【完結】【竜×人間の恋物語】竜を愛した軍人は異世界で甘やかされる【すれ違い溺愛・ギャグ多め】

桐ヶ谷るつ

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【第三十三話】

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 冷えた空気に当てられぶるりと大きな身震いが生じる。冬間近の空模様は美しい秋晴れで、高窓から眩い光を降下していた。
 アウルはパチパチと瞬きを繰り返し、肌寒さを覚えた身体にブランケットを手繰り寄せる。ついでに寝返りを打って丸まろうとするが、下半身が重たく思うように動かない。まさか金縛りかと思い視線を上げると、前髪がかかるほどの位置で見下ろす一冴と目があった。

 広すぎる部屋の冷却された室温に反して、筋肉質な胸元には汗が浮かんでいる。性的な色を孕んだ震えが間接的な伝える絶頂感。いつの日か見た彼のイキ顔に重なり、アウルはみるみるうちに顔色を落とした。

「……くそっ、なんでこっちに来てまでむさ苦しい男の胸板で目覚めなきゃならないんだ!」

 吐き捨てた怒声が高い吹き抜けの天井の方まで反響する。まるで礼拝堂のホールように開けたそこは重厚な石造りの床を従え、見上げた先にステンドグラスも確認できた。
 荘厳でありながらもどこか安らぎを与える雰囲気。その中心に置かれたクッションはどうみても特注サイズで、自分が小人にでもなったかのような錯覚を覚えさせる。

「はあ……見事な温度差だな。こんな吹きっ晒しじゃ勃つものも勃たない」
「被ってるくせになに言ってるんですか」

 やれやれと首を振る一冴を睨め上げ、アウルは口を尖らせる。一体ここはどこなのだろうか。鈍い反応の頭を振って身を起こせば肩を押され、身体は再び白いシーツの中に舞い戻った。

「なにするんですか?」
「お前さ、今まで俺となにしてたか覚えてないのか?」
「はあ? なんの話――……」

 不満げに眉を跳ね上ると同時に腰が引かれ、くぷっと大きく開かされた股の間で水音が立つ。おそるおそる目を向けて飛び込んできたのは、淫らな液を垂らして雄を飲み込む自身の蕾。反射的に腹部を足蹴り、引き抜かれた瞬間に大量の精液が零れ出した。生々しい愛の証はいまだ熱を持ち、行為の激しさを伝えてくる。

「さ、最悪だ……っ、またこれか!」
「仕方ないだろ、お前の催淫効果が抜けるまで五日掛かったんだから」
「五日……っ? 嘘だろ……っ」

 途切れ途切れの記憶を繋げようと思考を巡らせるが、いまいち状況が理解できない。エルドの元から逃げ出すためにウィルに援助を求め、よくわからないうちに発情させられてしまった。そこからは転がり落ちるように物事が入り乱れ、途中から記憶がぶっ飛んでいる。確かであることは今、自分が安全な場にいること。そして愛しい恋人が生存していたことだ。

 アウルは一冴の脇腹に手を当て、眉を下げる。傷跡がなければ痛みを覚えるはずはないのに、じゅわっと酸に溶かされるかのような鈍痛が胸元に広がった。

「……アウル、身体は大丈夫か?」
「お陰さまで暫くは筋肉痛ですね。大変ご迷惑をお掛けしました」
「迷惑だなんて……」

 皮肉を交えた返答も、甘さを残した空気感では空振りだったのか。一冴は歯切れの悪い声を出し、先を濁した。

「一冴さん」
「なんだよ?」
「別に迎えに来なくても、ホテルの宿泊代の踏み倒しなんてしませんよ」
「お前なあ、俺がそんな小さなことを気にすると思うか?」
「気色悪いぐらいの態度の豹変だな……ゴムなしでヤったからってそんなにビビります?」
「はあ……くそっ、こいつ本当に空気読まない!」

 中出し行為は男のみという彼のポリシーに反する行いだったが、消沈の理由はそれではなかったのだろう。大きく息を吐き出し、摺り寄せられた顔は濡れたリップ音を立てて唇を撫で上げる。

「ちょ、ちょっと、待って……ください」
「また余計な発言をするつもりなら塞ぐぞ」
「違います、キス、は待って……」
「はあ? なんだそれ、恋人が戻って来たら俺は不要か」
「それ……あなたが言いますか?」
「どういう意味だ?」
「あなただって俺を見てないくせに」

 小さな拒絶を皮切りに、ぴりっと二人の間に走った亀裂。売り言葉に買い言葉だとわかっていても、感情は口を出てしまえば容赦なく牙を向く。

「言いましたよね、こういうのはあなたの想い人に不誠実だって」
「いまさらだな。さんざん俺とヤった後に言われたって説得力がない」
「殴られたいんですか?」
「殴りたいなら殴れよ、それでも事実は変わらないからな」

 腕を振り上げたところで一冴は嘲笑うように唇を押し当ててきた。熱に溶かされた舌がすくわれ、大きな動きによって翻弄される。

 酷い言葉を吐いた口で愛を注ぎ込む傲慢さは、きっとその裏側に隠した寂しさの現れなのだろう。アウルは強めに腕を張り、一方的な行為を差し止めた。顔を見ることなく脱ぎ捨てられた服を手繰り寄せると、脚衣にだけ足を通して立ち上がる。

「……あなたなんて嫌いだ」

 掠れた声色と共に頬を伝った雫。ぐいっと荒々しく涙の滲んだ目元を拭い、アウルはベッドを後にする。それを引き止めるように伸ばされた手は空を掻き、冷えたシーツの中へと落とされた。




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