいはい、撫でるからお腹見せて?」
撫でればゴロゴロ、ひっくり返ればへそ天。
ピンと立った尻尾、つんとした顔とは裏腹に、甘え方は赤ちゃんみたいで……。
今日も安心しきったその腹に、思わず顔を埋めた。
「ふふ……ほんと、大好き……」
「シエンのおてて、今日も白靴下可愛い~……この白いとこ、ほんと天才……」
そう呟きながら、肉球にそっと唇を寄せてちゅ、とキスを落とす。耳の横をくすぐると、シエンは小さく「ふにゃ……」と鳴いて体をくるんと丸めた。
ここは、動物たちと心を通わせることができる“共話種”が珍しくない街。ミユはそんな特別な猫、茶虎の“シエン”とふたり暮らしをしていた。
(……猫と話せるなんて、昔の私じゃ考えられなかったなぁ)
そう思いながら、ミユはいつも通り、お腹やお尻、足の付け根に鼻を押しつけ、首筋や白い前足にキスをばらまいた。
「……はぁ~、好きすぎて吸いすぎちゃう~……」
そんなミユの声に、白靴下の猫は片目を細め、ふ、と喉を鳴らす。
……その直後。
「……毎日飽きずに吸って……どんだけ俺に夢中なんだよ、お前」
低くて艶のある声が、唐突に耳元で響いた。
「っ……え、えっ……?」
ぴくり。
「……え?」
毛皮の中で何かが脈打つような気配。
次の瞬間、柔らかな身体が、ぐにゃりと変形するように揺らいだ。
「──えっ、え、なに、え、ちょ、えっ⁉︎」
ミユが顔を上げると、そこにはもう、さっきまでの可愛い猫の姿はなかった。
代わりに、琥珀色の瞳をした青年――いや、“獣人”がそこにいた。
茶虎色の耳をぴくりと動かしながら、ふわふわの尻尾を揺らしし、ソファの上でミユに馬乗りになっている。
「…え?もしかして…シエンなの?」
「……お前、もう充分吸ったろ? 今度は、俺の番だ。逃がさねぇから、覚悟しろよ?」
その笑みに、ミユの背筋がぞくりと震えた。
(え……えっ、なにこれ、なにこれ、なにこれ!?)
混乱するミユを見て、獣人の彼――シエンは、猫耳をぴんと立てたまま、ふわりと鼻先を寄せてくる。
「……いいじゃん。さっきまでさんざん俺の匂い嗅いでたんだし。お前も、ちゃんと吸わせろよ?」
――この瞬間を、虎視眈々と狙っていたのだ。
鼻先がふわ、と触れた。
ぬるく温かい呼気が頬にかかる。琥珀色の瞳が、ぐっと近づく。
「……ミユ、こういうの、“鼻チュー”って言うんだろ?」
シエンの低い声がすぐ目の前で響く。
「…ずっと、こうしたかった」
ちょん、と鼻と鼻とが触れ合った瞬間、ミユの心臓が跳ね上がった。
(なにこれ、可愛いのに……声、色気ずるい……)
「ふ……ん」
今度は、鼻先を頬にすりつけながら、シエンがミユの首元へと顔を埋めてくる。
「ん~……やっぱ、今日もいい匂い。柔軟剤? いや、ミユの匂いか……」
首すじをふわふわと嗅がれながら、ミユは肩をびくりと揺らした。
「……っ、やだ、そんな嗅がないで……」
「やだって言っても、止まんねぇよ」
シエンがくくっと喉で笑う。まるで狩りを前にした虎。肉食獣のような、喉の奥で鳴る音。
「……まだ吸い足りない。ミユの匂い、ちゃんと俺の奥まで染み込ませるから。ミユもいつもやってるだろ?」
そう囁いたかと思えば、ぴたり、と唇が鎖骨のすぐ下に吸いついた。
「ふ、ぁ……っ!」
柔らかい吸いつき。だけど、じんわり痺れるような力加減。
そこだけ熱くて、痺れて、じわじわトロける感覚が走る。
「やっぱ背中も嗅いでいい?」
「い、いやっ、ちょ……やめ、シエ……んっ……!」
「ミユのここんとこさ、発情期のメス猫みてーな良い匂いなんだよなぁ」
逃げようとしても、彼の腕の中はあたたかくて、ぎゅっと捕まえられるような安心感と緊張感でいっぱいになる。
「ん、可愛い声。……まだ吸ってるだけだから。すぐ食べたりしねぇよ」
「それが一番こわいんだけど……!」
シエンの顔が、ぐっとミユの耳元へ近づく。
掠れるような低音で囁かれるその声に、鼓膜がびりつく。
「……今度は、俺がたっぷり味わう番。逃げられると思うなよ?」
体をすくませたミユの肌を、ぴくんと指先がなぞる。
そのまま、お腹のへそ下あたりに鼻先が落ちて――くんくん、と深く匂いを嗅ぐ。
「さっきまで夢中で嗅いでたよな?……今度は、俺の番。遠慮すんなよ、ミユ」
ニヤリと笑いながら低く甘く、でも抗えない“獣の命令”。
指先がミユの太ももをじわじわと撫でていく。
……まだ、先には進まないくせに…
「や、あ……そこ、シエン……やだ、吸っちゃ……っ!」
ちゅっ、と音がした。
舌先で優しく吸われただけなのに、
ビクッと背中が跳ねて、思わずシエンの髪をぎゅっと掴んでしまう。
「……ミユ、ここ吸うの好きだよな? お前、いつもここで……ちゅるっ」
おへその少し下あたりに吸いつかれて、息が止まった。
――わ、私、毎日……シエンにこんなこと、してたの……?
