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【第二十九話】
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最悪な目覚めを迎え、やっと解放されたころには、すでに夜が明けていた。朝食を持ってくるとエルドが部屋を去ったのが五分ほど前。まさか大人しく餌を待つ理由もなく、アウルは着の身着のまま部屋を飛び出す。窓から見えた景色から、ここが以前に身を置いていた軍の基地であることを理解していた。
まだ自分の部屋が残されているのかは定かではなかったが、どこへ逃げるにしても最低限の武器がいる。カップボードの奥に隠した拳銃は小型であれど、威嚇にはなるだろう。サバイバルナイフもあればなお良しと足早に駆け、勢いのままに階段の角を曲がると、視界には懐かしい顔が過った。はっと目が合ったのは一瞬のこと。急な方向転換で足が縺れ、右にそれた身体は大きな胸板によって受け止められる。
「廊下を走るなよって……俺はお前の生活指導係じゃないんだけどな、アウル?」
「……悪かった」
強かに落とされた叱咤に詫びを送りつつ、アウルはウィルの腕の中で体勢を整えた。見上げた顔は少しばかり高揚感を宿しており、声掛けもいつもより柔らかい。自分のいない間に意中の者と進展でもあったのだろうか。僅かながらに興味が湧くも、今は世間話に花を咲かせている暇はない。アウルはウィルの手から手袋を剥ぎ取ると、自身の首筋に当てて慌ただしく口を開いた。
「ウィル、首輪を外してくれ」
「なんだ、そういうプレイじゃないのか?」
「ふざけるなよ。お前の生体認証でも外れるんだろ? 頼むから外してくれ」
「いいよ、俺はお前の友人だからどんな頼みだって聞いてやる」
珍しくゴネることなく承認され、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。首輪が外れると後ろに髪を引かれ、喉が大きく反らされる。
無理な姿勢で止められ、気管が狭まったのだろう。苦しげに息を吸い込むアウルを見下ろし、ウィルはやはり愉しそうに目を細めては汗ばむ肌へそっと耳打ちをした。
「……悪いなあ、アウル。俺にとってはエルドも可愛い従兄弟なんだよ」
れーっと熱を孕んだ舌先で首筋を舐められ、アウルの身に悪寒が走る。悲鳴と吐き気が込み上げる最中、今度はその舌で唇を押し開かれ、体温で熱せられた唾液を注ぎ込まれた。
「ん……っ、ぐぅっ……うっ」
「吐くなよ、全部飲むまで離さないから」
じゅるっと滑った舌先が絡まり、食道を流れた液体が腹の奥底で鈍い疼きを覚えさせる。どうにか身を捩って突き飛ばすも、すでに遅く。ずくずくと下腹部に溜まっていく熱は性的な色を孕んで下着を湿らせた。
「くそっ、てめぇ……なにしたっ!」
「大丈夫だって、俺の能力は祝福の保持者と女神には効かない。代わりに催淫効果があるだけだ」
「さ、催淫効果って……っ、冗談だろ?」
「冗談だと思うならそれでもいい……でも気をつけろよ、今のお前は発情期の雌猫と同じで雄を引き寄せる、孕まされたくなかったら必死に逃げろ」
ふふっと花が綻ぶような微笑を携えて毒を吐く。つい先ほどまで自分は友人だと豪語していた口はどこへ行ったのか。信じられないと瞳を揺らし、アウルは唾液に濡れた口元を荒く擦り上げた。
「お前……っ、次に会ったら殺す!」
「あははっ! ここはお前の大っ嫌いな人間の男ばっかだからな、たくさん可愛がってもらえ」
いらん一言を蹴り飛ばし、アウルは息を乱したまま走り出す。部屋に戻っている時間はない。なるべく早くここを出て、人気のない場所に身を隠さなければならない。催淫効果がどれほど持続するのかはわからないが、一つ言えることは、彼の祝福が碌でもない能力であるということ。
