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第二部 【第十二話】
しおりを挟む軍に身を置く者として、私用で祝福の使用は禁じられている。しかしそんなものバレなければ良い話であり、ましてや相手が人外であれば咎めるものなどいない。
安易な企ては上手くいき、大切な恋人は再び手の内へと舞い戻ってきた。
予想外だったことは、思っていたよりも被害が大きく、アウルの秘密が一部の軍人に知られてしまったこと。幸いにも顔馴染みの者だったため口止めはできたが、浅い付き合いの者達をどこまで信用できただろう。参戦した内乱に交えて始末はしたものの、胸にはまだ不安が付き纏った。
彼の秘密が漏洩すれば、自分たちの仲を引き裂く者が現れるかもしれない。その懸念は収まるところを知らず、疑心暗鬼になった手は最も容易く花に惑わされた男達の命を摘んでいく。
果たしてそれらの行いは、口封じのためだけのものだったのか。アウルの秘密を知る者は自分だけ。そんな陰湿で淫らな独占欲がどす黒い嫉妬心を引き寄せて、なけなしの良心を蝕んだ。
結果的にそれがきっかけとなり、大切な存在を失い掛けてしまったが、愛しい花はいつだって運命の輪を捻じ曲げて手元へと戻ってくる。
それは神の思し召しなどではなく、貪欲さと強靭さが呼び込んだ成果。欲しいものはなにをしてでも手に入れる。たとえ花びらが手のうちから逃げ出そうと、風向きすら変えてその逃げ道を塞いで我を押し通す。それほどの意志と闘争心があるからこそ、この残酷な世界で息をすることが許されるのだ。
「……それで、愛しい恋人さんの顔は見れたんですか?」
「お陰様で、可愛いイキ顔まで見れたよ」
「あはっ、こんなこと言ってますけど。どうしますクレイさん?」
「……どこ行ったかと思ったらなにやらかしてんだ、エルド」
日の落ちた山道を駆ける厳かな装いの軍用車両。進んでハンドルを握ったハロルドは高らかに笑い、ミラー越しに額を抑えるクレイへと視線を投げる。
「水の宝石、ディオネ……いい国でしたね。教育が行き届いていて、資源も豊富。ぜひともうちの傘下に迎え入れたい」
「そんなに簡単な話じゃない。第一王子を見ただろ? あいつは悪魔だ、存在が確認されている祝福の中でも、最悪の能力を所持してやがる」
「そんな彼によく喧嘩売りましたね。俺が止めてなければ受精卵に戻されてましたよ」
「それは悪かったよ、ハル」
ふっと満足げに口角を上げたハイペリオン第五皇子、ハロルド・ゴールディング。皇族でありながらも軍に身を置く彼は、自身の上官すら手玉に取る実力を備えているのだろう。その身分を隠しての任務だったはずが、煽られて失態を見せたクレイの尻拭いまで行い、見事な腕前だった。
従兄弟のウィリアムの伝手で知り合った男であったが、これがなかなか面白い。手を組むにはちょうどいいと笑みを零し、エルドは手に持っていた紫色の石を自身の咥内へと放った。
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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