【完結】【竜×人間の恋物語】竜を愛した軍人は異世界で甘やかされる【すれ違い溺愛・ギャグ多め】

桐ヶ谷るつ

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【第三十話】

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「あれ、アウル?」
「お前、死んだんじゃなかったのか?」
「アイザック、セド……?」
「なんだ、やっぱ迷子になってただけか」
「はあ、心配して損した。もう首に追跡チップ入れとけよなあ」

 嘲笑と共に顔を合わせた二人は何度か戦場を共にした軍人だった。荒っぽく髪を掻き乱す仕草は、帰省を喜んでのことなのだろう。親しみの籠った抱擁に諭され、気が緩んでいたのかもしれない。強かに握られた手首が背の方に回され、視界が落ちる。硬い床に沈んだ身体が冷えたコンクリートの感触を間接に伝えてきた。

「は、放せ……っ、セド!」
「お前……なんか、いい匂いがするな」
「舌出せよ、アウル」
「やめ、ろ……っ、んぅっ」

 口を抉じ開けて当てられた舌は逆方向から重なり、息継ぎの間を与えずに咥内を嬲る。淫らな舌の動きに合わせて扱かれる男性器が先走りを流し始めれば、ますます息が上がり、肌に当てられる不快な体温が上昇した。
 粘膜を混ぜ込む指の感覚も、服越しに擦り当てられる筋肉質な雄の存在も。不快感極まりないはずなのに、意思に反して身体が高まっていく。誰でもいいから早く挿れて、奥に注ぎ込んで欲しい。そんな狂った願望さえ呼び付ける祝福は、どこかの国の王子のものよりも劣悪だった。

「はぁっ、挿れたい、俺の種で孕ませたい……っ」
「い、やだ……っ、触るな!」

 グリグリと押し付けられる雄の形に嫌悪を抱き、アウルは血が滲むほどに唇を噛み締める。
 同じ人間の男なのに、一冴に抱かれている時はもっと温かな感情で満たされていた。痛みを感じることがないようにと、何度も声を掛けられ、身体の隅々まで溶かされる。嫌悪感も恐怖もなくなったわけではないが、それすら許容するほどの高揚感を与えられた。こんな一方的な行為とは比べ物にならない。そこには、確かに愛があった。

「くそっ……っ、触んなって、言ってんだろ!」

 ぐっと腹筋を引き攣らせ、蹴り上げた膝がセドの鳩尾に入る。隙が生まれ、四つん這いになって逃げ出すも、足首が掴まれ引き戻されてしまう。抵抗を見せたことは悪手だったか。直射日光が当たる位置で組み敷かれた身体は光を吸収し、アウルの背に身震いが走った。

「あははっ、また面白いことになってるなあ。だから大人しく部屋にいろって言ったのに」
「エ、ルド……?」
「それウィルの仕業だろ? エグい祝福だよな。強制的に発情させられて可哀想に」
「やだ、来るな……っ」

 引き上げられた上半身がエルドの胸元に収められ、蜜に埋もれた蕾に二本の指が当てられる。くぷっと押し入ったそれは、今朝の名残りを残した内壁を擦り上げ、甘い痺れを引き寄せた。

「さっきまで可愛がってやってたのに、他の男のも欲しがるなんて欲張りだな」
「ひっ……や、めろ……っ、指挿れる、な……っ」
「まだ出したの中に残ってるんじゃないか? ほら、垂れてきてる」

 くすくすと嬉々たる笑みを滲ませ、淫靡な行為をひけらかす。自分本位の男には、好意の者の苦痛など二の次なのだろう。
 抵抗しようにも、疼きを覚えた下肢には力が入らず、立ち上がることすら叶わない。指を咥えた口はぐずぐずに溶かされ、着実に雄を迎え入れるための準備を強いられていた。

「アウル、部屋に戻ろう……お前が孕むまで種付けしてやるから」
「いやだ、やだ……っ!」

 望みもしない交配も、憎らしい男からの陵辱も、肉体的な死より暴虐な痛みを与える。弱者は生き方だけではなく、死に方すら選べない。それは悲しくも事実であり、この冷徹な世界で生まれた者に課せられた掟だった。
 押し潰された涙声に重なり、大きく吹雪いた風が窓硝子を叩く。流された雲によって隠された太陽の光は一時的に遮断され、世界は影の中に沈んだ。

 激しい衝突音と共に壁が崩れ、視界を過ったのは美しい鱗を携えた大きな尻尾だった。男達を跳ね除けたそれが緩やかな動作でアウルを引き寄せると、日差しから隠すようにその身を包み込む。鼻腔を擽る懐かしい香り。ふと見上げた先にあった黒竜は最後に見た時よりも大きく育ち、四メートルを優に超えるサイズになっていた。

「ニ、ルギル……?」
「うわっ、すごい匂いだな……まさか発情期か、アウル?」

 ぴっと鼻を塞ぐ素振りを見せたニルギルはどこか気恥ずかしそうに目を背ける。その脳裏に過ったのは、いつしかお互いに発情期を迎えて、あられもない姿を晒しあった時のことなのだろう。
 それにしても、久々の再会にも関わらず、一番に投げ付けられた発言は随分と不躾だ。言いたいことはわからないでもないが、指摘すべき点はそこではない。眉を寄せたアウルは声を荒らげ、ニルギルへと詰め寄った。

「お前……っ、生きてたならなんで会いに来なかった……っ!」

 どんっと強めに横腹を叩き、無理やり引き寄せた首元に顔を埋める。ひっくひっくと嗚咽に背が揺れる度、悲痛な涙声と鼻を啜る音が空気を湿らせた。

「会いたかった……っ、ずっと、お前のことを想ってた」

 頬を流れる涙が二人の間に聳え立つ氷晶を溶かしていく。寒々しい冬は終わり、新しい春を共に迎えようと。肌を擦り寄らせた恋人はいじらしく額を押し当て、口付けを求めた。

「ごめん……酷いことをして、痛かっただろ?」
「痛くない……こんなの、お前に会えないことに比べたら」
「そうだよな、悪かった……もう置き去りになんてしない」

 長い年月を経て、やっと伝えることのできた想い。手の中に戻ってきた愛しい者の存在を抱き締め、ニルギルは大きく翼を広げる。

 広い空へと飛び込む直前、じろりと落とされた視線は、酷薄な瞳で睨め上げるエルドを捉えた。ほと走る緊張と緊迫感。互いの所有欲が衝突する中、強かな威嚇は歪な微笑を引き連れる。
 こんな時にまで笑って見せるとは、頭がイカれているとしか思えない。そう軽侮を吐き捨てると、黒い身体は風を呼び込み、眩い光の照らす大空へと羽ばたいていった。





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