日に当たり、女性体になったところを犯されればそれこそ地獄絵図。誰の種だかわからない子を孕まされるなんてごめんだと吐き捨て、渡り廊下へ続く扉を開いた。
まだ自分の部屋が残されているのかは定かではなかったが、どこへ逃げるにしても最低限の武器がいる。カップボードの奥に隠した拳銃は小型であれど、威嚇にはなるだろう。サバイバルナイフもあればなお良しと足早に駆け、勢いのままに階段の角を曲がると、視界には懐かしい顔が過った。はっと目が合ったのは一瞬のこと。急な方向転換で足が縺れ、右にそれた身体は大きな胸板によって受け止められる。
「廊下を走るなよって……俺はお前の生活指導係じゃないんだけどな、アウル?」
「……悪かった」
強かに落とされた叱咤に詫びを送りつつ、アウルはウィルの腕の中で体勢を整えた。見上げた顔は少しばかり高揚感を宿しており、声掛けもいつもより柔らかい。自分のいない間に意中の者と進展でもあったのだろうか。僅かながらに興味が湧くも、今は世間話に花を咲かせている暇はない。アウルはウィルの手から手袋を剥ぎ取ると、自身の首筋に当てて慌ただしく口を開いた。
「ウィル、首輪を外してくれ」
「なんだ、そういうプレイじゃないのか?」
「ふざけるなよ。お前の生体認証でも外れるんだろ? 頼むから外してくれ」
「いいよ、俺はお前の友人だからどんな頼みだって聞いてやる」
珍しくゴネることなく承認され、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。首輪が外れると後ろに髪を引かれ、喉が大きく反らされる。
無理な姿勢で止められ、気管が狭まったのだろう。苦しげに息を吸い込むアウルを見下ろし、ウィルはやはり愉しそうに目を細めては汗ばむ肌へそっと耳打ちをした。
「……悪いなあ、アウル。俺にとってはエルドも可愛い従兄弟なんだよ」
れーっと熱を孕んだ舌先で首筋を舐められ、アウルの身に悪寒が走る。悲鳴と吐き気が込み上げる最中、今度はその舌で唇を押し開かれ、体温で熱せられた唾液を注ぎ込まれた。
「ん……っ、ぐぅっ……うっ」
「吐くなよ、全部飲むまで離さないから」
じゅるっと滑った舌先が絡まり、食道を流れた液体が腹の奥底で鈍い疼きを覚えさせる。どうにか身を捩って突き飛ばすも、すでに遅く。ずくずくと下腹部に溜まっていく熱は性的な色を孕んで下着を湿らせた。
「くそっ、てめぇ……なにしたっ!」
「大丈夫だって、俺の能力は祝福の保持者と女神には効かない。代わりに催淫効果があるだけだ」
「さ、催淫効果って……っ、冗談だろ?」
「冗談だと思うならそれでもいい……でも気をつけろよ、今のお前は発情期の雌猫と同じで雄を引き寄せる、孕まされたくなかったら必死に逃げろ」
ふふっと花が綻ぶような微笑を携えて毒を吐く。つい先ほどまで自分は友人だと豪語していた口はどこへ行ったのか。信じられないと瞳を揺らし、アウルは唾液に濡れた口元を荒く擦り上げた。
「お前……っ、次に会ったら殺す!」
「あははっ! ここはお前の大っ嫌いな人間の男ばっかだからな、たくさん可愛がってもらえ」
いらん一言を蹴り飛ばし、アウルは息を乱したまま走り出す。部屋に戻っている時間はない。なるべく早くここを出て、人気のない場所に身を隠さなければならない。催淫効果がどれほど持続するのかはわからないが、一つ言えることは、彼の祝福が碌でもない能力であるということ。
日に当たり、女性体になったところを犯されればそれこそ地獄絵図。誰の種だかわからない子を孕まされるなんてごめんだと吐き捨て、渡り廊下へ続く扉を開いた。
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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