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舐められて、責められて、俺様トラ彼氏の本能グルーミング
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「ん……朝、かぁ……」
ぼんやりと目を覚ますと、すぐ隣にシエンの寝顔があった。
昨夜、あんなにドキドキしたのに──何事もなかったように、静かに寝ている。
(……結局、あのまま……)
背中をなぞられるような甘いグルーミングに、息が漏れそうになったのに。
キスだって深くて、もうダメかと思ったのに。
(……あれ、寸止めだったんだよね……⁉︎)
顔まで真っ赤になってるのに、きっとシエンは分かってやってる。
わざと煽って、わざと焦らして……
(……いじわる。なんで、最後までしないのよ……)
私がどれだけ悶々としてるか、知らないくせに……!
ぬくもりに誘われるように、私はシエンの胸元へ顔をうずめた。
ふわふわの毛並みに、ふっと甘い匂いがして……無意識に鼻先をすり寄せる。吸い始めたその時_____
瞬間、ぴくん、と虎耳が動いた。
「……朝っぱらから、どんだけ俺の匂い嗅いでんの?」
「⁉︎」
琥珀色の瞳がゆっくりと開いて、じっと私を見つめる。
その声は、寝起きとは思えないくらい低くて、艶を含んでいた。
「……なあミア、メス猫みたいな匂い出して、俺の我慢試してんの?」
「ち、ちが……っ」
ぐっと腰を引き寄せられ、胸元に顔をうずめられる。
鼓動が重なって、心臓の音がすぐ耳の横で鳴っている。
「……昨日、焦らされたの、悔しかった?」
シエンの声が、さっきまでと違う。
冷たくも熱くもない──
柔らかくて、甘くて、とろけそうで。
「可愛かったよミア。俺に必死でしがみついて、敏感に震えて。……忘れるわけないだろ」
「っ……シエン……」
「……なあ、ミア」
耳元に落ちたその声は、息がかかるほど近くて。
目を合わせるよりも深く、心を揺さぶってくる。
「俺さ、お前が甘えてきたら、ちゃんと全部受け止めたいって思ってんだよ」
「え……?」
「ほら、もっとこっち来い。俺の腕の中にいる時だけは、全部委ねていいんだ」
そっと額にキスが落ちる。
「……泣きそうな顔してる。俺が足りないの?」
「ち、ちが……」
「足りないなら、甘やかすしかねぇな」
「……っ!」
「……よしよし、今日もいい子。俺がちゃんと、愛してやるよ」
もう、逃げ場なんてない。
心も身体も、すっかりシエンに包まれて……とろけるしか、なかった。
「……うぅ……」
ミアの瞳が潤んで揺れる。
感情が溢れそうで、震えた唇を噛んでも止まらなかった。
「な、んで……そんな風に、優しくされたら……我慢できなくなるじゃん……」
声はかすれて、震えて。
心の奥で締めつけられたように、ぎゅっと胸が痛くなる。
(ずるいよ、シエン……もう……こんなの、どうしたらいいの……)
そんなミアの頬に、そっと大きな手が添えられる。
指先が震えを拾って、愛おしそうに撫でられた。
「……ミア、泣くなよ」
シエンの声は低く、でも驚くほど優しくて。
「泣きそうな顔、似合わねぇよ。……お前は、俺の腕の中で笑っててほしい」
そして──そっとキスが、瞼に落とされた。
「俺、ちゃんと甘やかすからさ。
だから……もっと、頼っていい。泣いても、抱きしめてやるから」
