猫吸いしてたらいきなり虎になって逆に吸われた件について 〜豹変トラ彼氏と本能スキンシップ、喉が鳴るのは私の方だった〜

寸止めの紫陽花

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第1話:お前、もう充分吸ったろ?猫が虎になって襲ってきた日

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「ん~……今日もいい匂い~……」

 ミユはソファにだらりと寝転ぶ一匹の茶虎猫に顔を埋め、思いきり鼻から息を吸い込んだ。

白いお腹はふかふかで、ぷにぷにの前足には靴下みたいな白毛。

掌に収まるこの丸さと温もり、そしてシャンプーと猫特有のやさしい獣の香りが混ざった匂いがたまらなくて――つい、今日も“猫吸い”に没頭してしまう。

はいはい、撫でるからお腹見せて?」

 撫でればゴロゴロ、ひっくり返ればへそ天。
 ピンと立った尻尾、つんとした顔とは裏腹に、甘え方は赤ちゃんみたいで……。
 今日も安心しきったその腹に、思わず顔を埋めた。

 「ふふ……ほんと、大好き……」

 「シエンのおてて、今日も白靴下可愛い~……この白いとこ、ほんと天才……」

 そう呟きながら、肉球にそっと唇を寄せてちゅ、とキスを落とす。耳の横をくすぐると、シエンは小さく「ふにゃ……」と鳴いて体をくるんと丸めた。

 ここは、動物たちと心を通わせることができる“共話種”が珍しくない街。ミユはそんな特別な猫、茶虎の“シエン”とふたり暮らしをしていた。

 (……猫と話せるなんて、昔の私じゃ考えられなかったなぁ)

 そう思いながら、ミユはいつも通り、お腹やお尻、足の付け根に鼻を押しつけ、首筋や白い前足にキスをばらまいた。

 「……はぁ~、好きすぎて吸いすぎちゃう~……」

 そんなミユの声に、白靴下の猫は片目を細め、ふ、と喉を鳴らす。

 ……その直後。

 「……毎日飽きずに吸って……どんだけ俺に夢中なんだよ、お前」

 低くて艶のある声が、唐突に耳元で響いた。

 「っ……え、えっ……?」

ぴくり。

「……え?」

 毛皮の中で何かが脈打つような気配。
 次の瞬間、柔らかな身体が、ぐにゃりと変形するように揺らいだ。

「──えっ、え、なに、え、ちょ、えっ⁉︎」

 ミユが顔を上げると、そこにはもう、さっきまでの可愛い猫の姿はなかった。

 代わりに、琥珀色の瞳をした青年――いや、“獣人”がそこにいた。

茶虎色の耳をぴくりと動かしながら、ふわふわの尻尾を揺らしし、ソファの上でミユに馬乗りになっている。

 「…え?もしかして…シエンなの?」

 「……お前、もう充分吸ったろ? 今度は、俺の番だ。逃がさねぇから、覚悟しろよ?」

 その笑みに、ミユの背筋がぞくりと震えた。

 (え……えっ、なにこれ、なにこれ、なにこれ!?)

 混乱するミユを見て、獣人の彼――シエンは、猫耳をぴんと立てたまま、ふわりと鼻先を寄せてくる。

 「……いいじゃん。さっきまでさんざん俺の匂い嗅いでたんだし。お前も、ちゃんと吸わせろよ?」

 ――この瞬間を、虎視眈々と狙っていたのだ。

 鼻先がふわ、と触れた。
 ぬるく温かい呼気が頬にかかる。琥珀色の瞳が、ぐっと近づく。

 「……ミユ、こういうの、“鼻チュー”って言うんだろ?」

 シエンの低い声がすぐ目の前で響く。

 「…ずっと、こうしたかった」

 ちょん、と鼻と鼻とが触れ合った瞬間、ミユの心臓が跳ね上がった。

 (なにこれ、可愛いのに……声、色気ずるい……)

