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第二部 【第八話】
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「わかるよ。怖いよな、アウル……でも、俺はそれでもお前と一緒にいたいんだ」
嗚咽に揺れる肩ごと抱き締め、一冴はアウルの耳元へ頬を擦り寄せる。長い尻尾で行う時と同じように髪を梳かし、濡れた目元に唇を押し当てた。
失うことの恐怖感は痛いほど理解している。自分のせいで大事な者を傷付けてしまったことへの自責も、何度となく通った道だった。しかしそれらを前にしても、今はもう手放すという選択肢は絶対に考えられない。痛みを負ってでも、共に生きると決意したのだ。やっと腕の中に戻ってきた愛しい番。一方的な愛情ではなく、互いを守るために強くなる時。
一度腹を括ってしまえば、この先の判断に迷うことはない。力強い決意はその腕から伝わったのだろう。アウルは赤らんだ目元を擦りながら一冴を見上げ、そっと口元へ顔を寄せる。
「――俺の祝福でハイペリオンを更地に戻してきましょうか?」
「……お前さ、空気読めよ」
「本当に思考が大魔王だな、いつか勇者に討伐されるぞ」
唇が触れる直前、放られた暴言は人とは思えないほどに冷淡だ。歴史すら砂に戻す、非人道的な発言。なぜこんな男が一国の王子なのだろうか。何度となく繰り返された質問が熱を覚まし、失いかけていた冷静さを呼び込む。
「そいつの言う『欲しいものはなにがなんでも手に入れる』っていう信念には同意します。奪われることを恐れてチャンスを逃すなんて、馬鹿な話じゃないですか」
長椅子の端に腰を落とし、啓は愉しげに鼻を鳴らしながら二人に視線を送った。
「俺たちは人間です。欲のために同族を殺し、禁忌の果実に手を出した罪深い種族。争うことが本能として植え付けられているのに、いい子ぶっててもなにも始まりませんよ」
ふふっと軽やかに咲いた微笑は悍ましくも美しい。淡いライドブラウンの瞳の色と重なり、額縁に嵌め込めるほどに耽美的で艶麗だった。
「奪われたくなければ、強くなることですね」
肘当てに頬杖を付き、投げ付けられた言葉は王族らしい威厳を見せつける。この残酷な世界のルールはどこへ逃げようと変わらない。奪うか、奪われるか。明日を共に生きるために、どこまで手を汚せるか。
「アウル、お前は俺と生きるために血に染まれるか?」
「得意分野です」
「あははっ! 頼もしいなあ」
迷いのない返答が背を強く押し上げる。こつんと当たった額が熱を伝え、その内の興奮と喜びを浸透させた。
「一冴さん」
「なんだよ?」
「……キスして」
「いいよ、いくらでもしてやる」
腕を回され、愛しい番に恥じらい気味に強請られれば断る理由は見つからない。
いくら月日が経とうと色褪せない愛の熱に惚けた竜の子達。人目も憚らずに身を重ねては淫らなリップ音を立て、激しく互いを求め合った。
嗚咽に揺れる肩ごと抱き締め、一冴はアウルの耳元へ頬を擦り寄せる。長い尻尾で行う時と同じように髪を梳かし、濡れた目元に唇を押し当てた。
失うことの恐怖感は痛いほど理解している。自分のせいで大事な者を傷付けてしまったことへの自責も、何度となく通った道だった。しかしそれらを前にしても、今はもう手放すという選択肢は絶対に考えられない。痛みを負ってでも、共に生きると決意したのだ。やっと腕の中に戻ってきた愛しい番。一方的な愛情ではなく、互いを守るために強くなる時。
一度腹を括ってしまえば、この先の判断に迷うことはない。力強い決意はその腕から伝わったのだろう。アウルは赤らんだ目元を擦りながら一冴を見上げ、そっと口元へ顔を寄せる。
「――俺の祝福でハイペリオンを更地に戻してきましょうか?」
「……お前さ、空気読めよ」
「本当に思考が大魔王だな、いつか勇者に討伐されるぞ」
唇が触れる直前、放られた暴言は人とは思えないほどに冷淡だ。歴史すら砂に戻す、非人道的な発言。なぜこんな男が一国の王子なのだろうか。何度となく繰り返された質問が熱を覚まし、失いかけていた冷静さを呼び込む。
「そいつの言う『欲しいものはなにがなんでも手に入れる』っていう信念には同意します。奪われることを恐れてチャンスを逃すなんて、馬鹿な話じゃないですか」
長椅子の端に腰を落とし、啓は愉しげに鼻を鳴らしながら二人に視線を送った。
「俺たちは人間です。欲のために同族を殺し、禁忌の果実に手を出した罪深い種族。争うことが本能として植え付けられているのに、いい子ぶっててもなにも始まりませんよ」
ふふっと軽やかに咲いた微笑は悍ましくも美しい。淡いライドブラウンの瞳の色と重なり、額縁に嵌め込めるほどに耽美的で艶麗だった。
「奪われたくなければ、強くなることですね」
肘当てに頬杖を付き、投げ付けられた言葉は王族らしい威厳を見せつける。この残酷な世界のルールはどこへ逃げようと変わらない。奪うか、奪われるか。明日を共に生きるために、どこまで手を汚せるか。
「アウル、お前は俺と生きるために血に染まれるか?」
「得意分野です」
「あははっ! 頼もしいなあ」
迷いのない返答が背を強く押し上げる。こつんと当たった額が熱を伝え、その内の興奮と喜びを浸透させた。
「一冴さん」
「なんだよ?」
「……キスして」
「いいよ、いくらでもしてやる」
腕を回され、愛しい番に恥じらい気味に強請られれば断る理由は見つからない。
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