ミアの心の奥が、じんわりと温かくなる。
胸がきゅんと締めつけられて、自然とシエンに体が引き寄せられる。
「……シエン、ずるい……そんなの……泣いちゃうじゃん……」
「泣いてもいい。俺の前だけは、強がんなくていいんだよ」
ミアの涙を唇で拭うように、シエンがもう一度、優しくキスをした。
「……ほんと、お前って……」
シエンの手がミアの頬から首筋にすべり落ちる。
温かい掌が、愛おしそうにそのぬくもりを確かめるように触れる。
「泣き顔も、怒った顔も、笑った顔も──
ぜんぶ、俺だけのもんだろ」
ミアの頬にキス。
額に、まぶたに、唇に──
愛を刻むように、ひとつずつ丁寧に。
「俺さ、ミアのこと、甘やかしてるだけじゃ足りねぇんだよ」
シエンの声が、すこしだけ低く、ざらつくように変わっていく。
「もっと、触れたい。もっと、お前を感じてたい。
……もっと奥まで、欲しくてたまんねぇ」
彼の手が、ミアの背中を抱き寄せて、密着させた。
鼓動の速さが、ふたりの体の間に伝わってくる。
「だってさ…こんなに甘えた声出して……俺に、欲しいって、言ってるみたいじゃん?」
「……っ、ちが……」
否定の声はか細くて、シエンの吐息と絡み合うように溶けて消える。
「ミア、覚悟できてる? 今日は、もう……止まんねぇから。」
「今夜は…お前の望みを叶えてやるよ」
その言葉とともに、首筋に噛み痕を残すような熱いキスが落ちる──
ミアの頬にキスを落としながら、シエンは低く囁いた。
「……まだ、もの足りないのか?」
答えは聞かなくても分かってるくせに。
唇を求めて体を預けると、シエンはゆっくりとミアの腰を抱き寄せた。
「ふふ……かわい。そんな顔されたら、今すぐ全部抱き潰したくなるだろ?」
舌を絡めるほどのキスじゃない。けれど、ぎりぎり触れ合う甘いキスに、ミアは期待と焦燥で息を詰めた。
「……じゃあ、お願い……」
震える声が漏れると、シエンの腕が一瞬、強く締める。けれど——
「ダ~メ。今はもう……終わり」
耳元で囁く声は、まるでからかうように甘やかで優しい。
唇が離れて、シエンはミアの額にそっとキスを落とす。
「なんで……」
ミアが戸惑い混じりに呟くと、シエンは小さく笑って言った。
「焦らされたの、ミアだけだと思った?……おあいこ、な?」
ミアの熱を抱きしめたまま、シエンが喉を鳴らす。
「……なぁ、ミア」
耳元に唇を寄せて、わざとらしく低く囁く。
「我慢した方が、ご褒美……とびきり美味くなるって、知ってた?」
その声はくすぐるようで、ゾクリと背筋を撫でるようでもあった。
まるで、深く甘く、あの続きを約束するかのように。
「俺がずっと、欲しがってること……わかってるよな?」
ミアが答える前に、もう一度キス。
けれど、甘くて優しいくせに、ぜんぜん物足りない。
(……やっぱり、ずるい)
体の奥がじんわりと熱を帯びていくのを、ミアはもう止められなかった。
そして、夜が来たら絶対に壊されるって直感だけが、確信に変わっていった——。
名残惜しそうにミアの頬に頬を擦り寄せてから、シエンはソファにもたれて目を閉じた。
まるで、何事もなかったかのように。
置いていかれたミアは、熱が冷めない体をもてあましながら、ただ呆然とその背中を見つめるしかなかった。
(ずるいよ……シエンだけ……っ)
心の奥で疼いたまま、ミアはひとり、ぽすんとシエンの隣に身を沈めた。