 「ふ……ん」

 今度は、鼻先を頬にすりつけながら、シエンがミユの首元へと顔を埋めてくる。

 「ん~……やっぱ、今日もいい匂い。柔軟剤? いや、ミユの匂いか……」

 首すじをふわふわと嗅がれながら、ミユは肩をびくりと揺らした。

 「……っ、やだ、そんな嗅がないで……」

 「やだって言っても、止まんねぇよ」

 シエンがくくっと喉で笑う。まるで狩りを前にした虎。肉食獣のような、喉の奥で鳴る音。

 「……まだ吸い足りない。ミユの匂い、ちゃんと俺の奥まで染み込ませるから。ミユもいつもやってるだろ?」

 そう囁いたかと思えば、ぴたり、と唇が鎖骨のすぐ下に吸いついた。

 「ふ、ぁ……っ!」

 柔らかい吸いつき。だけど、じんわり痺れるような力加減。
 そこだけ熱くて、痺れて、じわじわトロける感覚が走る。

 「やっぱ背中も嗅いでいい?」

 「い、いやっ、ちょ……やめ、シエ……んっ……!」

「ミユのここんとこさ、発情期のメス猫みてーな良い匂いなんだよなぁ」

 逃げようとしても、彼の腕の中はあたたかくて、ぎゅっと捕まえられるような安心感と緊張感でいっぱいになる。

 「ん、可愛い声。……まだ吸ってるだけだから。すぐ食べたりしねぇよ」

 「それが一番こわいんだけど……!」

シエンの顔が、ぐっとミユの耳元へ近づく。
掠れるような低音で囁かれるその声に、鼓膜がびりつく。

「……今度は、俺がたっぷり味わう番。逃げられると思うなよ?」

体をすくませたミユの肌を、ぴくんと指先がなぞる。

そのまま、お腹のへそ下あたりに鼻先が落ちて――くんくん、と深く匂いを嗅ぐ。

「さっきまで夢中で嗅いでたよな?……今度は、俺の番。遠慮すんなよ、ミユ」

ニヤリと笑いながら低く甘く、でも抗えない“獣の命令”。

指先がミユの太ももをじわじわと撫でていく。

……まだ、先には進まないくせに…

「や、あ……そこ、シエン……やだ、吸っちゃ……っ!」

ちゅっ、と音がした。
舌先で優しく吸われただけなのに、
ビクッと背中が跳ねて、思わずシエンの髪をぎゅっと掴んでしまう。

「……ミユ、ここ吸うの好きだよな? お前、いつもここで……ちゅるっ」

おへその少し下あたりに吸いつかれて、息が止まった。

――わ、私、毎日……シエンにこんなこと、してたの……?
シエンの、ここを……?

その事実に思い至った瞬間、顔から火が出そうになる。
熱い。お腹の奥も、胸の内も、全部ぐちゃぐちゃに溶けそう。

「う、そ……やだ、もぅっ…」

恥ずかしくてたまらないのに、
シエンの舌が、まだそこに這ってる。
指一本触れられていないのに、
もう、ずっと奥の方までトロトロにされていく――。

「んっ……ぁ……ダメ……」

口ではそう言ってるのに、足先はぴんと伸びて、指先がソファの端を掴んでいる。

逃げようとしてるわけじゃない。
ただ、これ以上責められたら、自分がどうなってしまうのか分からないから――。

「ん? ダメって……ほんとに?」

ぴたりと動きを止めたシエンが、わざとらしく問いかけてくる。
その声が、腹部に触れる舌先よりも、ずっと熱く感じてしまうのが悔しい。

「ダメって顔じゃねぇな、ミユ。
 むしろ――“もっと吸ってください”って、言ってるように見えるけど?」

ずるい。そんなこと言われたら……言い返せなくなっちゃう。
シエンの視線が、琥珀のように熱を宿して私を射抜く。

猫のときより、ずっと鋭くて――でも、その奥には甘やかな、熱を孕んだ光が揺れていた。

「毎日お前が吸ってたとこ、今……俺が吸ってるだけなのに。
 なんでそんなに……トロトロなんだよ、ミユ」

「……っ、ん……っ、ああ……」

シエンの舌がまた、じっくりと肌を這う。
柔らかく吸い上げたあと、ちゅ、と軽く弾くように唇を離して、次の場所へと滑っていく。

そんなことされたら……思い出しちゃう。
自分が、どれだけシエンに夢中だったか――毎日、無意識にどれだけ吸いまくってたのか。

「――私、こんなに……してたの……?」

思わず目を伏せて、両手で顔を隠してしまう。
でも、逃げられない。身体の奥がじんわり熱くて、もう、どうにもならない

「……ふっ、ん……っあ……っ、シエン……やだっ……」

肌に這う熱。
舌先が、線を描くようにおへそをなぞるたびに、ミユの腰が震える。
そこは……自分がいつも無意識に吸ってた、シエンの匂いがいちばん濃い場所。
今、逆にそこを――じっくり、ゆっくり、攻められてるなんて……。