シエンの、ここを……?
その事実に思い至った瞬間、顔から火が出そうになる。
熱い。お腹の奥も、胸の内も、全部ぐちゃぐちゃに溶けそう。
「う、そ……やだ、もぅっ…」
恥ずかしくてたまらないのに、
シエンの舌が、まだそこに這ってる。
指一本触れられていないのに、
もう、ずっと奥の方までトロトロにされていく――。
「んっ……ぁ……ダメ……」
口ではそう言ってるのに、足先はぴんと伸びて、指先がソファの端を掴んでいる。
逃げようとしてるわけじゃない。
ただ、これ以上責められたら、自分がどうなってしまうのか分からないから――。
「ん? ダメって……ほんとに?」
ぴたりと動きを止めたシエンが、わざとらしく問いかけてくる。
その声が、腹部に触れる舌先よりも、ずっと熱く感じてしまうのが悔しい。
「ダメって顔じゃねぇな、ミユ。
むしろ――“もっと吸ってください”って、言ってるように見えるけど?」
ずるい。そんなこと言われたら……言い返せなくなっちゃう。
シエンの視線が、琥珀のように熱を宿して私を射抜く。
猫のときより、ずっと鋭くて――でも、その奥には甘やかな、熱を孕んだ光が揺れていた。
「毎日お前が吸ってたとこ、今……俺が吸ってるだけなのに。
なんでそんなに……トロトロなんだよ、ミユ」
「……っ、ん……っ、ああ……」
シエンの舌がまた、じっくりと肌を這う。
柔らかく吸い上げたあと、ちゅ、と軽く弾くように唇を離して、次の場所へと滑っていく。
そんなことされたら……思い出しちゃう。
自分が、どれだけシエンに夢中だったか――毎日、無意識にどれだけ吸いまくってたのか。
「――私、こんなに……してたの……?」
思わず目を伏せて、両手で顔を隠してしまう。
でも、逃げられない。身体の奥がじんわり熱くて、もう、どうにもならない
「……ふっ、ん……っあ……っ、シエン……やだっ……」
肌に這う熱。
舌先が、線を描くようにおへそをなぞるたびに、ミユの腰が震える。
そこは……自分がいつも無意識に吸ってた、シエンの匂いがいちばん濃い場所。
今、逆にそこを――じっくり、ゆっくり、攻められてるなんて……。
「へぇ……やっぱココ、弱ぇんだ。腰までビクビクしてんじゃん」
耳元じゃない。
シエンの声は、下――お腹のすぐそばから響いてくる。
じんわり熱い吐息と共に、舌先が敏感な皮膚をゆっくりと撫でるように滑って……。
「なぁ、ミユ……」
吸い上げた場所に、ぴとりと唇を重ねたまま――低く、熱っぽい声で囁く。
「お前さ、俺のここ吸うの……ほんっと好きだよな?
毎日しつこいくらい嗅いで、スーハースーハーして……俺に“依存”してたの、分かってる?」
「っ――~~っ……あ……うぅ……っ」
羞恥と快感がいっぺんに押し寄せて、ミユの喉から声が漏れる。
なのに、シエンはその震えも逃さずに――にやりと、獲物を追い詰める肉食獣の笑み。
「なぁ、どうすんの?