——夜がくるなんて、まだ知らないふりをしていた。
キスの余熱が、唇から胸元へ、そして奥の奥まで静かに染み込んでくる。
「……ずるいよ、シエン」
ミアは声にならない声でつぶやいた。
甘やかすように見せて、その実、煽ってばかりのこの虎は、いつだって余裕そうな顔をしてる。
なのに、目だけがいつも鋭くて、まるで本能の檻の奥から覗いてくるような光を宿してる。
(さっきの言葉……ずるいよ。そんな風に期待させるなんて)
だけど嫌じゃない。
むしろ、震えるほど期待してる。
こわいのに、どこかで「早く夜になって」と願ってる自分がいる。
——もし、あの手のひらで、あの声で、全部甘やかされたら。
——もう戻れない気がするのに。
それでも、
「……早く、夜にならないかな」
口から零れたその本音は、まるで誰かに聞かせたくて出てきたようで。
ミアは、まだ火照りの残る体で、シエンのぬくもりに顔を埋めた。
(あの夜を、私は……きっと、ずっと忘れられない)
窓の外が夜の闇に包まれた頃、ミアがベッドの上で横たわると、
すかさず後ろから覆いかぶさってきたシエンの体温に、背中がじわっと汗ばむ。
「んっ……ちょ、ちょっと、待って……シエン……?」
くすぐったさとゾクゾクした感覚が、うなじにふれる。
柔らかく、そして熱を孕んだ舌先が、ゆっくりと――
「シエン……なんか、いつもより……近い……っ」
ミアの声は、熱を帯びて、首の後ろから痺れる。
すぐ耳元で、シエンの吐息がふれて――
「……今日のお前、発情期のメス猫みたいな匂いすんだよ…俺のせい?」
甘く、熱く、低く。
それは舌先でなぞるような声だった。
「ねぇ、シエン……ん……やだ、しつこ――あっ」
腰がくすぐったくなる。
服のすき間からすべり込んだ指先に、柔らかく撫でられた。
「ぴちゃ、ぴちゃっ……」
――まるでグルーミングのように舐めるシエン。
「や、やだ……そこ舐めちゃ……っん……」
「ふっ……我慢できないんだろ? ほら、また腰、跳ねてる」
耳元で囁かれ、甘噛みされて、びくんと背中が反応する。
「ミアって、三日虎みたい。さっきまで我慢してたのに、もう限界?」
「な、なによそれ……へんなの……っ」
「可愛いってこと。ほら、もっと声聞かせて」
ミアが応える前に、唇を塞がれた。
深くて、甘くて、熱いキス――。
唇が離れると、舌が首すじをなぞる。
「ぴちゃっ……ぺろ、ん……」
「や、やだ……そこ……んっ、くすぐった……っあっ」
「ん、……ふふ。びくびくしてんじゃん。お前の背中、やわらかくて、甘い」
耳元で笑いながら、舌は執拗にうなじから肩甲骨のあたりまでなぞる。
「んっ、ちょ……待って、変な声……でちゃう……」
「……逃げんなよ、ミア。猫は仲良い奴にグルーミングしてやるの知ってるだろ?」
「そ、そんな……ひゃっ、あっ……だ、ダメ、そこ……」
ちろちろと背中を這う舌に、ミアの脚がふるえる。
熱と湿度、そして何より後ろからの距離の近さが、理性をどんどん削っていく。
「もう……可愛くて、どうにかなりそう……なぁ、ミア……もう、吸っていい?」
「……っ、あ……うん」
「じゃあ――ぜんぶ、晒して…ぴちゃっ……ぺろ、ん……ちゅっ」
「シエン……っ……そんなにしたら……ミア、もう……」
「……まだ挿れてねぇのに、そんな声出して。
ダメじゃん、俺が我慢できなくなっちゃうだろ?」
「……ミア」