「へぇ……やっぱココ、弱ぇんだ。腰までビクビクしてんじゃん」

耳元じゃない。
シエンの声は、下――お腹のすぐそばから響いてくる。
じんわり熱い吐息と共に、舌先が敏感な皮膚をゆっくりと撫でるように滑って……。

「なぁ、ミユ……」

吸い上げた場所に、ぴとりと唇を重ねたまま――低く、熱っぽい声で囁く。

「お前さ、俺のここ吸うの……ほんっと好きだよな?
 毎日しつこいくらい嗅いで、スーハースーハーして……俺に“依存”してたの、分かってる?」

「っ――~~っ……あ……うぅ……っ」

羞恥と快感がいっぺんに押し寄せて、ミユの喉から声が漏れる。
なのに、シエンはその震えも逃さずに――にやりと、獲物を追い詰める肉食獣の笑み。

「なぁ、どうすんの?
 俺、お前が吸いまくってた分、返してやんなきゃ、って思ってたのに……
 いざ吸ってやったら、トロトロになってるって……どーゆーこと?」

そんな言葉と共に、今度はやや強引に、唇が吸い付く。
ちゅ、と柔らかく、しかし深く肌を吸い上げて――ミユの身体が、またびくりと跳ねた。

「……ん? 今、震えたな」

シエンが低く囁く声は、吸いついたおへそのあたりから震えるように響いた。

「イきそうなんだろ? ……隠しても、バレバレだよ、ミユ」

ちゅ、っと軽く吸われただけで、びくんと腰が跳ねた。
息が詰まる。声が漏れる。喉が熱くなる。

体中が、まるでどこかが切り替わったみたいに敏感になっている。

「っ……ダメ、なの……もぅ、変に、なってっ……」

ミユの声はか細くて、触れただけで壊れそうに震えていた。

なのに──

「……可愛いヤツだな」

そう呟いたシエンが、舌を這わせる。
下腹部のやわらかな肌に、じんわりと温かい感触が染み込む。

舌先で円を描かれ、息を飲む隙間すら与えられず──

「ミユ、毎日俺のこと吸ってたのに、自分が吸われたらこんなにとろけんのな」

「俺の匂い、俺の舌……ちゃんと感じてるか?…かぷっ」

シエンが優しく甘噛み、
ぴくっ、とミユの足が震えたその瞬間──

「っあ……っあ、あぁ……!」
体の奥から、熱い波が一気に押し寄せる。

ひとつ、軽く、けれど確かな快楽の波に呑まれて、
ミユの体はシエンの腕の中でびくびくと跳ねた。

「……イったな?ちゃんと感じてんじゃん」

耳元に落とされた低い囁き。

「吸われて可愛くとろけんの、お前だけだよ──ミユ」

優しく、だけど雄の熱が滲んだ声で、そう囁かれた瞬間。
ミユの頬は、桜のように真っ赤に染まっていた

「……ふ…そんな顔すんの、反則だろ」

シエンはミユの頬に頬をすり寄せながら、すうっと深く息を吸い込んだ。
熱く火照った身体から立ち上る甘い匂いを、まるで悦ぶように堪能している。

「……ほんっと、俺の匂いに染まるの、似合ってる」

「とろけた声も、震えてる指も、全部、俺のせいってわかるとさ──」

低く笑うその声に、ぞくりと背筋が震える。
けれど、突き放されるようなことは何一つなかった。

シエンの手は優しく、でも逃がさないようにミユの腰を抱きしめている。
まるで、大事な宝物でも扱うように。

「……ミユ。もっと、混ざりたい」

耳元で、囁きが落ちる。

「まだ満足してねぇんだよ。……さっきからずっと、限界ギリギリなんだ」

ミユの耳にかかる吐息が熱い。
その直後──

「さっき、吸ってる時に震えたお前の声、あのトロ顔、ずっと脳に残ってんの」

「だから……次は、俺にも気持ちよくさせて?」

「…まって…シエンっ今まだ、むりだよ…」

唇が、首筋に落ちる。
今度はもう、焦らすつもりなんてない。

「俺の番だろ?」
「なぁ、ミユ……お前の奥、もっと深く、感じてるかちゃんと教えな?」

潤んだ瞳で見つめるミユ。不安と期待に震えながら拒む様子はない

「……ふぅ。そんな顔すんの、煽ってるようなもんだろ…」

吐息混じりの声が、すぐ耳の横で溶けた。
熱が移る。鼓動が重なる。

「震えてんの、わかる?」
「さっきまで、お前が俺にしてたこと……今、全部お返ししてるだけだってのに」

シエンの指が、優しくミユの髪を梳いた。
吐息はまだ近く、ミユの肌に降るようにかかる。

「それとも、甘やかされ慣れてないだけか?」

クス、と笑う気配。けれどその声には、熱がこもっていた。

「……ミユ。お前、匂いも、声も、全部俺を煽るんだよ、わかってんの?」

首筋にキス。
そのまま、耳朶をなぞるように囁く。

「さっき、お腹に顔うずめた時──俺、マジで我慢してた」

「これ以上やったら、お前が壊れそうで。……けど、もう無理かも」

甘えるようで、命令のようで。
低くて、蕩けるような声。

「このままくっついてるだけで我慢なんて、できねぇだろ」

「……なぁミユ。もっと、奥まで触れてもいいよな?もう、こんなにトロトロだしな?」

熱い手のひらが、ミユの背をなぞる。
爪は立てない。でも、逃げられないように。

「“ここ”がほしい」

シエンがミユの耳元で熱く低く囁く

「ずっと前から、この瞬間を……虎視眈々と狙ってたんだよ…」

頬に唇が落ちる。唇が重なる。
まるで、契りの合図のように──

ふたりの体温が、音もなく溶け合う。
部屋の灯りはそのままに──夜は、静かに更けていった。
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