俺、お前が吸いまくってた分、返してやんなきゃ、って思ってたのに……
いざ吸ってやったら、トロトロになってるって……どーゆーこと?」
そんな言葉と共に、今度はやや強引に、唇が吸い付く。
ちゅ、と柔らかく、しかし深く肌を吸い上げて――ミユの身体が、またびくりと跳ねた。
「……ん? 今、震えたな」
シエンが低く囁く声は、吸いついたおへそのあたりから震えるように響いた。
「イきそうなんだろ? ……隠しても、バレバレだよ、ミユ」
ちゅ、っと軽く吸われただけで、びくんと腰が跳ねた。
息が詰まる。声が漏れる。喉が熱くなる。
体中が、まるでどこかが切り替わったみたいに敏感になっている。
「っ……ダメ、なの……もぅ、変に、なってっ……」
ミユの声はか細くて、触れただけで壊れそうに震えていた。
なのに──
「……可愛いヤツだな」
そう呟いたシエンが、舌を這わせる。
下腹部のやわらかな肌に、じんわりと温かい感触が染み込む。
舌先で円を描かれ、息を飲む隙間すら与えられず──
「ミユ、毎日俺のこと吸ってたのに、自分が吸われたらこんなにとろけんのな」
「俺の匂い、俺の舌……ちゃんと感じてるか?…かぷっ」
シエンが優しく甘噛み、
ぴくっ、とミユの足が震えたその瞬間──
「っあ……っあ、あぁ……!」
体の奥から、熱い波が一気に押し寄せる。
ひとつ、軽く、けれど確かな快楽の波に呑まれて、
ミユの体はシエンの腕の中でびくびくと跳ねた。
「……イったな?ちゃんと感じてんじゃん」
耳元に落とされた低い囁き。
「吸われて可愛くとろけんの、お前だけだよ──ミユ」
優しく、だけど雄の熱が滲んだ声で、そう囁かれた瞬間。
ミユの頬は、桜のように真っ赤に染まっていた
「……ふ…そんな顔すんの、反則だろ」
シエンはミユの頬に頬をすり寄せながら、すうっと深く息を吸い込んだ。
熱く火照った身体から立ち上る甘い匂いを、まるで悦ぶように堪能している。
「……ほんっと、俺の匂いに染まるの、似合ってる」
「とろけた声も、震えてる指も、全部、俺のせいってわかるとさ──」
低く笑うその声に、ぞくりと背筋が震える。
けれど、突き放されるようなことは何一つなかった。
シエンの手は優しく、でも逃がさないようにミユの腰を抱きしめている。
まるで、大事な宝物でも扱うように。
「……ミユ。もっと、混ざりたい」
耳元で、囁きが落ちる。
「まだ満足してねぇんだよ。……さっきからずっと、限界ギリギリなんだ」
ミユの耳にかかる吐息が熱い。
その直後──
「さっき、吸ってる時に震えたお前の声、あのトロ顔、ずっと脳に残ってんの」
「だから……次は、俺にも気持ちよくさせて?」
「…まって…シエンっ今まだ、むりだよ…」
唇が、首筋に落ちる。
今度はもう、焦らすつもりなんてない。
「俺の番だろ?」
「なぁ、ミユ……お前の奥、もっと深く、感じてるかちゃんと教えな?」
潤んだ瞳で見つめるミユ。不安と期待に震えながら拒む様子はない
「……ふぅ。そんな顔すんの、煽ってるようなもんだろ…」
吐息混じりの声が、すぐ耳の横で溶けた。
熱が移る。鼓動が重なる。
「震えてんの、わかる?」
「さっきまで、お前が俺にしてたこと……今、全部お返ししてるだけだってのに」
シエンの指が、優しくミユの髪を梳いた。
吐息はまだ近く、ミユの肌に降るようにかかる。
「それとも、甘やかされ慣れてないだけか?」
クス、と笑う気配。けれどその声には、熱がこもっていた。
「……ミユ。お前、匂いも、声も、全部俺を煽るんだよ、わかってんの?」
首筋にキス。
そのまま、耳朶をなぞるように囁く。
「さっき、お腹に顔うずめた時──俺、マジで我慢してた」
「これ以上やったら、お前が壊れそうで。……けど、もう無理かも」
甘えるようで、命令のようで。
低くて、蕩けるような声。
「このままくっついてるだけで我慢なんて、できねぇだろ」
「……なぁミユ。もっと、奥まで触れてもいいよな?もう、こんなにトロトロだしな?」
熱い手のひらが、ミユの背をなぞる。
爪は立てない。でも、逃げられないように。
「“ここ”がほしい」
シエンがミユの耳元で熱く低く囁く
「ずっと前から、この瞬間を……虎視眈々と狙ってたんだよ…」
頬に唇が落ちる。唇が重なる。
まるで、契りの合図のように──
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部屋の灯りはそのままに──夜は、静かに更けていった。
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