低く唸るような声とともに、背中に落とされる熱いキス。
舌先が、肌をじっとり濡らしながら、弱い背筋をなぞるたび――ミアの体は跳ねるように震えた。
「っあ……っシエン……もう……無理、我慢できない……っ」
泣きそうに潤んだ目で振り返るミアに、シエンの獣じみた琥珀色の瞳がぎらつく。
呼吸が荒くなって、彼の喉奥から低い唸りが漏れる。
「……俺も、限界」
――それはまるで、獲物を狩る直前の猛獣の声だった。
「……さっきから、媚びるみたいな匂い出して……。完全に発情期のアレだ。誘ってんの、どっちだよ?」
「っ……ちが……ミア、そんなつもり……んあっ!」
次の瞬間。
シエンの手がミアの腰を掴んだと思ったら、そのままぐい、と抱えられ、熱が押し当てられる。
「もう……逃がさねぇ。
俺の中の獣が、ずっと――お前を欲しがってたんだよ」
「ん……っあ、シエ……ん、や、ダメ、そんなの……! ……っでも……いいの、来て……!」
震える声で、でもはっきりとミアは頷いた。
「……ほんと、可愛すぎ……ミア、全部俺のにする」
シエンの声が、喉の奥でゴロゴロと鳴った。
重なる体、熱を交わす瞬間――
理性は崩れ落ち、本能だけが導くままに、2人は溶け合っていく。
「ああああぁっ……んっシエン、熱い……っ、んああっ!」
「…可愛い鳴き声、すげぇ興奮する。もっと聞かせろよ」
背中に舌を這わせた後、シエンはそのままミアを押し倒すように深く沈み込む。
ぬるく絡む音と、2人の荒い吐息だけが部屋に響いた。
「……どうしようもねぇくらい、好きなんだよ。お前の匂いも、声も……全部、俺を狂わせる」
「っんああっ……っ、シエ……ん、すごい、奥……っ!」
シエンの動きは、激しくも丁寧だった。
深く貫くたび、熱がミアの奥へ奥へと押し寄せてくる。
「ほら……全部感じろよ……お前の中、俺でいっぱいにしてやる」
ミアの体は快感に震え、絶頂し、指先まで痺れるほど。
「もう……いっぱいなのに……シエン、まだっまだぁ……っ」
「まだ足りねぇだろ? ほら……とろける顔、もっと見せろよ……っ」
繋がったまま、耳元に唇を寄せて囁く。
「……今日だけじゃ、済まさねぇからな、このまま一生吸わせてもらう……覚悟しろよ、ミア」
「うん……っミアも……ずっと、シエンのこと……吸いたい……んっあああっ!」
ふたりの体温が溶け合い、何度も何度も絶頂を迎えるたび、互いの愛が深く染み込んでいく。
最後は、重なり合ったまま、ぴたりと身体を寄せ合って――
「……ん……シエン、大好き」
「ミア……俺も、愛してる」
ミアの額に優しくキスを落としながら、
シエンは喉の奥でゴロゴロと甘えるように鳴いた。
その音が心地よく響いて、ミアはそっと目を閉じた。
――静かな夜に、猫と虎の愛が、やわらかく溶けてゆく。
ぼんやりと目を覚ますと、すぐ隣にシエンの寝顔があった。
昨夜、あんなにドキドキしたのに──何事もなかったように、静かに寝ている。
(……結局、あのまま……)
背中をなぞられるような甘いグルーミングに、息が漏れそうになったのに。
キスだって深くて、もうダメかと思ったのに。
(……あれ、寸止めだったんだよね……⁉︎)
顔まで真っ赤になってるのに、きっとシエンは分かってやってる。
わざと煽って、わざと焦らして……
(……いじわる。なんで、最後までしないのよ……)
私がどれだけ悶々としてるか、知らないくせに……!
ぬくもりに誘われるように、私はシエンの胸元へ顔をうずめた。
ふわふわの毛並みに、ふっと甘い匂いがして……無意識に鼻先をすり寄せる。吸い始めたその時_____
瞬間、ぴくん、と虎耳が動いた。
「……朝っぱらから、どんだけ俺の匂い嗅いでんの?」
「⁉︎」
琥珀色の瞳がゆっくりと開いて、じっと私を見つめる。
その声は、寝起きとは思えないくらい低くて、艶を含んでいた。
「……なあミア、メス猫みたいな匂い出して、俺の我慢試してんの?」
「ち、ちが……っ」
ぐっと腰を引き寄せられ、胸元に顔をうずめられる。
鼓動が重なって、心臓の音がすぐ耳の横で鳴っている。
「……昨日、焦らされたの、悔しかった?」
シエンの声が、さっきまでと違う。
冷たくも熱くもない──
柔らかくて、甘くて、とろけそうで。
「可愛かったよミア。俺に必死でしがみついて、敏感に震えて。……忘れるわけないだろ」
「っ……シエン……」
「……なあ、ミア」
耳元に落ちたその声は、息がかかるほど近くて。
目を合わせるよりも深く、心を揺さぶってくる。
「俺さ、お前が甘えてきたら、ちゃんと全部受け止めたいって思ってんだよ」
「え……?」
「ほら、もっとこっち来い。俺の腕の中にいる時だけは、全部委ねていいんだ」
そっと額にキスが落ちる。
「……泣きそうな顔してる。俺が足りないの?」
「ち、ちが……」
「足りないなら、甘やかすしかねぇな」
「……っ!」
「……よしよし、今日もいい子。俺がちゃんと、愛してやるよ」
もう、逃げ場なんてない。
心も身体も、すっかりシエンに包まれて……とろけるしか、なかった。
「……うぅ……」
ミアの瞳が潤んで揺れる。
感情が溢れそうで、震えた唇を噛んでも止まらなかった。
「な、んで……そんな風に、優しくされたら……我慢できなくなるじゃん……」
声はかすれて、震えて。
心の奥で締めつけられたように、ぎゅっと胸が痛くなる。
(ずるいよ、シエン……もう……こんなの、どうしたらいいの……)
そんなミアの頬に、そっと大きな手が添えられる。
指先が震えを拾って、愛おしそうに撫でられた。
「……ミア、泣くなよ」
シエンの声は低く、でも驚くほど優しくて。
「泣きそうな顔、似合わねぇよ。……お前は、俺の腕の中で笑っててほしい」
そして──そっとキスが、瞼に落とされた。
「俺、ちゃんと甘やかすからさ。
だから……もっと、頼っていい。泣いても、抱きしめてやるから」
ミアの心の奥が、じんわりと温かくなる。
胸がきゅんと締めつけられて、自然とシエンに体が引き寄せられる。
「……シエン、ずるい……そんなの……泣いちゃうじゃん……」
「泣いてもいい。俺の前だけは、強がんなくていいんだよ」
ミアの涙を唇で拭うように、シエンがもう一度、優しくキスをした。
「……ほんと、お前って……」
シエンの手がミアの頬から首筋にすべり落ちる。
温かい掌が、愛おしそうにそのぬくもりを確かめるように触れる。
「泣き顔も、怒った顔も、笑った顔も──
ぜんぶ、俺だけのもんだろ」
ミアの頬にキス。
額に、まぶたに、唇に──
愛を刻むように、ひとつずつ丁寧に。
「俺さ、ミアのこと、甘やかしてるだけじゃ足りねぇんだよ」
シエンの声が、すこしだけ低く、ざらつくように変わっていく。
「もっと、触れたい。もっと、お前を感じてたい。
……もっと奥まで、欲しくてたまんねぇ」
彼の手が、ミアの背中を抱き寄せて、密着させた。
鼓動の速さが、ふたりの体の間に伝わってくる。
「だってさ…こんなに甘えた声出して……俺に、欲しいって、言ってるみたいじゃん?」
「……っ、ちが……」
否定の声はか細くて、シエンの吐息と絡み合うように溶けて消える。
「ミア、覚悟できてる? 今日は、もう……止まんねぇから。」
「今夜は…お前の望みを叶えてやるよ」
その言葉とともに、首筋に噛み痕を残すような熱いキスが落ちる──
ミアの頬にキスを落としながら、シエンは低く囁いた。
「……まだ、もの足りないのか?」
答えは聞かなくても分かってるくせに。
唇を求めて体を預けると、シエンはゆっくりとミアの腰を抱き寄せた。
「ふふ……かわい。そんな顔されたら、今すぐ全部抱き潰したくなるだろ?」
舌を絡めるほどのキスじゃない。けれど、ぎりぎり触れ合う甘いキスに、ミアは期待と焦燥で息を詰めた。
「……じゃあ、お願い……」
震える声が漏れると、シエンの腕が一瞬、強く締める。けれど——
「ダ~メ。今はもう……終わり」
耳元で囁く声は、まるでからかうように甘やかで優しい。
唇が離れて、シエンはミアの額にそっとキスを落とす。
「なんで……」
ミアが戸惑い混じりに呟くと、シエンは小さく笑って言った。
「焦らされたの、ミアだけだと思った?……おあいこ、な?」
ミアの熱を抱きしめたまま、シエンが喉を鳴らす。
「……なぁ、ミア」
耳元に唇を寄せて、わざとらしく低く囁く。
「我慢した方が、ご褒美……とびきり美味くなるって、知ってた?」
その声はくすぐるようで、ゾクリと背筋を撫でるようでもあった。
まるで、深く甘く、あの続きを約束するかのように。
「俺がずっと、欲しがってること……わかってるよな?」
ミアが答える前に、もう一度キス。
けれど、甘くて優しいくせに、ぜんぜん物足りない。
(……やっぱり、ずるい)
体の奥がじんわりと熱を帯びていくのを、ミアはもう止められなかった。
そして、夜が来たら絶対に壊されるって直感だけが、確信に変わっていった——。
名残惜しそうにミアの頬に頬を擦り寄せてから、シエンはソファにもたれて目を閉じた。
まるで、何事もなかったかのように。
置いていかれたミアは、熱が冷めない体をもてあましながら、ただ呆然とその背中を見つめるしかなかった。
(ずるいよ……シエンだけ……っ)
心の奥で疼いたまま、ミアはひとり、ぽすんとシエンの隣に身を沈めた。
——夜がくるなんて、まだ知らないふりをしていた。
キスの余熱が、唇から胸元へ、そして奥の奥まで静かに染み込んでくる。
「……ずるいよ、シエン」
ミアは声にならない声でつぶやいた。
甘やかすように見せて、その実、煽ってばかりのこの虎は、いつだって余裕そうな顔をしてる。
なのに、目だけがいつも鋭くて、まるで本能の檻の奥から覗いてくるような光を宿してる。
(さっきの言葉……ずるいよ。そんな風に期待させるなんて)
だけど嫌じゃない。
むしろ、震えるほど期待してる。
こわいのに、どこかで「早く夜になって」と願ってる自分がいる。
——もし、あの手のひらで、あの声で、全部甘やかされたら。
——もう戻れない気がするのに。
それでも、
「……早く、夜にならないかな」
口から零れたその本音は、まるで誰かに聞かせたくて出てきたようで。
ミアは、まだ火照りの残る体で、シエンのぬくもりに顔を埋めた。
(あの夜を、私は……きっと、ずっと忘れられない)
窓の外が夜の闇に包まれた頃、ミアがベッドの上で横たわると、
すかさず後ろから覆いかぶさってきたシエンの体温に、背中がじわっと汗ばむ。
「んっ……ちょ、ちょっと、待って……シエン……?」
くすぐったさとゾクゾクした感覚が、うなじにふれる。
柔らかく、そして熱を孕んだ舌先が、ゆっくりと――
「シエン……なんか、いつもより……近い……っ」
ミアの声は、熱を帯びて、首の後ろから痺れる。
すぐ耳元で、シエンの吐息がふれて――
「……今日のお前、発情期のメス猫みたいな匂いすんだよ…俺のせい?」
甘く、熱く、低く。
それは舌先でなぞるような声だった。
「ねぇ、シエン……ん……やだ、しつこ――あっ」
腰がくすぐったくなる。
服のすき間からすべり込んだ指先に、柔らかく撫でられた。
「ぴちゃ、ぴちゃっ……」
――まるでグルーミングのように舐めるシエン。
「や、やだ……そこ舐めちゃ……っん……」
「ふっ……我慢できないんだろ? ほら、また腰、跳ねてる」
耳元で囁かれ、甘噛みされて、びくんと背中が反応する。
「ミアって、三日虎みたい。さっきまで我慢してたのに、もう限界?」
「な、なによそれ……へんなの……っ」
「可愛いってこと。ほら、もっと声聞かせて」
ミアが応える前に、唇を塞がれた。
深くて、甘くて、熱いキス――。
唇が離れると、舌が首すじをなぞる。
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「や、やだ……そこ……んっ、くすぐった……っあっ」
「ん、……ふふ。びくびくしてんじゃん。お前の背中、やわらかくて、甘い」
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「……っ、あ……うん」
「じゃあ――ぜんぶ、晒して…ぴちゃっ……ぺろ、ん……ちゅっ」
「シエン……っ……そんなにしたら……ミア、もう……」
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ダメじゃん、俺が我慢できなくなっちゃうだろ?」
「……ミア」
低く唸るような声とともに、背中に落とされる熱いキス。
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泣きそうに潤んだ目で振り返るミアに、シエンの獣じみた琥珀色の瞳がぎらつく。
呼吸が荒くなって、彼の喉奥から低い唸りが漏れる。
「……俺も、限界」
――それはまるで、獲物を狩る直前の猛獣の声だった。
「……さっきから、媚びるみたいな匂い出して……。完全に発情期のアレだ。誘ってんの、どっちだよ?」
「っ……ちが……ミア、そんなつもり……んあっ!」
次の瞬間。
シエンの手がミアの腰を掴んだと思ったら、そのままぐい、と抱えられ、熱が押し当てられる。
「もう……逃がさねぇ。
俺の中の獣が、ずっと――お前を欲しがってたんだよ」
「ん……っあ、シエ……ん、や、ダメ、そんなの……! ……っでも……いいの、来て……!」
震える声で、でもはっきりとミアは頷いた。
「……ほんと、可愛すぎ……ミア、全部俺のにする」
シエンの声が、喉の奥でゴロゴロと鳴った。
重なる体、熱を交わす瞬間――
理性は崩れ落ち、本能だけが導くままに、2人は溶け合っていく。
「ああああぁっ……んっシエン、熱い……っ、んああっ!」
「…可愛い鳴き声、すげぇ興奮する。もっと聞かせろよ」
背中に舌を這わせた後、シエンはそのままミアを押し倒すように深く沈み込む。
ぬるく絡む音と、2人の荒い吐息だけが部屋に響いた。
「……どうしようもねぇくらい、好きなんだよ。お前の匂いも、声も……全部、俺を狂わせる」
「っんああっ……っ、シエ……ん、すごい、奥……っ!」
シエンの動きは、激しくも丁寧だった。
深く貫くたび、熱がミアの奥へ奥へと押し寄せてくる。
「ほら……全部感じろよ……お前の中、俺でいっぱいにしてやる」
ミアの体は快感に震え、絶頂し、指先まで痺れるほど。
「もう……いっぱいなのに……シエン、まだっまだぁ……っ」
「まだ足りねぇだろ? ほら……とろける顔、もっと見せろよ……っ」
繋がったまま、耳元に唇を寄せて囁く。
「……今日だけじゃ、済まさねぇからな、このまま一生吸わせてもらう……覚悟しろよ、ミア」
「うん……っミアも……ずっと、シエンのこと……吸いたい……んっあああっ!」
ふたりの体温が溶け合い、何度も何度も絶頂を迎えるたび、互いの愛が深く染み込んでいく。
最後は、重なり合ったまま、ぴたりと身体を寄せ合って――
「……ん……シエン、大好き」
「ミア……俺も、愛してる」
ミアの額に優しくキスを落としながら、
シエンは喉の奥でゴロゴロと甘えるように鳴いた。
その音が心地よく響いて、ミアはそっと目を閉じた。
――静かな夜に、猫と虎の愛が、やわらかく溶けてゆく。
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